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from: エリスさん
2007年08月28日 12時51分05秒
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キュクロープス兄弟について
大地の女神・ガイアが、天空の神・ウーラノスとの間に儲けた末子。ゴリラのように大柄な体格で、目が一つしかなく、普通に喋ることができない。けれど、とても優しい性格。兄のプロンテースは熱や火、雷電を操り、弟のステロペースは冷気と雷電を操る(二人とも雷電は操れるが、プロンテースのは「灼熱の雷」、ステロペースは「氷結の雷」と呼ばれる。つまり体感温度がまるで違う)。
――――と、私の小説の中では描かれていますが、実のところ、伝説上はだいぶ違います。
本当は三人兄弟なんです。末っ子に「アルゲース」というのがいます。
それではどうして二人兄弟にしてしまったのか?
それは、ステロペースの設定を伝説と違うものにして、プロンテースと「対(つい)」になるようにしたかったんです。
伝説上はステロペースも熱使いです。おそらく鍛冶の神・ヘーパイストスの仕事を補佐する者として描かれるには、絶えず火を噴くことができるという特技が必要だったのでしょう。
でも私は考えました。
刀を打つには熱だけではなく、ときには覚ます水・冷気も必要のはずだと。
そう考えたとき、私の中に眠っていたらしい日本古来の考え方「対」という発想が出てきました。
本来いるはずの「アルゲース」を外すことにより、「熱のプロンテース」「冷気のステロペース」という対を作り出して、ヘーパイストスを巡る物語を彩ってみたかったんです。
実際、キュクロープス兄弟を対にしたことで、実際の伝説よりは面白くなっていると思うのですが…………どうですか? みなさん。
もっとぶっちゃけて言うと、ガイアの末子はキュクロープス兄弟ではありません。もっと人外の姿をした神が生まれたのですが、その設定は省きました。小説の本筋に登場させようがなかったので。
でもキュクロープス兄弟はヘーパイストスと絡ませると、実にいい物語を想像・創造させてくれるので、私も重宝します。読者のみなさんもこのサークルで描かれているキュクロープス兄弟なら怖くはないのではありませんか?
そんなわけで、来週からの新連載はヘーパイストスとキュクロープス兄弟の物語です……そうです、今日はここまでです。
この二週間ほど、もう一方の「恋愛小説発表会・改訂版」を休載してしまっているので、今日はこれからそちらを更新してきます。もしよろしかったら、そちらも併せてご贔屓にm(_ _)m
ではまた来週!!-
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from: エリスさん
2007年08月23日 18時54分09秒
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from: エリスさん
2007年08月23日 15時33分29秒
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from: エリスさん
2007年08月22日 16時52分06秒
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「ジューンブライド あとがき」
神話上あってはならない展開で終わってますが。
私の中では、アテーナーは今頃ヘーパイストスと夫婦になっているのではないかと、勝手に想像・創造しています。
それだけではなく、実はゼウスの跡を継いで神王になったのはアテーナーです――はい、女王誕生ですね。
アポローンが後継者にふさわしいと思う人がきっとたくさんいると思いますが、私はアポローンよりは、苦労してきた分、アテーナーに女王になってもらいたいんですね。
まあ、勝手な想像・創造ですが。
さて、お気づきですか? ヘーパイストスとアテーナーが抱き合うと、互いの頬が簡単に擦り寄る位置にあることを。
二人の背丈は、ほぼ同じなんです。
ヘーパイストスの足が不自由なせいで身長があまり伸びなかった、ということもありますが、実のところ、アテーナーが初めて外界に飛び出したとき、目の前に居たヘーパイストスを見て、
「この子と同じぐらいの大きさになろう」
と思ったことから、まるで親指姫のように小さかったアテーナー(パラス)は4歳児程度の背丈になった――この時の記憶が意識下で未だに働いていて、早い話が、
「私の背丈はヘース様と一緒」
というアテーナーの思い込みからなる奇跡なんですね。
ヘーパイストスって愛されてるなァ(^_^)
ちなみに「ほっぺスリスリ」はキュクロープス兄弟の影響です。
素手で相手に障ると火傷や凍傷を負わせてしまうキュクロープス兄弟が、愛情表現としてやっていたのが「ほっぺスリスリ」だったので、キュクロープス兄弟に世話になっているヘーパイストスもその影響で、ついやってしまうんです。
いかがでしたでしょうか?icon
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from: エリスさん
2007年08月22日 16時38分10秒
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「ジューンブライド・11」
