子どもの頃、田舎で音楽といえば母親が童謡を歌ってくれて一緒に歌ったことがあり、小学校でオルガンにあわせて歌っていたころ、大学生だった一番上の兄が帰省したときレコードを買ってきて最初に聴いたのがカルメン組曲だった。
　ＳＰレコードだったから、１曲ごとに盤を替え、針も換え、まるで宝物を扱うようにしたものだった。
　帰省の度にレコードが増え、戦後の貧しい時代の小学校に貸し出したほどだった。
　我が家では長兄だけがおぼっちゃまだったけれど、後は勉強する閑もないほど家業を手伝っていた。
　だから長兄が帰省して来るとカルメンや未完成やアルルの女や魔王やマリアンアンサーソンの歌やカルーソーのイタリア物やシャリアピンの歌を聴くのが楽しみだった。
　その後、他の兄たちもレコードを買ってきて、私もひとりでレコードを扱うことが出来るようになり、長い休みが終わり兄たちがいなくなると家に残った私が電蓄を独り占め出来た。
　そして何と言ってもカルメンに始まり、カルメンで終わるそんなレコード鑑賞になってしまうのでした（昭和２０年代の話）。