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親父たちよ

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  • from: クマさんさん

    2007/10/30 21:06:18

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    「象の背中」パート1

    藤山は、レントゲン写真を観ながら医師の説明を聞いていた。
    「肺に癌があります。すでに転移しています。」
    その説明を上の空の眼差しで聞きながら、何だか笑っている彼だった。
    自分のことではないようで。本当のこととは思えぬようで。
    「あと何年くらいですか。」と問うと、
    「半年というところですか」と医師は告知する。
    そんな瞬間が、人生にないとは言えまい。

    死ぬまで生きる。
    それが彼の決意だった。
    病院での癌に対する治療を拒み、
    自分らしく生きることを選択した。
    そして、手帳には死ぬまでに会っておきたい人の名前が書かれた。

    最愛の妻には話さなかった。
    検査の結果を心配する妻には、「何もなかった」と嘘をついた。
    大手の建築会社の部長である。
    壮大なプロジェクトを任されていた。
    しかし、そのプロジェクトが重役会議で反対にあい、頓挫しそうである。
    必死に食い下がる彼の姿に黒澤明の「生きる」の主人公を思い出した。

    中学校のアルバムを開く。
    初恋の女の子の顔写真のアップ。
    福岡にいることを知り、会いにでかけた。
    遺言を直接伝える旅だった。
    赤い傘の女性が一人、彼が待つ喫茶店に入ってくる。
    突然の電話に戸惑う彼女。
    中学時代、大雨の中差し出された赤い傘の話を彼がする。
    彼女はすっかり忘れていた。
    「言ってもらえてうれしかった」と彼女が微笑む。
    赤い傘を差した別れ際、「どうして今頃、話に来たの」と聞いた。
    実はと、彼が癌であと5ヶ月の命だと話す。
    彼女の見つめる目と、照れくさそうな彼の笑顔が対照的だ。

    喧嘩して分かれた高校の野球部の親友に出会いに行く。
    酒屋だった。
    可愛い奥さんがいた。
    名前を名乗って彼のことを聞くと、彼は配達中である。
    藤山は、新潟銘酒「八海山」を一本土産に買った。
    帰ってきた店主。彼に気づいても愛想の一つもなかった。
    しかし、行ってしまった彼を車で追っかける。
    ぶっきらぼうて、不器用な男同士の付き合いである。
    懐かしいグラウンドでキャッチボール。
    しかし、藤山はボールを投げられぬ体になっていた。
    「何か困ったことあるんか?」
    実はと、余命の話。
    「何か俺にできることないか?」
    このシーンには泣けた。泣けた。

    次は、偶然病院で出会った初老の男性。
    挨拶されたが、会社に帰りますのでと、そそくさと分かれた藤山。
    しかし、次のシーンでは二人でステーキの店でカウンターに並んでいた。
    「ご家族は?」
    「会社が倒産してすぐに離婚しまして、それから何年も家族に会っていません」
    藤山はこの男に謝罪しなければならないことをもっていた。
    それは、この男の会社を倒産に追い込んだのが藤山の会社なのだ。
    そのことを知りながら、藤山は彼と取引をしていたのである。
    どしゃ降りの雨の中、道路で土下座して、去っていく男に藤山は謝った。
    「私は、知っていました。会社が彼方の会社を倒産に追い込もうとしていたのを」
    土下座して謝る藤山を、何度も足蹴にした彼だった。
    「人生、謝らねばならない人もたくさんいるな」
    愛人の膝で傷みを堪えて介抱される彼だった。

    これは、「象の背中」の序章でもあった。

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