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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2008年04月24日 15時52分46秒

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    「女神の涙〜ティートロース生誕秘話〜・10」
     その言葉を聞いてイオーの表情が華やいだのを見たエリスは、すぐに付け加えた。
     「ただし、今すぐではないよ。そなたは大人になりきれていない。そなたが十五歳になったら、私の恋人になってくれ」
     「あと三年……」
     「それまで待っているから。だから、最近疲れやすくなっているその体を、もっと丈夫にしておくれ。食事もちゃんと摂ってな」
     「はい、エリス様」
     「じゃあ、中へ入ろうか」
     エリスはイオーの手を取って、立たせてあげた。
     二人は並んで歩きだした……が、イオーがふいに足を止めた。
     どうしたのかと、エリスが振り返ると、イオーはお腹を押さえたまま放心状態で立っていた。
     「どうしたの? イオー」
     「……なにか、いる……」
     「え?」
     「私の中に、なにか、居る……」
     その言葉でエリスはハッとした――胎児が動いている! その胎動を感じ取ってしまったのだ。
     「なに? なんなの? これはなに?」
     イオーの心が乱れ始めた――咄嗟に、エリスはイオーを抱きしめた。
     「イオー、落ち着け!」
     「いやァ! これはなに! 助けて、エリス様!」
     「イオー!!」
     胎動が尋常ではない。これは間違いなく陣痛だった。
     『そんな、産み月になっていないのに!』
     エリスはイオーを抱きかかえると、大声でヘーラーを呼びながら、社殿の中へ駆け込んだ。

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  • from: エリスさん

    2008年04月24日 15時17分35秒

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    「女神の涙〜ティートロース生誕秘話〜・9」
     その後、ヘーラーの神力の賜物により、イオーは懐妊したまま凌辱の記憶を消されて、普段通りの生活を送ることになった。
     悪阻がきても、周りの者たちは「過労からきたものだろう」と言い聞かせ、イオーが悪夢を思い出してしまわないように気をつけていた。
     そうして、イオーは十二歳の誕生日を迎えた。
     お腹は大きくなっていたが、ヘーラーの暗示により、イオーは自分のお腹が膨らんでいることには気づかなかった。
     それにより、懐妊の自覚がないイオーは、それまで通りの仕事量をこなし、いつもの食事の量しか摂らなかったため、お腹以外のところがやせ細っていった。
     ここまでくると、イオーも自分の体の異変に気付かないわけがなく、それでも、それが懐妊のせいだとまでは思い至れなかった。
     イオーは、休憩時間になると、まるで死んだようになって仮眠を取ることが多くなった。
     その日も、中庭の木の下で休んでいるイオーを見つけたエリスは、そうっと近づいて、彼女の様子を伺った。
     エリスが覗き込んでも気づかないほど、イオーはぐっすりと眠ってしまっている。このまま一人でいさせるのは危険かもしれない、と思ったエリスは、自分もその場に腰かけて、イオーが目覚めるのを待った。
     『こんなに細くなって……』
     産み月まであと三ヵ月。このまま体力がもつとは思えない。やはり堕胎させるべきではなかったのかと、エリスは今更どうしようもないことを悩んでしまった。
     そんな時、イオーが目を覚ました。
     目を覚ましたとき、目の前にエリスがいたことにちょっと驚いたイオーだったが、彼女はすぐに嬉しそうな笑顔を見せた。
     「夢の続きかと思いました」
     「おや。私の夢を見ていたの?」
     「はい、エリス様。エリス様の髪を梳いて差し上げる夢を見ておりました。髪を梳くたびに、ラベンダーのいい匂いがたちこめて、とても幸せな気持ちになるんです」
     「そう……こんなところで眠っていると、風邪をひくよ。中へ入ろう」
     「お待ちを!」
     立ち上がろうとするエリスの手を、イオーは必死に握って引き留めた。
     「エリス様の夢を見るのは、これが初めてではないのです。何度も、何度も……そのたびに、どんなに私が幸せか」
     「イオー……」
     エリスはイオーの前に座りなおした。
     「分かっているのか? 自分の言っていることが。そなたが今言った言葉は、聞きようによっては愛の告白になるののだぞ」
     「そのとおりです! 私は……」
     言葉に詰まる――とても恐れ多いと思う気持ちと、恥ずかしさが、イオーの喉を塞いでしまう。
     それでも、イオーは思い切ってエリスに抱きついてきた。
     「私を、エリス様のおそばに……」
     「イオー……」
     そのいじらしい気持ちが愛しくて、エリスはイオーを抱きしめた。
     「私は女神だ。いいのか? 女同士の恋など、世間は認めてはくれぬ。そなたなら、きっと良い殿御を見つけられるだろうに」
     「男なんていや! 考えただけで気持ち悪い。男の人と恋をするぐらいなら、今すぐ死にます!」
     そうゆうことか……と、エリスは思い至った。
     ゼウスに凌辱された記憶は消えても、体が覚えてしまっているのだ。だから男に嫌悪感を抱き、男のように猛々しく美しいエリスに恋をしてしまったのだ。
     エリスはその時、亡き妻・キオーネーを思い出していた。彼女もゼウスに凌辱されかけたことが原因で、男性恐怖症になってしまった一人である。
     だからこそ、放っておけなかった。
     「分かった……私の恋人になってくれ」

