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from: エリスさん
2010年12月24日 14時30分40秒
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今年はこれにて終了です
というわけで、今年の小説アップは今日が最後です。
皆さんも年の瀬で忙しいと思いますが、私も本職の映画館スタッフの仕事が超多忙になるので、許してください。
でも、小説ではなく雑談ぐらいはまだ書くと思いますので、その時はまた読んでやってください。
今年も残り一週間。
読者の皆様もお体には重々気をつけて、新年を迎えてください。
それでは、また(^O^)/-
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from: エリスさん
2010年12月24日 11時35分56秒
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「未来は視たくない・12」
ギリシア軍がトロイアに到着するまで、二年を要した――と、詩人たちは歌っているが、そんなはずはない。パリスがヘレネーを略奪してトロイアへ戻るまでに三日と要さなかったことを考えれば、ギリシア軍もそれと大して変わらない日数でトロイアに到着したはずである。
とはいえ、トロイアに上陸してからの戦乱は伝承どおり十年続いたようだった。
カッサンドラーは二十八歳になっていた。――王宮に帰っても自分の言葉は誰も信じてくれないので、もう何年も神殿に閉じこもっていた。だが、今日はどうしても王宮へ行かなければならない。それは、兄・ヘクトールが戦死したからである。
ギリシア軍の英雄アキレウスと一騎打ちの戦いを挑(いど)み、死闘の末アキレウスの槍に突かれて命を落とした彼を、初めギリシア軍はその亡骸を自分たちで始末してしまおうと、持ち去ってしまった――それまで何人もの仲間をヘクトールによって殺された怒りからである。だが、トロイアの王プリアモスが武装もせずに一人でギリシア軍の陣屋に訪れ、息子の亡骸を返してくれるようにと懇願したところ、子を思う老父の姿に胸打たれたオデュッセウスがアキレウス達を説得し、返してくれたのだった。
ヘクトールの葬儀の間は休戦することを誓い合い、しばし兵士たちも休むことができた。
カッサンドラーは久しぶりに兄と再会した……変わり果てた姿に涙するも、言葉は一言も発しなかった――自分の言葉が争いの種になることを、もう嫌というほど見てきてしまっているカッサンドラーは、このところ口をきくのをやめてしまっていたのだ。
それでも、ただ泣き続けるだけのカッサンドラーを見て、それほど悲しいのであろうと察した母ヘカベーは、娘の体をギュッと抱きしめた。
「悲しいのは分かるわ。でもあまり泣きすぎても、あなたが病気になってしまうわよ。だから、気をしっかり持って、涙を止めて頂戴、カッサンドラー」
「……お母様……」
「あなたは巫女なのだから、死の穢れに長く触れていてはいけないわ。誰かに送らせるから、もう帰りなさい」
ヘカベーがそう言うと、誰かが歩み寄ってきた。
「王妃様、わたしがお送りします」
ケレーンだった。彼もしばらくぶりに天上から帰ってきていたのである。
「まあ、ケレーン。あなたはもう、そんな身分ではないのよ」
とヘカベーが言うと、
「弟が姉を家まで送るのに、何の不都合があります。それに、わたしもあまり死の穢れに触れてはならぬと君様(アポローンのこと)から申し渡されているので、そろそろ帰らねばならぬのです」
「そう……ではお願いね、ケレーン」
「はい……」
ケレーンは、カッサンドラーの手を取る前に、ヘカベーの手を握って、こう言った。
「あなたに神のご加護を……」
「ありがとう、ケレーン」
カッサンドラーと二人で王宮を出ると、ケレーンは自分が乗ってきた天馬にカッサンドラーを乗せて、自分は手綱を引いて歩きだした。
「姉上、もう話しても大丈夫ですよ。わたししかいませんから」
ケレーンが言うと、カッサンドラーは大きくため息をついた。
「もう、この国に先はないのね……お兄様が死に、次は……お兄様の後を継いで総大将となったパリスが死ぬ……」
「でもその前に、パリスがアキレウスを射ち殺すのでしたね」
「ええ。母神の儀式によって不死身になったはずのアキレウスが、なぜかパリスに足首を矢で射られて、死んでしまうの……足首を射られたぐらいで、どうして即死するのか、まったく理解できないけど」
「そうゆう不可解な死も、英雄だからこそなのですよ」
「ますます分らないわよ」
