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from: Felixさん
2007/03/03 19:34:12
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上田哲之「プロ野球哲学」: 松坂に負けない男たち
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猫も杓子もマツザカ、マツザカ、草木もなびくマツザカ、マツザカ……といったところでしょうか。日本のメディアは当然として、どうやらメジャーリーグのキャンプ地でも、われらがD-MATは断然話題の中心らしいのだ。
松坂大輔は、はたして通用するか。いや、通用はするでしょうね。いくらなんでも。ただまあ、今の段階では何勝するとか、防御率が何点台かなんて予想はやめておこう。実際に公式戦でどのような投球をするかを見定めてから、あらためて論じることにしたい。今年の野球の最大のテーマの一つには間違いないのだから。
今のところは、二度目のフリー打撃に登板して、オルティス、ラミレスの二枚看板と対戦したときの捕手、ミラベリのコメントがいちばん核心をついていると思う。
「腕は短いが、ボールが手元で伸びてくるから、フライボールピッチャーになれる」
要するにストレートが伸びるからフライで打者を打ち取れるだろう、ということだ。ミラベリに代わって、さらにつけ加えれば、だから、高目のストレートを有効に使う必要があるだろうということだ。もっと言えば、低目は変化球でいくべきだろう、ストレートは危ない、ということかな。いや、これはミラベリのコメントから論理的に引き出した推論ですよ。実際には、本番で投げてみなければ、何もわからない。
ただ「腕が短い」というのは、さすがキャッチャー、観察が鋭い。この肉体的条件をどう生かすのか、あるいは克服するのか、松坂の今季はここにかかっているのではないだろうか。
松坂ほどド派手ではないにしろ、今季、日本野球にもいくつも話題はあります。いわば、話題性では松坂に負けない男たち――。
まずはいきなり、あまりにも松坂とは対極的で地味な球団について、ふれてみたい。
2月末(正直いって私も注目していなかったので、日時をメモし忘れた。たぶん、2月24日)に、阪神対オリックスのオープン戦がありました。テレビ中継を茫然と眺めていたのだが、「あれあれ?」「おや?」という感じに襲われたのである。いや、井川慶の後継が能見篤史に決まったとか、赤星憲広が調子いいという類の阪神の話題ではない。オリックスの攻撃である。
下山真二という外野手がいる。今年で5年目。長打力はあるが、いまひとつ、レギュラーには届かない。その下山が塁に出たと思ったら、いきなり盗塁したのである。ええ? でしょ。しかも成功したと記憶する。ちなみに、昨年は42試合に出場して盗塁は0である。そのあとも、選手が塁に出ると、さかんに盗塁を仕掛けていた。ちなみに大西宏明はこの日も翌日もきっちり盗塁決めている。
この試合、7番を打っていたのは、法政大から入ったルーキー大引啓次である。さすが東京六大学の安打製造機と言われただけのことはある。右打者だが、コンスタントにヒットが打てそうなスイングだった。守備も無難。彼はきっと、内野のポジションを獲るだろうな。でもって、4番は岡田貴弘。大阪は履正社高出身の2年目。「浪速のゴジラ」と異名をとり、背番号55の左の大砲である。とはいっても、まだまだ、無理やりに4番に抜擢されたという印象はぬぐえない。当たったら飛ぶのだろうし、ユニフォーム姿に大物感が漂うのは確かだが、いかんせん、構えがなんだかしっくりこない。ややガニ股っぽくオープンスタンス気味に構える。もうちょっと堂々と立ってくれないかなあ。せっかくの4番候補なのだから。
オリックスは、谷佳知が去り中村紀洋が去って、清原和博は故障離脱した。早い話がスターはみんないなくなったわけだ。球団経営としては首をかしげたくもなるが、今回は幸運にもそれがいいほうに出るかもしれません。
ともかく、見ていて新鮮である。去年までとは全然違う。これをすべてコリンズ新監督の手腕に帰するのは、少々早計なような気がする。もちろん盗塁を多用するのはコリンズ監督の方針だろうけれど。むしろ主力3人が抜けたという偶然が生み出した刷新という感が強いのだが、変わりばえがしなくて、徐々に戦力が空洞化しつつあるかのように見える阪神と比べると、確かにオリックスは新鮮でした。
もちろん、阪神はAクラス、オリックスはBクラスという予想が立つということは否定しないが、問題は、魅力の萌芽をどこに見るか、ということですからね。
その意味で、今年、国内で松坂に負けないくらい話題になりそうな気配の男がいる。巨人から横浜に移った43歳のオヤジ・工藤公康である。復習しておくと、門倉健がFAで巨人へ移籍することになった。その人的補償制度を活用して横浜が指名したのが工藤だった。工藤には早い段階で、巨人から残留の打診がなされていたというような(真偽のほどは知らないが)報道もあったが、とにかく、工藤は「また野球ができる喜び」を語って、横浜入りをすんなり了承した。
