これも以前通っていたフィットネスクラブでのお話です↓


【自分の歯は大事にしましょう】

私の通っているフィットネスクラブは中高年が主で、
ときおりここは湯治場か温泉浴場かと思う。
私のように電車に乗って通う利用者はまれで、
近所の人たちが多く通っているので顔なじみがそれぞれいるらしい。
男性の方はわからないが、女性のロッカールームの会話はこんな感じである。


「おいしいお漬け物をもらったから、どうぞ」とおすそわけをしたり、

「今＊＊＊では下着が3枚で1000円よ」とお買い物情報がとびかったり、

場所柄、夜の商売の人が多いので、「最近は不景気でお客さんがさっぱりよ」と景気の話をしたり、

「孫がきのうも泊まりに来て、今日もこれから一緒に出かけるのよ」と孫自慢をしたり、

「今日の＊＊＊のランチ定食はおいしかったわよ」と満たされた食欲に満足の様子だったりする。


ある70歳代の女性は青森の方にお友だちと旅行をしたそうだ。
その年は台風の影響で収穫前のりんごが木からたくさん落ちてしまい、
りんご農家は大被害を被った。
しかし、そんな被害もそこを通りかかった彼女たち旅行者にとっては恵みの落下りんごであった。
あまりにたくさん落ちたりんごは手付かずのまま放置されていた。
これはもう「どうぞご自由にご賞味ください」と言われているようなもの。
さっそく彼女は拾って食べ始めた。
が、しかし、悲しいかな、彼女以外の友だちはみな入れ歯なのでりんごを食べられない。
お友だちのうらやましそうな視線を物ともせず、彼女はひたすらりんごを食べ続けたそうである。

「みんな入れ歯だから食べられなくて残念そうだったけど、
私は自分の歯だから全然平気で食べられたのよ。おいしかったわよ。
やっぱり自分の歯は大事にしなくちゃだめよ」
と同年代のフィットネス仲間に一生懸命話している。

その後も何度も「私は入れ歯はない！」の連発である。
私は「もうわかったよ」と言いたいのをぐっと押さえた。
実はその頃、私自身の歯が悪化し歯医者に通院していたのである。
彼女の「自分の歯はお大事に！」の教訓は、
ロッカールームどころか私の心にもひびきわたっていた。