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from: エリスさん
2009年10月30日 14時10分30秒
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「ヘーラクレースの冒険・27」
それから三カ月が過ぎた。
またしてもヘーラクレースの消息が途絶えてしまっていた。
エウリュステウスは前回同様、使者を使わしてエリュマントス山の近隣住民に聞き込みをしてみたが、今回はまったくヘーラクレースを見た者がなく、大猪もまだ生きているという。
「まさか、あのヘーラクレースが大猪に瞬殺されたとでも言うのか?」
心配になったエウリュステウスは、これもまた前回同様、神にすがることにした。
「我が敬愛申し上げる女神さまのゆかりの方々。どうか御教え願いたく。我が臣下・ヘーラクレースは今どうしているのでございましょう」
すると若々しい声の女神が応えてくれた。
「心配ないわ。彼は他の用事ができて、かなり遠くの方に行っているの」
「他の用事でございますか?」
「ある人を助けるためなの。あなたからの試練の最中だということは分かっているけど、事情を知れば、きっとあなたなら分かってくれると信じて、その人助けを優先しているのよ」
「左様でございましたか」
「彼なら心配いらなくてよ。気長に待っておあげなさい」
「ありがとうございます、女神様」
……そのあとの返事はなかった。
「しかしそうなると……」
こうたびたび行方が分からなくなるのは問題である。これからは何か連絡方法を持たなければ、そうそう神々に頼ってばかりもいられない。
「誰かおらぬか? 探してもらいたいものがある」
その日のうちに、ミュケーナイの市内に求人の張り紙が貼られたのであった。icon
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from: エリスさん
2009年10月30日 13時49分30秒
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「ヘーラクレースの冒険・26」
第6章 第4の試練 エリュマントスの猪を生け捕りにせよ
無事にケリュネイアの鹿をアルカディアまで返しに行ったヘーラクレースは、エウリュステウスから一日だけ休日をもらい、テウス王子のもとに遊びに来ていた甥のイオラーオスと一緒に狩りに出かけた。ミレーユ王妃のために滋養のある食べ物を取ってくるのが一番の理由だったが、職人たちが作ってくれた新しい弓矢の使い心地を確かめるためでもあった。
先ずヘーラクレースは、走ってくる猪に向かい、わざと急所を外して矢を放ってみた。すると、矢は猪の前足に刺さったというのに、即座に死んでしまった。
それを見てヘーラクレースは満足の笑みをこぼした。
「みごとな毒矢だ。普通ならば死に至らない怪我でも、このヒュドラーの猛毒を仕込んだ矢なら、いとも簡単にやっつけられる」
するとイオラーオスはニコッとしたまま言った。
「でも狩りには使わない方がいいよね? 伯父上」
「ん? なぜだ?」
「だって猛毒で死んだんでしょ? この猪。全身に毒が回っている獲物なんて、怖くて食べられませんよ」
まったくその通りである……しばし二人は沈黙した。
「まあ、なんだ……」と、ヘーラクレースは咳払いした。「この毒矢は怪物退治にのみ使うことにしよう」
「賛成です」
「さて! 王妃様のための獲物をとらなくてはな! イオラーオス、そなたの矢を貸せ!」
「うん、いいよ」
そんなこともあって、その晩の食卓には安心安全な鹿肉のステーキが上がったのであった。
次の日。エウリュステウスはいつものようにヘーラクレースを謁見の間に呼び寄せた。
「それでは4番目の試練を申し渡す。エリュマントスの山に住む大猪を生け捕りにしてまいれ」
「ははッ! ……エリュマントスの大猪というと、民家まで降りてきて田畑を荒らし、農民を突き殺しているという、あの猪でございますね」
「そうだ。きっと土地の人達は困っているはずだ。しかし何十人でかかっても倒せないほど強い獣だと聞いている」
「そうらしゅうございますね。わたしも風の噂では聞いておりましたが……」