6月も過ぎ、7月も終わり近いというのに、アテーナーやヘーラーの本来の仕事が忙しくて、ウェディングドレスは出来上がらなかった。
「まあ、良い。エリスが帰ってくるまでに出来上がれば。だからこそ早めに作り始めたのだから」
オリュンポス社殿でヘーラーに会った時、彼女はそんな風にアテーナーに笑いかけたという。
アテーナーも、ヘーラーが居ないときに勝手に縫うようなことはしなかったが、それでも、寝る前には必ずドレスを眺めてから寝るような日々が続いた。
そして、8月の始め。
アテーナーはヘーラーと並んで、マネキンに着せられた完成品を眺めることができた。
新緑の森を思わせる刺繍を施したドレスと、
エーゲ海の波を思わせる刺繍を施したドレス。
どちらも美しくて、ため息がこぼれる。
「素敵ですね……」
アテーナーが言うと、ヘーラーは言った。
「そなたのおかげです」
「いいえ。ヘーラー様の娘を思う一念が、これを作り上げたのですわ」
「ありがとう……では」
ヘーラーはマネキンからエーゲ海の方のドレスを脱がして、アテーナーに渡した。
「試着をしてごらん」
「……え?」
戸惑っているアテーナーに微笑むと、ヘーラーは術を使って一瞬でアテーナーをドレスに着替えさせた。
その姿にヘーラーは満足して微笑み、アテーナーは訳がわからなくて慌てていた。
するとヘーラーが言った。「それは、そなたのためのものです」
「私の?」
「《宇宙の意志》から内示がありました……」
近々、地球上にあるすべての神界において世代交代がなされ、神王は退位し、新しい神王が立てられる。それに伴い、斎王も任を解かれることになっていたのだ。
その内示に、アテーナーは驚かずにいられなかった。
「お父様は、その内示に承知したのですか!?」
あの権力に固執しているゼウスが、退位するはずがない――とアテーナーが思っていると、意外な答えが返ってきた。
「宇宙から指名された次代の王が、ゼウスもかねてより考えていた人物だったので、すぐに納得したようですよ。だから……そなたは自由を手に入れたのです。《宇宙の花嫁》から解放され、好いた殿御のもとへ嫁いでもいいのですよ」
ヘーパイストスと結婚できる――これが、そのための衣装。
アテーナーは少しずつ、けれど確実にこみ上げてくる喜びで、どうにかなりそうだった。
そして……同時に得られる、もう一つの「望み」
ヘーラーはアテーナーの頬を、両の手で優しく包み込むと、言った。
「さあ、呼んでおくれ」
「……お母様……」
もう誰に憚る理由もない。ヘーラーを「お母様」と呼べる正当な権利を、アテーナーは今、手に入れたのだ。
その嬉しさで、涙が止まらなかった。
「お母様……お母様!」
アテーナーはヘーラーにすがりつき、そんな彼女を、ヘーラーも優しく抱きしめた。
「人間の間では、〈ジューンブライド〉というものがあるそうな。それは、June(6月)がJuno――つまりローマで言うところの私に捧げられた月だからで、その私が結婚と家庭を守護することから、6月に結婚する花嫁は私の守護を受けて幸せになれる、と人間たちが言い始めたらしい。それならば、私からの直接の祝福を受けたそなたは、絶対に幸せになれないはずがない」
「お母様……」
「ありがとう。ヘーパイストスを、こんなに長く愛してくれて。そしてこれからも、あの子を頼みましたよ」
「はい……はい、必ず。幸せになります」
一九九九年。この夏、世界が改革の時を迎えていたことを、人間は誰も知らない。
悠久の時を越えてようやく願いが叶った花嫁たちがいたことも。
もはや、神界と人間界は遠く隔たれた世界として存在し、神話・伝説として語り継がれるだけに留まってしまっているのだから。
終icon
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from: エリスさん
2007年08月22日 15時44分27秒
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「ジューンブライド・10」
「もうあれから、何千年たったのかしら?」
アテーナーはヘーパイストスの両肩をむさぼるようにしがみついた。
「何千年だろうね。神は歳をとらないから、忘れてしまうよね」
ヘーパイストスはアテーナーとは対象に、優しく包み込むように恋人を支えていた。
「この先も、また何千年も待たなければいけないのかしら? 純潔のまま、あなた恋しさに眠れぬ夜を重ね、狂いそうになりながらも……」
「……パラス?」
「もう待ちたくないの! いやなのよ、こんな思いは! だからお願い、私から斎王の資格を奪って!!」
「パラス!」
咄嗟に、ヘーパイストスはアテーナーを自分から引き離した。
「そんなことを言っては駄目だ! 君の格が下がる!」
「そんなものいらない! 女神の品格も、神王の長子としての立場も、もう何も要らない! あなたを失うぐらいなら、全部投げ捨てたって……」
アテーナーが言葉を切った――いや、ヘーパイストスが阻止したのだ。アテーナーがこれ以上悲しいことを言わないよう、彼女の唇を自身の唇で塞ぐことによって。
そうすることで、アテーナーの心を落ち着かせようとしたのだ。
一、二度、呼吸のために唇が離れたが、まだアテーナーの心が落ち着いていないと察すると、ヘーパイストスはすぐにも彼女の唇を塞いだ。
どれぐらい時間が経ったか……アテーナーが力尽きたように床に膝を突いたので、ヘーパイストスも彼女を解放してあげた。
「良かった、落ち着いたね」
アテーナーがコクンと頷いて見せたので、ヘーパイストスも膝を突いて彼女の肩に手を置いた。
