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from: エリスさん
2006年10月29日 14時36分59秒
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「約束・27」
「なにを突然!?」と、アテーナーは驚いた。
「真剣な話です。私は、長くは生きられません。私の母が私を産んだときのように、私もこの子を産むときは、命と引き換えになるでしょう」
確かにそうかもしれないが……アテーナーは反論できなかった。
「そうなった時、誰が生まれてきた子を養育してくださるのでしょう。祖母はもう高齢ですし、ヘーパイストス様は危険なお仕事をなさっています。仕事場に子供を連れて行くわけにはいきません。同じ理由でキュクロープスのお二方も無理……ヘーパイストス様が他の女性をお傍に置かないかぎり、この子を養育してくれる方はいないのです。だからと言って、あのヘーパイストス様が他の女性などお傍に置くと思いますか?」
「……無理でしょうね」
おそらくガイアを恋人にしたのだって、アテーナーの面影を求めてのことに違いない。それはガイア自身も百も承知なのだ。だからガイアがいなくなってしまったら、ヘーパイストスはまた寂しい独身生活に戻るのだろう。そうなったら……。
「ですから、パラス様にお願いしたいのです。あなた様なら、この子をちゃんと養育してくださる。そうでございましょう? この子は、ヘーパイストス様の御子でもあるのですから」
愛する男性の子供----それだけでも、引き取って育てる価値はある。そのうえアテーナーは、ガイアのことをもう他人とは思えなくなっていた。
そう、このまま誰か違う女が引き取って育てる、などという話が持ち上がりでもしたら、自分は絶対にそれを阻止することだろう。
「わかったわ」と、アテーナーは言った「万が一、あなたがこの子を置いて冥府へ旅立つことがあったら、私がこの子を養育します。これは、処女神宮の守護神パラス・アテーネーが生涯をかけて誓った約束です」
「処女神宮……では、あなたは……」
ガイアはその時はじめて、「パラス」が「アテーナー」だと知った。----ヘーパイストスとの別離も納得がいったのである。
「でも、ガイア、忘れないでね」
アテーナーはガイアの右手をしっかりと握り締めながら、言った。
「子供は無事に生んで、あなたが育てるのよ。それが一番いいのだから、先ず、あなた自身が丈夫になることを考えてね」
----それから、三ヶ月がたっていたのである。icon
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from: エリスさん
2006年10月28日 18時53分09秒
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from: エリスさん
2006年10月28日 12時15分41秒
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「約束・26」
キュクロープスの優しさが見抜けるのなら、この娘は悪い人間ではない。そもそも、悪い人間をヘーパイストスが好きになるはずがない----アテーナーは、そう思った。
「それなら尚更、ヘーパイストス様の良さも理解できるわね」
「……恐れながら、ヘーパイストス様のお人柄を理解できない者など、おりましょうか? あんなに、お優しさがお顔にまでにじみ出ていらっしゃいますのに」
「それがね、女神の中には、あの方が美男子じゃないとか、片足が不自由なこととか、嘲笑う者がいるのよ。……そういう心の狭い女神もいるから、あの方はご自分の容姿に劣等感を持っていらして」
「ああ……確かに、そうでございますね」
いつのまにか、アテーナーはガイアと打ち解けていた。それは、同じ者を好きになった「仲間」としての意識が芽生えたのか、それともガイアの人柄がそうさせるのか。----アテーナーは確実に、この娘を気に入りだしていた。
それからしばらく話をしていると、ふいにガイアがこう言った。
「あなた様になら、お任せできるかもしれません」
「……なにを?」
「私の子です。今はまだ、このお腹の中にいる子供を、私の死後、託せるお方は、あなたしかいないのかもしれません」icon
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from: エリスさん
2006年10月28日 12時01分45秒
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「約束・25」
「この家には」と、アテーナーは言った「あなたの他には、父親だけがいるの?」
「去年までは……父は、去年亡くなりました」
「そう……だったの」
「でも今は、父方の祖母が、一緒に暮らしてくれています」
「……心細いことでしょうね」
「正直、そう思うこともありました。でも今は、ヘーパイストス様がいらっしゃいますし。時にはキュクロープスのお二方もお見えになりますし、寂しくはなくなりました」
「キュクロープスの? おじ様方がここへ?」
キュクロープスと言うのは、女神ガイアが最後に生んだ双子の兄弟で、目が一つしかなく、巨漢であることから「怪物」と思われてしまう神だが、本当は心の優しい、人懐こい二人だった。以前はゼウスのお抱えとして雷を作る職人だったが、今はヘーパイストスの鍛治仕事のサポートをしていた。アテーナーにとっては「大叔父」だが、初めて二人に会った時、彼らが「“おじさん”と呼んで」とヘーパイストスに言ったので、自分も真似して「おじ様」と呼んでいたのである。
「あなたは、おじ様方が怖くはないの?」
「初めて会った時は、びっくりしました。でも、すぐにお優しい方々だと気づきまして。今はとても頼りにしています」
「そう……あなたには、おじ様方の良さがわかるのね」icon
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from: エリスさん
2006年10月28日 06時18分55秒
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「約束・24」
「何故その名を?」
アテーナーが聞くと、ガイアは答えた。