「だから、そなたが行って助けてやりなさい。しかし簡単に殺してしまっては試練にはならないから、また生け捕りで頼むぞ」
「心得ました」
そこへ、扉の向こうで立ち聞きしていたらしいテウスとイオラーオスが走ってきた。
「生け捕りなら、食べられるよね!」
と、テウスが言うので、エウリュステウスは答えた。
「まあ、大きいとは言え猪だからな」
「じゃあね、ヘーラクレースが返ってきた日にバーベキューパーティーしよう! 使用人たちにも振る舞って。イオラーオスも呼ぶからね!」
「うん、楽しみにしてるよ」
「これこれ!」とエウリュステウスは言った。「勝手に決めるんじゃない……まあ、有意義なことになりそうだから賛成だが」
「これは……本当に弓矢は使えませんね」
こうしてヘーラクレースはエリュマントス山に向かうことになった。icon
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from: エリスさん
2009年10月30日 11時20分16秒
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見たい映画が目白押し(*^_^*)
今ごろ職場では、「マイケル・ジャクソン This Is It」のお客間様でごった返しているんだろうな。
そんなわけで、小説をアップする前に私の雑談にお付き合いください。――おはようございます、エリスこと淮莉須 部琉です。
普段は映画館で働いています。ありがちですが、映画自体も大好きです。おもに邦画ですけど。
秋に入ってから見たい映画がいっぱい待ち構えています。今一番見たいのは「のだめカンタービレ 最終楽章・前編」ですね。12月19日の公開日が待たれます。――なんかありきたりなことを言ってるように思われるかもしれませんが、これには理由があるんです。
仕事の時、映像チェックのために上映中のシアターに入るんですが、その時、「のだめ」の予告編が流れているんです。
これはうちの映画館の戦略なのか、それともどこの映画館でもこの順番なのか……先に赤西 仁主演の「バンテイジ」の予告が流れた後、「のだめ」の予告が流れているんです。そうすると相乗効果なのか…………………(この長い点線の間に、本当に言いたいことを封印しました)………………とにかく! 「のだめ」の予告が格好良く見えるんです。あの交響曲第八番の曲に乗せて指揮棒を振る千明真一役の玉木 宏さんがすっごく素敵に見えて!
あっ、誤解のないように言っておきますが、私は堂本光一のファンであって、玉木さんのファンというわけではありません。
でもファンじゃない人間が見ても「格好いい」と思わせてしまうあの予告編が、すごく魅力的に思えたんですね。それで今後見たい映画の筆頭に名前を挙げたわけです。
あと気になる作品は「曲がれ!スプーン」です。
これは初めに予告編を見たときに、
「あれ? あの話に似てる……」
と思いながら見ていたら、長澤まさみの役名が「桜井 米」と知って、
「やっぱり『冬のユリゲラー』じゃん!」
と、仕事中なのに驚きを隠せなかったという……もちろん心の中で叫んだんですよ。声には出してません、お客さんの迷惑になりますから。
ところでこの『冬のユリゲラー』とはなんぞや? ということを説明いたしますと。もともとは「ヨーロッパ企画」という劇団が上演していたお芝居で、それをフジテレビの夜中の番組「劇団演技者。」がドラマ化していたんです。二〇〇五年の八月のことです。この時の主人公は透視能力者の筧で、今井 翼が演じていました。ここでは「桜井 米」はキーパーソンではありますが、主人公ではなかったんです。でもこの役名だけはよく覚えていた。どうしてかと言うと、ストーリーの中に「桜井を透視した筧が、桜井の上着の内ポケットに蜘蛛が潜んでいるのを見つける」というエピソードがあったんです。そのエピソードのオチが、「名詞に書かれていた“米”の字(蜘蛛に形が似ている)」だったんですね。
映画では筧が脇に回り、桜井が主人公になるわけですね。そうなるとストーリーも私が知っているものとは大分変わるんだろうな……ということで、これも楽しみの一つ。
あとは「大洗にも星はふるなり」「レイトン教授と永遠の歌姫」「ウルルの森の物語」「よなよなペンギン」「カールじいさんの空飛ぶ家」「ゼロの焦点」「笑う警官」「なくもんか」「トワイライト・サーガ ニュームーン」ときて……。
