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from: エリスさん
2008年01月31日 16時47分08秒
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from: エリスさん
2008年01月31日 16時37分51秒
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「禁断の花園・18」
「では、わたしとアルテミス殿はこれにて。……あとは、ペルセポネー殿をお治しする算段でも立てられるが良かろう」
ポセイドーンはゼウスに冷ややかな視線を送り、アルテミスを連れて退出した。
歩きながら、ポセイドーンは姪に聞いてみた。
「御身は恨んでいないのか?」
「王后陛下のことですか? 以前は、確かに」
ヘーラーは以前、レートーが懐妊中に彼女の出産を妨げたことがあった。それはひとえに、すでに妻のいるゼウスから求愛されて、拒むことなく受け入れたレートーへの罰としてであった。それが貞節を尊ぶヘーラーの勤めでもあったからだ。
「お姉様から、その事情を伺ってからは、確かに母にも責はあると思うようになりまして……」
「お姉様とは?」
「私がお姉様と言えば……」
そのときだった。
廊下の向こうから、カツン、ガシャ、カツン、ガシャ、と堅い物がぶつかりあう音が聞こえてきた。見れば、誰かがこちらへ向かって歩いてくるところだった。
その人物は甲冑と剣を身に着けていた。音はその甲冑と、履物が石の廊下に当たる音だったのだ。
だんだんとその人物の顔が見えてくる――灰色の、時折銀色にも見える瞳は、オリュンポス神界に神多しと言えど、一柱しかいない。
武と智と芸術を司り、斎王でもある女神・アテーナーである。
「お姉……様?」
アテーナーの甲冑は、血飛沫で汚れていた。
アテーナーは無言のまま、その面持ちは誰の言葉も聞きたくない、という威厳ある表情をしていた。彼女は一刻も早くゼウスのいる謁見の間へ行きたいのだ。
そんな彼女が恐ろしく見えて、アルテミスは引き止めることができなかった。
だがポセイドーンは、もっと別のことに気付いていた。
「……あの匂い……」
「え!?」
アルテミスは思わず聞き返していた。
「血の匂いに混じって、神霊特有の体香が――アテーナーのジャスミンの香りではない、別の誰かの体香が匂った。……あれは、ヒノキか?」
「ヒノキ……ヒノキと言えば!?」
「そう、豊穣の女神・デーメーテールの血筋の者に伝わる匂いだ。……いったい、誰を斬ってきたのだ?」
一方、謁見の間ではようやくゼウスが立てるようになって、玉座に座り直していた。
「それでは……」
ゼウスは苦しげに一息ついてから、言葉を続けた。
「アポローン、医術を司るそなたに、ペルセポネーの治療を……」
「お待ちください、陛下」
そう言ったのはエリスだった。「ペルセポネー殿の治療は、我々にお任せください」
「ほう? 罪滅ぼしか? エリス」
「お言葉ですが、私に罪などございません」
「なんだと?」
ゼウスは一瞬にして険しい顔になった。
「罪はペルセポネー殿を辱めた御方にございます。そのために彼女は正気を失われてしまったのですから」
「そちはッ! まだそのようなことを言うのか!」
ゼウスは怒りが頂点に達しながらも、ニヤリと嘲笑った。
「あれはどれほど前のことになるかのう。そちはわしに堂々と言いおった。“愛の元に行われる事は、此れみな神聖な行為”だと。つまり、わしがしたことも神聖な行為ではないか。エリスよッ、そちがわしの罪を問うは、己の言葉を撤回したことになる。つまり、そち自身の罪も認めたことになるのだ!」
エリスは深いため息をついた。呆れ果ててしまったのだ。今のゼウスは自分の行為を正当化するために、物事を都合よく解釈している。まこと、万物の父と呼ばれる王の姿なのだろうか。
「あれは“双方が愛し合っている場合”ではございませんか」
「そんなことは言わなかったぞ」
「わかりきったことだから申し上げなかっただけです。御身様はそれほどまでに白痴と成り果てましたか」
「な、なんだと!? 貴様ッ、このわしを愚弄するか!」
すると離れた所から、別の声が聞こえてきた。
「愚弄されて当然のことをしたからではありませんか、お父様」
その声で、みな一斉に開かれた扉の方を見た。――言わずと知れたアテーナーだった。
血飛沫をあびた甲冑と、うっすらと怒りを浮かべたまま凍りついたようなアテーナーの表情は、誰をもゾッとさせ、威圧する。そんな彼女が玉座へ上がっていくのを、止められるわけがない。
