今晩は誰にも言えないが至福の時だった。
出張で駅前だった。
どうしてもどうしても旨いパスタが食いたかった。
万代に実はご贔屓のパスタ店がある。
「マンマ」だ。

仕事を終えて急いで店に行ったら、まだクローズだった。
戸を開けてマスターに聞くと、
まだ３０分も早かった。
どうしょう。
私という男はこうと決めたことは実行しないと気がすまない男なのだ。
それではと、駅前のもう一つのパスタ店へ歩いて出かけた。
しかし、休業だった。

こんちきしょうと、また「マンマ」を目指すことにした。
これが私の病気であろう。
途中、まだ開店の時刻にならないので、
書店に寄って時間をつぶした。
そして、開店の時刻。
いざ出陣とばかりに「マンマ」を目指した。

店の扉を開けて中に入った。
私だけの空間だった。
メニューは黒板に書かれてある。
今夜はトマトソースと決めていた。
ワインはハウスワインの赤を頼んだ。
ここの奥様がまた美人なのだ。

ワインを飲み、注文のパスタが熱々で目の前に届いた。
私の幸福感のボルテージは最高潮に達した。
実は、私は新潟のパスタの名店を渡り歩くことをこよなく趣味としている男なのだ。
絶品の味と絶妙なワインとを堪能する時、
確かに至福の絶頂なのである。
しかし、妻には内緒の幸せなのだ。

パスタでのエクスタシー。
勘定をする時、奥様とお話して驚いた。
マスターは、若い頃山小屋の駅前店で修行をしていたそうなのだ。
「Mさん、この８月に亡くなったよ」と話したら、
二人して凍り付いてしまった。
「知らなかった・・・」
ここにもMさんとのご縁があったのだ。

Mさん一家が、この店でパスタを食べたこともあるそうだ。
雪混じりの雨の中、
何だか心がほかほかな気分で店を出た。
また一つ馴染みのパスタ店ができた気がした。
その後、歩いて山小屋にもちろん出かけた。