「分からなくてもいいんですよ、神事にまつわることですから。それよりも……姉上、この先のことを考えてくれませんか?」
「この先?」
「もうすぐ戦争は決着します。姉上が予知したとおりに事は進み……トロイアが滅ぶ。でも、未来を変える手段もないわけではない。実際、姉上はそれをやってのけたことがあるでしょう?」
「私がアポローン様の求婚を断ったときのことを言っているのね。でも、この先どうすれば未来を変えられるのか……見当もつかないわ」
「とりあえず、小さなことだけでも変えてみませんか? トロイアの滅亡は諦めるとして、自分の命が助かるためには、どうしたらいいか、ということを」
「私だけ助かれって言うの!?」
しばらく二人の間に沈黙が流れた……。
やがて、ケレーンが口を開いた。
「ヘカベー様は、なんとか助かる道があります。父上は……残念ですが、国王ですからどうあがいても殺されます。後、わたしが救いたいのは姉上だけなんです」
「ケレーン……あなたが後宮でさんざんいじめられてきたのは知ってるけど、そんなこと狭量なことを言わないで。悲しくなるじゃない……」
「すみません……でも!」
「分ってるわ! 私はこのままでは、戦乱の中で兵士の一人に操を奪われ、ギリシア軍の奴隷として連れて行かれ……そして、死ぬ」
「そうなってほしくないんです!」
ケレーンは馬を止め、姉を見上げた。
「だから、未来を変えてください。決断してください、お願いです!」
するとカッサンドラーは悲しげに微笑んだ。
「考えておきましょう」
未来を変えるためには、どうすればいいか分かっている。分かってはいるが、それはあまりにも身勝手ではないか……そう思えて、カッサンドラーは一歩踏み出せないでいた。icon
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from: エリスさん
2010年12月17日 12時00分07秒
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「未来は視たくない・11」
このところプリアモス王は他国への使者としてアレキサンドロスを行かせることが多くなった。新しく見つかった王子を公に知らせるためである。アレキサンドロスも父の役に立てるのが嬉しくて、自分から喜んで出かけているが、一つだけ不平ももらしていた。
「物心ついたころから“パリス”と呼ばれていたので、アレキサンドロスなどと、堅苦しい名で呼ばれるのは好きになれません」
なので、アレキサンドロスのことは以後“パリス”という愛称で呼ぶことにする――と、プリアモスはわざわざ御触れまで出したのだった。
一方カッサンドラーは、パリスの様子をヘカベーやヘクトールなどから聞いて、今のところ変わった様子がないことに安心していた。
『私たちの作戦がうまくいったのかしら?』
このところケレーンが訪ねてきてくれないのが不安ではあったが、そのあいだ新しい予知も視ていないのだから、もう心配はないのかもしれない……と、カッサンドラーは無理にでも思おうとしていた。
そんなある日のこと。
パリスが使者として出向いていたスパルタから帰国した――その国の王妃を伴って。
「夫と子供を捨てて、わたしのところへ来てくれたのです。お願いです、わたしの妃として受け入れてください」
パリスの言葉にプリアモスとヘカベーは驚いたが……しかし、スパルタ王妃の美貌を見ては、こんな大それたことを息子がしでかしても無理はないと納得してしまう。それほど美しい麗人だったのである。
この知らせを聞いてカッサンドラーも王宮へ駆けつけた。
「駄目よ! この人をこの国に受け入れては駄目! 今すぐスパルタへ帰すのよ!」
カッサンドラーが叫ぶと、パリスは言った。
「姉上、これは運命なのです。美の女神アプロディーテー様が約束された世界一の美女とは、この人だったのです。だからこそ、彼女はわたしに付いてきてくれた。そうだよね? ヘレネー」
するとヘレネーと呼ばれたスパルタ王妃は答えた。
「はい、パリス様。私はあなた様と巡り合うために生まれてきたのです」
「なんてことを言うの、あなた!」
と、カッサンドラーはヘレネーに駆け寄って、その手を取った。
「人間として恥ずかしくないの? 夫と子を捨てて、若い男に走るなんて、倫理に反する行いよ!」
するとヘレネーは静かに首を横に振った。「いいえ、パリス様こそが運命の人。この方こそ、私の魂の半身……」
この時カッサンドラーは気づいた――ヘレネーの目の焦点が合っていない。この人は誰かに心を操られているのだ、と。その操っている人物は、間違いなく美の女神アプロディーテーだった。
『なんてこと! 女神はご自分の欲望のために、この女性の自我を奪ったの!? この女性の貞操も……』
