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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2008年07月31日 14時51分01秒

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    「泉が銀色に輝く・19」
     と、側近二人が談笑している間、アポローンはエロースを追いかけ回して、からかっていた。
     「この間はよくもやってくれたな、エロース」と、アポローンは言った。「わたしの胸にその右手に持つ桃色の矢を射して、美しい乙女に恋をするように仕向けたであろう」
     「やったよ。それがどうかしたの?」
     「どうかしたのではないぞ、このチビめ。それなのに相手の乙女の方には、わたしを嫌悪して止まない漆黒の矢を射したのであろう。あの乙女はわたしのことを見て、悲鳴をあげながら逃げ続けていたぞ」
     「それは誤解だよ、アポローンさん。僕はそこまでやっていないもの。あのお姉ちゃんにはなんの細工もしないで、アポローンさんの魅力にまかせてみたんだ」
     「ではどうしてあの乙女は、まるで死にそうになりながら逃げ回り、最後には海に身投げまでしてしまったのだ?」
     「アポローンさん、人間に化けていたんでしょう? きっと、彼女の大嫌いなタイプの男に化けてしまったんだね」
     「生意気を言うやつだ、小童(こわっぱ)め! おかげで罪もない乙女が一人死んでしまったじゃないか」
     「死んでないよ」
     「何?」
     「あのお姉ちゃんはあの後、僕とポセイドーン様とで助けてあげたから」
     「貴様、ずっと私たちのことを見ていたのだな。なんて奴だ!」
     「あなたが言ったんだよ。刺激的な恋がしてみたいって。だから叶えてあげたのさ。ね? アポローン叔父様」
     エロースはそう言って、振り向きざまにウィンクをした。
     「このませガキめ! 捕まえた!」
     アポローンがエロースの脇腹を両方から掴むと、キャハハハッ、とエロースはくすぐったがった。
     「でも、楽しかったでしょ? 女の子との追いかけっこ」
     「フフッ、まあな。しかし熱が冷めてみると、あの子には悪いことをしたぞ」
     「そっちのケアは大丈夫。ちゃんとあのお姉ちゃんには素敵な彼氏を見つけてあげたから」
     「至れり尽くせりだな、子供のくせに」
     「それが僕の仕事だもん。でも知ってると思うけど、僕の矢の効き目は七日が限度だよ。その先も恋を続けられるかどうかは、その人たちの努力だからね」
     「まったくその通りだ。けれど、その恋の切っ掛けを掴むのが大変に難しいものなのだ。なあ、エロース。おまえに一つ頼みがあるのだが」
     「なァに?」
     「その切っ掛けが欲しい相手がいるのだ。是非とも、おまえのその矢を一本、ある女神に射してもらいたい」
     「誰? それ」
     「……いや……名前は言えない」
     「ダメだよ、それじゃ。相手が分からなければ射せないよ」
     「矢さえ貰えれば、あとはわたしがやる。どうだろう?」
     「……悪いことに使われると、困るんだけどなァ。お祖母様(ヘーラー)にも、使い方を間違えるなって、いつも言われてるし」
     「そこをなんとか!」
     エロースは困ってしまった。いつも遊んでくれるアポローンの頼みだから聞いてあげたいが、相手の名前を言えないと言うのは、どう考えても正しい使い方ではないと言うことだ。けれど、アポローンの表情は真剣だった。よっぽど思いつめている相手なのだろう。
     「じゃあ、僕と勝負しようか」
     「勝負?」
     「僕と追いかけっこをして、勝ったら、一本矢をあげるよ」
     「よォーし。話が分るな、エロース」
     「ただし、追いかけてくるのはアポローンさんじゃないよ」
     「なに?」
     「あそこにいる、アポローンさんの側近はどう?」
     エロースはラリウスとケレーンを指差した。

