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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2009年11月27日 15時20分39秒

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    「ヘーラクレースの冒険・33」
     カウカソス山は北東の果てにある(というのは神話の中の設定で、実際はエーゲ海北東の内海・黒海とカスピ海に挟まれた山地にある)。ヘーラクレースはそこへたどり着くのに三カ月を要した。
     山頂につくと、神話で語られているように一人の若者が磔にされ、ハゲタカについばまれながら苦しげに唸り声をあげていた。
     ヘーラクレースはそのハゲタカを、棍棒で追い払った。そして、若者の体を縛り付けていた鎖を解いてあげたのである。
     「あなたはプロメーテウス様ですね」
     「そうです」と、若者は答えた。「ティーターンのプロメーテウスです。ゼウス神王の怒りを買って、このような仕打ちを受けていました」
     彼――プロメーテウスはそこまで言うと、ついばまれた腹を押さえながら、地面に膝をついた。
     「大丈夫ですか!?」
     「ええ……夜になれば不死の体になれますから、そうすれば……」
     「いいえ、夜を待たずとも、あなたは不死になれるのです」
     「どういうことです? そもそもどうして、あなたはわたしを助けたのです」
     「事情は後で説明します。それよりも、ケイローン様と……ケンタウロスのケイローン様と交信をなさってください」
     「ケイローン?」
     その時、またしてもハゲタカが襲いかかってきたので、ヘーラクレースは棍棒を振り回した。
     「ここはわたしが食い止めます。早く!」
     「わかりました」
     プロメーテウスは意識を遠くへ飛ばして、ケイローンを探してみた。
     『ケイローンとやら、聞こえますか? わたしはプロメーテウスという者です』
     答えはすぐに戻ってきた。
     『プロメーテウス殿、ようやくあなたと心を通わすことができた……』
     二人がテレパシーでやりとりをしている間、ヘーラクレースはしつこく襲いかかってくるハゲタカと闘っていた。そしてとうとう、ハゲタカの脳天に棍棒を直撃させることができ、ハゲタカはそのまま山の下へ落ちて行った。
     「まったく、すばしっこい奴だった……」
     ヘーラクレースが額の汗をぬぐった時だった。背後から光を感じて、振り向くと、まさにプロメーテウスの体が光り輝いていた。やがてその光が納まると、プロメーテウスの腹のキズはすっかり治っていたのだった。
     「良かった、ケイローン様から不死を受け取れたのですね」
     「はい、あなたのおかげです、ヘーラクレース」
     「いえ……あれ? わたしはまだ名乗ってはいなかったような」
