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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2010年01月29日 10時45分27秒

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    「ヘーラクレースの冒険・38」
     アルカディアのステュンパーロス市の傍には欝蒼とした森があった。その森の中に湖があり、その湖の周りには無数の鳥が集まってきて、巣を作って棲みつくようになった。それが非常に騒がしく、また糞のせいで臭いもひどく、市民を困らせていた。
     「どうしてそんなに鳥が集まるようになってしまったのか、アルカディア王も原因が分からなくて困っているそうなのだ」
     と、エウリュステウスは言った。「それで、そなたの噂を聞いたアルカディア王からわたしのところに依頼が来たのだ。なんとしてもその鳥たちを追い払ってくれ」
     「承知つかまつりました」
     ヘーラクレースはすぐにもヒュラースを連れて、ステュンパーロスの森に向かった。
     ――その様子を、天上から見ていた方々がいた。言わずと知れたヘーラーの子供たちである。
     「人間は誰も気づいていないようだが」とエリスは言った。「そもそも、あの森に棲むようになった最初の鳥たちは、アレースが訓練していたカラス部隊の脱落者だったよな?」
     「ああ……」と、アレースは面白くなさそうに答えた。「正確に言うと脱走したカラスどもだ。脱走するぐらいじゃ役には立たないから、放っておいてやったんだが」
     「それが、他の鳥たちも呼び寄せて、仲間にして、あんなに増えてしまったの?」
     と、エイレイテュイアはあきれてしまった。
     するとアテーナーが言った。「アレースの鳥軍隊にいたぐらいだから、統率力はあったのかしらね。どこかの国に“烏合の衆”という言葉があったと思うけど、それってこんな感じなのかしら」
     「ねえ? だったら……」とヘーベーが水鏡から顔を離して、振り返った。「アレースお兄様がなんとかしなきゃいけない事なんじゃないの?」
     「いや、そうなんだ。そうしようと思っていたんだが……忙しくしている間に、どんどん鳥の量が増えてしまって、もうどうしようもできないほどになっていて……」
     そこでエリスが突っ込んだ。「で、放っておいたと」
     「ただの怠慢じゃないの。釣りに行く暇があるんだから、どうにかできたはずだわ」
     と、アテーナーが止めを刺すと、アレースは体をちっちゃくして平伏した。
     「すみません……」
     「でもまあ、おかげでヘーラクレースにちょうどいい試練が出来たのだから」と、エイレイテュイアは助け船を出した。「楽しく見物いたしましょう、アテーナーお姉様」
     「それもそうね。……お茶のお代わりをいただける? エイリー」
     「はい、喜んで」
     そして翌日、ヘーラクレースはアルカディアに着いて鳥退治を始めた。

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  • from: エリスさん

    2010年01月22日 16時16分21秒

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    祝! 35万!

     今日で総アクセス数が35万を超えました。
     ありがとうございますm(_ _)m これも読者の皆様のおかげです。

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  • from: エリスさん

    2010年01月22日 13時58分24秒

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    「ヘーラクレースの冒険・37」
     どうやらヘーラーは、エウリュステウスが手紙を読み終わるタイミングを見計らって呼び出したらしかった。
     「私がどうして怒っているか、分かっておろうな? エウリュステウス」
     ヘーラーは怒りの形相でエウリュステウスを見下ろしていた。
     「はい、なんと申してよいやら……」
     「申し開きなどさせぬ! 罪を償うための試練であろうに、そこで報酬を求めるとはなにごとか! 相手の方から申し出てきたとしても、断るのが道理であろうが!」
     「はっ! しかしヘーラー様。ヘーラクレースは私服を肥やそうとしたのではないかもしれません」
     「現に報酬をもらおうとしたではないか」
     「そうですが、それはこのわたしへの手土産……献上品にしようと思っての行動だったかもしれません。常日頃から、あの者はわたしに感謝をしてくれているようでありますし」
     それを聞いて、「ふむ……」とヘーラーは言い及んだ。確かにヘーラクレースはエウリュステウスに忠誠を誓っている。そういう考えが浮かんだ可能性も十分にある。
     「だとしてもだ……やはり試練の折りに見返りを求めるのは良くない。従って……」