「ヘーパイストス様から伺っております。私と同じ瞳の色をした女神に恋をして、失恋したと……でも、こうしてパラス様がお訪ねくだされたということは、ヘーパイストス様の単なる片思い、ではないのですね」
その言葉に頬を赤らめたアテーナーは、それを隠すように怒ってみせた。
「神々の間のことを、詮索するものではありません!」
「……失礼を、申し上げました」
今の自分の行動が恥ずかしかったアテーナーは、誤魔化すようにあたりをキョロキョロしだした。その時、壁ぎわに椅子を見つけ、さもそれを探していたと言わんばかりに「あったわ!」と言いながら、その椅子を取りに行った。
アテーナーは、ガイアの傍に椅子を置いて、座った。icon
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from: エリスさん
2006年10月27日 20時59分33秒
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「約束・23」
「あなた……様は……」
ガイアはだんだんと目がはっきりしてきて、傍にいる人物が「人間」ではないことに気付いた。
女神の前で横たわっているわけにはいかない――そう思ったガイアは、辛いながらも起き上がろうとした。だがそれを、アテーナーが制した。
「無理をしてはいけません。その身はもう、そなた一人のものではないのですから」
「ですが……」
「良いのです」と、アテーナーはガイアを寝かし付けて、掛け物を直してやった。
ガイアはその時、アテーナーの瞳の色をはっきりと見て、自分の想像が間違っていないことを確信した。
「では、このような姿で、ご無礼致します」と、ガイアは言った「パラス様でいらっしゃいますね?」
この問い掛けには、アテーナーもちょっと驚いた。今は〈アテーナー〉でとおっているのに。icon
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from: エリスさん
2006年10月24日 18時50分22秒
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最近は
専業主婦をしていた頃と違い、今は会社勤めをしているので、更新しても短文になってしまって、すみませんm(__)m
今日は新風舎HPの更新も休んじゃいました。
週末にはなんとか更新しますので、待っていてください。
その間、メンバー同士でお話していても構いませんよ。っていうか、おしゃべりして下さい。せっかくのコミュニティーサークルなんですから。-
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from: エリスさん
2006年10月23日 19時33分54秒
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「約束・22」
『本当に、こんなんで丈夫な子供が産めるのかしら…』
アテーナーはガイアの腹の上に手をかざして、胎児の様子を伺った――すると不思議なことに、胎児の方はなんの問題もなく丈夫に育っているようだった。
おそらく、胎児が母体の生命力を奪ってしまっているのだ。もちろん胎児に悪気などあるはずがない。自我の目覚める前である、本能がそうさせるのだ。
『どうしたらいいのだろう。大お祖母様でさえどうすることもできないと言うのに……』
いつの間にかアテーナーの中で、この娘を救いたい、という気持ちが芽生えていた。恋のライバルであるというのに。
ちょうどその時だった。ガイアが目覚めて、細めに目をひらいたのは。
「……だれ?……」
アテーナーは逃げなかった。
いや、体が動かなくなったのだ。ガイアの瞳の色をみてしまったから。
ガイアは、アテーナーと同じ、灰色(グレー)の瞳をしていた。icon
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from: エリスさん
2006年10月22日 15時34分16秒
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「約束・21」
ガイアが日に日に衰弱している、とエイレイテュイアから連絡をもらったアテーナーは、思い切ってガイアの家を訪ねることにした。
とは言っても、窓から覗くだけにとどめるつもりだった。
しかし実際に覗いてみると、青白い顔をした娘がまるで死んだように眠っているので、心配になって、窓の隙間から蝶に化けて中へ入ることにした。
娘のベッドの傍で元の姿に戻ったアテーナーは、娘の寝息を確認した――かなり細いが、息はしている。
アテーナーは、安堵している自分に気付き、戸惑った。icon
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from: エリスさん
2006年10月21日 11時36分56秒
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「約束・20」
エイレイテュイアに人間のガイアの居場所を教えてもらったものの、アテーナーはしばらくその娘に会いにいく気にはなれなかった。
アテーナーは初めての甲冑を眺めていた。――一番大事な品、でも、身近に置いておくには辛すぎるから、いつも宝物庫に入れっぱなしになってしまう。
そろそろ慣れなくてはいけないのに。ただでさえ、鍛冶の神であるヘーパイストスは、アテーナーの使う武器一式を仕立ててくれている。彼を思い出す要素はいくらでもあるのだから、そのたびに悲しんでなどいられない。
『でも、これだけは特別……』
そう思ったときだった。
「……パラス様……」
声がした方を振り返ってみると、そこに若い娘が立っていた。
アテーナーは驚いた。
「ガイア!? あなた、どうして……」
そして、気付く。その娘の体が透けていることに。
「パラス様……お約束を、お果たし下さいませ……」
娘は、そう言いながら消えていった。
「ガイア!」
アテーナーはすぐに駆け寄ったが、間に合わなかった。
「……約束……ガイア、それじゃ、あなたは……」
――初めてガイアに会ったのは、今から三ヵ月前だった。icon
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