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  • from: エリスさん

    2008年07月31日 14時15分45秒

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    「泉が銀色に輝く・18」



     一方アポローンの方は、いつまでも冷たいアルテミスに対して憤慨しながら、アルテミスの社殿を出ようとしていた。
     社殿の前には、アポローンの側近であるラリウスとケレーンが待っていた。
     二人とも、おろおろしている所を見ると、アポローンの怒鳴り声やアルテミスの声が聞こえていたのだろう。そこへ主人が険しい顔で出てきたものだから、余計に心配そうな顔をしてしまう。
     アポローンはそんな二人に微笑んで、安心させてあげた。
     「大丈夫だ、ちょっとした姉弟喧嘩だから。すぐに機嫌を直してもらえるだろう」
     「そうでしたか」と、側近頭(そっきんがしら)のラリウスは安堵した。「では、帰りましょう、君様(きみさま)」
     「そうだな……ん? あれは……」
     アポローンはその時、上空を飛ぶ少年を見つけた。
     白い翼を羽ばたかせた、少しくすんだ金髪の少年。手には小さな弓矢を持っていた。
     「間違いない。オーイ! エロース!」
     そう呼ばれた少年は、空に浮いたまま立ち止まった。
     「あっ、アポローンさんだ」
     「オオーイ! 降りて来いよォ! おまえには言ってやりたいことがあるんだ!」
     すると少年は、叔父にあたるこの男神に、アカンベーと舌を出した。
     「この野郎、よくもやったな」
     と、アポローンは笑うと、自分も空へ飛び上がった。……なんてことはない、アポローンはこの少年を相手にふざけたいだけなのだ。
     側近二人は、またしても待ちぼうけである。
     「まあ、楽しそうだからいいんだけど」
     とラリウスが言うと、ケレーンは言った。
     「あの御方は、アプロディーテー様の御子だったよな?」
     「は!? ……ああ、そうか。人間界ではそういう風に詩人たちが歌っているんだったな」
     「違うのかい?」
     「違うよ。君はこっちの世界に来たのは最近だから知らないんだろうけど、エロース様はエイレイテュイア様の一人息子なんだ」
     「エイレイテュイア様って、ヘーラー王后のご長女の? あの女神は独身じゃなかったかい?」
     「君は本当に知らないんだなァ。ガイア女神を祖とする女神たちの中には、単身出産神と言って、男の力を借りなくても一人で子を宿して産める能力を持つ方がいるんだよ。ヘーラー王后だって、お一人でヘーパイストス様を産んでいるし。その姫御子のエイレイテュイア様がお一人で子を産んでもおかしくはないさ」
     「へェ〜」
     「最近じゃ、王后の養女であるエリス様までがお一人で、たくさんの子を産んでいらっしゃる。そのうち人間の女までもが、一人で子を作る時代になるかもしれないぞ」
     「そうなったら、男は立場がないね」
     「まったくだ」

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  • from: エリスさん

    2008年07月25日 15時07分22秒

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    短時間しか時間が取れない

     もどかしい!
     もう帰る時間になりました。

     なんか、同僚たちの間では、早く仕事を切り上げて遊びに行ってる! みたいな見方をされているようですが、

     私にとってネット小説は将来の夢への険しい道の一歩なの!

     仕事も大事だけど、私にとってはネット小説の更新の方が重いんです。
     理解しろって方が難しいのかもしれないけど。

     来週もあまりお休みがもらえないので、また短時間で更新することになります。少しずつになってしまいますが、読者の皆様(今日は今のところ630人の方がアクセスしてくださっています)ご容赦くださいませ。
     それでは御機嫌よう<m(_ _)m>

