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from: エリスさん
2011年01月28日 12時48分30秒
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その後の話も書き終わって
来週はお休みさせていただきます。こちらに力を入れていたら、もう一方の「恋愛小説発表会・改訂版」がかなりおろそかになってしまったので、来週はそちらに専念したいと思います。
そして次回作ですが.....検討中ですが、とりあえず、不和女神エリスが人間界に転生している間の話を書こうと思います。ちょっと長い話しなうえに、舞台が日本なので、
「神話から離れすぎてる!」
というご指摘が出るかと思いますが.....すいません、今ちょっとネタがないんです。許してください。-
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from: エリスさん
2011年01月28日 12時39分34秒
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「未来は視たくない その後」
太陽神アポローンは、水鏡を使って斎王神アテーナーと話をしていた。
「それじゃアイアースはもう、海の藻屑に消えたのですね。……いえ、姉上が罰を与えたのなら、わたしから更に与えなくてもいいでしょう。……はい、ネオプトレモスに罰を与えたのはわたしです。ご存知ですか? あの小童は、自分の父親のアキレウスが死んだのは、わたしがトロイアに肩入れしていたからだと言い、わたしに復讐するとわめいていたのですよ。神に復讐するなど、とんでもない不遜です。罰を与えて当然です……はい、ではまた」
アポローンが水鏡の術を解くと、背後から声をかけられた。
「アポローン様」
声をかけたのはカッサンドラーだが、ケレーンとシニアポネーも一緒にいた。
「どうした? 三人そろって」
とアポローンが言うと、カッサンドラーとケレーンはその場に跪(ひざまず)き、アポローンの娘であるシニアポネーは父親のそばまで歩み寄ってきた。
「お父様にお願いがあって参りました」
「願いとは?」
「お願いとは」とカッサンドラーが口を開いた。「私の母のことです」
「ヘカベーのことか……そう言えば、今日だったな」
トロイア戦争が終結した後、トロイア王家の人間はギリシア軍の武将がそれぞれ捕虜として連れて帰ることになった。そのうち、ヘクトールの妻・アンドロマケーは、アキレウスの遺児であるネオプトレモスの捕虜となり、ネオプトレモスが十二歳になった時に妻になるように命令されていたのだが(この時ネオプトレモスはまだ十一歳)、そのネオプトレモスが先日、アポローンへの暴言により天罰がくだって死亡したので、晴れて自由の身になっていた。
そしてヘカベーはオデュッセウスの捕虜とされていたのだが、彼はヘカベーを自国へ連れて行く気は毛頭なく、ヘカベーの望む所へ送り届ける約束をしてくれていた。そこで、ヘカベーは長女のイーリオネーが嫁いだトラーキア国に連れて行ってほしいと頼んだ。そこにはトロイア陥落の直前に亡命させた末子のポリュドロスもいるはずである。
「ところが……カッサンドラーの未来予知によると、トロイアが陥落したことを知ったトラーキアの王ポリュメーストールが、このままポリュドロスを匿っていると己に害が及ぶのではないかと思い、ポリュドロスを騙して港に連れて行き、殺してしまう……」
アポローンが言うと、カッサンドラーは、
「はい、トロイアに援軍を送るからと、嘘をついて連れ出すのです。姉のイーリオネーにも同じ嘘をついています」
「そしてヘカベーは、ちょうど息子が殺されたのを目撃してしまい、相討ち覚悟でポリュメーストールに斬りかかって、殺されてしまうのだったな」
「そうです。それが、今日なのです」
「お願いです! 君様!」と、ケレーンは頭を下げた。「ヘカベー様をお救いください!」
「……そうだな」
と、アポローンは微笑んだ。「死んだことにしておけば、そのまま姿を消すのも同じこと。ただ、必然的にポリュドロスも救わないとならなくなりそうだが、それはいいのか? ケレーン」
アポローンの言葉に、カッサンドラーとケレーンは頭をあげた。
「ポリュドロスもお救い下されるのですか? アポローン様」
とカッサンドラーが聞くと、
「それも可能だ。だが、ケレーンはそれでもいいか? ポリュドロスも後宮の生まれ。そなたを苛め抜いた兄弟たちの一人ではないのか?」
