とってもむかし
私が少女だった頃

私の部屋のドアノブに
ワインが一本
リボンをまとい
掛けられていました


部屋で眠りこけていた
私には
彼の足音さえ
聞こえなかったんです


いつも優しく
私を諭す彼

穏やかな時間こそが
幸福のかたちだと
気づかなかったほど
幼かった私は

彼がひく手を
放してしまいました


海の向こうへ
去ってしまった彼


それから
この季節だけに許される

甘酸っぱい
想い出を
グラスに潅ぐ時

私は自分を戒めます



そして
心に決めたんです

最初の一口は
愛する人と
微笑みながら
飲むことを


歳月が巡り
また今日もやって来ました


そして
海の向こうに渡った彼から

初めて逢おうと
メールが届きました



甘酸っぱい想い出

十年ぶりに
彼とグラスを傾けます


そして本当は
去年と同じ相手と
グラスを合わせたかったことを
語ります



渋さも苦みも覚え
ワインがおいしく
飲めるようになった私



私もそれだけ
季節を過ごし

少女じゃなくなって
しまったのですね


でも
ここで、乾杯！