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  • from: エリスさん

    2008年04月21日 23時36分16秒

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    観てきましたよ。

     「スシ王子!」観てきましたよ。
     ドラマ同様、字幕があったり、CGがあったりで、視力があまり良くない私は、見落としたシーンがあったかも。
     某サークルオーナーも言ってましたが、もう一回観た方がいいでしょうね。

     それとはまた別の理由がありまして(某サークルでは報告済み)、今週中に「スシ王子!」をあと2回観ようと思ってます。
     三回観ると、良いことが……。
     その為、今週の小説アップは、お休みするかもしれません。


     はい?
     堂本光一たった一人のために、「神話読書会」と「恋愛小説発表会」の約700人の読者を見捨てるのか? ……って、おっしゃりたいのですか?

     もちろん、どっちも大切ですよ。
     でもすみません。今週だけは光ちゃんを選ばせてください。
     できるだけ携帯からアップできるようにもしますが、そうなると入力速度が落ちますから、2サークルのうち、どちらか一つだけになると思います。あしからず。m(_ _)m

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  • from: エリスさん

    2008年04月19日 21時01分13秒

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    女神のモデルが!?

     「エリス女神のモデルって、男だったんですか!?」

     このサークル立ち上げ当初から、何度も言ってたんですけど……最近読者になった皆さんは、まだご存じなかったんですね。
     あくまで見た目のモデルです。
     エリスの設定が「良く男神と間違われる」「性格と言葉遣いが男っぼい」「瞳と髪の色が黒くて、東洋人っぽい」というものなので、光一くんがまだ長髪の美少年だったころから(16歳ぐらいだったかな?)エリスのモデルに、勝手になってもらってます。

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  • from: エリスさん

    2008年04月19日 18時23分34秒

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    2サークル共通カキコ 今日から上映「銀幕版 スシ王子!」

     皆さんご存知、私が大ファンで、それゆえに「神話読書会」で活躍中の不和女神エリスのルックスモデルになっていただいた、堂本光一さまの主演映画です。
     まだ映画自体は見る暇がないので、売り切れてしまう前にパンフレットとエコバックだけ買ってきました。
     エコバックの正式な名前は「カンヌンキキダキなバッグ」
     この名前をそのまま売場で言ったら、
     「なんだ? それは!」
     と驚かれた。
     「とにかく、そこの見本で置いてあるバッグをちょうだい」
     「ああ、あいらぶしぜん、とか書いてあるヤツな」
     「それ、自然流と書いて〈じねんりゅう〉だから」
     念のため、同僚です。

     カンヌ ンキギダキ   ⇒   神様からいただいた分だけ

     必要以上の漁をしてはいけない、という、漁師の間で語り継がれる、ありがたいお言葉なんだそうです。初めて聞いた人には分かりづらいよね。

     なにはともあれ、大ヒットを祈願します。

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  • from: エリスさん

    2008年04月18日 13時13分06秒

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    「女神の涙〜ティートロース生誕秘話〜・8」
     「子供を産ませたいのなら、貴様の神力で木の股にでも産ませればいいのだ! あんな子供に手を出すなど、腐れ外道もいいとこだ!」
     エリスはそう言いながら、王妃の寝室へずかずかと入って行った。あとの二人はエイレイテュイアとヘーベーだった。
     「ふんッ。自分はまともに子も産めぬくせに、良く言ったものだ」
     「なんだと!」
     「知らぬとでも思ったか。そなたが妊娠に失敗して、何度も流産していることは知っておる。だから同性愛などやめて、まともに男と子作りをすれば良いのだ」
     「そんなこと、少女を凌辱してもいい理由に、なるかァ!!」
     エリスは再び右手に紫の炎を漲らせ、矢の形にして投げつけた。
     だかぜゼウスは、それを簡単に止めた。
     「無駄なことはよせ。そちはわしには勝てぬ」
     「黙れッ! この変態色魔!!」
     「やめておくれ!」と、二人の言い合いを止めたのはヘーラーだった。
     「もう分りました……イオーのことは、私にお任せください。無事に、あなたの子を産ませてみせます」
     「母君!」
     ヘーラーの弱腰に思わず叫んだエリスだったが、それ以上言葉が出なかった。
     ヘーラーが泣いていたのが、わかったからだった。
     こんな男でも、自分にとっては愛する夫――そういう思いが、ヘーラーに涙を流させたのだろう。