     「従って、そなたの試練をまた一つ増やすことになった」
     エウリュステウスからそう聞かされたヘーラクレースは、恐縮して平伏してしまった。
     「申し訳ございません! わたしの軽率な行動で、また王を煩わせてしまいましたこと、深く深く反省いたします」
     ヘーラクレースが帰ってきたのは、鳩に遅れること一日だった。
     「まあ、起こってしまったことは仕方ない。次から気をつけてくれ。ところで……そんなに牛をもらって、どうしようと思ったのだ?」
     「はい、実は乳牛だけを数頭もらって帰ろうと思ったのです。というのも、王妃様のお乳の出が良くないと、王妃様付きの小間使いである老婆に聞いたものですから。だったら乳母を雇うよりも、乳牛を連れて帰れば大量のミルクが手に入りますし、残ったミルクはチーズを作るのに使えば、そのチーズで王妃様も栄養をつけて、これからも王の御子をお宿しになれるのではないかと思いまして。以前、王妃様が懐妊のときにお祝いを差し上げられなかったので、その代わりにしようと」
     やはりそういうことだったか……と、エウリュステウスは笑みを浮かべた。
     「分かった。そういうことなら、我が女神も怒りを解いてくだされよう。本当にこれからは気をつけてくれ。……さて、次の試練であるが……」


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  • from: エリスさん

    2010年01月22日 13時33分57秒

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    「ヘーラクレースの冒険・36」


    第7章 第5の試練・アウゲイアース王の厩掃除 および
         第6の試練・ステュンパーロスの森にいる鳥を一掃せよ


     ヘーパイストスは伝書鳩使いのヒュラースをお供に従えて、次の目的地であるエーリスへと入った。
     そこでヘーパイストスが与えられた試練は、エーリスの王アウゲイアースの厩を掃除することだった。
     「掃除といっても楽ではないぞ」
     試練を申し伝えるとき、エウリュステウスは言っていた。「これはエーリスの周辺の国から多数寄せられた相談なのだ。そなたの勇猛さを見込んでな」
     「いったいどのような相談なのですか? 王」
     「アウゲイアース王は太陽神ヘーリオス様のご落胤らしいのだが、とにかく変わり者でな。たくさんの家畜を飼っているにも関わらず、その厩の掃除を一度もしたことがないそうなのだ。おかげで牛や馬の糞が散らばり放題で、悪臭を放ち、その匂いがエーリスだけでなく近隣国にまで風に乗って届くそうだ」
     「ひどい話ですね……そんな環境で、アウゲイアース王自身はなんともないのですか? 普通なら本人も被害を受けているはずですが」
     「そこが厄介なのだが、どうやら王宮の中は外気の影響を受けないように作られているらしい」
     「自分さえよければ、国民や近隣諸国がどうなっても構わない――ということですか」
     「そういうことなのだろうな。とにかく、相手が神の血を引いていることで、何人もの人が説得に向かったのだが、どうやら返り討ちにあっているらしく……そこで、そなたに依頼がきたのだ。そなたなら無事にやり遂げてくれよう」
     「はっ、お任せを!」
     それから五日が過ぎた。
     無事に試練を終えているころだろうか……とエウリュステウスが思っていたちょうどその時、ヒュラースの伝書鳩が王の部屋の窓辺に着いた。その足には手紙が結んであったので、エウリュステウスはさっそくそれを開いて読み始めた。
     手紙にはヘーラクレースが試練をやり遂げた経緯が、かいつまんで書かれていた。
     〈先ずヘーラクレース様はアウゲイアース王に謁見を申し込まれました。初めは渋っていた王でしたが、ヘーラクレース様の評判は耳に届いていたらしく、翌日になってようやく謁見してくださいました〉
     そこまで読んで、ヘーラクレースが神王ゼウスの落胤であることも、無視できなかったのかもしれぬ、とエウリュステウスは思った。
     〈エウリュステウス様から頂いた試練であることを説明しましたところ、アウゲイアース王は苦笑いをされ、「ならばたった一日で掃除してみよ。できたなら、わしの牛の十分の一をくれてやる」とおっしゃいました。なのでヘーラクレース様はその挑戦をお受けになりました〉
     「な、なに!?」と、エウリュステウスは声に出して驚いた。「報酬を受ける、と答えたというのか?」
     〈そこでヘーラクレース様は、王子のピューレウス様を立会人として、先ず厩の入口の向かい側の壁を打ち壊して、出口をつくりました。そして川の水を引いてきて、その激流で厩の中を綺麗にしてしまったのです。あとは打ち壊して作った出口を塞いで元通りにしました。これで約束した牛がいただけると喜んだのも束の間、王は「そんな約束はしていない」と言い張り、立会人であったピューレウス王のことも勘当してしまいました……〉
     牛がもらえると喜んだ……これはもう決定的だと、エウリュステウスが頭を抱えたちょうどその時、神殿から使いの者がきた。
     ヘーラー女神からの呼び出しであった。

