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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2010年08月27日 14時20分35秒

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    「ヘーラクレースの冒険・65」

     その後もヘーラクレースは、いろいろな所へ赴いて手助けをしたり、戦争に巻き込まれたりしていた。そして最終的にはトラーキスの王ケーユクスのもとに身を預けることになった。やはり故郷であるテーバイには行きづらかったのであろう。正気を失っていたとはいえ息子を殺してしまった過去もあれば、おそらく当時の妻とも顔を合せてしまい、気まずくなってしまうだろうし。
     それからの数年間はヘーラクレースにとって束の間の幸せだったのかもしれない。デイアネイラとの間に子供も恵まれたのだった。
     そのまま幸せの中に浸かっていればいいものを、ヘーラクレースはまた自ら戦いの場へ足を踏み入れた。
     以前ヘーラクレースを侮辱し、本当ならば王女を妻として与えるという約束も反故にした男がいた。オイカリアーのエウリュトス王である。ヘーラクレースはその恨みを晴らすためにオイカリアーを攻略した。そして妻としてもらうはずだった王女イオレーを捕虜としてとらえたのである。
     デイアネイラは、そもそもどうしてヘーラクレースがそんな戦を仕掛けたのか理解できないでいたのだが、捕虜として捕らえた王女のことを聞いて、猜疑心を抑えることができなくなった。
     もう自分に飽きたから、新しい妻を欲しくなったのか――その王女はまだ十五歳だという。これからますます美しく成長していく王女に対して、自分は徐々に老いさらばえていく。ただでさえ神の血をひくヘーラクレースは老いることを知らないかのように若々しいのだから、若さを失った自分などいつか捨てられてしまう……そう思い悩んだデイアネイラは、あのケンタウロスのネッソスの言葉を思い出した。
     ちょうど、戦勝を祝しての祭儀のために、ヘーラクレースに礼服を用意してやらねばいけないところだった。それならばとデイアネイラはネッソスに教えられたとおりに、礼服にネッソスの血を染み込ませた。
     そうとは知らずにヘーラクレースがその礼服を着ると、数分後にヘーラクレースは苦しみだした。礼服がピッタリとヘーラクレースの肌に張り付き、肌を焼き始めた。――ネッソスの血にはあのヒュドラーの猛毒が含まれていた(ヘーラクレースの矢に塗られていた)。その毒がヘーラクレースの肌を焼いているのである。
     ヘーラクレースは急いで礼服を脱ごうとしたが、その力で皮膚まで剥がれ、ひどい所は骨まで見えるほどになった。
     それを聞いたデイアネイラは、自分がネッソスにだまされたことを悟り、首をつって死んでしまった。
     ヘーラクレースは苦しみながら、死ねない体に猛毒が当たるとこうなるのかと、かつてのケイローンの苦しみを思い知った。この苦しみから解放されるには、死ぬしかない。
     ヘーラクレースは不死であるこの体を無くしてしまうために、家臣たちに火葬の準備をさせた。そしてその間に、デイアネイラとの間に生まれた長男ヒュロスを呼び寄せ、成人の暁にはイオレーを妻として娶るように約束させたのだった。
     火葬のための祭壇が出来上がり、ヘーラクレースは自らその祭壇に登った。そして家臣たちに火をつけるように命じたが、誰もそれをしようとはしなかった。そこへちょうど通りかかったのがテッサリアのメトーネーの領主ボイアースだった。ボイアースは事情を聞き、ヘーラクレースのもがき苦しむ姿を見、また尊敬する主に火をくべることなどできないと嘆く家臣たちの気持ちを察して、自分が汚れ役を買って出ると申し出てくれた。ヘーラクレースはボイアースに感謝して、エウリュステウスから貰い受けてからずっと大事にしていた弓を彼に贈った。
     こうして、ヘーラクレースは生きながら火葬にされ、人間としての肉体は失われた。だが、神としての霊魂は火葬の煙とともに天に昇って、アテーナーの手によって集められたのである。