「いいえ、ポリュドロスはわたしが後宮にいたころは、まだ生まれていませんでした。それに、実母が早くに亡くなったので、ヘカベー様が養母として引き取った子供だと聞いていますから、境遇はわたしと似ています。同情こそすれ、恨む心はありません」
それを聞き、アポローンはうなずいた。
「よし、分かった。ならば救いに行け! シニアポネー、わたしの弓矢を持って行け。そなたのより性能がいいからな、射ち間違うこともなかろう」
「ありがとうございます、お父様」
こうして、カッサンカドラー達はシニアポネーの空飛ぶ鹿車でトラーキアに向かった。すでにヘカベーは上陸し、王城に向かおうとしていたところだった。そこで、兵士を引き連れたポリュメーストールにポリュドロスが殺されそうになる、まさにその場面に出くわして悲鳴をあげたとき、ポリュメーストールの左目に黄金の矢が刺さった。
王がいきなり死んだのを見て、兵士たちが慌てふためいている隙にケレーンがポリュドロスを連れ去り、ヘカベーはカッサンドラーが鹿車まで連れて行った。そしてようやく兵士たちが我に返ってポリュドロスを追いかけようとするのを、シニアポネーは再び何本もの矢を放って彼らを脅した。
そして鹿車が空へ飛び立つと、もう兵士たちは追っては来なかった――神に準ずる者の仕業と分かれば、手向かうことなどできるはずもない。
無事に二人を救出したカッサンドラー達は、二人を天上のアポローンの神殿まで案内した。
ヘカベーもポリュドロスも突然のことで驚いていたが、それでもすぐに状況を飲み込めた。
「アポローン様でございますね。こうして拝顔いたしますのは初めてのことでございますが、この度の戦ではトロイアにご助力いただき、また、ケレーンがお世話になっていること、重ね重ねお礼の言葉もございません」
ヘカベーが平伏してしまうので、アポローンは自ら彼女の手を取って顔を上げさせた。
「命を助けることはできたが、本来死ぬべき運命にあった者を、もう人間界に帰すわけにはいかぬ。このまま天上で暮らしてもらうことになるが、異存はあるまいな」
「異存など! 滅相もございません」
「では、そなたにはわたしの孫の養育係を頼みたい」
「アポローン様のお孫様……と、言うと……」
当然、シニアポネーとケレーンの間に生まれた孫たちのことである。育ち盛りな上に、双子や三つ子もいるので、シニアポネーとカッサンドラーだけでは確かに子育ては大変なものである。
そしてアポローンはヘカベーに耳打ちした。
「カッサンドラーが忙しすぎて、わたしの相手をしてくれないのだ。だから、なるべく彼女の時間が空くように、協力してもらいたい」
その言葉にヘカベーは笑顔で答えた。
「わかりました。子育てならばお任せくださいませ」
――さて、問題はポリュドロスの身の振り方だが、その日のうちに片がついた。
軍神アレースが一人の少年を連れて訪ねてきたのだった。
「人間の少年を引き取ったと聞いたけど、俺に譲ってもらえないかなァ。この子の世話役を探していたんだ」
その少年の顔を見て、アポローンとシニアポネー、ケレーンは驚いた。
「エリスの子か!? あいつにそっくりじゃないか」
とアポローンが言うと、アルゴス社殿(ヘーラーの私邸)に仕えるシニアポネーは否定した。
「いいえ、エリス様の御子に、このような方はいらっしゃいません。姫御子(ひめみこ)さま達は皆様エリス様にそっくりですが、男御子(おのみこ)さま達はどなたもエリス様とは違う御顔立ちで……アルゴスにエリス様に似た男の子はいらっしゃらないのです」
「じゃあ、この子は誰なんだ? アレース!!」
するとアレースは意外なことを言った。
「この子はディスコルディアだよ」
ディスコルディア――とは、エリスの剣の名前である。
「俺が預かったエリスの剣が、意志を持って、人の形に変化したんだよ。ありえる話だろ? あいつのなら」
「確かに、あの非常識な奴の持ちモノなら……イテッ」
アポローンが痛がったのは、エリス似の少年・ディスコルディアが彼の手に噛み付いたからだった。
「僕のご主人様の悪口を言うな!」
「なんだと! 非常識を非常識と言って、どこが悪い!」
とアポローンが怒り出したので、シニアポネーとケレーンがなだめた。
「まあ、見ての通りなんだ」とアレースは苦笑いで言った。「人間になったばかりなんで、あまり行儀が良くない。なので、この子の傍にいて、人間らしさを教えてくれる、年の近い子供を探していたんだ。ケレーンの弟なんだろ? だったら身分的にも申し分ないし」