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  • from: エリスさん

    2010年01月14日 18時58分00秒

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    今週は木曜日なのに更新しました

     明日、他の用事が入ってしまったので、今日やっております。
     かなり自分の趣味が入った作品になりましたが、いかがでしょうか?


     「トリノ・パラベーラの女神は、荒川静香にキスをしました」

     NHKのアナウンサーがこう言っていたのを聞いて、まっ先に思い浮かんだのがアテーナー女神でした。このアナウンサーが実際には誰をイメージしていたかは知りませんが、おそらくこの場合、この女神はアテーナーしかいないと思います。
     イタリアでのオリンピックだったからこそ、このイメージが浮かんだのでしょうが........バンクーバー(カナダ)ではこの表現は出来そうもないよね。
     カナダの神話ってエスキモーの神話だよね? 勝利の女神って誰かいたっけ?
     つまりイタリア・トリノだからこそ出てきた明言。その勝利者が荒川静香だったからこそ、日本人の記憶に残る名台詞になったわけです。
     なので、バンクーバーオリンピックを前にして、かなり悪戯心で書いてみました。なにか反論や批判がおありでしたら、真摯に受け止めますので個人レターでお知らせください。(職場の同僚諸君は直接言ってきてくれ。大丈夫、いじめたりしないから(笑))