たとえば2月25日の宜野湾で行われた中日-横浜戦。工藤がマウンドに向かうと「駆けつけた7218人のファンから割れんばかりの拍手が起こった」(「スポーツニッポン」2月26日付)という。沖縄の人たちにも、工藤を応援したい、という気分が働いたのだ。
この背景にあるのは、実は日本野球が長い間はぐくんできた、巨人が人気・実力ともに一番だという固定観念である。そこからすげなく放出される(人的補償リストからプロテクトされていなかったのだから)というのは、いわば都落ちである。工藤ほどの実績ある大ベテランに対する処遇としては、いさかか冷たいじゃないか、という感情だろう。ま、最近はナンバーワン球団というより、そういう球団として認識されていますが。
巨人に対して、おおむねこのような感想をもっていたところへ「野球ができるなら行きますよ〜」と明るく工藤が語った。人はここに、言い訳とか文句を言わない身の処し方の潔さを感じる。これは、日本社会で好感を持たれるための絶対条件である。
かつて、一度目の巨人監督を解任され、浪人中だった長嶋茂雄さんに、雑誌の対談をお願いしたことがある。どこの場所で、どのように解任を知らされたかということを例の口調で話し始めて、対談者がこう問うた。――悔しくなかったですか? 長嶋は言下に答えた。
「いえいえ、僕は言い訳しませんよ」
これだな、と痛感した。長嶋の国民的人気は、しばしば、さわやかさ、明るさ、派手さ、カッコよさ、マンガ的キャラクター……などと説明される。しかし、その根底に流れているのは出処進退の潔さではないか。言い訳はしない、四の五の言わない、運命は引き受ける。そして、文句言わずにその運命に立ち向かう。「明るさ」という長嶋にしかない特性は、この、受け入れて、立ち向かうときに醸成されるものである。
引き合いに出して申し訳ないが、中村紀洋のメジャー挑戦以来の言動を見ていると、節目節目で、言い訳やら不満の言葉が出てくる。運命を無条件に引き受けてから立ち向かう、その過程に不純物を一切媒介させないのが長嶋で、いろいろな言説を挿入してしまうのが中村なのだ。だから、中村から「底抜けの明るさ」は出てこない。
だいぶ脱線したが、今回の工藤の言動は、明らかに長嶋的である。だから、人々が好感をもって迎えたのだ。
もちろん、開幕してメッタ打ちにあえば、この好感度は続くまい。しかし、見る限り、43歳にしてはストレート、カーブとも相変わらずいいキレをしているようだ。横浜の大矢明彦監督は、有能である。少なくとも、前回の解任は不自然だった。だって、せっかく横浜をこれから強くなるところまでもってきていたのだから(それを言えば、今回の牛島和彦前監督の交代も、どうかと思いますが)。大矢監督は、おそらく上手に工藤を使うのではないか。とすれば「中年の星」だの「さわやかオヤジ」だのと呼ばれて、工藤人気が沸騰するシーズンになる可能性は高い。
もう一声、別の話題にいっておきましょうか。広島カープではホンダ鈴鹿から希望枠で入った宮崎充登の評判が高い。スリークオーターからサイド気味に下がった位置から、140キロを超えるストレートと変化球を投げ込む。カープ投手陣の中では確かに魅力はあるし、一軍に定着するだろう。ただ、サイドの右投手にありがちなことだが、外角のストレートがシュート回転して中に入ってくるボールが目立つ。先発よりは、中継ぎかなあ。
と思っていたら、同じくらいのサイドスローで、もう少し、気持ちのいい投手がいた。東京ヤクルトの高校ドラフト一位・増渕竜義(埼玉・鷲宮高)である。宮崎とよく似た球筋だが、こちらは右打者のアウトローがシュート回転しない。コーナーにズドーンと入っていく。重そうな球質なのである。
埼玉の野球強豪校の誘いを全部断って、自分の力で甲子園に行きたくて鷲宮高に進んだという経歴も、物語としては、好感を持たれやすいものだ。しかも、県大会は決勝まで行って負けているし(この試合は、連投の疲れが出て、ボールが行っていなかった)。その意味では、この男も出処進退の潔い、投手らしい投手である。古田敦也兼任監督の使い方次第では、先発ローテーションに入って、人気が出るかもしれない。
プロ野球とは、われわれ日本人が何に好感を持つかを写す鏡でもある。松坂が5勝、10勝と勝ち星を重ねれば、おそらく日本中が沸き立つだろう。大阪桐蔭の中田翔が特大ホームランをかっ飛ばしても、去年のハンカチ王子並みの熱狂が待っているだろう(中田くん、阪神もいいけど、広島カープに入って故郷の星になろうよ。このオフ、日本球界で誰がもっとも好感を持たれた選手かわかるかい? それは広島カープの大エース黒田博樹です(カネじゃないよ、心だよ、と残留したあの潔さが、日本中の野球ファンの心をつかんだのだよ)。試合後の中田の言動を見ていると、彼はまさに、己れを律して言い訳をしない男のようだ。スターに不可欠な要素を兼ね備えた選手ではないだろうか。
松坂も、おおいに応援しましょう。そりゃ二ケタは勝ってもらわないとねえ、やっぱり。同時に、国内の好感度派選手たちにも、注目しようじゃありませんか。
※上田哲之(うえだてつゆき)プロフィール
1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。
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