映画「アンフェア　ジエンド」

さてさて、孤独なる闘いを自らに強いる。
どんな困難が起ころうとも、どんな逆境に逢おうとも、
果敢にそれと向かい合い、それを突破するための行動を起こす。
誰もその真っ直ぐな行動を止めることはできない。
例え、命が危ういと警告されても、
銃口を向けられ、カウントダウンされようとも、
じっと敵を睨み、信念を貫く。

それは、孤独だからできること。
彼女には最愛の一人娘がいる。
その命が脅かされる時、さすがに彼女もぶれて、弱気になってしまう。
しかし、そんな孤独な闘いをする者に、天は必ず道を開いてくれるものだ。
裏切りには遭う。
自分がやっていることが無益であり、
そんなことで大きな組織悪が変わることはないかも知れないとも想う。
しかし、そのことをどうしてもやり通したい。

その一念で貫かれている、彼女の生き方は、まさに稀有なものだった。
だから、彼女が巨悪に独り立ち向かう姿をはらはらどきどきしながら見つめ、
最後にはカタルシスを感じて、感動するのは、
やはり、人が人として生きるの本筋がここにあると感ずるからだろう。

きっと、私を含めて、みんなは、雪平のように生きたいと願っている。
それは、自分にはできないことはよくよく分かっている。
自分には守りたいものも、捨てられないものもたくさんあるからだ。
ほんの細やかな正義を行う。
ほんの細やかな勇気をもって自分自身にも人にも「いけない」と言う。
信ずるその想いをどんな困難にもめげずに忍耐強く貫く。

そんな孤独なる生き方に、人はやっぱり憧れを感じているのではないだろうか。
そうした、心の象徴として、深い深い人間的な願望として、
ここに雪平が凛として存在している。
彼女のように恰好よく生きてみたい。
でも、現実はそうは行かない。
言えないし、やりきれないし、席を譲るだけの勇気すら自分にない。
どうせ私独りが何かをしたって無駄なんだ。変わらないんだ。
大人になれ。大人になれ。諦めることも大事な生き方だ。

さてさて、人間として深い深い願望の中に、
ヒーローやヒローインがきっと誰もの心の中には憧れとして存在している。
アンタッチャブルのネスにしろ、この雪平にしろ、
それはフィクションの世界における、虚構なる存在であるかも知れない。
しかし、この世の中とは、そうした日の当たらない孤独なる主人公によって、
ずっとずっとこれまでも創り続けられてきたのではないだろうか。

誰も知らなくてもいい。無名であっていい。片隅に在っていい。
ただそれだけ。
でも、そんな細やかな生き方ならば、こんな私にでもできるのではないだろうか。
それが、この身体を通して実感した一つの結論でもあった。

人は、孤独なものだ。
人は、衰え老いるものだ。
人は、いつか必ず死ぬものだ。

それは、人としての当たり前であり、ごくごく自然なことと私は実感した。
おいおい、人は元々独りぼっちで生きているんだよ。
孤独でいいし、孤独しかないんだよ。
だから、どう「生きるか」だ。
命からの「問い」というフランクルの言葉がやっと腑に落ちた。
「いかに生きるか」ではなく、「生きるとは何か」なんだな。

人は１人で死ぬ。それ故、人はそのように生きねばならない。　パスカル

自分は今医者として貧しい人々のために働いているが、その時代の政治、その医療制度を想うと自分の働きは無駄だと嘆ぜざるを得ない。しかもなお自分は自分はそれを承知の上で今の仕事をやって行く、それ自分の一生を徒労に賭けているからだ。
　　　　「赤ひげ診療譚」　若き医師　去定の言葉より