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  • from: エリスさん

    2010年01月14日 18時42分37秒

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    「女神がキスをする・3」
     エリスが大ファンだという選手は、その直後に演技をした。
     彼女の演技にもアテーナーは感動していた。
     「彼女も綺麗だわ。ポーズの一つ一つが美しい。指先まで使って音楽を表現しているのね」
     「はい。私も大好きな選手です」
     「でも……先ほどの選手とくらべると、それほど難しい技を使っていないように見えるのだけど?」
     「残念ですが仰るとおりです。彼女はスピンやスパイラル、なによりも表現力は素晴らしいのですが、ジャンプはトップレベルの選手の中では遅れ気味なのです。体格差に問題があるのか……もちろん、それをカバーするための努力も彼女は積んでいるのですが、なかなか……」
     「惜しいわね。この選手も、先ほどの選手ほどに難易度の高いジャンプが飛べていれば……あっ、でも。この前に演技したアメリカの選手はジャンプで転倒していたわね。彼女よりは上の点数をもらえるはずだから……」
     「それは……どうでしょうか」
     そして、夢見るような美しい彼女の演技が終わった。
     結果は――アテーナーを激怒させるものだった。
     「なぜ! ジャンプで転倒したアメリカの選手より下の順位とはどうゆうことなの!? この日本人はほとんどミスをしていないじゃないの!」
     「陛下、落ち着き遊ばして。今、ご説明を」
     椅子から立ち上がっていたアテーナーをなだめて、座りなおさせたキオーネーは、先ずはお茶のお代わりを注いであげてから説明した。
     「アメリカの選手は、ジャンプで転倒して点数をもらえなくても、他のスピンやステップで点数が稼げるように構成されていたのです」
     「ジャンプ以外で難易度の高いものをやっていたってこと?」
     「はい。ですがこの日本人は、もちろん難易度の高いスピンもステップもやっていたのですが、美しさを追求して構成するあまり、他の選手より難易度は高くないけれど美しいポーズをとれる技を組み込んでいたので、こうゆう結果になったのです」
     「美しさを追求ね……スポーツマンというよりはアーティストだったわけね。私はそういう人間の方が好きになれるわ」
     「まあ。戦いと勝利の女神である陛下でも、そう仰いますか」
     「私は芸術の女神でもあるのよ。どちらかというと、そちらの方が得意なの」
     「ああ、そうでございましたね」
     そして全員の演技が終わり、優勝者が決まった。
     金メダリストは、アテーナーが目にとめた日本人だった。
     「やっぱり彼女が勝ったわね! 素晴らしかったものね、当然だわ」
     「はい……あら?」
     「どうかして?」
     「はい、今、日本のテレビアナウンサーが面白いことを」
     「なにか言ったの?」
     「はい。《トリノ・パラベーラの女神は、勝利者にキスをしました》と」
     「まあ!」と、アテーナーは笑顔になった。「それは、私のことかしら?」
     「イタリアと言えばアプロディーテー様の子孫であるユーリィ王家が栄えたところ。当然、この国の神話もギリシアに影響を受けた神話が流布されました。イタリアの女神の一人であるミネルヴァは、ギリシアでいう勝利と芸術の女神アテーナー様と同一視されておりますから」
     「私はこの者になんの加護も与えていないというのに。ただここから眺めていただけで……自分の勝利は神のおかげ、というのは実に殊勝な心がけだこと」
     「この大会でまだ日本人はメダルを取っていなかったのです。それがようやく、終わり近くなって手に入れたメダル――それも金メダルだったので、これはきっと神様のご加護だと、そう思ったのでございましょう」
     「そうね……その心がけに応えてやりたくなったわ」
     と、アテーナーは椅子から立ち上がった。
     「勝利者に祝福を与えるのは、勝利の女神であるこのアテーナーの務めでもある」
     そう言って、アテーナーは水鏡の中に飛び込んだ。
     キオーネーが止める間もなく、アテーナーは水鏡の空間を通ってトリノ・パラベーラ競技場に瞬間移動した。そして、勝利で喜びかえっている日本人選手団の中に入って行った。
     誰にもアテーナーの姿は見えなかった。だから誰にも気づかれずにその選手に近づいたアテーナーは、その左頬に祝福のキスを与えたのだった。
     その途端、選手は「あっ」と声を上げた。
     左頬にそっと触れてたみた選手に、近くで見ていた後輩選手が声をかけた。
     「どうしたの? しーちゃん」
     「うん……今、誰かが触ったような……キス、みたいな」
     「ええ? 誰もそんなことしてないよ。って言うか、私の前でそんなことしーちゃんにした奴がいたら、私が引っ掻いてやるからッ」
     「こらこら」と、彼女は笑いながら後輩選手の両頬を包んだ。「そうゆうこと言わないの、ミキったら!」
     「だってェ」
     と、むくれて見せる後輩に、彼女は微笑んだ。
     「たぶん、ご褒美をくれたんだと思うから」
     「ご褒美?」
     「うん。がんばった私に、ご褒美のキスをくれた方がいたんだよ。目に見えない誰かが……もしかしたら、神様かな?」
     「神様か……神様じゃしょうがないや」
     アテーナーは二人のそんな会話を聞いてから、その場から離れた。
     それにしても、エリスのお気に入りスケーターの姿が見えないことに気づいたアテーナーは、あたりを見回してみた。すると、かなり離れたところで落ち込んでいる感じの彼女を見つけた。アテーナーが近付いて力づけてやろうとすると、その前に立ちはだかった者がいた。
     エリスだった。エイレイテュイアも後から現れる。
     「失礼致します、陛下。この役目は私にお譲りください」
     エリスはそういうと、お気に入りの選手のもとに歩いて行った。
     彼女にもエリスたち女神の姿は見えていない。だから、エリスは容易に彼女を抱きしめることができた。
     「大丈夫、そなたはここで挫けるような弱い人間ではない。まだまだやれる。これからも頑張って、私や、他の者たちを感動させてくれ。その美しいスケーティングで」
     後にこの選手はこう言っている。「トリノで魔法にかかった」と。そしてその後も引退することなく、次のオリンピックを目指して戦い続けたのであった。

