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親父たちよ

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  • from: クマさんさん

    2012/06/19 09:40:51

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    母は、ルナだった

    一日一日を大切に記録したいと願っていた。
    しかし、しかし、日々とにかく一日があっという間に終えて行く。
    マルタである。
    それに追われて、一番大切なことがおそかになっていては申し訳が無いのだ。

    日曜日の午後から母を個室に入れた。
    四人部屋では母とじっくりと向き合い、語り合えない気がしたからだ。
    また、母も人には気を遣いすぎるほどの人だったから、
    この部屋では落ち着かないだろうと思ったからだ。
    「ばぁちゃん、部屋を移るよ。」と話したら、少し笑った気がした。

    見舞いの叔母ちゃんたちは、いつも母に語りかけ、呼びかけてくれる。
    話すことも全くなく、時折目を開け、時折左手を動かすだけの母となった。
    血圧は正常で、呼吸も安定していたし、発熱しても翌日には平温に戻った。
    実に実にグレートな母だと、こうして皺だらけの母の顔を近くで見つめ、
    やせ細った腕や足を摩りながら、私は感じた。
    母は、こうした状態でも確かに母として存在していた。

    私は、誰も病室に居ない時、母の手を撫でながら、母に語る。
    それは、母を褒める言葉と、感謝する言葉しかなかった。
    今、こうして目の前で命を見事に全うしようとしている母の姿に、
    人間としての尊厳と偉大さを私はひしひしと感じている。
    母に恥じない生き方を私はしなければならない。
    死にゆく人は、生きる人に想いを託すようなのだ。

    その託された物が何であったかを、
    私は、これから残されて人生で体験を通して発見しなければならないようだ。
    可愛がってくれた人だった。
    無償の愛とでも言うのだろうか、自分のことなど微塵もなかった。
    私のことが大好きで、私の一番の理解者であり、ファンであった。
    母は、私が輝くと、いっそう輝き、喜びと幸福感を感ずる人だった。

    私たちが造った森にも母は来てくれた。
    その森に飛んだホタルも見に来てくれた。
    私の歌が大好きで、メサイヤ合唱団のコンサートには欠かさずに叔母たちと来てくれた。
    なじなねコンサートや、私が企画しイベントにも必ずの参加で、
    「いかったよ。」と、褒めてくれた。

    私は、そんな母を喜ばせたくて、せっせといろいろな活動に手を出した。
    山のクラブを二つも作り、市民劇団も立ちあげることができた。
    上演した作品全てを母は鑑賞してくれた。
    そして、涙を流して感動してくれた。
    ああ、そうだったのか。
    この母が居たから、この母に褒められたく、すごいねぇと言われたかったので、
    私は、こんな男になってしまったのか。

    新聞に私が載ると、新聞配達の人に頼んで、何部かその日の新聞を余計にもらう人だった。

    私が、喜びに輝くと母も輝く。
    私が、幸福な気持ちでいると母も幸いを感ずる。
    私が、辛くどん底に落ち込んだ時は、母が輝き柔らかな光で私の背中を照らしてくれる。
    私の心を母は写す。
    私の心は母の心だった。
    それだけ、いつもいつも、いつもいつも、私のことばかり心配してくれていたのだ。

    やっと私は分かった。腑に落ちた。
    何故、イタリア語で母を「ルナ(月)」というのかを。
    月は、決して自分では輝かない。
    愛する子どもたちの輝きを受けて、輝くからルナなのだ。
    しかし、愛する子どもたちが悲しみのどん底にあったら月は輝かないのか。
    そうではなかった、闇夜であればあるだけ、月はあんなに暖かな光で、
    煌煌と夜空に輝いているではないか。
    もし、この世にルナが存在しなかったら、
    私たちは、闇夜しかないのである。

    私は、そうやって黙って、静かに息をする母を見つめながら、
    何故、母はルナであるのかを教えてもらった。
    母にとっての太陽は、私や父や妹や孫たちだったのだ。

    私は、病室で母だけのために「故郷」を歌った。

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    さけ 秋桜

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