玄関のドアが開きドサッと音がして，
「 オーィ，置いていくぞ ! 」と元気な声がした。( 長文で失礼します )

きっと，大漁だったのだろう思いながら取りに行ってみると，
大型の透明なビニル袋に秋味が二本，それも大振りで銀ピカの
雄と雌であった。

彼は奥方と連れ立って，斜里方面の海岸に一週間も車で寝泊まりをしながら，
秋味釣りに出かけるのを年中行事の一つにしていて，ワタシはそのおこぼれを
頂戴するのを楽しみにしていた一人であった。

彼の話によると，本州方面からも釣り人が泊まり込みで来ていて，秋味が
何本かまとまるとクール宅急便を利用して自宅へ届けているのだそうだ。

投げ竿を，一人で10本近くも或いはそれ以上も砂浜に立てて，当たりを
見逃さないように目配りしているのだそうだが，体験のないワタシなどは
それを聞いただけでも疲れてしまうのだが，一本当たればそんな疲れは
吹っ飛んでしまうのだそうだ。

時化で釣りにならないときは竿を上げて，釣り場で初めて顔を逢わせた者
同志が集まり，一杯やるのもいいものだとも言っていた。

こんな病友の彼は，今年の秋味シーズンが来る前に64歳という若さで
奥方を置いて逝ってしまった。

秋味シーズンが終末をむかえていると聞いて，今年は届かなかった秋味を
思い出してしまった。　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　山羊宮