     アルゴス社殿に帰ってきた女神たちは、今度こそエリスのコレクションである美味しいお茶でティータイムを楽しんだ。
     「これからは、こんな楽しい行事には私も誘うことを忘れないでちょうだい」
     アテーナーはそう不平を言いつつも、エリスが淹れたお茶を一口飲んで、至福の表情をした。
     水鏡は、今はオリンピック関連のニュースを流している日本のテレビが映るように設定されていた。やはり日本人が金メダルを取ったのだから、ここは日本のテレビを見るのが一番熱狂的だろう……とアテーナーが言ったからである。ちょうどよく通訳もいることだし。
     すると「おやおや?」とエリスが言った。
     「どうしたの? 早く解説して」
     とアテーナーが急かすと、エリスは満面笑顔で答えた。
     「すっかり流行語になったみたいですよ。“パラベーラの女神が勝利者にキスをした”というのが」
     「あらまあ! 私が有名人になってしまうわね」
     「あっ、この子は!」とエイレイテュイアが言った。「ほら、金メダリストの後輩の」
     「ああ、ミキって呼ばれてた子ね?」
     アテーナーが覗き込んだとき、ちょうどその子がインタビューを受けていた。
     「バンクーバーオリンピックでは、私がしーちゃんと同じ色のメダルを取ります」
     「はい、がんばってね」とアテーナーは言った。「でも、そっちまで私がキスをしに行けるかは分からないわよ」
     なぜか……バンクーバー――カナダには、その土地の勝利の女神がいるだろうからである。


                                  終



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  • from: エリスさん

    2010年01月14日 17時20分30秒

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    「女神がキスをする・2」

     キオーネーは良い香りのする温かいお茶を、アテーナー神王に差し出した。
     「どうぞ、粗茶でございますが」
     「ありがとう……お茶の出すときの作法がまだ日本流ね、キオーネー。粗茶といいながら最高のお茶をもてなす……謙虚な日本人らしいわ」
     「恐れ入ります、陛下」
     アテーナーはお茶の香りを嗅いで、すぐにそれがアールグレイであることを見抜いた。エリスであれば水出しにしたスッキリ味のアールグレイを出すところであるが、エリス不在ではそれは無理なのであろう。それでも、これはこれでおいしいお茶なので、アテーナーは満足した。
     フィギュアスケートの試合が始まり、それでもまだ始めのうちは注目選手も出てこないということで、キオーネーはエイレイテュイアの産んだ第二子にミルクをあげたあと寝かしつけて、一日違いで生まれたエイレイテュイアの長男(ヘーラーの生まれ変わり)と自分が産んだ長女(ニュクスの生まれ変わり)にはそれぞれカードゲームを与えて、二人で対戦して遊ぶようにと諭した。
     「カードゲームを始めてしまえば、二人は熱中してその場から動かなくなりますから、これでゆっくり試合を観戦できますわ」
     キオーネーはそう言って、アテーナーの向い側の椅子に座ろうとした。すると、
     「そちらではなく、私の隣に来て。解説をお願いするわ、キオーネー」
     「はい……では失礼いたします」
     試合はそろそろ最終グループに入ろうとしていた。
     キオーネーの知識はそれなりのもので、アテーナーの質問に彼女はスラスラと答えて見せた。アテーナーがそれを褒めると、彼女は、
     「恐れ入ります。ですが、これはすべて夫の受け売りでございますれば」
     「エリスの? エリスの方が詳しいの?」
