工藤防衛大臣は閣僚会議に出席した。麻生総理をはじめ全ての閣僚の前で、ミッソー中佐の提案を発表した。「ご承知のように新型インフルエンザの患者は11万人を突破して、死者も4人出ました。ワクチン製造は急ピッチで行われていますが、有精卵を使用してウイルスの増殖をするため、オスの鶏が大量に必要となって来ます。ところがオスの鶏を急激に増やすことは不可能なのです。そこで私は防衛医科大学の半沢大佐に命じて、豚の睾丸を使用してウイルスの増殖を実施して来たのです」

「それは一向にかまわないが、どうやって睾丸を集めるのかね？」工藤大臣は聞いた。「いい方法があります。全国からニューハーフ希望者を募集するのです。そして集まった希望者を、各都道府県の自衛隊病院で無料で手術をするのです。無料で手術をすると言えば、迷っていた人達も決心するに違いありません。彼らにとっては無用の長物ですが、ワクチン製造には欠かせない物ですからね」「なるほど。その方法なら余り反対意見は出ないだろうな」

昭和6年（1931年）
9・18 満州事変勃発（関東軍の謀略で行った柳条湖の鉄道爆破を口実にする）

昭和7年（1932年）
3・1 満州国建国を宣言
5・15 五・一五事件（海軍青年将校らが犬養首相暗殺）

昭和8年（1933年）
3・24 日本、国際連盟を脱退
5・7 熱河作戦（日本軍が万里の長城を越えて河北省に侵攻）

昭和11年（1936年）
2・26 二・二六事件（陸軍青年将校らが軍・政府要人を襲撃殺害）

昭和12年（1937年）
7・7 蘆溝橋事件（日中戦争始まる）
12月13日 日本軍、南京占領

ミッソー中佐は続けた。「防衛医科大学の半沢大佐は、新型インフルエンザウィルスのワクチンを、オス豚の睾丸を使って製造しています。ところがオス豚の数には限りがあり、ワクチン製造は十分とは言えません。政府は外国からの輸入を考えているようですが、WHOの医務官は日本のような先進国は自国でワクチンの増産体制を整備するだけでなく、アジアにもワクチンを供給して欲しいと要望して来ました。そこで人間の睾丸を使うことを思いつきました」

豚の睾丸を切り取る作戦を遂行している半沢大佐の報告から、ワクチンの絶対数の不足が予想された。そこでミッソー中佐は工藤防衛大臣に連絡を入れた。「ミッソー中佐、新型インフルエンザの流行は、今や国家的危機となりつつある。ミッソー中佐の活躍で、自衛隊関連施設ではウィルスの蔓延は阻止出来ている。だが一般人の中では感染が広がっている。引き続き万全の対策を頼んだぞ」「了解です。工藤大臣、一つお願いがあります」

陸自の観閲式は海空のそれとは違い、見学観覧の一般公募が行われていない。あくまでも部内の式典という位置づけなのだ。加えて、政府要人や世界各国のVIPたちも訪れることで警備なども厳重になり、総合火力演習のようなイベント感は少ない。

ミッソー中佐は半沢大佐の饒舌に、これ以上付き合うつもりはなかった。早々に電話を切ると、朝霞駐屯地の司令室の隣にあるミッソー中佐の部屋で、新たな新型インフルエンザ対策を考えた。新型インフルエンザによる死者は三人になり、患者数は爆発的に増えていた。北朝鮮の弾道ミサイルによって空中散布された新型インフルエンザウィルスは、日本をはじめ全世界に拡散していた。ミッソー中佐の活躍で、自衛隊と駐屯地周囲はなんとか患者の発生が抑えられていた。

「なるほど！そういう発想は浮かばなかったですね。トンカツと一緒に豚しゃぶしゃぶをしようと思います。オス豚達にしゃぶしゃぶを食わせてもいいかも知れませんね」半沢大佐の妄想は広がる一方だった。「そうだ！グルメ評論家やフードファイターを呼んで、トンカツやしゃぶしゃぶを食べる様子を、オス豚達に見せ付けたらいいですね。それに一般の人達にも参加して貰って、睾丸切り取り大会を開こう。睾丸一つに対して豚肉1キロを進呈するのです」

陸海空の各自衛隊の隊員約4300人、車両約200両、航空機約70機が受閲部隊として参加し、自衛官や各種車両の一糸乱れぬ隊列行進や、航空機の編隊飛行など、折り目正しい自衛隊の真骨頂が展開された。

ミッソー中佐は無理大佐が帰ると、防衛医科大学の半沢大佐に電話をして、新型インフルエンザのワクチン製造を急ぐよう要請した。「ミッソー中佐、了解した。だが問題が一つある。このワクチンのウィルスはオス豚の睾丸の中で培養されている。オス豚を捕まえて睾丸を切り取ろうとするのだが、ブタもイヤなのだろうね、ブヒーブヒーと豚舎の中を逃げ回っている。ブタの抵抗によって、睾丸を食いちぎられた飼育係が続出しているのだ」半沢大佐は笑いながら言った。「それではオス豚の目の前でトンカツを作って見せればいいではありませんか。大人しくしないとこうなるんだぞと、オス豚達に教えるのです」