兄貴の影響で仮面ライダーを見るようになってしまった自分としては、「仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010」も見ると思う、たぶん。
迷っているのは「宇宙戦艦ヤマト復活編」です。もう松本零士原作じゃないんだよね。でも主題歌がアルフィー……ちょっと惹かれる。
こんだけあると、たぶん仕事が休みの日に全部見るのは難しいだろうな、と思う。だから今のうちから優先順位をつけておかねば。
ご静聴ありがとうございました<m(__)m>-
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from: エリスさん
2009年10月23日 14時23分56秒
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「ヘーラクレースの冒険・25」
ヘーラクレースが連れてきた鹿は、本当に美しかった。中庭で謁見していたので、家来や使用人たちも集まって、口々に感嘆の声をあげながら眺めている。そんな様子が、ヘーラクレースだけでなくエウリュステウスをも誇らしくさせた。
「しかし……噂では金色の毛色だと聞いていたのだが、普通の薄茶色なのだな」
と、エウリュステウスが聞くと、ヘーラクレースは畏まりながら答えた。
「どうも光の加減でそう見えるようなのです。遠くから眺めるように見ると、ちゃんと金色に輝いて見えるのですよ」
すると、上の方から声がした。
「ヘーラクレースの申す通りですわ、あなた。私からはちゃんと金色に見えますもの」
見ると、二階のバルコニーに王妃のミレーユとテウス王子がいて、こちらを見下ろしていたのだった。
「これは王妃様。どうして今日はそちらに?」
「ごめんなさい、ヘーラクレース。実は私、お腹に赤ちゃんがいるものだから、危険がないように鹿に近づくことができないのよ」
「おお、ご懐妊でございましたか!」
確かにまだ緩やかではあるが、ミレーユのお腹が膨らんでいるのが分かる。
「でもおかげで私だけが得した気分よ。ここに居たおかげで、鹿が金色に輝いているのを見ることができたのですもの」
「王妃様に喜んでもらえて、なによりでございます」
「喜びついでに頼んでもいいかしら?」
「はい、わたしにできますことならば」
「では、その鹿を私にくださらない? アルカディアになど返さずに」
「はっ……それは……」
ミレーユの要望も無理はない。この鹿には、見た者を虜にする不思議な力があるのである。実際エウリュステウスも、この鹿を返したくない願望が浮かんでおり、そのことをヘーラクレースに言おうと思っていたところだった。
しかし、ヘーラクレースは深々と頭を下げて、こう言った。
「申し訳ございません、王妃様。それはできません」
「あら、どうして? 私に懐妊の祝いを下さらないの?」
「他の物ならばいくらでも手に入れて参りまする。ですが、この鹿だけはご容赦くださいませ。この鹿は、必ずお返しすると女神アルテミス様とお約束したのです」
「まあ、アルテミス様に? そのこと、詳しく聴かせてくださる?」
「はい、王妃様」
ヘーラクレースが語ったことはこうだった――アルカディア中を行ったり来たりした後、ついにはギリシアを飛び出して西の果てまで行き着き、またギリシア、アルカディアまで戻ってきた鹿を、ヘーラクレースは死に物狂いで追い続けた。そしてとうとう、アルテミシオンという山から流れてくるラドーン川に差し掛かった時、その川に入ろうか躊躇した鹿の、その一瞬の隙をついて、ヘーラクレースは鹿を捕まえることができたのだ。
そしてヘーラクレースが鹿の脚をもって、肩に担ごうとしていると、アルテミシオンの山頂から声が響いてきた。
「無礼者! 我が眷族である聖なる鹿を連れ去ろうとは、神に対する冒涜である!」
見れば、銀色に輝き、背中に弓矢を持った女神が立っていた。
すぐに銀弓と月の女神アルテミスだと分かったが、跪こうとすればまた鹿に逃げられてしまうと思い、鹿を肩に担いだまま山頂に目を向けた。