     「すべてケイローン殿から伺いましたよ。試練を受けるために旅をなさっている、ゼウス神王のご子息だと……ついてはお願いがあるのですが」
     「なんでしょう?」
     「ゼウス神王のわたしへの怒りを解いてもらえるように、取り成してもらえないでしょうか。おそらくこのまま下山しても、神王の怒りが解けぬ限り、また似たような苦しみを与えられるだけなのです」
     「わかりました……わたしに出来るかわかりませんが」
     ヘーラクレースは天に向かって大声でこう叫んだ。
     「ゼウス神王様! まだお会いしたことはございませんが、本当にあなた様が本当の父上でいらっしゃるなら、どうか御姿をお見せください!」
     すると、雲に乗って眩いばかりの光をまとった男神が姿を現した――ゼウスに間違いなかった。
     「初めてではないぞ、我が息子よ。わしはそちがまだ赤ん坊のころに会っておる(ヘーラクレースにヘーラーのお乳を飲ませるために謀った時の話)」
     「では、まちがいなく、わたしはあなた様の息子なのですね。ではお願いがございます。どうかわたしに免じて、プロメーテウス様をお許しください」
     「うむ……そうだな、もう頃合いかも知れぬ」
     「では!」
     「ただし条件がある!……プロメーテウス、そなたはテティスについて重大な秘密を知っていると言っていたな。それを教えるのだ」
     テティスというのは――ヘーラーがゼウスの不実を怒って、一人でヘーパイストスを産んだとき、そのヘーパイストスを憎く思ったゼウスがヘーパイストスを闇に葬り去ろうと画策し、ヘーラーが窓辺でヘーパイストスをあやしているときに大地震を起こして、ヘーパイストスを窓の下の崖下に落とさせたことがあった。その時
    ヘーパイストスを咄嗟に救おうと、自分も一緒に崖下に落ちたのが、海の女神であるテティスだったのである。テティスはそのまま行方をくらまし、ヘーパイストスが一人で何でもできるようになるまで匿い育て、今ではヘーパイストスの養母としてヘーラーからも信頼されていた。
     「彼女のことですか……わかりました。わたしが彼女を占った時に知ったことを教えましょう。彼女はとても母性が強く、実の子でなくても誠心誠意を尽くして育ててくれる、まさに海のような女神です。しかし、彼女には一つだけ幸運とも不幸とも言える運命があります。それは、彼女が産んだ子供は、必ず父親を超えてしまうのです。ですから、仮にゼウス様がテティスを妻に迎えたとしましょう。そうすると生まれてきた子は、父親を倒して新たな神王に上り詰めることになります」
     「なんと……」
     「ですから、生まれてくる子に今の地位を脅(おびや)かされたくなければ、彼女を妻に迎えては絶対にいけません」
     「なるほど、そういうことであったか」
     これを聞き、美女であるテティスを愛人にしようと考えていたゼウスだったが、すっぱりと諦めることにし、同時にプロメーテウスのことも解放してやることにしたのだった。