エリスは、アテーナーの後姿を見ながら、いつもならゴルゴーンの楯を手にしている左手に、何か握っていることに気付いた。何を握っているのかまでは分からないが、手の中に納まってしまう程の小さなものらしい。その手は紅い血で染まっていた。
玉座に上がってからも、アテーナーはしばらく父親の顔を見据えていた。
「なんだ、なんなのだ! 何故そなたまでわしを、そのような目で見る!」
最愛の長女に見据えられては、さすがのゼウスも怖気づくのか、おどおどして言う。
アテーナーはまったく表情を変えることなく、左手を突き出し、指を開いた。
ゼウスの表情が、さらに蒼白になる。
アテーナーは振り返ると、それを皆にも見せた。
未だ脈打つ肉片――。
ヘーベーは悲鳴をあげ、エイレイテュイアは気を失いかけてエリスに支えられた。
「アテーナー姉上、それは!?」
アレースの問いに、答えた。
「お父様とペルセポネーとの間に生まれた御子・ザクレウスの形見の心臓です」icon
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from: エリスさん
2008年01月31日 15時57分21秒
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「禁断の花園・17」
しばらくして、ポセイドーンが席から立ち上がり、玉座へと歩いてきた。
アポローンとすれ違った時には、こう言った。
「席に戻られよ。いつまでもそのような姿を晒しているのは、御身の不名誉になりますぞ」
そして玉座の階段を登り、まだ少し興奮しているアレースの肩を数回叩いてやると、
「おまえも席に戻れ、アレース。おまえの気持ちもわかるが、彼は歴としたおまえ達の父親だ。父親への礼を欠いてはならん」
「……叔父上……」
ポセイドーンはもう一度彼の肩を叩いて、席へ戻るように促した。
そして、ポセイドーンはゼウスの首にかかったハーデースの手に、そっと右手を置いた。
「兄上、もうそれぐらいにしてあげては。何をやっても、彼は死ぬことはないのだから」
それでも、ハーデースの手は止めようとはしなかった。
「兄上、そんなことよりも先ず、しなければならないことがあるはずです。ペルセポネー殿の病を治してあげなくてはならない。それには、兄上の力も必要なのでは?」
ハーデースの手がゆるんでいく。――ゼウスの目はすでに白目となっていた。
「さァ、兄上。離されよ」
力を籠めすぎて、こわばった指がゆっくりと離れると、ゼウスの体は玉座の椅子からもころげ落ちて、ハーデースの足元に倒れた。
ゼウスが気を失っているうちに、ポセイドーンは皆に号令をかけた。
「直ちに王后の捜索とペルセポネー殿の治癒に取り掛からねばならない。アレース、すでにおまえとヘーパイストスの配下が、王后の行方を捜しているのだったな。我が海の眷属も差し出すとしよう、存分に使ってくれ。アポローン、御身の配下にも手伝わせよ」
するとアポローンは嘲笑を浮かべて言った。
「わたしの配下を? あのヘーラー王后のためにですか?」
アポローンの笑い声はだんだんと大きくなり、その場にいる者たちの嫌悪感をますます膨らませていった。
「冗談じゃない。あの女が我ら姉弟に何をしたか、よもやお忘れですか? 下手をしたら、我らが母・レートーと共に死んで――殺されていたかもしれないのに」
「あれはッ」
と、すぐさまエイレイテュイアは反論しようとした。だが、アポローンはそれを遮るように言った。
「断じて配下はお貸ししません!」
ヘーラーのことを恨んでいることは、その場にいる誰もが知っている。だが事の真相を知っているエイレイテュイアとしては、黙っているわけにはいかない。尚も反論しようとするのを、エリスに肩を摑まれて制された。
エリスが無言で首を振る――今はそんなことを議論している場合ではない、と言いたいのだ。
恋人になだめられては、何も言えない。
その様子を見て、弟の態度を恥じたアルテミスは言った。
「ポセイドーン叔父様、我が配下をお貸し致します。どうぞ如何様にもお使いください」
「おお、そうしていただけるか、アルテミス殿。……誠に、同じ父母から生まれても、こうも違うものですかな? 陛下」
その頃になるとゼウスも意識を取り戻して、立ち上がりはしないまでも上体は起こして、徐々に呼吸のリズムを整えつつあった。icon
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from: エリスさん
2008年01月31日 15時09分33秒
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ちょっと弱音を吐きます
「仕事中に弱音を吐く女は嫌いだ!」
以前、お慕いした男性から言われた言葉。
だから極力そんなことのないようにしてきましたが....
