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from: クマさんさん
2012/04/28 06:30:39
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コウモリの話
これ、本当の話。
木曜日の夜、十時頃のことだった。
私が水を飲みたかったので下に降り、
父と母とが炬燵で寝ているリビングに入ると。
暗闇の中を何か小さな物体が飛行しているのだった。
黒くて、羽を広げたその小さな物体を見て、
私は、「何だこれは」と思わず叫びそうになってしまった。
その時には素早く、時にはひらひらと舞い飛ぶその姿こそ、
今はこの辺りで観られなくなったコウモリそのものだった。
「何で、コウモリが飛んでいるんだ」
私が子どもの頃は、夕方になるとあちらこちらにコウモリは飛来していたものだった。
まったく姿を消したその本物が、
どうして我が家のリビングで飛んでいるのか。
まさにアンビリーバボーだった。
それよりも何よりも母に気づかれてはならなかった。
何よりもこんな物が飛んでいることに気づいたら気絶すること間違いないからだ。
まず、妻と次男とを呼んだ。
「おい、来てみた。ひっで珍しいもの見せてやるぞ。」
二人は台所の柱に止まっているコウモリを見て、目が点になった。
「どこから入って来たん。」
実は、全ての窓や扉は閉ざされ、ここは密室になっていたのだ。
「おい、捕まえるぞ。」と言ったものの、
やっぱり立場上、捕獲担当は私しかいないことを自覚した。
エノチカのワインが6本入る縦長の段ボールのことを思い出した。
私はさっそくその段ボールを両手で持ち、そーっと近づき、素早く捕獲し、口を閉めた。
「やったぞ。」「戸を開けろ。」「ほれ、逃がすぞ。」
私は、箱の中のコウモリを庭に出した。
すると突然妻の悲鳴が・・・。
何と箱から飛び出したコウモリが、空けていた戸からまたするりと入りこんだのだ。
「何で戻って来るんだ。」私の驚きと絶望の叫びも空しく、
コウモリは、また台所を飛び始めた。
アンビリーバーポー。
しかし、このままにしておくわけにも行かず、
とにかく再度捕獲に挑戦することにした。
同じ柱に止まったコウモリを、またエノチカの段ボールで捕獲に成功した。
何だかコウモリを捕まえることが上手くなった自分が嬉しくもあった。
「捕まえたぞ。戸を開けれ。今度はすぐに閉めるんぞ。」と、私は誇らしく妻に指示を出した。
箱の口を開き、強烈に何度かゆすぶってから、
「閉めれ」と、戸を閉めた。
私のミッションは、成功した・・・・かに見えた。
私は、一つの大きな仕事を終えた安堵感と充実感に浸りながら、
この段ボールを階段の踊り場に戻して、部屋に入った。
パソコンに向かいながら、どうしてコウモリが我が家に入って来たのか推理していた。
すると、妻がそっと戸を開けて、呆れるように私の顔をまじまじと見ていた。
あの見事な仕事ぶりのどこに不服があるのかと、彼女を見返すと、
衝撃的なことを妻から伝えられた。
「お父さん、あの箱の中にまだコウモリいたよ。」
「なんだーーーーーーーっ、そりゃーーーーーっ。」
信じられるだろうか。
妻が階段を上がると、箱の中からごそごそと何か動く音が聴こえたそうだ。
まさかと思いながら、そーっと覗くと、何と先ほどのコウモリだった。
「お父さん、私が逃がしたよ。」妻は、そう言って、扉を閉めた。
「アンビリバボーーーーーーー」
私はコウモリを捕獲した頼もしい親父ではなく、
コウモリに化かされた愚かなる親父だったのだ。
今でも底をついている親父の権威は、地中深く埋没してしまった。
うーーーーん。コウモリめぇーーーっ。
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