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from: クマさんさん
2010/12/08 06:01:45
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ドリア事件
昨日は、帰ったら9時になっていた。
さて、腹もへりへりモードだったので、
すぐに風呂に入り、夕食にすることにした。
しかし、食べるものが・・・。と見回したらパスタがあった。
三日前に私が作ったキムチ鍋の最期の一椀があった。
鮭のハラスの焼いたものもあった。
これでいいやと、缶ビールを飲み、酒をお燗にした。
その横にドリアが置いてあったので、食べていいのかと妻に聞いた。
私のために確保してくれたものだと聞いて、妻の愛を感じた。
それは最後の締めに取っておいて、
いよいよドリアを電子レンジでチンしようとした時のことだった。
立ったままパッケージを開けていたら、手が滑ってしまった。
あっと思った時は既に遅く、
ドリアは、私の足元に木っ端みじんに散らかっていたのである。
「あっ、俺のドリアが。」
これは長者様の最後の台詞である。
悲しかった。辛かった。切なかった。悔しかった。
ドリアが落下する瞬間は、
スローモーションのように今でも脳裏に焼き付いている。
遅く帰ってきた長男が、
そんなドジな親父のことを笑いを堪えて、冷静に見つめていた。
私は、足元に散ったドリアの、
飯になれなかった可愛そうな白い米粒を拾い集めながら、
無性に腹が立って、誰かにこの責任をなすりつけたくなってしまった。
「くそっ、母さんが温めておいてくれればよかったんだ。」と、
怒りの矛先を妻に向けた途端、長男からの一言が心に刺さった。
「父さん、自分で落としたんだろ。」
ガーーーーン。全ての悪事はお見通しだったのだ。
実は、怒られるのは私なのだ。その瞬間、はっと我に返った。
せっかく妻が用意したドリアを落としてしまったと妻が知ったら・・・・・。
そう気づいた瞬間、私はさっとドリアをごみ箱に捨て、
雑巾でしっかりと床を拭いて、証拠を残さないようにした。
セーーーフだった。
妻は、家庭教師の先生を送る為に席をはずしていたのだった。
ごみ箱の蓋を閉めようとした瞬間、私はドリアの悲しそうな声を聴いた気がした。
「すまない。お前には迷惑をかけてしまったな。」
「生まれ変わったら、もっといい家に買われて行きなよ。」
それがせめてものドリアに対する私の敬意であり、別れの情であった。
そして、何事もなかったかのようにごみ箱の蓋は閉じられた。
このドリア事件は、こうして永久に迷宮入りとなったのである。
犯人は、現場に帰ると言う。
私は、その動かぬ証拠である木っ端微塵のドリアをこの世から葬るために、
今朝は、いつものように生ごみを捨てに行くのであった。
私が捨てた生ごみの黄色い袋の中に、
ドリアと言う証拠品が隠されていることは、
きっと誰も知らないはずである。
かくて完全犯罪は達成されるのである。-
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