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  • from: エリスさん

    2009年11月27日 14時23分06秒

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    「ヘーラクレースの冒険・32」
     「その啓示の内容とは?」
     ヘーラクレースが尋ねると、ケイローンは痛みを堪えながらも話し出した。
     「その昔、ティーターン神族のプロメーテウスという若者が、人間に火の使い方を教え、そのことでゼウス神王から怒りを買ってしまった。罰として彼は、カウカソス高山の嶺に磔(はりつけ)にされて、太陽が天にあるうちは、ハゲタカに生きながらにして肝臓をついばまれ、そして夜になると擬似的に不死を与えられているので、その肝臓が元通りに再生する。そしてまた太陽が昇れば、再びハゲタカに肝臓をついばまれ……毎日毎日がその繰り返しで、プロメーテウスは今も苦しみ続けているはずだ。――女神の啓示は、そのプロメーテウスに不死を譲れ、というものだった。彼は罰を受けるために疑似的に不死を与えられているだけで、本当の不死ではない。そして神の血を引く者でもあるから、わたしから不死を譲られる資格はあるとおっしゃられるのだ」
     「では、カウカソス高山からプロメーテウス様を助け出して、ここへお連れすれば……」
     「お連れするまでもない。とにかく助け出せば、あとは神族同士の精神感応(テレパシー)でやりとりができる。とにかく彼を助け出してくれ。そうすれば、わたしは死ぬことができる!」
     「わかりました! 待っていてください、ケイローン様」
     ヘーラクレースは立ち上がると、ポロスを呼んだ。
     「どこにいるのだ、ポロス! わたしが戻るまで、ケイローン様のことを……」
     一向に返事をしないポロスを探し回って、洞穴の外へ出ると、そこにポロスが倒れていた――胸に矢を刺して。
     「ポロス! どうして!?」
     ヘーラクレースが助け起こすと、虫の息ながらまだ彼は生きていた。
     「ケイローン様をあんな目に遭わせてしまったのは、そもそも僕がワインをみんなに飲ませてしまったから……だから……」
     「もういい、しゃべるな! その矢は一度だれかに刺さったものであろう? ならば毒も少量しか残っていなかったはず。それならケイローン様の解毒剤でも!」
     ヘーラクレースがポロスを担ぎあげようとすると、
     「やめてください!」とポロスは叫んだ。「お願いだから死なせて……ケイローン様を苦しめているのが僕のせいだなんて、もう生きていられない。生きていたくないんだ」
     目に涙をいっぱい溜めながら、ポロスは懇願した。
     「お願い、ケイローン様を……助けて……」
     そうして、彼は息絶えた。
     ヘーラクレースは後悔と懺悔から、ポロスを抱きしめたまま泣き叫んだ。その声は天上まで届くかと思われるほどだった。
     だが泣いてばかりもいられず、彼はポロスを横たわらせると、目を閉じさせて、涙を拭ってあげた。
     『今すぐに行かねば、カウカソス山へ』
     ヘーラクレースは自分の涙も拭うと、立ち上がった。
     『エウリュステウス様から与えられた試練の途中だが、ことは急を要する。きっと、エウリュステウス様なら分かってくれるはずだ』
     ヘーラクレースはこうしてカウカソス山に向かったのであった。