するとポリュドロスは笑顔で答えた。
「僕のような若輩者でよろしければ、御子様のお世話役、務めさせていただきます」
そうしてポリュドロスはディスコルディアの世話役になった。二人は主従というよりは友達の関係に近い仲になり、後にディスコルディアがエリスの後を追って人間界に転生する時は、ポリュドロスも近い場所に転生したほどである。そして二人は前世の記憶がないまま巡り合って、男性デュオとして芸能界デビューするのだが……それはまた別の物語で。
終。icon
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from: マルガスさん
2011年01月23日 19時09分38秒
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なるほど〜〜〜
失踪させるというのはどうでしょう?
なんだかワークショップみたいになってきましたが、一緒にストーリーの運びを考えるのも悪くないですね。いろんなアイデアを出して遊ぶことができる、ワークショップのいいところだと思います。
こういう場所は増やしたいですね。
追記
道化は「聖なるもの」に転化する可能性がある、と誰かが言っていたと思いますが思い出せませんね。-
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from: エリスさん
2011年01月21日 13時16分58秒
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「未来は視たくない 終了です」
賛否両論あることでしょう。
「伝説どおりにカッサンドラーが死んでない!」
当然出る意見だと思います。
そうです、マルガスさんのご指摘通り、私はカッサンドラーを殺したくなかったのです。
道化に映ろうがなんだろうが、カッサンドラーには純潔を守って生きてほしかった。どうしてそこまで私が彼女に思いいれてしまったか。
ここから先は言い訳です。
今から20年ほど前――私がまだ文化学院の学生だったころ、初めて私の小説の中にケレーンが登場しました、シニアポネーと一緒に。
その時のケレーンの設定は、ユーリィ王家の庶子でした。でもその後、皆さんもご存じの「罪ゆえに天駆け地に帰す」の執筆を始め、その主人公の女神エリスがシリーズを重ねるごとにヘーラーや、ヘーラーの神殿に仕える侍女たちと絡んでいき、当然のことながらシニアポネーとのつながりも濃くなっていきました。
そして、私が学院を卒業し、就職しながらも出版社に投稿を続ける年月が過ぎ、その間に、エリスの設定が少し変わりました。
「エリスが人間界へ転生する決意を固めたのは、トロイア戦争が始まる前にしよう」
読者の皆さんはすでに読んでくださっているでしょうが、念のために説明しますと、私の描くオリュンポス神話では、エリスは黄金の林檎を酒宴の席に投げ込んだ、その数日後に人間になるために冥界へ下っています。
その設定で行くと、ケレーンの出自がユーリィ王家ではおかしい。ユーリィ王家はトロイア王家滅亡後、その生き残りのアイネイアースがローマに渡って興す血筋だからです。なので、同時にケレーンの設定を変える必要がありました。
それでケレーンの設定が「トロイア王家の庶子」に代わりました。幸いなことに、プリアモス王には史実に残っていない子供が何十人もいると言われています。そして、ケレーンの兄弟としてヘクトールとカッサンドラーの存在が、私の中で急浮上してきました。
庶子であるケレーンを、慈しんでくれた優しい姉――という存在にカッサンドラーを置いたことで、運命どおり死なせてしまうのはどうだろうか……と、悩みました。実際そんなことになったら、ケレーンとアポローンの友情に亀裂が入りはしないかと……。
そうこう考えているうちに、
「フィクションなんだから、殺さない方向で書いてしまえ!」
という考えにいたって、こういう作品になりました。
完全に理解してくれ、とは言いません。伝説は伝説どおり描くべきだ、という意見は当然あるだろうと分かった上での、創作です。
来週は、この話のその後のこぼれ話です。icon
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from: エリスさん
2011年01月21日 12時49分02秒