お願い、今だけ見逃してください。
私としては、この作品を書くにあたって、精神的にしんどい時があるんです。
特に今書いてる最中の場面。
自分がこんな目にあわされた過去があるんじゃないか、と読者に詮索される心配もしなかったわけじゃありません。
でも作中で枝実子が言っていたとおり、そう思われても書かなきゃいけないと思うからこそ、こうして発表しています。
だってこうゆう被害にあっている女性は、本当に少なくないから。
こんなところで訴えても、大した影響力はないかもしれませんが、それでも、なにもしないよりはマシだと思うので、自分に鞭を打って書いています。
でも、本当に今はしんどい....
ごめんなさい、読者の皆様。少し休憩を取らせてください。-
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from: エリスさん
2008年01月31日 15時01分33秒
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「禁断の花園・16」
ハーデースの手は、ゼウスの首を絞めていた。
「本当に、本当にそんなことを思っているのか、兄上!」
ゼウスは苦しみながらも、ハーデースの手を引き離そうと、必死の抵抗をした。
「まこと本心から言われるか! ペルセポネーを手にかけた自分に非はないと! 当然のことをしたのだと!」
「は……な……せ。……ハー……デ……」
「実の娘を犯したことに、罪悪感はないのか、兄上!!」
するとゼウスは絶叫した。
「女を抱いてどこが悪い!」
ハーデースはカッと目を見開いて、ますます指先に力を籠めた。
ハーデースの行状にアポローンが駆け寄り、それを見てアレースも玉座へ向かった。
「お手をお離しください、叔父上! 恐れ多くも神王陛下に無礼が過ぎます!」
「手を離すのは貴様だ、アポローン!」
アポローンを引き離したアレースは、彼を玉座から突き落とした。――その場に立っていたエリスたちは咄嗟に避けていた。
アポローンの姉であるアルテミスはそれに思わず悲鳴をあげ、隣のアプロディーテーになだめられた。
腰を打ってしばらく立ち上がれなくなったアポローンは、それでもアレースに向かって吠える。
「父上が殺されてもいいのか!」
するとアレースは言った。
「死んで当然だ、こんな男!……第一、不老不死の神が死ぬもんか」
アレースの言葉であたりが静まり返る。聞こえるのはただ、ゼウスの苦しげな唸り声のみ。icon
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from: エリスさん
2008年01月31日 14時39分01秒
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「禁断の花園・15」
「子孫を残すのは生きる者の義務。父上はその役目を果たされたまで。どこかのある御方のように、子孫も残せぬ結婚ばかりするよりはマシだと言っているのです」
この言葉に怒ったのはエイレイテュイアだった。
「問題を摩り替えないで!」
だが、言われている当人――エリスは、冷静だった。
「確かに、私は同性しか愛せない女です。けれど、私は自分の恋愛を恥じてはおりません。……陛下、私は一度として嫌がる女性を手中に収めたことはありません。そんなことをするのは野獣と同じだからです。どうかお聞かせ願えませんか、陛下。陛下がどのようなおつもりで、ペルセポネー殿を我が物となされたのか。まこと、アポローン殿が言われるようなことを、お思いなのですか?」
ゼウスは不愉快で堪らないという気持ちを、表情に表していた。蔑んでいた相手に正論を説かれては、誰でもそうなるのかもしれない。
「今この場で、罪を問われているのはその方だぞ、エリス! それを、なんと言う無礼な!」
「お父様!」とエイレイテュイアは叫んだ。「本当にご自分に非はなかったと、おっしゃられるのですか! 父親として、神王として!」
その場には当然のごとくハーデースもいた。彼はそれまでのことを、ただ無言で眺めていた。
ショックだったのだ。
先に生まれていながら「弟」の地位に甘んじているのは、ひとえにゼウスの勇猛さ、統率力に敬意を表し、絶対服従を誓っているからだ。そのゼウスが、このたびのような卑劣なことをしていたとは……。しかも、その被害者がペルセポネー!!