カッサンドラーは悔しくてならなかった――たった一個の林檎と、つまらないプライドのために、この国が滅ぼされようとしている。
「姉上、お願いです」と、パリスはヘレネーからカッサンドラーの手を離させた。「彼女を認めてください。わたしたちは心底愛し合っているのです!」
「……そうね、迎え入れてあげなさい」
と、カッサンドラーは言った。
『彼女も被害者なのだから……』
スパルタ王妃ヘレネー――彼女はそもそも、ゼウス王神が、スパルタの前王テュンダレオースの妃レーダーと通じて産ませた子供の一人である。かなり神に近く、後年では樹木の女神として祀られている。それほどの人物なのだから人間界では突出して美しいのも無理はない。
そのため、ヘレネーが年頃になったころはギリシア全土から求婚者が殺到した。父親のテュンダレオースは、その求婚者の誰を選んでも後々に恨みを残し、スパルタ国に不幸が訪れるのではないかと恐れた。すると、求婚者の一人であったイタカ王のオデュッセウスがこう助言してくれた。
「ヘレネーが誰と結婚しようと、彼女は皆のものである――そういう誓いを立てさせるのです。そうすれば結婚を断られた者も傷つきはしない。そしてその証として約束するのです。“もしヘレネーに危険が及んだら、皆で救いに行く”と」
この助言のおかげでテュンダレオースは心おきなく婿選びをすることができ、最終的にヘレネー自身がメネラーオスを選んだ。これによりメネラーオスは入り婿としてスパルタの王となった。
そして月日が過ぎ、本当にヘレネーに危険が及んでしまったのである。
「ヘレネーがトロイアの王子にさらわれた! 今こそ、あの時の誓いを守ってもらうぞ!」
メネラーオスはかつての求婚者たちに使者を送った。それに真っ先に答えたのはメネラーオスの兄であり、ヘレネーの妹・クリュタイメーストラーの夫であるアガメムノーン(ミュケーナイ王)だった。彼はギリシア内でも相当な戦力を誇る軍隊の持ち主である。
「力を貸しに来たぞ、メネラーオス。我らでヘレネーを取り戻すのだ!」
アガメムノーンの力でギリシア全土から召集がかけられ、大軍隊が結成された。
トロイア戦争の幕開けだった――。icon
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from: エリスさん
2010年12月10日 09時43分58秒
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静養中。。。
毎度のことで本当にすみません。
ここしばらく喉の調子がおかしかったのですが、今朝はとくに悪く(うがいをしても痰が取りきれない)、呼吸をするたびヒューヒューと音をたてるので、今日は外出を控えることにしました。
食料とうがい薬だけは買いに出ないといけないので、その買い物だけは行きます。なので亀有周辺で私を見かけても、
「嘘つき! 元気じゃん」
とか、思わないでね。
そんなわけで、今日は休載しますm(__)m-
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from: エリスさん
2010年12月03日 11時16分00秒
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「未来は視たくない・10」
〈先ず、姉上は本来の予言を、神経を高ぶらせながら、オーバーに話してください〉
カッサンドラーはケレーンの言葉を思い出していた。
『私にできるかしら? 失敗したら、この国は滅びの道を歩むのよ……』
そうこうしているうちに、両親と兄が帰ってきた――予知能力で見た青年を連れて。
「あなたも喜んで、カッサンドラー! アレクサンドロスが帰ってきたのよ!」
ヘカベーが幸せいっぱいの笑顔でそう話しかけてくる……無理もない。生まれてすぐ「この子は国を破滅に導く」と予言され、泣く泣く捨て子にした子供が帰ってきたのだから。
「わたしも驚いたよ」とヘクトールも言う。「剣の試合の相手が、まさか生き別れになった弟だったとはね。母上が客席から“そなたの弟だ”と叫んでくれなければ、あやうく大怪我をさせるところだったよ」
「そうなのよ、最初は私も気付かなかったの。でも、この子が頭に巻いている鉢巻を見て、この布が私が自ら織り、アレクサンドロスを手放した時に巻いてやったものだと気付いて、それで分かったのですよ」
ヘカベーのそんな嬉しそうな顔を見ていると、カッサンドラーはますます辛くなってきた。今から自分は、この笑顔を消すようなことを言わなければならない。しかし言わなければ、この国が滅んでしまう!
