法務大臣の命令により、全国の刑務所から死刑囚が、かもめ島、通称硫黄島へ送られて来た。刑務所内では形ばかりの葬式が行われ、医師は死亡報告書に急性珍筋梗塞と書き、麻酔で眠らされた後、生きたまま白い棺に入れられ刑務所を出た。それらの棺は船で硫黄島へ送られた。工藤防衛大臣はアメリカ大統領との密約を考えていた。強制的に韓半島を統一させ、日本に委任統治を任せるという密約だった。アメリカはイラク戦争には勝利したものの、その後の統治には失敗していた。そこで統一韓半島の委任統治を、経験豊富な日本に任せることにしたのである。

3月9日、火曜日の朝、ホンダCB125Jで、僕と任さんは岡山北署へ向かった。捜査会議はすぐに始まった。「井上警部、これまでの捜査状況を説明してくれ」原署長は井上警部に言った。「死亡していたのは、新海正彦、45才、岡山公立大学文学部考古学研究室の教授です。死因は青酸ガス吸引による窒息死で、死亡推定時刻は3月1日、月曜日の午前8時頃です。彼は官舎に住んでいました。多くの大学の教授が単身赴任ですが、彼もそうでした。故郷は長野県の松本市です。妻と子供が一人、高校生の女の子がいます。官舎と遺体発見現場、前方後円墳の遺跡発掘現場でもありますが、その間はわずか100mしか離れていません」

「なぁ〜んだ！そんなことならこのユーラ様がいればあっとゆう間だよ！」ミサが眠っている子供たちを外に運びだす方法を思案していると、ユーラが得意気に胸を張って言った。「ユーラちゃん、魔法でそんなこと出来るの？」ミサは少し不安そうに尋ねた。さすがに２０人をいっぺんにというわけにはいかないが、５人づつを２枚の黒マントを使い２度で礼拝堂へ運び上げた。「助かったわ、ユーラちゃん。もう一度、見張りをお願いできるかしら？」ユーラが姿を消し屋根にあがると、南大尉と弘人がジープをとりにそれぞれハンネの森と教団の駐車場へ向かった。
byｼﾞｬﾆｽ

日・米・韓による北朝鮮攻撃準備は、着々と整いつつあった。沖縄の嘉手納基地にステルス戦闘機Fー22ラプターが12機配備された数日後、最新鋭の原子力空母ロナルド・レーガンが、佐世保港に入港した。横須賀軍港にいる空母キティホークの代わりに配備されたのである。ロナルド・レーガンは戦闘機70機を搭載していた。一方ソウル近郊では、米・韓の合同軍事演習が行われ、北朝鮮に対して圧力をかけた。このような情勢の中、北朝鮮は大幅な譲歩を申し入れて来たのである。日本側でもHー2Aロケットにより、4個目のスパイ衛星を種子島から打ち上げることに成功した。これによりキム・ジョンイルが食べている食事の内容まで映し出すことが可能になったのである。

ミッソー中佐はユキと麻里子の兄を促し、男女の寝室を隔てる通路を駆け抜けると、唯一、身を隠すことの出来る非常シャッターの脇に素早く移動した。通路を照らす非常灯はトンネル内に設置されているのと同じ物で、信者たちが常にスムーズに行動するために充分な明るさだった。「静かね。さすがのテロ集団の信者たちも夢の中よね」小声で囁いたはずのユキの声さえ響き渡るほど通路は静まり返っていた。「油断は禁物だ。すでにトーマスの指示が下っているかもしれないからな」ミッソーは不穏な気配を察知し自分の言葉に確信を持って言った。トーマスがトンネル内を何度も出入りしている今、戦闘に備えて訓練を受けた信者たちがおとなしく眠っているとは到底思えなかった。
byｼﾞｬﾆｽ

「はい。前方後円墳は日本独自の埋葬形態と考えられていますが、大陸文化の影響を受けている可能性も否定出来ないのです」「中国や韓国で、前方後円墳は発見されているのですか？」「そのままの形の墓はありません。特徴が類似しているものはいくつかあります。前方後円墳の形が何を表現しているのか、誰にもわかっていないのです。それも調べたいと思っています」「任さん、僕は明日から遺跡で起きた事件の捜査に参加します。任さんはどうしますか？」「遺跡の発掘調査が出来ないので、私も黒住君と一緒に、事件の捜査をして見たいわ」「いいですよ。原署長に頼んで見ます」「黒住君がどうやって事件を捜査するのか、とても興味があるわ」

　思い出という名の
　あなたの姿は
　もう
　引き出しの奥のほう

　叶わないから
　燃える恋なの
　「愛してる」
　って
　言わないで


　過去に変わるには
　時間が要るの
　あとはときどき
　夢で逢いましょう

　叶わないのが
　恋なのに
　「愛してる」
　って
　あなたは言うの


　きっとｺﾚｶﾗも･･･


byｼﾞｬﾆｽ†

「知ってるわ。ライからメールが入りました。黒住君にご迷惑をかけませんでしたか？」「いや、迷惑だなんて。ライさんは炭そ菌騒動で混乱していた台湾で、僕の力になってくれました。そのあと一緒に南京へ行き、王妃に会いました。それからチベットで暴動が起きたので、僕とライさんはチベットのラサへ行ったのです」「まあ、チベットへ？」「ええ。ダライ・ラマ15世と話し合った結果、チベット問題は一応の決着を見ることが出来たのです」「そうだったの」僕は内ポケットからネックレスを取り出した。「任さん、これは大清帝国の王妃からのプレゼントです。10カラットのダイヤをプリンセスサイズに加工してあります。台湾でこれと同じものをライさんにも差し上げました。どうか受け取ってください」「ありがとう」任さんはしばらくダイヤのネックレスを眺めていた。「ところで、任さんの考古学の研究分野は、前方後円墳を選んでいるのですね？」

僕達が食事を終え、食後のブルーマウンテンを飲んでいると、携帯が振動を始めた。「はい。黒住です」「原だ」「原署長」「検死が終わったよ。死因は青酸ガスによる窒息死だった」「青酸ガスですか？」「そうだ」「死亡推定時刻は？」「3月1日、月曜日の午前8時頃だ。明日、捜査会議を開きたいのだが、黒住君も参加してもらえないかね？」「いいですよ。事件の捜査にあたるのは久しぶりです。楽しみです」「それでは、明日9時に北署で待っている」「わかりました」僕は携帯を胸のポケットに戻すと、任さんに言った。「任さん、当分僕の家に泊まったらいいよ。事件が解決するまで、発掘作業は中止せざるを得ないしね」「ありがとう」「ところで任さん、台湾でライさんに会いました」

工藤防衛大臣は西大佐の報告を、苦笑交じりに聞いていた。「西大佐、法務大臣から相談があったのだが、犯罪の増加で、どこの刑務所も囚人で溢れているそうだ。そこで死刑囚と無期懲役囚を、硫黄島へ極秘裡に送ることにした。表向きは病死したということにするので、そちらで処分を頼む。国民の血税で彼らをいつまでも養うのは馬鹿げたことだからな」「了解しました。それからスクール・アーミーの派遣で、生徒のいじめはなくなりましたが、校長のパワー・ハラスメントが横行したり、猥褻教師が増加していると聞いています。彼らも硫黄島へ送ってください」「よかろう。早速、文部科学大臣に伝えよう」