「このような姿勢でご無礼仕る。我が名はヘーラクレース。神託に従い、ミュケーナイの王・エウリュステウスに仕えております。今は王から与えられた使命を果たすため、この鹿を一年間追いかけ、生け捕りにいたしました。エウリュステウス王にお見せしましたら、必ずお返しに上がります。ですからどうぞこの場はお許しくださいませ」
「ヘーラクレース……噂には聞いている。我が父の落とし胤であるために、“あの方”から難業を与えられたと。それならば、そなたは私の弟となる。……よろしい! そなたを信じましょう。用が済んだら速やかにその鹿を返すのですよ!」
「ありがとうございます。天地神明に賭けまして、必ずお返しに上がります!」
こうして、無事に鹿を連れてくることができたのであった。
その話を聞いて、ミレーユは何度も何度もうなずいた。
「私は大変なことをお願いするところだったのね。許しておくれ、ヘーラクレース。その話を聞いたらいてもたってもいられないわ。早くその鹿を女神様にお返しして」
「ミレーユの言う通りだ」とエウリュステウスも言った。「ヘーラクレース、この鹿を安全に運ぶための小屋付きの馬車を用意するから、それにお乗せしてお返しにいくのだ。馬車を用意している間、この鹿は馬屋でお休みいただこう。そなたも食事を済ませるとよい」
「いえ、そこまでしなくても。わたしがまた担いでお返しに上がりますよ」
「いやいや! それではわたしとミレーユの気が済まぬのだ。せめてもの非礼のお詫びだ、アルテミス様へのな」
それも理由の一つではあるが、用意している間に少しでもヘーラクレースを休ませてあげよう、というエウリュステウスの心づかいでもあった。
それを察して、ヘーラクレースは言う通りにすることにした。icon
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from: エリスさん
2009年10月16日 16時24分39秒
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「ヘーラクレースの冒険・24」
さらに半年が過ぎた。
その間ヘーラクレースの様子は、神殿で礼拝している際に、いろいろな神様がエウリュステウスに教えてくれていた。声だけで姿を見せないのだが、どうやらその神様は六柱(神は“人”ではなく“柱”と数える)いらっしゃるようだった。
そしてとうとう、
「ヘーラクレースが鹿を捕まえたから、明日には戻るだろう」
という男神の声が聞こえた。
すると儚げな雰囲気の女神の声も聞こえてきた。
「鹿が暴れるといけません。妊婦であるミレーユを鹿に近づけないようにしなさい」
エウリュステウスは頭を下げて、
「分りました、では今回の謁見では王妃は立ち会わせないようにいたします」
そうして、神々の予告どおり翌日にヘーラクレースが帰還したのだった。
「一年もの間、御無沙汰をしてしまったことをどうかお許しください。ご命令どおり、ケリュネイアの鹿を生け捕りにして参りました」icon
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from: エリスさん
2009年10月16日 16時07分22秒
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「ヘーラクレースの冒険・23」
その夜。
エウリュステウスはベッドに横たわったまま、妃であるミレーユに今日あった出来事を話して聞かせた。
「そう。これであなたも安心なさいましたでしょう」
ミレーユはそう言いながら、自分で首筋や胸のあたりを撫でていた。
「ああ、安心したよ。なにしろ半年も音沙汰がなかったのだからね。そんなに難しいことをやらせてしまったのかと、自分で自分を責めたりもしたさ」
「まあ……あなたをそこまで悩ませるとは、ちょっと妬けてしまいますわ……」
そう言った時には、手は腰のあたりを撫でていた。
「しかしまあ、やはり神の血を引く男だな。半年も走り回っているのに、てんで元気だと言うのだから」
「その元気を少しはあなたに分けてほしいもの……アン……」
「ミレーユ……そなたは先刻からなにをしているのだ?」
エウリュステウスがそう言ったとき、ミレーユはトロンッとした目つきで、ベッドの柱に身を預けていた。
「知れたこと。王妃としての務めですわ」