「僕は居なくならないよ。失うなんて、そんな風に考えては駄目だよ。……もう、何千年も待っただろう? だから僕なんかは、この先まだ何億年だって待てる自信があるんだ。それとも君は、僕のことが待てないからって他の男に乗り換える?」
「そんなこと!!」
「出来ないよね。だからいいんだよ、僕たちはこのままで」
ヘーパイストスはそう言うと、またアテーナーを抱きしめて、互いの頬を摺り寄せた。
「この先もまた、いつか結ばれる日を夢見て生きていこうよ。ね? パラス」
「……ヘース様……」
この優しさに救われる――でもまた、その優しすぎるところがもどかしくて、悲しくなることもある。
それでも、この人を想う気持ちだけは永遠に終わらないのだと、アテーナーは思い知らされていた。icon
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from: エリスさん
2007年08月15日 16時46分13秒
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「ジューンブライド・9」
あの日、ヘーラーに母親になってもらえない寂しさから、アテーナーは夜に中庭に出て、人工池の淵で両足を抱えて座っていた。
そんなときだった。
「その座り方だと、池に落ちちゃうよ?」
その声で振り向くと、ヘーパイストスが片足を引きずりながら歩いてくるのが見えた。
「ヘース様……」
いつもはヘーパイストスが近づいてくればすぐに気づくのに、気づけないほど落ち込んでいたらしい。
「隣、座ってもいい?」
「うん……」
ヘーパイストスは、さすがに不自由な足ではアテーナーと同じ格好では座れなくて、池に背を向けて、淵に腰を下ろした。なのでアテーナーもヘーパイストスと同じ格好で座りなおした。
「なにをそんなに落ち込んでいたの? あんなにちっちゃく身を屈めて」
「……あのね」
アテーナーは昼間あったことを彼に話した。するとヘーパイストスは親身になって聞いてくれて、一緒にため息をついてくれた。
「そっか。母上は義理堅い女性だから、どうしても君の母君のことを考えてしまって、そう答えたんだろうね」
「私だって分からなくはないの。でも、私は実際に〈お母様〉って呼べる人が欲しいの。温かい腕で抱きしめてくれて、甘えさせてくれる、そういう人が欲しいの。そういうこと、思ってはいけないの?」
「いけなくはないさ。子供だったらあたりまえだよ。……あっ! だったらさ」
ヘーパイストスは突然立ち上がって、こう言った。
「僕と結婚しようよ!」
「え?」
途端、アテーナーは頬を赤らめた。
「ヘース様と、結婚?」
「そうだよ。僕の奥さんになれば、僕の母上は君にとって義理の母親。だから〈お母様〉と呼んでもいいんだよ!」
「うん、そうよね。そうなんだけど……私でいいの?」
と、恥ずかしそうにアテーナーは聞いた。
「え? なにが?」
「私を、奥さんにしてくれるの?」
「じゃあ君は、僕が夫じゃ不足なの?」
その問いに、アテーナーは何回も必死に首を横に振った。
「結婚したい! 私、ヘース様の奥さんになりたい!」
「じゃあ決まり。僕たち、大人になったら結婚しようね」
――あの頃は、まだ子供だった。
だから「斎王」というものが良く理解できてはいなかった。
それでも子供なりに、真剣に交わした約束だったのだ。icon
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from: エリスさん
2007年08月15日 16時20分40秒
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「ジューンブライド・8」
アテーナーは二階のテラスへと急いだ。
今、こんなにもあの方に会いたかったその時に、その当の本人が訪ねてきてくれた幸福と、クラリアーに警戒された悲しみが、心の中で複雑に絡み合って、苦しい……。
だがその苦しみも、恋しい人に会えれば、一瞬で消える。
すでに月明かりが射し始めたテラスに、彼は立っていた。
「ご機嫌よう、アテーナー殿」
ヘーパイストスは両手でしっかりと、アテーナーの剣を持っていた。
「すっかり修理できましたよ、あなたの剣。それにしても、あんなにたくさんの刃こぼれができるまで剣術の稽古にお励みとは、武神の役目は楽ではございませんね」
「……やめて……」
他人行儀な話し方をしないで――自分を抑えるために、わざとそうしているのだということは分かっているけれど。
「アテーナー殿?」
「刃こぼれは、わざと作ったんです」
アテーナーは、ヘーパイストスの手からもぎ取るように剣を受け取って、床に投げつけた。
「アテーナー殿、なにを!?」
「あなたに会える口実が欲しかったの!」
アテーナーはそう言うと、ヘーパイストスの首に両腕を絡ませて抱きついた。
「そうでもしないと、最近のあなたは会ってくれないから!」
「……なんという無茶を……」
ヘーパイストスはそう言うと、自分の頬をアテーナーの頬に摺り寄せた。
「会いたいのはやまやまですが、今は平和な世。昔のように、戦場に出るあなたのために武具を揃える役目は、今はありませんから。そういう理由がないのに、純潔神であるあなたのもとに男のわたしが訪ねるわけにはいかないではありませんか」
「ヘース様! そんな言い方はイヤ!」
アテーナーは少しだけヘーパイストスから離れると、彼の唇に自分の唇を重ねた。
その時、月が隠れたのは偶然だったのだろうか?