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  • from: エリスさん

    2008年04月18日 12時55分40秒

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    「女神の涙〜ティートロース生誕秘話〜・7」
     ヘーラーはゼウスのお気に入りの愛人たちの家を回り、五軒目でゼウスの居所を割り当てた。そこは、とある小国の王宮だった。この国の王には三人の妻がいたが、それらに子供が授からないまま十年の月日が流れたため、王はゼウスに懇願したのである。ゼウス神王の子を賜いたい、と。その願いを聞き入れて、ゼウスはこの王の正妻である王妃のもとに通っていたのである。
     まだ王妃の寝室で朝寝をしていたゼウスを見つけたヘーラーは、すでに目覚めて床に平伏している王妃を部屋から追い出してから、寝台まで足音をたてて歩いた。
     それでもまだ起きないゼウスに対して、ヘーラーは往復五回のびんたをくらわした。
     これで起きない方がおかしい。
     目を覚ましたゼウスは、痛い頬を抑えながら、言った。
     「そ、そなた! こんなところまで何しに来た!」
     「あなたの昨夜の振る舞いに対して、抗議に参りました!」
     「昨夜の? ……なんだ、アテーナーめ。もうそなたに告げ口したのか。自分のところの侍女に、わしの手が付いたからと言って……」
     どうやらゼウスは、イオーをアテーナーのところの侍女と勘違いしているようだった。イオーがパルテノーン神殿から出てきたからだろう。ということは、以前からイオーを見染めていたわけではなく、完全な行きずりだったのだ。
     「あの子は――イオーは私の社殿の侍女です。昨日はたまたまアテーナーのところへ使いに出したまで」
     「そなたの? そうだったのか」
     「そうだったのか、ではございません! あなたは何をやったのか、分かっているのですか!」
     ヘーラーは今のイオーの状況を説明した。
     イオーが懐妊していることに、ゼウスは喜んだのだが、その他の、正気を失っていることと、死のうとしたことに関しては、面白くないと思ったようだった。
     「このわしの愛を受けながら、気が狂うなど、なんという不遜だ。光栄に思うのが当たり前であろうが」
     「あなたと言う方は……相手は十一歳の少女ですよ。そんな風に思えるはずがないでしょう!」
     「しかし、子を宿したとは、でかした。それでこそ我が手を付けた甲斐もあるというもの。あとは無事に生まれるように、そなたに任せるとしよう」
     「では、やはりこのまま産ませよ、と」
     「当然だ。このゼウスの子供だぞ。わしの血を引く子供は、これから先、このヘレス(ギリシア)を覆い尽くすほど生まれてこなければならぬのだ。それが、この国の発展につながる」
     「子供なら、この私が産みますものを!! なぜ、あんな年端もいかぬ娘にまで!」
     「そなたはこれ以上産んではならぬからだ!」
     かつて、彼らの祖先である大地の女神は、たくさんの子を生み過ぎて、最後に産んだ子は見た目恐ろしい奇形児だった。
     ヘーラーはその女神の血を色濃く引いている。よって、たくさんの子を産むことは可能だが、それと同時に、奇形児を産む可能性も多大に残されていた。
     「現に、そなたが最後に産んだヘーパイストスは、そなたの子とは思えぬほどの不細工ぶり」
     「ヘースは容姿の欠点など補い余るほどの才能と、誠実な心を持っています! 神王ともあろう御方が、見た目で人を判断なさるのですか!」
     「容姿の端麗さも、統率力に通じるのだ。実際ヘーパイストスは、人の上に立つ器ではあるまい」
     「今までその必要がなかったから、分からないまでのこと。あの子とて、いざその時がくれば、人の上に立つ能力を発揮するかもしれないのに!」
     「ともかくだ!」と、ゼウスはヘーラーの言葉を払いのけた。
     「その娘には、ちゃんとわしの子を産ませよ。産まれたあとなら、いつものように、そなたの好きなように制裁を加えて構わぬから」
     するとその時、ゼウスに向かって紫の炎の矢が飛んできた。
     咄嗟に、ゼウスは眼前でその矢を掴んで止めた。
     「誰だ!」
     ゼウスが怒鳴った方向――扉の向こうに、三人の女神が立っていた。
     「黙って聞いていれば、貴様という外道はァ!!」
     紫の炎の矢を放ったのは、エリスだった。