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  • from: エリスさん

    2008年07月25日 14時54分06秒

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    「泉が銀色に輝く・17」
     アルテミスが反省しているようなので、アテーナーは軽いため息を付いてから、言った。
     「押し付けるどころか、ヘーラー様は、私の心にある方への想いが詰まっていることを知って、エイレイテュイアを斎王にしようとなさったのよ」
     「え!?」
     意外な言葉に、アルテミスは驚いてしまった。
     「お姉様、好きな方がいらしたの?」
     「ええ」
     「いったい、どなたなのです?」
     「それは内緒」
     「まあ……全然気付きませんでした」
     「それはそうでしょう。恋をしたのも、諦めたのも、すべてあなたが子供のころのことなのだから。……けれど、宇宙の意志が私の方を望まれて、結局、斎王は私が務めることになったのです。つまり、私はそうなるために生まれてきたの。だから、アルテミス、あなたまで私を真似ることはないのよ」
     つまり、アテーナーはアルテミスに人並みの幸せを知ってもらいたくて、今まで隠してきたことを話したのだ。その気持ちはとてもありがたい、とアルテミスは思ったが……。
     「いいえ、お姉様。だからと言って、今さらアポローンと結婚する気にはなれません」
     「別にアポローンでなくてもいいのよ。他の殿方でも、あなたが気に入った人がいたら……ホラ、以前あなたには、清い交際を続けていたオーリーオーンという恋人がいたじゃないの」
     「ええ……死んでしまいましたけど」
     アルテミスは星座になった恋人の最期を思い出したのか、暗い表情になってしまった。それに気付いたアテーナーはハッとして、
     「ごめんなさい……」
     「……いいえ、お姉様」と、アルテミスは吐息をついた。「やはり女神たる者、一度誓ったものは、やぶるわけにはいきませんわ」
     「そう?……答えは急いで出さなくてもいいのよ、アルテミス。その気になったら、考えてみなさい」
     「ええ、お姉様」
     ――敬愛する姉にそう言ったものの、やはりどう考えても、そんな気にはなれない。
     純潔を失うのが恐ろしいとか、そんなことではないのだ。
     一夫多妻、もしくは一妻多夫の世の中で、アルテミスは胸中穏やかでいる自信がないのだ。母・レートーもゼウスの愛人として、正妻のヘーラーや他の愛人たちへの嫉妬に苦しんでいた。弟のアポーローンも、自分の愛人に他の男が言い寄ってきたと知るや否や、二人まとめて惨たらしい死を与えている。そもそもオーリーオーンが死んだのも、アルテミスの恋人であることを嫉妬したアポローンが、アルテミスもろとも罠にはめて、アルテミスの手でオーリーオーンを殺さなければならないように仕組んだのである。
     自分も結婚すれば、その情念にかられて、夫となった人に何をしてしまうか分らない。
     それが、怖い。
     『オーリーオーン……彼と付き合っていた時は、彼がその恐怖を拭い去ってくれていた。結婚という形にこだわらず、ただ傍に居たいから居る、という安らげる交際の仕方を教えてくれた人だったのに……私は……この手で!』
     ……そう仕向けたアポローンを、どうして愛せるだろうか。結婚など以ての外。弟でなければ、それこそ射殺(いごろ)してやりたいほどに憎んだであろう相手なのに、それなのに、それなのに!!
     ――その晩の月は、とても物悲しく照っていたという。


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  • from: エリスさん

    2008年07月25日 14時15分14秒

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    「泉が銀色に輝く・16」
     アテーナーは尚も続けた。
     「私が純潔を守っているのは、自分自身のためではなく、オリュンポスのためです」
     「オリュンポスのため?」
     「そう……あなたも聞いたことがあるでしょう? 斎王(さいおう)と呼ばれる女神のことを」
     この世には、神々よりも高次なる、至高の魂が存在する。神々はそれを「宇宙の意志」と呼んで崇め、一族から一人ずつ巫女を差し出していた――その巫女のことを「斎王」と言う。
     「まさか、お姉様がその斎王だと?」
     「宇宙の意志の存在は、神々の中でも一部の者しか知らない、トップシークレット。だから斎王が誰か、ということもあまり語られてはこなかった」
     「……その秘密を、今、私に話して下さいますの?」
     アルテミスが言うと、アテーナーは微笑んで、言葉を続けた。
     「私が生まれるまでは、ヘスティアー伯母様(ゼウスの姉)が務めていらしたのよ」
     「ヘスティアー伯母様が……それであの方も、生涯純潔を誓われているのですね」
     「そう。一度俗世から離れた生活をしてしまうと、役目を辞したからと言って、もう結婚をしようという気にはならないとおっしゃっていたわ。――斎王は、王の姫御子の中でも長女か、身分高き母から生まれた者と決まっているわ。私が生まれるまでは、その条件に合った者はエイレイテュイアだけでした。だからお父様もヘーラー様も、いずれエイレイテュイアを斎王にするために養育していらしたのだけど、突然、私が生まれたものだから、お二人はとても迷われたのよ」
     「そんな。エイレイテュイア殿の方がお姉様より先に生まれているのだから、彼女が長女であり正妻の姫なのですよ。彼女が斎王になるべきだったのでは?」
     「生まれたのは先でも、母体に宿ったのは私の方が先なのよ。お母様がお父様と融合などなさらなければ、私は間違いなく長女として生まれてきた……だからこそ、お父様もヘーラー様も、私を“長子”として扱ってくださっているのよ」
     「それで、お姉様が斎王に?……もしや、王后陛下は自分の娘を一生独身の境遇にしたくなくて、お姉様に押し付けられたのではありませんの!?」
     「アルテミス!!」
     アテーナーが本気で怒ったので、アルテミスはビクッと体を震わせた。
     「あなたがヘーラー様を憎む気持ちは、分からなくはありません。けれど、私の前ではあの方を侮辱することは、今後一切許しません。いいですね!」
     「は、はい。お姉様」