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  • from: エリスさん

    2009年11月20日 14時55分31秒

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    「ヘーラクレースの冒険・31」
     「どうしよう! ケイローン様に矢が刺さってしまった!」
     ポロスはすぐにケイローンのもとへ駆け寄った。ヘーラクレースも傍に行き、すぐに矢を抜いたのだが、矢に仕込まれたヒュドラーの毒はすでにケイローンの体内に入り込んでしまっていた。
     「慌てるな」とケイローンは苦しみながらも言った。「わたしを住処に運んでくれ。解毒剤があるから、それを点ければ」
     それを聞いてヘーラクレースがケイローンを担ぎあげた。
     「ボロス、案内しろ」
     「ハイ!」
     ケイローンの住処はそこから少し離れたところにある洞穴だった。そこにはいくつもの薬瓶と、乾燥させた薬草をすり潰す道具、そしてまだ乾かす前の薬草が置かれてあった。
     「ボロス、そこの二番目の棚にある赤いビンを取ってくれ」
     ケイローンに言われるままに、ボロスは動いた。赤いビンの薬では効かないと分ると、青いビン、緑のビンと、次々に試してみたが効果は表れない。
     その間、ヘーラクレースは何もできなかった。医術の知識があるわけではないが、住処の中に置かれた物や、ボロスの様子から、このケンタウロスがとても尊い人なのだということは分かった。
     『そう、確か聞いたことがある。あの医術の神・アポローン様が、一人息子のアスクレーピオスの養育を、高名なケンタウロスに頼んだと。そのおかげでアスクレーピオスは半分人間でありながら、死者を蘇らす薬を作ることができ、そのことが神の怒りにふれて、死を賜ったと……それからアスクレーピオスを育てたケンタウロスは自分も責任を感じて、あまり人目につかぬようになったとか。そのケンタウロスの名……確か、ケイローンと言ったはず。では、この方こそが……』
     ヘーラクレースがそんなことを考えていた時、ケイローンから声が掛った。
     「ヘーラクレースとやら……わたしはこれほどまでに強い毒薬を味わったことがない。これは、いったい何の毒だね?」
     「はい、ケイローン様……その毒は、ヒュドラーの肝から採取した毒でございます」
     「ヒュドラー……怪物テューポーンと蛇神エキドナの娘か。あの者の肝なら、これほどまでに手ごわい毒を持っているのも道理だな」
     「やはりあなた様は、あのご高名なケイローン様でいらしたのですか」
     ヘーラクレースはその場に土下座して、言った。
     「申し訳ありません! このような事態になろうとは!」
     「確かに、君は短慮すぎたね。弓矢を使うときは、流れ矢で狙ったもの以外にも被害が及ぶことを考慮すべきだったよ。それに、酒に酔ったものを抑えるのに、ただ殺してしまうというのもどうだろう? 君なら棍棒で気絶させることもできたと思うがね」
     「はい……お詫びのしようもございません」
     「しかし、こうなったのも、わたしの天命かもしれぬ」
     その時ケイローンは、毒が心臓に回ったらしく、大きな唸り声をあげながら胸をかきむしった。
     「ケイローン様!」
     「……大丈夫だ」
     ケイローンは呼吸を整えながら、苦しみを堪えていた。
     「これはきっと罰なのだ。わたしが里子可愛さに、人間に教えてはならない知識まで教えてしまった。そのために、アスクレーピオスは蘇生薬など発明してしまい……」
     「蘇生薬……そうだ、その薬ならばケイローン様を治せるかもしれない。今その薬はどこにあるのですか!」
     「もうない……あの薬は、アルテミス様の頼みですべて渡してしまった。そして、キュクロープス兄弟の蘇生に使われたと聞いている」
     「キュクロープス兄弟?」
     「ゼウス神王がアスクレーピオスを成敗したことで、アポローン殿が平常心を失われてね。彼は悔し紛れに、ゼウス神王に雷電の作り方を教えたキュクロープス兄弟を、焼き殺してしまったのだよ」
     「ああ! 聞いたことがあります。ではその兄弟を生き返らすために、蘇生薬はすべて使われてしまったと……」
     「そうだ。それに、その薬がまだ残っていたとしても、わたしが助かる保証はないよ。なぜなら、わたしがそもそも不死だからだ。不死のわたしの体に猛毒が入ったから、すぐに死ねずに、こうして苦しむ結果になっているのだ。だからわたしを救いたいのなら、わたしを殺すしかないよ」
     「そんな! ケイローン様を殺すなど!」
     「まあ、無理だろうね。不死の者を殺すなど、誰にもできはしない。つまりわたしは、このまま苦しみ続けるしか……ん?」
     ケイローンは急に天井を見上げた。そして、喜びの表情を浮かべた。
     「おお、ありがたい……」
     「どうしたのですか?」
     「今、どなたか――女神さまの啓示を受けたよ。わたしを苦しみから解放してくれる方法を」