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    2008年04月18日 11時26分34秒

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    「女神の涙〜ティートロース生誕秘話〜・6」
     「堕胎を……」
     と、エリスはつぶやき、そしてはっきりと言った。「今ならまだ、薬でも堕胎できるはずだ。まだ人型にはなっていない、受精卵の段階だ、そうだろ!」
     その言葉に、エイレイテュイアが反論した。
     「人型になっていないから、命ではないと言いたいの?」
     「違う! まだ十一歳の少女に出産などさせられないからだ! ましてや、イオーは自分が望んで懐妊したわけじゃない!」
     「理屈はそうね。でも、どんな形であれ、命は宿された。産褥分娩の女神である私は、その命を粗末にすることなど、許されないのよ」
     「状況によりけりだろう! このままイオーが正気を取り戻しても、胎内に憎むべき男の子供を宿していたら、またいつイオーの気が狂うかしれない。そのことでイオーが自殺でもしたら? まだ自我も持っていない命のために、十一年生きてきた清廉な少女の命が失われようとしているんだ!」
     「それでも! 私がイオーの胎内にいる子供を、殺すことなどできないのよ!」
     そう言い放ったエイレイテュイアの表情も、辛そうに見えた。それを察したエリスは、言葉を和らげた。
     「エイリー、そなたの気持ちも分らないわけじゃない。でも今なら、なかったことにできるんだ。イオーが正気を失っているうちに胎児を始末し、カナトスの泉で処女に戻し、正気を取り戻させてやれば……イオーは、悪夢を忘れて生きていけるんだ。だから、辛いだろうけど、ここは女神としての役目を忘れて……」
     そこでヘーベーが口を挟んだ。「違うのよ、エリスお姉様」
     「違うって?」
     「エイレイテュイアお姉様だって、本当はエリスお姉様の考えに賛成なのよ。でも、出来ないのよ。その胎児が、お父様の――神王ゼウスの子供だから」
     「……どうゆうことだ?」
     「お母様が今まで、お父様の愛人になった女たちに、さまざまな方法で報復を与えてきたことは、ご存知ですわね。それは、すでに妻のある男性に身を許した軽薄さを、その貞操観念の無さを思い知らせるため。でも、決してその子供の命までは奪わなかった。それは、神王ゼウスの子供を殺してはならないから――ゼウスの血を引く者は、それだけで生きる権利を与えられているのです」
     「そんな……」
     エリスは、ヘーラーに視線を向けた。
     ヘーラーは険しい表情でたたずんでいたが、やがて口を開いた。
     「ゼウスに、会わねばなりません。行方が分からないと言っていましたが、あの人の愛人の家を一軒ずつ回れば、きっとどこかに居るはずです」
     ヘーラーはそう言うと、部屋から出て行った。

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  • from: エリスさん

    2008年04月11日 14時34分44秒

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    「女神の涙〜ティートロース生誕秘話〜・5」
     イオーは階段を駆け上り、屋上まで出てきた。
     ヘーラーたちが追いついた時には、もう屋上の淵に足を掛けていたのである。
     「イオー! お止め!」
     ヘーラーが駆け寄ろうとすると、
     「来ないで!」と、イオーは絶叫した。
     その言葉が、誰の足も止めてしまった――ヘーラーでさえも。
     イオーは、涙をためた瞳をヘーラーに向けながら、言った。
     「……お許しを……」
     そのまま、後ろ向きに倒れていく。
     二階とは言え、石畳の上に落ちれば助からない!
     だれもがそう思った時だった。イオーが落ちたところから、黒い影が飛び上がってきた。
     それは、黒い馬だった。見れば、ヘーラーの養女・エリスが乗っていた。その腕に、しっかりとイオーを抱いて。
     エリスとイオーを乗せた馬は、社殿の周りを一回りすると、中庭へ降り立った。
     それを確認したヘーラーたちも、急いで中庭へと降りて行った。
     ヘーラーが着いた時には、エリスが馬から降りて、イオーを抱えたまま草の上に座っていた――イオーと額を合わせながら。だが、イオーは先ほどのようには抵抗していなかった。夜の女神の実子であるエリスには、相手を眠らせながら記憶を見ることもできるのである。
     「おお、エリス! よくぞやってくれました!」
     ヘーラーはそう言って、すぐにもイオーを受け取ろうとした。だが、エリスはそんな養母に対して、身を後ろに引くことで制した。
     「なにを……」
     「果たして、このまま母君にイオーを渡して良いものやら」
     「どうゆう意味です」
     「この子が憎くはないのですか?」
     その言葉に、一瞬、胸が痛んだ。
     そう、イオーを離してしまったあの時、ヘーラーはそう感じてしまったのだ。それをイオーも察したのかもしれない。
     「この子は、あなたの夫を寝取った女。そんな女には、あなた様は今まで、倫理の名のもとに報復を与えてきた。この子にもそうするつもりですか?」
     「やめておくれ!」と、ヘーラーは叫んだ。「イオーは被害者です!」
     他の、ゼウスの愛人になった女たちと、この子は違う。イオーは自分の意志とはまったく関係なく、力で奪われたのだ。まだ幼い娘に、男を誘惑する術もない。この子に非などあるはずもないのは、分かっていたのに……。
     エリスは、ヘーラーの涙を見て、微笑んだ。
     「その言葉を聞いて、安心しました。非礼をお許しください、母君」
     そう言って、エリスはイオーをヘーラーに託した。


