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from: クマどんさん
2013/10/29 10:24:53
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大泉二郎先生・・・蒲水先生という人
昨日は、3年ぶりで我が師匠のお見舞いにでかけた。
先生は、書家であった。
沼垂の山小屋で先生と出会った。
「我執を捨てて、ただなんとなく」その色紙とが初めての出会いだつた。
それから、先生は弟子のようにして可愛がってくれた。
不肖のできそこないだった。
それでも分かってくれて、本当に助けてくれたものだった。
いつか先生の物語を書きたいと思っている。
四年前に絵手紙を百通贈った。
先生はその絵手紙を大事に大事にしてくれていた。
お見舞いに言った私の友人にも見せたそうだ。
「好きなものを持って行っていいよ。」
その友人からメールが届いた。
「先生は、くまさんに会いたがっているよ。」
そして、居てもたつてもいられなくなってしまった。
白根の病院まで自転車で行こうとしたら、ブレーキが壊れていた。
乗ったらワイヤーが切れてしまったのだ。
危ないから自転車では来ないがいいよ、先生の親御心か。
私は何と手前の白根病院に間違って訪ねてしまった。
いやはや私らしいと恥ずかしかった。
やっと先生の居る老人福祉施設に行けた。
来意を受付で告げて、先生の病室に向かった。
病室には先生は不在で、ロビーのテレビの前にぽつんと先生は居た。
「先生、くまです。ご無沙汰しました。」
ちっちゃな先生の目がまん丸になった。
「おお、おおっ。」
言葉も不自由になっていた。横には車椅子があった。
部屋を指差すので、先生を車椅子に乗せて、病室に向かった。
ベッドに来ると懐かしい四角の菓子箱を渡しされた。
その蓋を開けると、そこには私が先生に贈った絵手紙があった。
懐かしかった。母はこの時、まだ生きていたのだ。
毎週3枚を自分の宿題にした。
題材は、野菜や花や果物やいろいろだった。
出来上がると母に見せた。
必ず母がその絵手紙を褒めてくれた。
それが嬉しく、この絵手紙を受け取っる先生の笑顔が嬉しく1年以上書き続けた。
先生は、左手だけだった。
それも震える左手だ。
書家の先生の右手は、動かない右手なのだった。
その左手でマジックペンを握り、震えながら反故紙の裏に筆談を始めた。
私は、動く紙を手で押さえながら、
その絵文字のような言葉をよんだ。
毎月第二日曜日に「カンポス」という喫茶店に行くこと。
公民館での篆刻の講師を続けていること。
私が、長男の話をしたら、長男の名前を書いて、よかったよかったと言ってくれた。
先生は、長男の大学受験の時に、「合格」と大きく慣れない左手で書いてくれたのだ。
ああ、先生。ごめんなさい。ごめんなさい。
どうして私は、何年間も見舞いにも来なかったのだろう・・・・。
あんなに会いたがっていた母も連れて来られなかった。
本当に不孝者だと、情けなくて、情けなくて・・・・。
「先生・・・・。」と呼んだとたんに熱い涙がこみ上げてきてしまった。
嗚咽だった。言葉がなかった。ただ先生の前に俯いて泣くだけだった。
先生もそんな私を見つめながら、泣いてくれた。
その瞬間私は感じた。
先生と呼べる人とこうして出会えたことは、私の幸せなのだと。
56歳の男が赤子のように泣いているのだ。
先生とは、いつも温かく抱きとめてくれる人なのだ。
「先生、今、情けなくも私は人生の迷いの中に居ます。」
先生は、黙って聴きながら、やっぱり全てを分かってくれた。
またペンを左手にとり、震える手で紙に書き出した。
「立派な先生になってください 大泉」
涙でぐしゃぐしゃになり、私は声を出してその文を読めなかった。
迷いの真っ只中に居る私に、
先生は、まだまだ期待してくれているのだった。
いや、信じてくれているのだ。
信じてもらえるとは、こんなに尊いことだったのか。
また、涙で言葉が出なくなってしまった。
先生は、その文字を書いた紙の裏をしきりに読め、読めと言う。
何かなぁと思って読んでみたら、
「新潟市民文学」に短歌2首が入選したという知らせだった。
やっぱり私の偉大な先生だった。
努力することをけっして忘れていないし、生きることを楽しんでいた。
たったそのベットだけの人生だ。
身体は不自由極まりなく、話すこともままならない。
なのに、日々の生活に足るを知りながら、
尋ねることのない不肖の弟子を想いつつ生きていてくれていた。
「我執を捨ててただなんとなく。先生、あれまだ先生の落款押してもらっていませんよ。」
先生は身体を揺すって笑っていた。
「先生、また来ます。また来ますよ。」
「ああっ、ああーっ」と手を握った。
駐車場の車の中で、西日に照らされ眩しかった。
私は、泣けて泣けて・・・・。
先生の生き様こそ、私にとっての無上なる先生だった。
その先生の愛が、確かに私をここまで生かしてくれてきたのだ。
それでは、どうやってこの恩を返すか。
「立派な先生になってください 大泉」
子供たちの笑顔が、次々と思い出された。
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