       次回、最終回になります。

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  • from: エリスさん

    2010年08月20日 14時21分56秒

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    「ヘーラクレースの冒険・64」


     敬愛する主を失ったヘーラクレースは、新妻となったデイアネイラを連れて故郷に帰ることになった。
     その道中、雨で水かさが増して、橋もないので渡りづらくなった場所に差し掛かった。そこへ、ネッソスと名乗るケンタウロス(半人半馬)が通りすがった。一目で「英雄のヘーラクレース」だと分かったネッソスは、困っているなら奥方だけでも自分の背中に乗せて運んであげよう、と申し出てくれた。ヘーラクレースはその親切に感謝して、デイアネイラをネッソスに託し、自分は歩いて川を渡った……すると、ネッソスが急に速度を上げて水の中を走り出した。デイアネイラを誘拐しようとしたのである。
     「どうゆうつもりだ!」
     とヘーラクレースが叫ぶと、ネッソスはこう言い返した。
     「おまえも大事な者が失われる苦しみを知れ!」
     ネッソスはあのケイローンの弟子の一人で、ケイローンがヘーラクレースの毒矢で苦しみながら死んでいくのを看取り、埋葬した人物だったのだ。
     ヘーラクレースは今更ながらに自分のしでかしたことに後悔したが、デイアネイラが泣き叫びながら助けを呼んでいるのを見過ごすこともできず、ネッソスに毒矢を向けた。
     ネッソスの首に矢が刺さった時には、二人は川岸についていた。その時まだヘーラクレースは川の流れに足を取られて、前に進めなくなっている。その隙にネッソスはデイアネイラに囁いた。
     「わたしはあなたに一目ぼれしてしまったのです。だからこんな馬鹿なことをしてしまいましたが、せめて哀れと思ってくれるなら、わたしにあなたを守らせてください。わたしの血を布に浸し、それを取っておきなさい。万が一、あなたの夫が他の女に心変わりすることがあったら、この血を水に溶かし、その溶かした水に彼の衣服を浸して、その衣服を彼に着せれば、たちまち彼の心はあなたに戻ってくることでしょう」
     ピュアな心の持ち主であるデイアネイラは、ネッソスのこの言葉を信じてしまい、その通りにした。後にこれが大変なことになるとは露知らずに。

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  • from: エリスさん

    2010年08月13日 08時54分29秒

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    m(_ _)m

     タイトルを見ただけで、長年の読者様ならお察しくださるとは思いますが、

     本日は休載いたします。

     実は昨日、胃を痛めて寝込みまして。まだ本調子ではありません。先週痛めた腰の方も、まだちょっと尾を引いているので、今日は大事を取って休もうと思います。
     とは言え、職場にはちょっと顔を出さないといけないのですが――洗濯した3Dメガネ拭きを届けてあげないと、今日使う分がないそうなので(15枚ほど持って帰って洗濯していた)。
     なので駅周辺で私を見かける人がいるかもしれませんが、それはそうゆう理由です。11時前には家に帰って休養するつもりですので。