「わたしには、一人で楽しんでいるようにしか見えないのだが」
「あなたを楽しませるのはこれからです。そのための準備をしていましたの」
ミレーユは衣服を脱ぐと、エウリュステウスの傍へより、夫の腰帯を解き始めた。
「ミレーユ?」
「あなたはお動きにならないで。お身体が丈夫ではないのですもの。でも、跡継ぎがテウスだけというのは心もとのうございますから」
ミレーユはエウリュステウスの夜着をめくりあげて、彼の上に馬乗りになった。
「ミレーユ、身分ある女がすることではないぞ、そのようなはしたない……」
エウリュステウスは言葉を続けようとしたが、ミレーユの愛撫でそれもできなくなってしまった。
「どう言われようと構いませんわ。私はどうしても、あなたを守りたいのですもの。ペルセウス一族の長として生まれたあなたを。そのためには、あなたの跡を継ぎ、あなたを手助けする、息子たちが必要なのです。このミュケーナイ王家の血筋を盤石なものにするためにも……」
ミレーユがテンポ良く、まるで舞うように自分に奉仕してくれる姿を見て、エウリュステウスは『相変わらず綺麗だなァ』とぼんやりと考えていた。
ミレーユはそもそも、エウリュステウスの母親の従妹にあたり、エウリュステウスより五つ年上だった。ミレーユが輿入れしたのも、そもそもはエウリュステウスの病弱を気にした前王・ステネロスが、息子を支えることができる気丈な娘はいないかと、探しだしたのが彼女だったのである。血筋は申し分なく、なによりも美しかったので、王妃になるに相応しいと誰もが認めたのである。そして、エウリュステウスともウマが合った。
誰が見ても仲睦まじい夫婦となった二人だが、一つだけ困りごとがあった。それは、エウリュステウスがひ弱なあまり、長時間の運動に耐えられないのである。
それで、ミレーユはわざわざこんなことをするようになったのである。
「……テウスを……」
エウリュステウスは夢うつつになりかけながらも、口を開いた。
「わたしたちの長男を、わたしと同じ“エウリュステウス”と名付けると決めたのも、そなただった」
「ええ。普段は“テウス”と呼んでいますが、万が一その時がきたら、すぐに“エウリュステウス”と名乗れるように……」
「万が一……わたしが死んだら、テウスを替え玉にするつもりなのだな?」
「ペルセウス一族の長が、万が一でも短命であってはなりませんもの」
「……恐ろしいことを考える」
「お気に召しませんか?」
「……いや」
二人が同時に高みに昇りつめ――ミレーユはそのまま、エウリュステウスの上に倒れてきた。
そんな彼女を、エウリュステウスはギュッと抱きしめて、口づけた。
「頼もしく、愛おしい女だ」
その言葉に、ミレーユは幸せそうな笑みを浮かべた。icon
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2009年10月15日 17時54分35秒
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「ヘーラクレースの冒険・22」
それから半年が過ぎた。
ヘーラクレースからはなんの音沙汰もなく、エウリュステウスは「まさか彼の身になにかあったのでは?」と心配する日々が続いた。
アルカディアに人をやって、周辺を聞き込みしたところ、ヘーラクレースらしき男がケリュネイアの鹿を追いかけていく姿を目撃した人たちはいるのだが、誰一人としてその後の彼を知る者はいなかった。
『これはやはり……人ではない方々にお伺いをするしかなかろう……』
エウリュステウスは、おそるおそるヘーラー女神との謁見の時に聞いてみることにした。
「私があの者の行方など知りたくもない」
思っていた通りの答えだったので、エウリュステウスは落胆するのだった。
その様子を見て、ヘーラーは言った。
「それほどまでにあの者が心配ですか?」
「それは……臣下の身を案じるのも、王たる者の務めかと」
「臣下……あれは言うなれば罪人であろうに。しかし、そなたのそういうところは嫌いではない」
ヘーラーはそう微笑むと、天へ昇り始めた。そして、
「そのまま、私の子供たちに祈りを捧げなさい!」
「ヘーラー様の御子様たちに?」
「そう、誰かが答えてくれであろう!」
そうしてヘーラーが消えてしまうと、エウリュステウスは跪いたままの姿勢で、両手を握り合わせた。