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「未来は視たくない・14」
それから二日が過ぎていた。
カッサンドラーは自身と親類たちに起こる未来のすべてを、予知夢として見て、目が覚めた。
そして窓の外を見た彼女は、それがもう抗いようもないことだと思い知らされた――浜辺に、巨大な木馬が立っていたのである。
王宮でもこのことで大騒ぎになっていた。
トロイアの兵士がその木馬を調べてみると、腹の部分には「故郷へ帰るために、女神アテーナーに捧げる」と書いてあった。そして、木馬の足下に誰かが倒れているのを見つけた――シノンと名乗るギリシア軍の男だった。
シノンが語るところはこうだった――アテーナー女神に捧げる木馬を作れば、ギリシア軍に勝利がもたらされるという神託があった。それにより木馬を作ったところ、腹部に「故郷に帰るため」と書いてしまったがために、兵士たちは誰もが「今すぐ故郷に帰りたい」と言い出し、船に乗って帰ろうとし始めた。なのでシノンは「それは女神に対する不信心だ」と皆を諭したのだが、皆はそれを聞かず、「木馬を持っていれば勝利というなら、この木馬は大きすぎてトロイアの城門をくぐることができないから、永遠にトロイア王城の外にある。つまりそれはギリシア軍の勝利も同じことだ」と屁理屈をこねて、シノンを殴り飛ばして気絶している間に帰ってしまった。
それを聞いたプリアモス王は、ギリシア軍の不信心を軽蔑した。そして、この木馬を持っている者にアテーナー女神の加護があるというのならと、さっそくこの木馬を王宮に運び込むことにした。
シノンはこのプリアモスの信心深さに感じ入って、王に仕えることを願い出る。それをプリアモスも許してやるのだが……。
『そもそもがこのシノンの芝居。ギリシア軍は国に帰ってなどいない。あの木馬の中に潜んでいるのに……』
カッサンドラーはそう思ったが、何も言わなかった。どうせ誰も信じてくれないのだから、言う必要もない。
木馬は、城門の上につかえるほど大きかったので、城門を壊して中に入れられた。それを見届けたカッサンドラーは、そのまま神殿へと帰ってきた。
今晩にも片が付く……この国は滅亡し、自分も……。
どうしようもないことだと分かっている。分かっていても、怖い。
『会ったこともない男に汚される……アテーナー様の巫女として守ってきた純潔を。あの方にさえ差し上げなかったものを!?』
考えれば考えるほど、恐怖と悲しみで心の中がかき乱されていく。
『どうすればいい? どうすることもできない!』
カッサンドラーが一人苦しんでいる中、王宮では勝利の酒宴が始まった……それこそがギリシア軍のシナリオだとも気付かずに。
そして、深夜。
木馬の中から出てきたギリシア軍は王宮内に攻め入り、さらに狼煙(のろし)を上げて、岬に隠れていたギリシア船団を呼び戻した。
王宮はあっという間に陥落し、兵士は神殿にまで入り込んできた。
神殿に仕える女性たちが、次々に兵士たちに略奪されていく悲鳴が聞こえる――それを聞いた途端、カッサンドラーは衝動的に逃げ出していた。
『いや! いや!』
みっともなくてもいい。王女としての誇りも威厳も、そんなものはどうでもいいから、ただ逃げ出したかった。汚されたくない、というその思いだけがカッサンドラーを動かしていた。
なぜなら。
「いたぞ! 巫女のカッサンドラーだ!」
そう叫んだ男がいた――ギリシア軍のアイアースだった。
『あの男!? 間違いない』
自分を辱める運命を持つ男が、すぐそばに迫っていた。
カッサンドラーはアテーナーの神像の足下にすがりついた。
「アテーナー様!! お慈悲を!! 私は……」
アイアースの手がカッサンドラーの肩にかかった。
「私はアポローン様以外の男になど!」
その時だった――一筋の閃光がアイアースの頭部を貫いた。彼は仰向けに倒れ、失神していた。
そして、カッサンドラーを抱き上げる大きな腕があった……カツサンドラーが恐る恐る見上げると、間違いなく、太陽神アポローンだった。
隣には女神アテーナーもいた。
「そこな者! アイアースと言ったか」と、アテーナーは倒れているアイアースを呼びさしながら言った。「この純潔神の神殿での不埒な振る舞い、万死に値する!」
アテーナーの声で気がついたアイアースは、ことの状況を把握してその場にひれ伏した。
「後ほどおまえの率いる兵士ともども罰を与えてやる。今は即刻消えるがよい!」
アイアースはそれを聞くと、まだ痛む頭を抱えながら、兵士たちと逃げて行った。
そしてアテーナーはアポローンに言った。