ほんのしばらくの闇夜だったが、月明かりが戻ってくるまでアテーナーの唇は決して離れようとはしなかった。
「……本当に、どうしたの?」
ようやくヘーパイストスが親しげに話してくれるのを聞いて、アテーナーは安心したように、今度は自分から、彼の頬に自分の頬を摺り寄せた。
「今ね、ヘーラー様とウェディングドレスを作っているの」
「ああ、エイレイテュイア姉上の」
「ええ……とっても素敵なの。二着もあるのよ。それがね、とってもうらやましくて……」
「自分も、結婚したくなった?」
「したいわ。もうそんなこと、ずうっと考えているわ。あなたにプロポーズされたあの日から……」
「……そっか……」
「……それだけ?」
「ん?」
ヘーパイストスの素っ気無い反応に、アテーナーは少しだけ体を離した。
「もうあなたには、私を自分のものにしようという気力はないの?」
「アテーナー……」
「その名で呼ばないで! あなたには、その名で呼ばれたくないのに……」
アテーナーの激しさと恋しさを感じ取っていたヘーパイストスは、もうその言葉を聞いてしまうと、自分を抑えきれずに、アテーナーを抱きしめた。
「パラス! パラス! パラス!」
「ヘース様!」
もう何千年、この名で呼ばれなくなっていただろう。
ほかの人はいい。でも、ヘーパイストスにだけは、ずっと呼ばれていたかったのに……。icon
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from: エリスさん
2007年08月15日 15時35分53秒
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「ジューンブライド・7」
『そう、満たされていたわ、あの時は。でも……』
アテーナーはウェディングドレスを抱きしめながら、思い出していた――あの一瞬は満たされていたのだが、夕方あたりになって冷静に考えると、
「現実に自分を愛してくれる母親はいないのだ」
ということに気づいて、また寂しくなったのだ。
『そうしたら、あの方が……』
もう少しで楽しい思い出が目の前に広がろうとしていた時に、その声はかかった。
「申し上げます」
咄嗟にアテーナーはウェディングドレスから離れた。
その声は側近頭のクラリアーだった。部屋の扉の向こうから声をかけていたのである。
「お客様がお見えです、このようなお時間に」
確かにもうすぐ夜になるが……このような物言いをクラリアーがするときは、彼女にとって好ましくない客なのだ。
「……鍛冶の神・ヘーパイストス殿かしら? 刃こぼれをしてしまった剣の修理を頼んでおいたのだけど」
アテーナーがそう言うと、
「はい確かに、そうおっしゃっておられました。お会いになられますか?」
「このまま門前で帰せとでも言うの? 会うに決まっているではないの」
「そうおっしゃられると思いまして、二階のテラスにお通しいたしました」
「二階って……」
アテーナーはクラリアーの冷たい仕打ちに、たまらず扉を開いて睨み付けた。
「ヘース様は足が不自由でいらっしゃるのに、わざわざ階段を上らせるなんて! 一階には応接間も、いくらだって部屋はあるのに!」
するとクラリアーは頭を下げながらもこう言った。
「応接間などとんでもない。あのように人気がない部屋でなど、お二方を会わせるわけには参りません。テラスならば、空からも海からも、さまざまな神がお二方を監視できますから」
「なにを……」
「お忘れなきよう、斎王(みこ)様」と、クラリアーは顔をあげた「あなた様は、決して汚れてはならぬ《宇宙の花嫁》なのですよ」
「……下世話な!」
そんなことは、百も承知だ。
それでも、幼いころから想い続けた人を、どうして諦めることなどできるだろう。ましてや命の恩人でもある男性を。
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from: エリスさん
2007年08月14日 18時13分12秒