「慈悲深きヘーラー女神の御子様方、どうか我が祈りを聞き届け賜え。我が臣下・ヘーラクレースの行方をお教えくださいませ!」
……すると、天井から声が聞こえてきた。
「その者ならば心配はない。今も鹿を追いかけて走りまわっている」
威厳ある女神の声だった――ジャスミンの香りが漂ってくる。きっとこの女神の香りなのだろう。
「おお、では彼は無事なのですね? 怪我などはしておりませぬか?」
「心配はない。そなたが授けたネメアの獅子の鎧が、その者を守ってくれている。走り続けて夜はぐっすりと眠っているが、朝になればまた元気に走りだす。なんとも頑丈な男よ」
「ありがとうございます! それを聞けば安心でございます。どなたかは分りませぬが、ヘーラー様の姫御子様。心より感謝いたします」
――それっきり、天の声は聞こえなくなった。
エウリュステウスは考えた。ヘーラー女神の娘の中で、雄々しいまでの威厳を持った女神は、養女のエリス女神しかいない。ならば、あの声はきっとエリス女神だろう……と。
だが、その答えは間違っていた――エウリュステウスの問いかけに答えていたのは、ジャスミンの香りをその身に持つ……。
「アテーナー」
背後から声を掛けられた女神は、ビクッと体を震わせた。
誰もいないのを見計らって、ヘーベーの水鏡から下界を見ていたのはアテーナーだったのである。
そして、声をかけたのはヘーラーだった。
「ヘーラー様……あの……」
相手が怒っていないのはオーラから感じられる。それでも、アテーナーはヘーラーから発せられる次の言葉を恐れていた。
「ヘーラクレースに肩入れするのはやめなさい」
と、そう言うはずだとアテーナーは思っていた。だが、ヘーラーは意外なことを口にした。
「私の代わりにエウリュステウスに教えてくれて、ありがとう」
「……ヘーラー様?」
「そなたもアルケイデス(ヘーラクレース)のことが心配で、あの者の様子を空から伺っていたのでしょう?」
「それは……みんなと一緒ですわ。退屈しのぎに、人間界のおもしろい出来事を……」
アテーナーが必死に言い訳しようとしているのを、ヘーラーは彼女を抱きしめることで制した。
「良いのです。そなたはなんの気兼ねもせずに、好きに行動しなさい。そなたなら、あの者を助けることも許します」
「ヘーラー様?」
「そなたが見捨てられるはずがないのです。まだ赤ん坊だったアルケイデスを胸に抱いた時から、そなたの心にはあの者を慈しむ心が芽生えてしまった」
ヘーラーはそういうと、アテーナーを少しだけ離して、彼女の瞳を見詰めた。
「そうでしょう? アテーナー」
「……仰せのとおりです、ヘーラー様。私にはできません、あの者を見捨てるなど。野に捨てられたあの子を、私は拾ってしまった。あの時、私はあの子の母親になりたいと願ってしまった!」
「そう、女とはそういうもの。母性というものを生まれ持ってしまった“さが”なのでしょう」
「でも、それなら! ヘーラー様こそ、あの時あの子にお乳をあげて……」
アテーナーがそれ以上言えないように、ヘーラーは人差し指でアテーナーの口を止めて、微笑んだ。
「そのことは、そなたの胸の内に留めておくれ」icon
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2009年10月15日 16時10分57秒
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「ヘーラクレースの冒険・21」
その日、ヘーラー女神の発案を伺ったエウリュウテウスは、
「それはおもしろうございます。早速ヘーラクレースにやらせてみましょう」
と、二つ返事で承諾した。
そしてヘーラクレースを謁見の間に呼び寄せたエウリュステウスは、新たな試練を彼に告げた。
「ケリュネイアの鹿を生け捕りにしてまいれ」
「ケリュネイアの鹿……で、ございますか?」
ケリュネイアの鹿とは、アルカディア地方のケリュネイアの岩場に住んでいる、牝でありながら角をもつ不思議な鹿のことである。体毛は艶やかに輝いて、遠目で見るとまるで金色の毛のように見える(近くで見ればちゃんと薄茶色だということが分るのだが)。その美しさを目にとめてしまった者は、「追いかけたい」という衝動に勝てなくなり、地の果てまでその鹿を追いかけて、二度と戻ってこれなくなるという。