「先に行っていて。私は、この神殿の中で辱めを受けた娘たちを集めてくるから」
「はい、そうします、姉上」
アポローンはカッサンドラーをギュッと抱きしめると、そのまま天上へと昇って行った。
雲の上に連れてこられたカッサンドラーは、アポローンの腕から下ろされても、まだアポローンのことを見つめていた。
「どうして、お助けくだされたのです?」
カッサンドラーが言うと、アポローンは微笑んだ。
「そなたがわたしを呼んでくれたからだ」
「でも!……私は、あなた様を……」
「振られたな、確かに。だが、嫌いになったわけではなかった。そうであろう? だから、わたし以外の男のものになりたくなかった。だから、助けを呼んでくれたのだろう? ……まあ、結果的に姉上に助けを求めたわけだが」
「すみません……」
「いや、無理もないから謝るな」
アテーナーが昇ってきたのは、ちょうどそんな時だった。
「姉上、どうでしたか?」
「大丈夫よ」とアテーナーは言った。「ヘーラー様のお慈悲で、みんな処女に戻していただけることになったわ。その上で、天上での私の侍女にしても良いとお許しが出たから」
アテーナーが話している間、カッサンドラーはキョトンッとしてしまった……話し方が、いつもとぜんぜん違う。
カッサンドラーの疑問に気づいたアテーナーは、微笑んで言った。
「人間に対しては威厳のあるところを見せなければいけないから、それなりのしゃべり方になるの。でも普段の姉弟同士の会話は、人間たちの兄弟の会話と大して変わらないのよ」
「ああ、そうなのですね。失礼いたしました」
「いいのよ。だからこれからは、あなたとも普通に会話がしたいわ」
アテーナーはそう言うと、カッサンドラーの手を握った。
「アポローンの妃になってあげて。この子ったら、いつまでもあなたのことを未練がましく想っていたのよ」
「でも、それは……」
「大丈夫。すでにあなたの未来は変わっている。そうじゃない?」
そう言われて、改めて未来予知をしてみる。それまでの運命は、アイアースに凌辱された後、ギリシア軍の総指揮であるアガメムノーンの捕虜・妾にされて、アガメムノーンの正妃にアガメムノーンもろとも殺されるはずだった。だが今はアポローンとアテーナーに救い出されたことで、アポローンとよりを戻すことが出来た。
その先の未来は……。
まだ予知をしている最中に、アポローンの右手がカッサンドラーの額に触れた――途端、今まで見えていた風景が消えた。
「もう未来を見なくてもいい。そんな力を与えてしまったことが、そもそもの間違いだったのだ」
アポローンの言葉に、カッサンドラーは素直にうなずいた。
「アポローン様、もし、お許しいただけるなら……」
カッサンドラーはアポローンの「恋人」になった……正式な妃になることは拒んだものの、アポローンの傍にいることを選んだのである。そして、ケレーンとシニアポネーの間に生まれた多くの子供たちの養育係に収まったのである。
「本当にこれでよろしかったのですか?」
シニアポネーに聞かれて、一緒に赤ん坊の産着を縫っていたカッサンドラーは笑顔で答えた。
「良かったのよ。実はね、かなり核心に近いところまで未来は見えたの。今後、誰がアポローン様の正妃になるか。だから私は、その女性を憎むことのないように――その女性を大好きになれるように、あなた達の子供の養育係になることにしたの」
「……つまり、それって……」
シニアポネーの戸惑いに、カッサンドラーは意地悪っぽい笑顔を見せた。
「どの子か、知りたい?」
「いえ! 遠慮しておきます」
カッサンドラーの予言どおり、シニアポネーが産んだ2番目の娘が、後にアポローンの正妃となる。それでもアポローンはカッサンドラーのことを粗略に扱うこともなく、正妃もまた伯母であり養育係でもあるカッサンドラーが夫の愛人であることを快く許したので、その後もカッサンドラーは平穏無事に暮らすことができたのだった。
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from: エリスさん
2011年01月16日 20時37分22秒
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from: マルガスさん
2011年01月16日 11時24分55秒
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あくまで印象ですが
カッサンドラが道化になっていませんか?