カッサンドラーは意を決して口を開いた。
「いけません……この子を王宮に迎えては」
「何を言い出すのだ? カッサンドラー」
父王のプリアモスが不審がって聞くと、カッサンドラーは堰を切ったように話しだした。
「その子はこの国を破滅に導く運命を負っています! だからこの国の王子として迎え入れてはならないのです! この子はこれからも、羊飼いのパリスとして平凡な人生を歩まなければ、この国が――ひいてはギリシア全土が火の海と化すでしょう!」
〈もちろん、誰も姉上の言うことを信じてはくれません。そういう呪いがかかっているのですから〉
ケレーンの言うとおり、誰も信じるどころ一笑に付した。
「まあこの子ったら、何を言っているの?」とヘカベーは言った。「その運命ならば、アレクサンドロスは一度捨てられて、もう運命が変わったのですよ」
「そうだぞ、カッサンドラー」とプリアモスも言った。「何も心配することはないのだ。快く弟のことを受け入れてあげなさい」
「違うのよ、お父様!! 過去の神託ではなく、これから起こる未来の予言なのです! アレクサンドロスはこの国を破滅に向かわせるために送り込まれたのよ!」
〈姉上が激しく声を荒げて言えば言うほど、誰も姉上の言葉を信じなくなる。そこで……一つだけ嘘をついてください〉
「そしてアレクサンドロス自身も、河神ケブレーンの娘である精霊(ニンフ)を妻として、非業の最期を遂げるのよ!」
「いい加減にしないか!」と怒ったのはヘクトールだった。「我が家のことだけならまだしも、他家の――それも神の娘を娶って不幸になるなど、口が裂けても言うものではない! どんな罰が当たるか知れないぞ!」
「でも本当のことなのよ! 本当にこの子は、大して美人でもないオイノーネーという精霊を娶って……」
すると、ヘクトールはカッサンドラーの頬を叩いた。
「人の容姿をとやかく言うなど、最低の女がすることだ! おまえのような不遜な女の顔など、それこそ見たくはない! 下がれ! とっとと神殿へ帰れ!」
カッサンドラーはそれを聞くと、その場を後にした。
『これでいいの? ケレーン。オイノーネーに関することだけ嘘をつけば、アレクサンドロスはオイノーネーに執心して、美の女神が導く美女には目を向けなくなるの?』
〈100%の方法ではありません。誰もが姉上の言葉を信じず、逆らったことをする――その呪いを逆手に取るのです。そうすれば、彼はオイノーネーを愛するようになる……その思いが深ければ、他の美女が現れようと心奪われることはないのではないかと〉
カッサンドラーが視た未来だと、アレクサンドロスはオイノーネーと結婚しても、
「あまり美人ではない。運命の美女は他にいる」
と思って、すぐにオイノーネーを捨ててしまう。しかしカッサンドラーが「オイノーネーは大して美人ではない。結婚すれば不幸になる」と予言したことで、アレクサンドロスはまったく逆のことを思い、行動するはずだった。
上手くいけばいいのだが……。
数日後、プリアモスが河神ケブレーンに話をつけて、オイノーネーをアレクサンドロスの妻として迎え入れた。実際オイノーネーは美人ではあるのだが、カッサンドラーの予言により、皆は「かなりの美女である」と認識した。それはアレクサンドロスも例外ではなく、
「この人がアプロディーテー様が導いてくれた世界一の美女なのだ」
と思って、オイノーネーを大層慈しんだのだった。
幸せな夫婦生活を送っているのを見て、ヘカベーはカッサンドラーのもとを訪れた時、こう言った。
「あなたは私たちを驚かそうとして、あんなことを言ったの? まったく反対のことが起きて、おかげで私たちは幸せだわ」
なのでカッサンドラーはこう答えた。
「きっと私のとり越し苦労だったのです」
だが、不幸が訪れるのはこれからだった。icon
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