     「それぐらい夫もフィギュアスケートにのめり込んだことがございまして。片桐枝実子――嵐賀エミリーを名乗っていた時、フィギュアスケートを題材にした小説を書こうとしたこともあったんですよ。結局は書き上げることができずに挫折しましたが」
     「エリスが何かに熱中するなんて、かつての彼女ならありえないことだわ。変われば変わるものね」
     「その彼女を変えた日本のスケーターたちが、演技に入りますわ、陛下」
     水鏡の中には、アテーナーが目に留めた方の日本人スケーターが滑り出しのポーズを取っていた。
     トゥーランドットの曲に乗せて滑り出した彼女は、技の一つ一つがダイナミックで、誰の目をも釘づけにした。アテーナーも若い娘のように胸をドキドキさせながら見つめていた。
     「今まで見ていた選手の中で一番いいわ。ミスもないし、なにより美しい」
     「はい、誠に」
     「あっ、これはなに?」
     その選手は体を後方に仰け反らせたまま横滑りをし、その直後に三回連続のコンビリネーションジャンプという荒業をやってみせた。
     「はい……解説をしているとこの後を見逃してしまうので、演技が終わった後、点数が出るまでの間に解説いたします」
     「そう、そうね!」
     そしてその選手は、コンピネーションスピンでフィニッシュした。その途端、客席はスタンディングーオーベイションの嵐に包まれた。
     点数が出るまでの間、選手がリンクに投げ込まれる花やプレゼントを受け取っている風景が流れていたので、キオーネーは先ほどの技の説明をした。
     「今のはイナバウアー……彼女のやるイナバウアーは特別に〈レイバックイナバウアー(上体を後ろに仰け反らせた体制で滑るイナバウアー)〉と呼ばれていますが、そこから三回連続のコンビネーションジャンプ――三回転サルコウ、二回転トウループ、二回転ループへとつなげたものです。実は彼女の見せる“イナバウアー”は定評があるのですが、いかんせん、その技だけでは点数がつかないものでした」
     「まあ何故? あんなに美しい、それでいて難しそうなものなのに?」
     「“イナバウアー”というのは足技なのです。前後に開いた足の爪先を外側に向け、その状態で横に滑る……というのが定義で、上半身の姿勢は自由なのです。ですから上半身がどんなに難しいことをしていても、この技自体は“簡単な足技”として区分されているので、点数にはならないのです。でも、実際はとても難しいことをしていて、かつ美しい……こんな技を埋もれさせるのはじつに惜しいことです」
     「もっともだわ」
     「それで考えたのでしょうね。だったらこの技を、何かの技の加点になるように組み合わせてしまえばよいと」
     「加点?」
     「はい。よくあることなのですが、ただジャンプを飛ぶよりも、ジャンプを跳ぶ前にちょっとした小技を加えると、それが加点につながるのです。実際、男子の日本人スケーターの中に、三回転アクセルを飛ぶ前にスプレットイーグルで滑ってくる、という技を見せた者がおりまして」
     「それはどうゆうものなの?」
     「爪先を外側に向けたまま横滑りするものです。イナバウアーの場合はこれをさらに足を前後に開くのですが、これは足を揃えたままです。本来ジャンプを飛ぶときは、勢いをつけるための助走が必要になるのですが、イーグルもイナバウアーもそれができなくなる。助走が付いていない状況でジャンプを飛ぶという難しいことをするから、加点がつくのです」
     「ではこの娘の場合も、助走をつけられないイナバウアーから、特に難易度の高い三回連続ジャンプを跳んで見せたから、加点が付いているはずだと?」
     「はい、間違いなくついています」
     すると客席から歓声が上がった。
     その選手の点数が出たからである。
     「御覧下さいませ、最高得点を叩き出して、この時点でのトップに立ちました」
     「ええ! ええ! すごいことだわ!」
     アテーナーも拍手をしながら感動していた。