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  • from: エリスさん

    2010年08月06日 11時31分36秒

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    「ヘーラクレースの冒険・63」

     ヘーラクレースは初め、エウリュステウスが眠っているのだと思った。それぐらい表情は穏やかで、にこやかに笑っているようにさえ見えたのだ。
     だが王妃のミレーユは信じられないことを言った。
     「王は二度と目覚めません。すでに呼吸も止まり、体温も失われてしまいました」
     「そんな……嘘です」
     そう言いながらも、ヘーラクレースはエウリュステウスの手を握り、それが真実であることを認めなければならなかった。
     「なぜです……なぜなんだ、エウリュステウス!」
     ヘーラクレースは彼の手を眼頭に押し付け、その冷たさに涙しながら床に膝を突いた。
     「待っていてくれると約束してくれたじゃないか、わたしの帰りを! これからは友として一緒に過ごすと……」
     「その言葉は嘘ではなかったはずです」と、ミレーユはヘーラクレースの肩に手を置いた。「王も、あなたの帰りを待っていたかった。でも、もうお身体が……あなたが冥界から帰ってくる少し前から、もう危うかったのです。それを、ヘーラー女神さまのお力で延命していただいておりました。でもそれも、とうとう限界にきてしまったのです」
     ミレーユの言葉でさらに涙を覚えたヘーラクレースは、そのまましばらく号泣した。
     それも収まると、彼は涙をぬぐってこう言った。
     「葬儀を行わなければなりませんね。王の功績を讃えた華やかな葬儀を……わたしにお任せいただけますでしょうか? 王妃」
     その言葉にミレーユは首を振った。
     「いいえ、葬儀は行いません……王は亡くなられてはいませんから」
     「いったいなにを? 王は亡くなられたと、あなた様がそうおっしゃられたからこそ、わたしは……」
     「確かに私の夫であり、あなたの友人であるエウリュステウスは亡くなりました。ですが、この国の王は亡くなってはおりません」
     ミレーユがそう言っている間に、王子のテウスが部屋の中に入ってきた――頭に王冠を載せて。
     「この国の王は僕だ、ヘーラクレース。エウリュステウス2世――それが僕の本名だ。でも表向きは、エウリュステウス王はたった一人」
     「どうゆうことです!?」
     「それが!」とミレーユが叫んだ。「それがエウリュステウスの遺志なのです。神王ゼウスが宣言した“ペルセウス一族の長となる王”は、短命であってはならない。神の血を引く者はみな長寿だから、この病弱ゆえに早く死ぬことがあったら、王子を身代りに立てるようにと」
     「まあ、もともとは母上のアイデアだったんだけどね」
     と、テウス王子も言った。「だから僕は父と同じ名を付けられたんだ。父のもしもの時が来たときの“保険”として。でもできれば、そんな日は来ないでほしかった。父上にはずっと長生きしてもらいたかったけど……こうなったからには仕方ない。僕が父の振りをするよ。幸い僕や弟たちはあまり国民に姿を見せないようにしていたから、僕が父上の代わりになっても“王が少し若返った”ぐらいにしか見られないし、万が一バレそうになっても、そう言い訳するつもりだ」
     「しかしそれでは!」
     「いいんだ。僕がそれでいいって言ってるんだから、認めてよ、ヘーラクレース。父上は、自分を可愛がってくれた女神さまを尊敬していた。だから、女神さまの不名誉にならないようにしたかったんだ。あなたは知ってた? 神王ゼウスが宣言した本当の人物はあなただって。本当はあなたがペルセウス一族の長になるはずだったのに、女神さまがそれを憎まれて、まだ生まれるには早すぎる僕の父を先に生まれさせたって。そのおかげで父上は病弱になったらしい。でも父上はそのことを恨んではいなかった。そんなことより、女神さまのような方が自分を気にかけてくれるのが嬉しいって、僕によく話してくれてたんだよ。だから僕も、父上がこんなに早く亡くなられてしまったことで、女神さまを恨んだりはしない。僕の大好きな父上が尊敬する女神様なら、僕もお役に立ちたいんだ。だから、僕は父上の振りをする。僕は父上に――ペルセウス一族の長になる!」
     それまで床にへたれこんでいたヘーラクレースは、王子の言葉を聞いてしっかりと立ち上がった。
     「それならば、もう自分のことを“僕”と言うのはおやめください、王。あまりに子供っぽいですよ」
     「うん……そうだな。わたしは王らしく振る舞わなければならない」
     「はい、王……」


     こうして永眠したエウリュステウスは親族だけで密葬された。
     ヘーラクレースはエウリュステウス2世から、この国に留まらないかと誘われたが、世間的にはどうであっても、やはり自分がお仕えしていたのは亡き王だったのだからと、故郷に帰ることを選んだのだった。

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