怒りは、もちろん感じている。
だが、その怒りの量には及ばないまでも、同情の気持ちも湧き起こっていた。
実の娘ではないが、自分も年甲斐もなく若い娘に恋をしている。――果たして、そんな自分にゼウスを責める資格はあるのだろうか?――この思いが、ハーデースを黙らせていた。
だからもし、ハーデースの怒りを爆発させたくないと思う者がいたなら、即刻ゼウスを黙らせるべきだったのだ。
「わしがペルセポネーを手中にしたから、なんだと言うのだ! あれとて女だ、女は男と交わる義務があるッ。第一、わしがあれを傷つけたようなことを言うが、心外だぞ! わしはペルセポネーを可愛がってやったのではないか。娘として、父親にそこまで愛されたのだ。本望と思わずしてなんとする! わしは間違ったことなどしておらん!!」
この言葉で怒りを覚えない者は、この世で生きる資格はないものと心得よ。
ハーデースは席から立ち上がると、臨席の弟・ポセイドーンが止めるのも聞かず、玉座へと突進して行った。icon
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from: エリスさん
2008年01月31日 14時19分20秒
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「禁断の花園・14」
他の神界へ交流のために出掛けていたゼウスは、その神界の王と対談する前にヘーラー出奔の知らせを聞いた。幸い、対談しようとしていた相手は旧知の仲だったので、不名誉にならぬ言い訳をして対談を延期してもらい、すぐさまオリュンポスへと帰ってきた。
ヘーラーが出奔したのが三女神の話を聞いてしまったためと知ったゼウスは、居城に三女神を呼び出した。
他の主だった神々も集まってきた――ただ一柱(ひとはしら。神の人数は「柱」と数える)、アテーナーを除いては。
こういった席に嫡女たるアテーナーが来ないなど珍しい。彼女を敬愛している月と狩猟と純潔の女神・アルテミスは、
『何かあったのかしら……』
と心配になってきた。
しかし、裁判は否応なしに始められてしまう。
玉座から怒りの形相で女神たちを睨み付けるゼウスは、またしてもこの中にエリス女神がいるのを不愉快に思っていた。
「なんという短慮だ!」とゼウスは怒鳴った。「王后の所有である建物内で、決して王后に聞かれてはならない秘密を、話し合っていたとは! そなた達の浅はかな行動で、今この国は王后不在という事態に陥っているのだぞ!」
これにはエリスだけでなく、エイレイテュイアもヘーベーも怒りを覚えた――己の罪を棚に上げてのこの暴言!
「お言葉ですが、陛下!」と、エリスは訴えた。「我等を責める前に先ず、何故こうなってしまったかを、お考えください!」
すると、ゼウスと側室・レートーとの間に生まれた双子の弟、太陽神・アポローンは言った。
「控えられよ、エリス殿。まるで陛下に非があるような言いよう、不敬罪に訴えますぞ」
「そなた、何も聞いてないのか?」
と言ったのはアレースだった。「父上が、こともあろうに実の娘を……」
「アレース殿。近親結婚は神族のみに許される特権。父上はなにも間違ったことはなさっておりませんよ」
「結婚? 結婚だと? あんなものが結婚か!」
エリスが激しく抗議しようとするのを、エイレイテュイアは一歩前に出ることで制して、代わりに「医者」としての意見を述べた。
「ペルセポネーが気鬱になったのは、今から十ヶ月前。相当なショックを受けたことにより罹ったものと存じます。その相当なショックこそ、このたび彼女が出産しなければならなかった原因。つまり、お父様が力ずくでペルセポネーを手に入れたからこそ、彼女は気鬱になってしまったのです。そのことについて、ここに列席の皆様は、何も思われないのですか!」
普段おとなしいエイレイテュイアが、ここまで怒りを露にしているのである。誰も反論することができなかった。
ただ一柱を除いては。
「父上は本能のままに生きよ、という教えを貫かれただけではありませんか。実の娘とは言え、女。女は誰しも男と交えて子を産むのが勤めと心得ねば」
アポローンの言葉に、アレースは怒りを覚えた。
「貴様! それは女性に対する侮辱だ! 貴様には倫理観というものがないのか!」icon
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from: エリスさん
2008年01月30日 22時33分52秒
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from: エリスさん