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  • from: エリスさん

    2008年07月22日 18時36分12秒

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    「2サークル共通カキコ・世間は三連休、私は三連勤」
     昨日までの三日間は、私も同僚たちも過酷な日々でした。
     いつもは温厚な人までピリピリしちゃって(^o^;
     私などは、運んでいたラックを何もないところで倒してしまい、
     「エエ〜! エリスさんのそんなドジ、初めて見た!」
     と笑われ(^o^;
     「エリスさん、疲れてるでしょ?」
     と、労られてしまった。
     正直な話、三日間の朝3時起きは辛かったです。併せて、多くのお客様を接客し、トラブルに対応し――家に帰れば、暑さで機嫌の悪くなった猫ちゃんをなだめ orz
     おかげで昨日は、疲労のせいなのか、家事をやりながら眠くなってしまい、洗濯物を畳んでいる途中でギブアップした。

     「お兄ちゃん、手伝って……」
     「僕の分は畳まなくていいから、先に姫ちゃん達の小屋掃除しな。手伝ってやるから」

     兄に手伝ってもらいながら、なんとか猫の世話を終わらせたものの、食器洗いと夜の勤行(読経と唱題をすること)をさぼって寝てしまった。
     そんな感じなので、いつもならフィットネスに行っている今日は、それもお休みして、家で天ぷらの大量作り置きをしてました。
     そのうち忙しさに体が慣れてくる、とは思うんだけど……(^o^;
     それでも小説サークルの更新だけはお休みしないように、がんばりますね。

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  • from: エリスさん

    2008年07月18日 15時24分28秒

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    2サークル共通カキコ・夏休み効果かな?

     去年の夏もそうだったのですが、最近のアクセス数は凄すぎる(◎o◎)
     更新していない日なのに、1000アクセスもあるんです。
     まだ夏休みにはちょっと早いのに、平日の昼間から、そんなにネットをやっている人がいるもんなんだろうか? と兄に相談したところ、納得のいく答えを出してくれた。

     「夏休みに、自分もネット小説を書きたいと思っている学生さんたちが、休み時間とかを使って、サークルプレイヤー内で小説を連載しているサークルを参考にしようと覗いているんじゃないか?」

     なァるほど、さすがはお兄ちゃん!
     私の小説サークル「神話読書会〜女神さまがみてる〜」と「恋愛小説発表会・改訂版」は、学生さんたちの参考資料なのか。
     どうぞどうぞ、こんなオババが運営しているサークルでよろしかったら、いくらでも参考になさってください。
     今年の夏休みも、たくさんの文芸サークルが立ち上がるのかな。