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  • from: エリスさん

    2009年11月13日 15時48分20秒

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    「ヘーラクレースの冒険・30」
     「エリュマントスへ行く途中、わたしはポロエーというところで一夜の宿を探しておりました」
     ヘーラクレースは語りだした――一夜の宿と言っても山の中でのこと。洞窟でも見つかればよいが、駄目なら木の上ででも寝ようかと思っていたところに、その土地に住むケンタウロス(半人半馬)に声を掛けられた。
     「その獅子の着物は、もしや噂に聞くヘーラクレースさんじゃないですか? いろんなところで怪物をやっつけてるって、僕たちケンタウロスの間でも有名になってますよ」
     まだ年若いそのケンタウロスは、名をポロスと言った。
     「野宿する場所を探しているんですか? だったら僕の洞窟へいらしてください。今日はおいしい猪肉があるんです。御馳走しますよ! あなたのような英雄に御馳走できるなら、子子孫孫までの名誉ですからね」
     ケンタウロスは乱暴者が多いと聞いていたが、このポロスは人が好いらしいのが気に入って、ヘーラクレースは誘いに乗ることにした。
     「猪退治の前に猪の肉を食らうのも、また一興かもしれない」
     「そうですよ。これから腕力を使うんですから、体力をつけるためにも栄養のあるものを食べなきゃ」
     ポロスが作ってくれるバーベキューは肉だけではなく野菜も豊富に取り入れていて、実においしいものだった。だんだん気分が良くなってきたヘーラクレースは、
     「なんか酒が飲みたくなってきたなァ」
     と、つい口走ってしまった。
     「お酒ならありますよ。ディオニューソス様秘伝のワインがあるんです」
     「ディオニューソス? あの酒の神の? 君たちと何か関係があるのかい?」
     「ちょっとね。あの方は幼い時、山の中で育ったんだ。半人半獣の――下半身が山羊のシーレーノスが養父だったんだよ」
     「ああ、聞いたことがある。わたし同様、ゼウスの落胤だった彼は母親の死後、ゼウスの正妃であるヘーラー女神に疎まれ、逃亡生活を余儀なくされていたのだったね。それで山で育ったとか……そうか、その時に養父になったのがシーレーノスという半人半獣で、君たちのお仲間ってわけだね」
     「そういうこと。待っててね、洞窟の奥にあるから持ってくるよ」
     ポロスが持っていたワインは、ディオニューソスから「特別な客人が来たときにだけ開けなさい」と言われていたものだった。本当に上等なワインで、滅多に口にできるものではなかったのである。
     その匂いを嗅ぎつけて、洞窟の外に他のケンタウロスも集まってきてしまった。
     「ズルイぞ、ポロス! 俺たちにも飲ませろ!」
     「おまえだけいい酒を持ってやがって」
     どうやらワイン造りにもセンスがあるらしく、他のケンタウロスたちはポロスほど上等なワインを造れずにいるらしかった。だからこそ貴重なものだったのだろう。
     「仕方ないなァ……じゃあ少しだけ分けてあげるよ。みんな、ヘーラクレースさんをもてなすためなんだからね。そこを忘れないでよ」
     大勢のケンタウロス達が集まって、とうとう宴会にまで発展してしまった。それでも初めのうちは、ヘーラクレースの旅の話で盛り上がって、和やかなムードだったのだが……だんだんと酒の量が増えてきて、悪酔いするものが現われた。
     とうとう大喧嘩にまでなってしまい、収拾がつかなくなってしまったのだった。
     「ケンタウロスが凶暴と言われる所以は、これか……」
     「だから、あいつらにはワインをあげたくなかったのに」
     暴力の矛先がヘーラクレースにまで向いてきたので、仕方なくヘーラクレースも棍棒で応戦した。だが、あまりにも人数が多いので、キリがなかった。
     そのうちに、ヘーラクレースも怒りが頂点に達してきてしまった。
     「こうなっては仕方ない!」
     ヘーラクレースは弓に矢をつがえて、立ち向かってきたケンタウロスを射った――そのケンタウロスが一瞬で死んだのを見て、他のケンタロウスが叫んだ。
     「毒矢だ! 逃げろ!」
     ケンタウロスが逃げていくのを、尚も矢を放って追っ払っていた時だった。
     「いったい何の騒ぎだ!」
     ひときわ異彩を放って美しいケンタウロスが現われた――賢人ケイローンであった。
     その時、ポロスが叫んだ。「危ない! ケイローン様!」
     他のケンタウロスを狙って放たれた矢が、その前に立ちはだかったケイローンの右膝に刺さってしまった……。