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  • from: エリスさん

    2010年01月08日 14時55分48秒

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    女神がキスをする・1

     それは二〇〇六年二月のこと。
     忙しい政務を終えた神王アテーナーは、休憩をとるならあそこしかあるまいと思い立って、アルゴス社殿へと向かっていた。
     もう少しでアルゴス社殿に着く――という時だった。そのアルゴス社殿の屋上から、一台の馬車が飛び立っていくのが見えて、アテーナーはしばし足を止めた(天空で)。
     「あれは……エイレイテュイアとエリス?」
     あの二人が出かけてしまっては、今日はおいしいお茶はなしかしら(アルゴス社殿のお茶の種類の豊富さは、エリスの道楽からきている)、とアテーナーは思ったが、それでもヘーベーがいればおいしい果物は用意してくれるはずだと思い直して、そのままアテーナーは歩き出した。
     だが、アルゴス社殿に着いてみると、ヘーベーも外出していて留守だった。社殿にはエリスの第二妃である精霊のキオーネーが、子供たちと一緒に留守番をしているのだった。
     「まあ、陛下!」
     身重のキオーネーは大きなお腹を抱えながら、アテーナーを出迎えてくれた。
     「お渡りになると知らせてくだされば、きっと皆さまもお出かけにはなりませんでしたのに」
     「いったい、みんなはどこへ行ったの? どうしてあなたはそれに同行していないの?」
     「はい、陛下。皆様はイタリアへ出かけられたのです」
     「イタリア?」
     それを聞いてアテーナーはピンッときた。「ああ、オリンピックを見に行ったのね」
     「はい。今回はイタリアのトリノでオリンピックが行われていますから」
     オリンピックと言えばそもそもはギリシアが発祥の地。神に捧げられたものである。だからこそ、女神たちが熱狂して観戦に行くのも道理だった。
     「でもあなたは懐妊中だから、大事をとって行かなかったと言うわけね? キオーネー」
     「はい。それに子供たちの世話もありますし。でも、ヘーベー様が水鏡をテレビにしてくださいましたので、ここから観戦しようと思っております」
     「何の競技を見るの?」
     「フィギュアスケートです。エリス様とエイレイテュイア様もそれを観戦に行かれたのですよ。ヘーベー様は旦那さまと一緒に別の競技をご覧になると言っておられましたが」
     「そう。私もフィギュアスケートは好きだわ。特に女子は優雅で美しいもの」
     「はい。私も女子のフィギュアが好きです」
     「そういえば、あなたはつい最近まで人間界にいたのよね。お薦めの選手はいて?」
     「はい……いたのですが、彼女は競技が始まる前に体調不良のために棄権してしまいまして」
     「まあ……」
     「アメリカの選手で、とても美しいスケーティングを魅せる選手なのです。陛下にお見せすることができなくて、とても残念です」
     「そう……」
     「でも、エリス様のお勧めでしたらご覧になれますわ。日本の選手で、エリス様は人間界にいたころから彼女のファンで、ファンレターも送っていました」
     「まあ、どの人?」
     二人は水鏡の前に椅子を運んできて、並んで見ることにした。今はちょうど選手たちの練習風景が映し出されていた。
     「あっ、いましたわ。この日本人です」
     「まあ、体の細い子ね」
     「でも芯は強い女性ですわ」
     「そうね。それは感じるわ……あら?」
     このとき、アテーナーは一人の選手に目をとめた。
     日本人にしては背も高く、程よく肉付きもある。なによりも美しさと強さを兼ね備えているように見えた。
     「この選手を知っていて?」
     「はい、陛下。この者は長野オリンピックにも出ていて、日本ではかなりの実力者です」
     「長野……その後のソルトレイクには出ていないの?」
     「ソルトレイクには、このエリス様のお薦め選手が出ていました。当時の日本は出場枠が少なくて、実力があっても全員が出られるわけではなかったのです」
     「そうなの……」
     「でも今回は三枠もありますから、二人がそろって出られたわけです。二人はライバルなのですよ」
     「そう! 楽しくなってきたわ」
     アテーナーはこのままキオーネーをナビゲーターにして、オリピックを楽しむことに決めたのだった。

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  • from: エリスさん

    2010年01月08日 14時12分55秒

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    これからの注目作品

     ....ってほどのものではないけど。
     今月に入ってから私が「見ようかなァ」って思っているのは、「遊戯王」です。――なんで?って思うでしょ? テレビシリーズは一話ぐらいしか見たことないのに――いや、当時もうちょっと暇があったら見ていたかもしれないんだけど。
     この作品は、普通だったらうちの映画館では上映しそうもない作品なんですが、チラシが届いたときにはびっくりしました。でもチラシを見て納得――3D上映なんですね。うちの系列の映画館で3D上映ができる映画館がまだ少ないので、それでうちに回ってきたみたいです。
     で、なんで私がこの作品に注目しているかと言うと、3人いる主役のうちの一人が、あの風間俊介くんなんです(^o^)/ このサークルの皆さんは私が時々話題にしているから知っていると思いますが、知らない人のために補足しておきますと、「金八先生 第5シリーズ」で兼末健次郎を演じた人です。最近で言うと「アキハバラ@DEEP ドラマ版」でページを演じています。「交渉人SP」で犯人役もやってましたね。とにかく、ジャニーズJrでは演技派なんです。
     これでもっと美少年だったらねェ、同じ金八卒業生の亀梨君なんかより売れていたと……いや、そうとも言えないか。
     とにかくこれからも風間君のことは応援していきたいので、「遊戯王」は見るつもりです。

     あとは「人間失格」――こちらもジャニーズの生田斗真が主演です。以前、土曜の夜中に堺雅人が声優として出ていた「人間失格」のアニメ版を見たのですが、内容がこのまま実写映画化されるとなると、生田君にとってはかなりの新境地になるのではないかと思います。
     なんかもう……ジャニーズにやらせちゃっていいの?って感じですが。でももう、撮影終わっちゃってるんですよね。恐れながら見ようと思います。