     イオーの診察は、先ほどまで大量の神力を使ってしまったヘーラーに代わって、エイレイテュイアがすることになった。
     その間、ヘーベーはゼウスをとっちめてやろうと、風の神や虹の神に頼んで、父親の行方を探してもらっていた――オリュンポス社殿にいないことだけは分かっていたが。
     「お父様ったら! 百叩きじゃ済みませんわ!!」
     「私だったら肝心のものを切り取ってやるな」
     と、エリスは好物のブドウのジュースを朝食代わりに口をつけてから言った。「とりあえず、イオーの恐怖の記憶は消してやるしかありませんね」
     「消し去れるかどうか……キオーネーの時は上手くいったが、あの時は〈未遂〉だったから上手くいったのであって、今度の場合は……」
     ヘーラーが自信なさげに言うので、エリスは、
     「母君がそんな気弱なことでどうします。もし母君が駄目でも、私の実家に頼めば、誰かが力を貸してくれますから」
     「ニュクス殿に……そうだな。いざとなったらそうしよう」
     「あとは、カナトスの泉で純潔に戻してやりましょう。心の傷は残るかもしれませんが、せめて体の傷だけでも取り除いてやらねば」
     「もちろんです。まだ十一歳の少女なのですから」
     エイレイテュイアが戻ってきたのは、そんなときだった。
     「……そう上手くいかないかもしれません」
     「どうゆうことです、エイレイテュイア」
     ヘーラーの問いに、エイレイテュイアは悲しい表情を浮かべた。
     「イオーは、身籠っています」


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  • from: エリスさん

    2008年04月11日 13時47分17秒

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    「女神の涙〜ティートロース生誕秘話〜・4」
     立て続けに瞬間移動をしたヘーラーは、アルゴスに戻ってきたとき、息も絶え絶えだった。それを見た娘のエイレイテュイアは、すぐにも神力を取り戻させるために、神酒(ネクタル)を盃に入れて差し出した。
     「無茶をなさらないでください、お母様!」
     「無茶でも……やらねばならぬ」
     ヘーラーはそう言って神酒を飲むと、イオーをソファーまで抱きかかえて行き、座らせた。
     「イオー、そなたの記憶を見せておくれ」
     ヘーラーはそう言って、イオーと額を合わせた。そうやってイオーの記憶の糸をたぐっていくと、どうしてもイオー自身も過去を思い出してしまう。
     純潔を奪われたその瞬間を思い出した時、イオーは激しい悲鳴をあげた。
     「イオー! 誰なのだ、そなたをそのような目に合せた男は!」
     イオーは襲われている間、恐怖でずっと目を閉じていた。だからヘーラーが今感じ取れることは、イオーの恐怖心と、身体の痛みとおぞましさなどで、映像はまったく伝わってこない。
     『襲われる直前、この子はその男の顔を見ているはずだ。そこまで記憶を辿れば……』
     イオーが嫌がって暴れるのを、ヘーラーは必死に抱きしめることで抑えていた。
     そして、目の前に映像が飛び込んできた。
     激しく揺れるその映像に、一人の男が映っている。
     その揺れが、一瞬だけ止まった――イオーがその男に捕えられた瞬間だったのだろう。
     その顔を見て、思わずヘーラーはイオーから離れた。
     「なんてこと……」
     それは、ヘーラーの夫・ゼウス神王だった。
     イオーを手込めにしたのはゼウスだった――言い換えれば、それは……。
     ヘーラーのためらいを感じ取ったのか、イオーはその場から走り去った。
     すぐに我に帰ったヘーラーは、侍女たちに言った。
     「イオーを止めなさい!」

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