2008年01月21日 14時46分28秒
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「禁断の花園・13」
ティーターン一族は、創始からの女神・大地を司るガイアが、自身の息子・天空を司るウーラノスと婚姻を結んだことにより生まれた一族である。その代表格が神王ゼウスと王后のヘーラー、そしてその兄弟姉妹たちであるが、ウーラノスがガイアに無理な出産を強いた所為か、月足らずで生まれた者たちの中には人型ではない、いわゆる「異形」「怪物」「鬼」と呼ばれる者たちもいた。そういった者たちは、人々に忌み嫌われるせいか気性が激しくなってしまい、誰かが監視していなければ、いらぬ危害を振りまくことになってしまう。
俗に「ティーターンの鬼ども」と呼ばれる彼らの監視は、代々ティーターン一族の嫡子(後継者たる者)の役目となっている。先代神王クロノスと王后レイアーの間には、上から順に長女ヘスティアー、次女ヘーラー、三女デーメーテール、長男ハーデース、次男ポセイドーン、三男ゼウスと、六人の子供がいるが、長女のヘスティアーはいにしえよりの慣習で斎王となったため、ヘーラーが後継者となり、監視役も負ったのである。(末子であるゼウスが神王になったのは、母・レイアーの庇護のもと父・クロノスを倒し、王位を簒奪したため。その日からハーデースとポセイドーンは彼に敬意を表し、「兄」の立場を彼に譲り、自分たちが「弟」になった)
ヘーラーが「ティーターンの鬼ども」の主人となった時、彼らは大層喜んだ。それまでの主人も悪くは無かったのだろうが、新しい主人は若くて美しい女神。そして誰よりも慈悲深いときている。ヘーラーにとっても、なにくれと役に立ってくれる、言わば「使い魔」的存在の彼らを重宝していた。
誰でもそうだが、良き主人に仕えれば、命令などされなくてもその人のために尽くしたいと思うもの。
その良き主人が、嘆き悲しんでいる。
ヘーラーの悲嘆のオーラは地中に棲む彼らのもとへも届いていた。彼らはオーラに共鳴して泣き叫び、そして主人をこんなにまで苦しめる者を憎んだ。
“許スナ! 許スナ!”
“主人ヲ苦シメル者ハ、ナンピトタリトモ!”
彼らは地上へと這い上がって行った。
主人の恨みを晴らすために……。icon
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from: エリスさん
2008年01月21日 14時29分30秒
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「禁断の花園・12」
金色に輝くその子の瞳を見つめて、彼女たちは感嘆の吐息をこぼしていた。
「本当に、なんて愛らしい坊やなんでしょう!」
「大人になられたら、どんなにか女神方の心を惑わす御方になられましょうね」
この二人はデーメーテールに仕える精霊のミレーとミユーだった。そして二人が見惚れている坊やこそ、ペルセポネーが産んだ子・ザクレウスである。
生まれて間もなく目を開くというのは、神族では珍しいことではないが、立って歩き、片言でも言葉を話すなど、前代未聞のことである。しかもその瞳、そして身を包む霊波の輝き(オーラ)の色が金色……。
普通でないことは、デーメーテールにも一目で分かった。
「さあさあ、あなた達」と、デーメーテールは軽く手を叩いた。「坊やを他の場所で遊ばせてちょうだい。コレー(ペルセポネーの幼名であり愛称)が眠れないわ」
「はい、ご主人様」
「さァ、参りましょう、ザクレウス様」
ミレーとミユーがザクレウスを連れて部屋を出て行く。デーメーテールは、ゆっくりと窓の方へ近づいた。
「嫌な天気になってきたわね? コレー」
横には、寝台の中で目を開いたまま横になっているペルセポネーがいた。
まったく反応が無い。
「……コレー……」
デーメーテールは娘の方へ行き、寝台に腰掛けた。
「いつになったら、この母の方を向いてくれるの? あの花のような笑顔を見せてくれるの?」
何事か訳の分からない言葉をぶつぶつと言っている――母親の声など、耳にも入っていない。
デーメーテールはついに声を殺して泣き始め、娘に縋り付いた。
「どうしてあなたがこんな目にッ……」
……そんな時だった。
ペルセポネーが一言、はっきりと聞き取れる言葉を発した。
「……鬼が来る……」
「……今、なんと言ったの?」
そのまま、ペルセポネーは静かな寝息を立て始めた。icon
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