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  • from: エリスさん

    2009年11月13日 14時28分34秒

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    「ヘーラクレースの冒険・29」
     ヘーラクレースが帰ってきたのは、その一週間後だった。
     大きな猪を生きたまま肩に担いできた彼は、そのままエウリュステウス王の待つ謁見の間に入った。
     そこで彼は、奇妙な物を見た。玉座の前に大きな青銅の甕(かめ)が、床に埋め込まれて立っていたのである。
     「ようやく戻ってきたな、ヘーラクレース」
     玉座に座っていたエウリュステウスが声を掛けてきたので、ヘーラクレースは猪を離すことなく、そのまま跪(ひざまず)いた。
     「お待たせしてしまって申し訳ございません、王様。しかしこの通り、大猪を捕らえましてこざいまする」
     「うむ、立派な猪だ。しかしその猪も疲れているのか、まったく抵抗せぬな」
     「二日間この状態で担がれていますから、観念したのでございましょう」
     「二日も? それではそなたも二日間、その状態でいたことになるが……食事とかはどうしていたのだ?」
     「極力我慢しておりましたが、一回だけ、木にぶら下がった葡萄の実を見つけて、このままかぶり付きましてございます」
     「なんともまあ……」
     やはり超人だな……と、エウリュステウスは苦笑いをした。そして、
     「ミレーユも見てみよ。実に立派な猪だ」
     「え? ミレーユ様?」
     ヘーラクレースがあたりを見回して、ミレーユ王妃を探していると、甕の中からヒョイッと顔を出した人物がいた。
     「ヘーラクレース、ここよ」
     ミレーユは甕の中に隠れていたのだった。赤ん坊の姫君と一緒に。
     びっくりしているヘーラクレースに、エウリュステウスは満足げな笑みを浮かべて説明した。
     「そなたに捕らえさせる獲物が強暴だった場合、ミレーユが危ない目にあうかもしれないからな。それでも彼女がわたしと一緒にそなたの偉業を見ていたいと言うので、特別に造らせたのだよ」
     「なるほど、この甕は王妃様の防御壁なのですね」
     「そうよ」とミレーユも笑った。「私と、子供たちのためのね」
     「無事にお生まれになったのでございますね。おめでとうございます、王妃様」
     「ありがとう、ヘーラクレース」
     そうして猪は檻に入れられ、馬屋の方に運ばれた。
     猪が行ってしまったのを確認してから、ミレーユは甕から出てきた。そして姫君を乳母に預けて、自身はエウリュステウスの隣に座ったのだった。
     「さあ、旅の話を聞かせて頂戴。どうして半年も経ってしまったの?」
     「はい……すべてはわたしの短慮からきたことでした。
     ヘーラクレースは二人の前に跪いたまま語りだした。――それはエリュマントスに向かう途中の、山の中の出来事だった。

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  • from: エリスさん

    2009年11月06日 16時01分13秒

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    短くてすみません

     今日はいつになく、もう一つのサークル「恋愛小説発表会・改訂版」の更新を優先しましたので、こちらが短くなりました。
     というのも、あちらは今日、最終回と新連載が重なったところでして。

     このところ「マイケル・ジャクソン This Is It」の上映の影響で、仕事が忙しくなっています。喜ばしいやら、なんとやら。
     しかも学級閉鎖でお休みになってしまった学生さんが、平日でも映画館に来るようになったので、忙しいのはそれも影響しています。........いいんでしょうか? 学生さんたち。インフルエンザの潜伏期間中は外出しない方が.....だって同級生にインフルエンザの感染者がいたからこそ、学級閉鎖になったんでしょ?

     最近は肩こりが治らなくて困っている私ですが、読者の皆様もお体をお厭いください。

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  • from: エリスさん

    2009年11月06日 15時53分47秒

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    「ヘーラクレースの冒険・28」
     それから更に三か月が経とうとしていた。
     「いったい何をしているのやら……」
     エウリュステウスは政務を執りながらも、時折ヘーラクレースの安否が気になって、考え事をしてしまうことが多くなった。
     王妃のミレーユが顔を出したのはそんな時だった。
     「あなた! 出来上がったそうですよ」
     臨月の大きなお腹を重そうに手で抱えながら、彼女は楽しげにそう言った。
     「できた? なにがだね?」
     「ホラ! あれでございますよ。私が妊娠中でも、ヘーラクレースの偉業を一緒に見られるようにと、あなたが発案してくださった!」
     「ああ!」
     実はエウリュステウスの発案で、謁見の間の床に大きな甕(かめ)を埋め込んだのである。その甕は青銅製で丈夫であり、その中に入っていれば動物がちょっと暴れてぶつかってこようが、安全安心ということである。
     「そうか、出来たのか。それじゃちょっと行って……」
     見てこようか……と言おうとしたが、その時、エウリュステウスはミレーユが苦しそうにしているのに気がついたのである。
     お腹が小刻みに振動していた――間違いなく陣痛である。
     「ごめんなさい、あなた」と、ミレーユは作り笑いをした。「嬉しすぎて、この子も出てきたくなってしまったみたい」
     「無理をするな! すぐに支度をするからな! オーイ! 誰かおらぬか!」
     すぐに使用人たちが駆けつけ、ミレーユは産屋に運ばれた。
     無事に女の子が生まれたのは、それから間もなくのことであった。

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