これは意図したことなのか、作者の無意識なのかいまいち判別できないのですが、僕の中でカッサンドラというのは、もう少しナイーブであり、生真面目な、現代風に言うと占い師か霊媒師のような性格の持ち主だと思っていたのですが。
これはエリスさんの願望なのでしょうか?-
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from: エリスさん
2011年01月14日 11時52分39秒
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「未来は視たくない・13」
もうそろそろなのだろう……と、カッサンドラーは思いながら、アテーナー神殿の拝殿にいた。天井に届きそうなほど大きなアテーナー像を見上げながら跪(ひざまず)き、カッサンドラーは祈りをささげた。
すると、天から当の本人であるアテーナー女神が降りてきて、彼女に声をかけた。
「何を考えておる」
カッサンドラーは驚いて、よろけそうになった。
「アテーナー様!? まあ、もう何年振りでございますか?」
「十年ぶりか?……この戦(いくさ)が始まってから、私はここに来なくなったからな」
「……やはり、トロイアをお憎みなのですね」
「無礼だとは思う、パリスを……だが、それだけではないのだ。あまり神がこの戦に参加してはならぬと、我が父からお達しがあったのだ。だが、その戦ももうじき終わる……だから、気がかりであるそなたに会いにきた」
「私が、気がかり?」
「そうだ。何を考えていた? 心が乱れていたぞ」
カッサンドラーは、どうせ心を隠しても、この御方には見破られてしまうと思い、隠さず話すことにした。
「ヘレネーのことを考えていました」
「ヘレネーのことを? なぜ」
「今日、弟のパリスが戦死しました。そうしたら、彼女にかかっていた呪いが解けたのです――本当に愛しているのは夫のメネラーオスであって、パリスではないと」
「そう……アプロディーテーめ、そのような呪いを掛けていたのか」
「はい。正気に戻った彼女は、途端に夫の元へ帰ろうとしました。王宮を出れば、向こうにはギリシア軍がおり、その中に自分の夫がいることも分かったのでしょう。でも、私の父がそれを引きとめました。今さら彼女を返すのは、トロイアの名誉に関わると」
「そんなことを言っているから、戦が終わらぬのにな」
「はい、そしてパリスの代わりに新しい後継者を選ぶことになりました。歳の順からもデーイポボスが相応しいということになったのですが、彼は欲深にもこう言い出したのです。“ならばパリスの妃であるヘレネーも譲り受けることにしましょう”と――その言葉にヘレネーは狂ったように拒絶しました。当然でしょう。それまでだって本当に愛していたわけではない男と、心を操られていた妻にさせられていたというのに、正気に戻った今、まるで物のように引き渡されてしまうだなんて……あんまりひどいと思ったものですから、私は弟の頬を叩き、罵りました。“女性の人格を無視した鬼畜の所業は、この私が許さない”と」
「それで、ヘレネーはデーイボポスの妻にならずに済んだのか?」
「はい。私の母も助言してくれたので、なんとかその場は納まりました。でも、夜になったら弟が寝室に忍び込んでくるかもしれないから、気をつけるようにと諭しておきました」
「ありえるな。しかしそなたも、ヘレネーのことを嫌っていてもよさそうなのに……ヘレネーの異母姉として、礼を言います」
「いえ、そのような!? あの……嫌っていた時期もありますので……」
カッサンドラーが気まずそうに俯いてしまうので、アテーナー女神は微笑んで見せた。
「無理もない。私もパリスのことでトロイアを嫌っていた時期がある。でもこれだけ月日がたってしまうと……やはり、慈しんできた者たちが気がかりになって、恨みも薄れてしもうた」
「アテーナー様……」
「カッサンドラー、そなたはこの戦のそもそもの発端は知っておろうな?」
「はい。女神の中の美女を選ぶ選者にパリスが指名されて、それでパリスがアプロディーテー様をお選びになったと」