「その鹿を、生け捕りにするのですか?」
「そうだ、殺してはならぬ。なんでもその鹿は銀弓の女神アルテミス様の眷属(言うなればペット)と聞いている。だから生きたまま捕らえて、連れてくるのだ。あとでアルテミス様にお返ししなければならないのだからな」
「はァ……わざわざ返さなければならないものを、なぜ捕らえて来いとおっしゃるのです? 陛下」
「それが今回の試練だからだ。よいか? 殺して連れてくるのはある意味簡単なのだ。死んでしまえば抵抗はしない。だから帰りの道中もなんら問題なく連れてこられる。だが、生きているものを連れてくるのは容易(たやす)いことではない。途中で逃げられる心配がある。つまり今回は、獲物を捕らえてから、ここへ連れてくるまでの道中すべてが試練なのだ。これはいかにそなたが勇猛果敢でも、それだけでは成し遂げられない試練だぞ」
「おっしゃる通りでございます。これはかなり難しい……ですがその試練、必ずややり遂げて御覧に入れます」
「期待しているぞ、ヘーラクレース」
こうしてヘーラクレースはケリュネイアへと旅立つことになった。しかも試練の内容からして武器もさして必要はないと、ネメアの獅子の鎧と棍棒だけを持って、あとはすべて置いていくことにした。――もちろん弓矢も。
ヘーラクレースは工房の職人たちに、自分が旅に出ている間に毒矢の仕掛けを完成させてほしいと頼むのを忘れなかった。icon
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from: エリスさん
2009年10月08日 18時57分15秒
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「Re:台風は通り過ぎたのに」
皆さんご存知の通り、関東地方は午前中には雨もやんで、風は多少強かったですが、外出できないほどではないぐらいに、天気は回復していました。
それなのに、どうして今日は小説更新をしなかったのか。
こんなオチが付こうとは。
会社から電話がかかってきたんです。
「電車が動かなくて、今日の出勤スタッフが来られないの!」
「………………二時間以内に駆け付けます」
自転車通勤の私が急遽出勤することになってしまったんです orz
その時はまだ朝の家事の途中だったので、とにかく洗濯だけは終わらせて、
「お兄ちゃん! 夕飯は適当に食べてね!」
と、言い捨てて出掛けました。
で、今から一時間ほど前に帰ってきたんです。
台風の影響でいろいろ大変だったでしょうに、映画が好きなお客さんはそれでも来てくださるんですよ。ありがたいことです。
なかには「せっかく学校に来たのに、休校になっちゃって」っていう高校生もいました。とにかく風がおさまるまで時間を潰したかったんですね。わかります。
そんなわけで、結局こちらのサークルをお休みさせていただきました。icon
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from: エリスさん
2009年10月07日 20時52分54秒
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明日は台風?
明日は更新しようと思っていたのに、以下の理由で危ぶまれています。
1 自宅にパソコンがない私は駅前のネットカフェに行くしかないのに、台風のせいで外出できそうにない。
2 外出できたとしても、ネットカフェが臨時休業しているかもしれない(台風のせいで)
3 自宅で携帯から書き込みしようにも、天気のせいで電波状況が良くないので(天気がよくてもしょっちゅう圏外になるからね、私の部屋は(^o^;)、結局書いたものが送れない。
情けなく思われるでしょうが、台風ひとつでここまで状況が悪くなってしまうんです。
なんとか台風が今晩中に関東を通り抜けてくれれば、明日は何事もなく更新できるのですが、それが叶わなかったときは……。
また、休載させてくださいm(_ _)m m(_ _)m m(_ _)m
台風が来なければいいのに。-
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