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  • from: エリスさん

    2008年07月18日 14時47分12秒

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    「泉が銀色に輝く・15」
     「言わないで!!」
     アルテミスは耳を塞ぎながら、叫んだ。
     「私は純潔の女神なのよ。あなたと結婚できるわけがないじゃないの!」
     「姉上は!!」
     アポローンは手に持っていた杯を、床に叩きつけた。「いつもそうやってお逃げになる。しかし、姉上が純潔を守ったところで、いったい何の意味があると言うのですか。姉上! 父上だってきっと、わたし達二人の結婚ならは認めてくれるはずです!!」
     すると、別の女神の声が遠くから聞こえてきた。
     「見苦しいですよ、アポローン」
     それは、ゼウスの頭部から生まれてきたと言われる、アテーナー女神だった。――ヘーラーや、あの美の女神アプロディーテーと並んで美しさを称賛され、若く見えながらも威厳に満ちたその神は、微かに甲冑の音をさせながら現れた。
     「アテーナーの姉上、なぜここに」
     アポローンが言うと、
     「アルテミスに会いにきたに決まっているでしょう? それよりアポローン、大きな声が外まで聞こえて、あなたの二人の従者がおろおろしていましたよ。それと、ご自分の姉君に向かって、あまり無礼なことはしないことね。今日はこのままお帰りなさい」
     「あ、しかし……」
     「私の言うことが、聞けないのですか?」
     アテーナーに見据えられてしまうと、何も言えない。この神は、ゼウスの長子として、男御子・姫御子すべての長なのである。
     アポローンは渋々ではあったが、かえって行った。
     「アポローンにも困ったものね」
     「……アテーナーお姉様、あの……」
     いったい、いつからここへ来ていたのだろう。どこから二人の会話を聞いていたのだろうか? アルテミスは気になって仕方なかった。
     すると、アテーナーは言った。
     「でも、彼の言うことも一理あるわね」
     「え?」
     アテーナーは甲冑をはずしてキトンだけとなり、今までアポローンが腰かけていた窓辺に座った。
     「私も思っていました。あなたまで純潔を守ることはないと」
     アテーナーは実に変わった出生をしていた。
     ゼウスはヘーラーと結婚する前に、メーティスという年上の女神と結婚していた。彼女が懐妊したとわかった時、すでに呪い神となっていたウーラノスがこう予言した。
     「知恵の女神メーティスから生まれる御子は聡明かつ気丈剛毅な子で、もし男児であったならば父親を凌ぐであろう。王位を永遠に我が物にしたいと欲するならば、母体ごと消滅させるしか手立てなし」
     この予言を聞き、ゼウスは大いに悩んだ。愛する妻と子を同時に殺さなければ、自分が父クロノスを殺して王位を簒奪したように、今度は自分が滅ぼされる。
     ゼウスの苦悩を察したメーティスは、そんな彼のために、自ら決着をつけてしまった。すなわち、彼の体と自分が融合することで、死ではなく、ゼウスと永遠に生き続けることを選んだのだ。
     しかし、不思議なことが起こった。メーティスの胎内にいた胎児は、融合しきれずにゼウスの体中を八年間も彷徨い続けたのだ。そしてゼウスの頭部に到った。
     ゼウスがひどい頭痛に悩まされているところを、ヘーラーが単身で産んだと言われている男神ヘーパイストスが通りかかり、「その頭痛をなんとかしてあげますから、僕をあなたの子として認めてくれますか?」と持ちかけてきた。それまでゼウスは、ヘーラーが産んだ子とは言え、自分の子ではないからと他の子供たちとは差をつけた育て方をしてきたのだが、この痛みがなんとかなるのならと、その条件を承諾した。そして、ヘーラーも立ち会いのもとでヘーパイストスがゼウスの頭を斧で割ったところ、光に包まれた親指姫のような小さな子供が飛び出してきた。それはヘーパイストスを見ながらどんどん大きくなり、六歳ぐらいの女の子になった――それが、アテーナーである。
     その時、アテーナーは裸だったので、ちょうどヘーパイストスが兄アレースの為にと作ってきた甲冑を着せてあげた。――これが、のちに「アテーナー女神はゼウス神の頭部から生まれてきた時、既に武装していた」と言われるようになった経緯である。
     アテーナーは母神から引き継いだ智恵と、武術と芸術を司り、アテーナイ(現在のアテネ)のアクロポリスにある“処女神宮”で知られるように永遠の処女を誓っていた。
     「私はお姉様を敬愛しております。お姉様が正しいと思うこと、お姉様がなさること、すべてを私は師事したいのです。ですから……」
     アルテミスがそう言うと、アテーナーは優しく首を振った。
     「それがいけないと言っているのよ、アルテミス」
     「お姉様……」