     さて、そしてこれはかなり先になりますが――うちで上映するかも決まっていませんが、たぶん配給元が配給元なので、やるんじゃないかと思われるのが「大奥」です。
     いつも楽しみに買っている雑誌・メロディーに「よしながふみ先生の大奥が実写映画化」と載っていた時には、本当に仰天しました。
     「やるんですか!? これを。やっちゃうんですか!」
     って、本屋で声に出しちゃいそうでした――かろうじて声にはなりませんでしたが。
     しかもこの間キャストが発表されまして、徳川吉宗役は柴咲コウで、水野祐之進役に嵐の二宮和也って! これまた、
     「いいんですか! ジャニーズがそんな役やって!」
     って、驚きしかありません。
     今ここで書くとネタバレになってしまうかもしれませんが、とりあえず原作の「大奥」がどんなストーリーかと言いますと――

     三代将軍家光の時代、日本に疫病がはやった。その疫病は特に男子に罹りやすく、そのため男子の人口が女子の四分の一になってしまった。そこで血筋を絶やさぬために女は男を金で雇い、「種付け」をするようになる。
     この背景により、将軍職も男児から女児へと血筋がつながれ、大奥には将軍に仕えるための男子が集められるようになっていた。そして、身分違いのために好きな女性と添い遂げられない苦しみを抱えた水野は、大奥に入ることを決意する。

     この水野という男はですね、一言で言えば優しい男なんです。優しいがゆえに、当時は婿を取るのは金持ちの娘だけで、武家であっても貧しい暮らしをしている女は、血筋をつなぐために金で男を買って「種付け」してもらっているって言うのに、彼はそういう女性から一銭も金を取らずに「無料奉仕」してあげてるんですね。
     いいんですか! 二宮君がそんな役をやっちゃって! 
     この原作のストーリー通りにやると、二宮ファンが泣きを見るような気がするんですが、そこはうまくやるんだろうなぁっと思ってます。
     私としては「大奥」は家光・有巧編が好きです。傷ついた者同士が慰めあうように愛し合っていた、そんな家光(千恵)と有巧(お万の方)の姿が切なくていいです。
     吉宗・水野編がうまくいったら、そっちも映画化されるのかな? だったら有巧はぜひとも堂本光一で。女装した有巧を綺麗に演じられる俳優は、光一君以外考えられないし。

     というわけで、映画談義というよりは、私のジャニオタっぷりが発揮された書き込みになっちゃったかな。

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  • from: エリスさん

    2010年01月08日 11時53分27秒

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    遅ればせながら、あけましておめでとうございます

     ようやく書き込みできる日がきました。
     うちの映画館、お正月は終わったというのに、メッチャ忙しい!! 早く小中学校の冬休みが終わってくれないかな(;一_一)

     とりあえず初めのご報告としては........初夢が見られませんでしたorz
     昨年の暮れから風邪をこじらせていて、ずっと風邪薬を飲んでいたんですね。それでも二週間ぐらいたっても治らないので、仕方なく、本当は仕事が忙しいから行きたくなかったんだけど、本当に仕方なく病院に行ってきましたところ、三種類も薬を出されました。
     「風邪からくる鼻炎と気管支炎ですね。インフルエンザの心配はありませんでした」
     さいですか.....というわけで、12月30日あたりから病院の薬を飲み始めたところ、夜はぐっすり眠れるようになり、その結果..........死んだように深く眠りすぎて、夢が見られなかったんです。なんて情けない! ちゃんとおまじないまでしたというのに!
     去年の初夢はかなりおもしろい初夢が見られたので、今年も期待していたんですけどね。
     だから本当だったらここで初夢の内容を発表するところだったのに、今年はそれができません。あしからず<(_ _)>
     その代わりと言ってはなんですが、最近見た夢の中でかなりおもしろかったものを紹介します。
     まだ病院から薬を貰う前.....市販の風邪薬を飲んで寝ていた夜のこと。夢の中に職場の後輩が現れて、布団の中で眠っていた私にこう言ったんです。

     「母さん、大丈夫? 具合どう?」

     その後の展開は、まるで「八神くんの家庭の事情」の逆ヴァージョンのようでした。
     こうゆう夢をみてしまうぐらいだから、私ってばかなりこの後輩君のことを気に入ってるんだなァって、あらためて思った夢でした。――いや、すごくいい子なんですよ。確かに息子にしたいぐらいの、出来る奴です。

     さてこの後はお昼休みを挟んで、映画談義をまたしても勝手にした後、小説をアップしたいと思います。

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