「そう……あの時、パリスは選ぶべき女神を間違えたのだ。ヘーラー様か私を選んでいれば、こんな戦にはならなかった。普段からヘーラー様を敬わないアプロディーテーを選んでしまったから
ヘーラー様も私もお怒りになった。しかも選んだ理由が“美女をあてがってくれるから”などと、愚か者としか言いようがない理由だったのだ」
「はい、まったくでございます」
「あの時、パリスがヘーラー様を選んでいたら、パリスは世界の王になれた……世界の王ならば、いずれ美しい美女を手に入れることも可能だったはず。そして、神界の方でも王后陛下のヘーラー様が一番の美女と選ばれたのなら、あのアプロディーテーであっても文句は言えなかったのだ。すべて丸く納まっていた。
そしてもし、パリスが私を選んでいたなら、パリスは常に勝利する強い男になれた……女は、強い男に惹かれるものでしょう?」
「はい、アテーナー様。ですから、パリスはアテーナー様を選んでいたら、ヘーラー様を選んだ場合と同様、幸運が二つも舞い込んできたはずです」
「そう。そして、ヘーラー様なら私が一番に選ばれれば、誰よりも喜んでくれたであろう。誰かが異議を唱えても、すべてねじ伏せてくれたはず……あの方はそういう御方。だから、パリスはヘーラー様か私を選んでくれれば、トロイアのこの悲劇は避けられたのに、こともあろうにアプロディーテーを選んでしまった。それがあやつの不幸です」
「はい、まことに……」
カッサンドラーは、聞けば聞くほどパリスの存在が恥ずかしく思えた。そして、そんな愚かな弟を持ってしまった自分も、また不運なのだということを自覚する。
「しかし、起こってしまったものは、もうやり直しができぬ。ならばせめて、未来を変えるしかない」
アテーナーから思ってもみないことを言われて、カッサンドラーは戸惑った。
「そなただけは救いたいのです、カッサンドラー。だから……いざとなったら、願っておくれ」
「アテーナー様……」
「そなたが助けを請うてくれれば、私は全力でそなたを助ける。だから、恥も外聞も捨てて、その時は助けを呼んでおくれ」
「ですが……」
戸惑っているカッサンドラーの手を、アテーナーはしっかりと握った。
「これは、私だけの願いではないのだ。だから、聞き入れておくれ」
「…………他に、どなたが? あっ、ケレーンですか?」
するとアテーナーは首を振った。
「思い出してくれ。彼は……彼だけは、トロイアに味方していたであろう」
ヘクトールとパリスを庇護し、また、ギリシア軍の横暴に激怒して彼らに病原菌を撒いた神がいた――アポローンである。
それを思い出したとき、カッサンドラーの胸が高鳴ったのをアテーナーは見落とさなかった。icon
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from: マルガスさん
2011年01月08日 19時11分14秒
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あけましておめでとうございます
どうもはじめまして。
マルガスと申します。
好きな神話と神様と言われましても、大変困るのですが、あえて一人をあげるならば、昨年映画にもなりました『タイタンの戦い』に出てくるペルセウスですね。一緒に登場してくるメデューサも好きなんですが、10分ほど悩んでから、ペルセウスにしました。
キャラクターの魅力ってなんだろうって考えるんですけど、やっぱり強い奴にも弱さがあるというこのパラドックスというか両義性の保持なのではないかと思いますね。それは神話に限らず言えることなのかな、とも思うんですけど。
お体にお気をつけてくださいね。
P.S
最近、スマートフォンに買い換えたんですけど、スカイプ仲間がまだいません。よかったらどうでしょう?-
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from: エリスさん
2011年01月07日 09時44分42秒