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  • from: エリスさん

    2008年07月18日 13時57分49秒

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    「泉が銀色に輝く・14」




     ある日、エペソス社殿のアルテミスのところに、弟のアポローン男神が訪ねてきた。
     アポローンはアルテミスの次の日に、デーロス島で生まれた。オリュンポス一の美男と謳われ、黄金弓をトレードマークに、太陽・医術・音楽を司り、詩歌と数学と予言の守り神でもあった。
     よく鍛えられた身体をしているが、それほど筋肉で太ってもおらず、背も高い。そして姉と同じく金髪が美しかった。
     そんな男神が、艶めかしさを醸しつつ窓辺に腰掛け、姉が神酒(ネクタル)を持って来てくれるのを待っている姿は、女性でなくてもため息をつかずにはいられない光景だった。
     「この頃、夜になっても本邸の方へ帰らないそうね」
     姉らしくアルテミスが忠告をすると、
     「それがどうかしましたか? 姉上」
     と、なんでもない風にアポローンは答えた。
     「またいつもの病気が現れたのかと言っているのです」
     「女遊びは病気のうちに入りません。男の甲斐性とでも言いましょうか。自然の摂理ですよ」
     弟の女好きは父・ゼウスの浮気癖が遺伝したのかしら、とアルテミスはため息をついて、尚も言った。
     「いったいあなたは、何人恋人を持てば満足できるの?」
     「芸術家は、とかく愛人を持ちたがるものです。あまりお気になさらず」
     「アポローン! あなたは自分の立場が分かっているのッ。側室腹から生まれながら、あなたは正室の御子であるアレース殿を差し置いて、ゼウス神王の男御子の長(おさ)と呼ばれているのよ。それなのに、正式な妻も娶らずに、女性はみな娯楽の対象にしか考えられないなんて。それでは人間どもに示しが付かないではないの」
     するとアポローンは真顔に戻って、言った。
     「女性はみな、というのは心外ですね、姉上。わたしとて、真剣になって、一人の女性を愛しているのですよ」
     「では、その人を妻に迎えたらいいじゃない」
     「迎えられないから……その人が受け入れてくれないから、他のつまらぬ女に奔(はし)るのが、お分かりになりませんか」
     「……分かりたくないわ」
     「姉上ッ」
     アポローンが怒ったことを感じたアルテミスは「それで!」と、相手の言葉を制した。
     「今日はなんの用で来たの?」
     言いたい気持ちを抑えられて苦々しい顔をしたアポローンだったが、溜め息ついて気持ちを落ち着かせると、言った。
     「姉上がおっしゃった通り、そろそろ身を固めるのも悪くないと、わたしも最近は思うようになりまして」
     「まあ、それならそうと早く言ったらどうなの? それで、お相手はどなた?」
     「いいえ、まだ。それで姉上に相談に来たのです。姉上付きの精霊(ニンフ)を、一人譲っていただけませんか」
     それを聞いて、アルテミスは呆れてしまった。
     「女神ではなく精霊をお望みだなんて、身分相応ではないわね」
     「姉上のお手慣らしになった者が欲しいのですよ。香りぐらい移っているかもしれませんからね」
     「いやな言い方。私にはエリス殿のような趣味はないわ」
     「それはそうでしょう。あったら困る」
     「それで? あなたのお眼鏡に適った者はいるの?」
     「いいえ、特に……誰でも構いません」
     「だからあなたは好き者だと言われるのですよ」
     すると、アポローンは表情を強張らせて、言った。
     「姉上以外の女など、みな同じだ」
     一瞬、二人の間に稲妻が走ったような気がした。
     「わたしの気持ちは知っているはずでしょう、姉上。わたしは、二度も姉上を……」

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  • from: エリスさん

    2008年07月11日 16時57分24秒

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    「泉が銀色に輝く・13」
     でもこの人は、庶子とは言っても、正妻ではなかっただけで母親の身分もそれほど悪くはないのではないだろうか――と、シニアポネーは思った。この美しさと高雅さは、平民の気質ではない。そうなると、正妃から生まれた王子たちに疎まれたりといったこともあったのだろうか。だからこそアポローンが哀れに思って召し抱えてくれたのかも……と、口には出さずに考えていたのに、ケレーンはその表情から読み取ったのか、シニアポネーに向かって首を振った。
     「いいえ。すべての人に疎まれていたわけではありません」
     考えを読まれてシニアポネーは恥ずかしいと思ったが、黙って彼の言葉に耳を傾けた。
     「正妃のヘカベー様はとても優しい人です。早くに母を亡くしたわたしに、それは良くしてくださいました。それから、長兄のヘクトール兄上も。他の兄弟たちの嫌がらせから、わたしを守ってくれたのは、いつも兄上でした。それから、カッサンドラー姉上。君様の社殿に幼いころから巫女として仕えていた姉上が、わたしに音楽を教えてくれたのです。わたしが君様のお目に止まったのも、姉上の縁なのですよ」
     「そう。私にも父親の違う姉がいるの。でも、とても仲良しなのよ。そうなのよね、片親が違っていても、やっぱり〈きょうだい〉って引かれ合うものがあるから……」
     「ええ。仲良くなれるものなんです。だからきっと、異母弟たちともそのうち、打ち解けられる時がくるかもしれません」
     この時にはまだ、トロイア王家に降りかかる災厄を、誰も予想することはできなかった。後に悲劇の予言者として名を残すカッサンドラー王女が、アポローン男神からその力を授かるのは、この翌年のことだからである。
     二人の交際は、それから始った。
     ケレーンの方からシニアポネーのいる森へ足を運んだり、シニアポネーからケレーンの家へ食事を持って行ってあげたりと、特に待ち合わせもせずに、会いたいときだけ会いに行く、といった感じで付き合っていた。その方が、今度はいつ会えるか、どこで会えるかという楽しみがあって、お互いを刺激するからである。お互い初めての異性の友人である。どうやって付き合えばいいのか、手探りながらも楽しんでいた。



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