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from: エリスさん
2011年03月29日 13時01分38秒
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「双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・8」
枝実子は三限目の授業の教室へ行き、バッグを置くことで席を取ってから食堂で柯娜と落ち合った。
「卒業制作、進んでる?」
柯娜に言われ、
「少しはね」と枝実子は答えた。
「いろいろと難しいわ。内容が内容なだけに」
枝実子が書いている卒業制作――「安らかに眠れ」は、飛鳥時代後半の天智天皇から天武天皇までの時代が舞台だった。天武天皇こと大海人皇子(おおあまのみこ)と額田姫王(ぬかたのおおきみ)との間に生まれた娘・十市皇女(とおちのひめみこ)がヒロインで、後に父親の政敵となってしまう大友皇子(おおとものみこ。後の弘文天皇)に嫁ぎ、彼との間に途絶えることのない想いを育てていく。歴史に翻弄され、苦しみながらも強く生きようとする姿。また、十市以外のキャラクターにも重点を置き、父の敵である天智天皇を愛するがゆえに苦しむ倭姫皇后(やまとひめのおおきさき)、政略のために最愛の人と引き裂かれてしまった額田姫王、敬愛する弟を死なせてしまった讚良皇女(さららのひめみこ。後の持統天皇)などの生き方を描くことになっていた。
「批判買ってるよ、私のは。努力しないでも書けるって……私だって悩みながら書いてるのに」
歴史小説など、資料さえあれば、想像力も創造力もなくも書ける――などという批判を耳にするたびに、枝実子の心が弱っていく。本当にそうかもしれない、と考えられるだけに辛い批判だった。
「せいぜい惨めな結果にならないようにするけどね」
「大変だねェ、って言いたいところだけど、気にしすぎじゃない? その批判って」
と、柯娜が言うので、
「そうでもないのよ。私、図書室に行くと万葉集とか日本書紀とかを読んでるじゃない? そうすると、変なやつって思いながら見ていく人がいるのよ」
「……う〜ん……気にしすぎのような気がするけどなァ」
「そう? でも、普通の子は読まないじゃない、万葉集なんて。だから、変わってるって言われても仕方ないのよね」
「ま、がんばってね。期待してるから」
頑張ってはいるつもりなのだが、行き詰まる――キャラクターの描写で一つだけ悩むところがあった。
愛するがゆえに憎悪する――倭姫皇后の心理。
『実際に自分が経験した恋しか語れないなんて、情けないよな』
早めに食事を終わらせて、枝実子は教室に戻ってきた。隣の席を見ると、お昼前には空席だったのに、今は誰かのバックが二人分置いてある。――見たことがあるバックだった。
『誰のだっけ??』
まっ、いいか。と、思って席に着く。それよりもやらなければならないことがある。
『詩ゼミの提出物、書かなきゃ』
この間の盗作事件のこともあり、今回の提出物はギリギリまで書かないことにしていたのだ。
そんな時、後ろの方から聞いたことのある話し声が聞こえてきた。あっ、と思ってチラッと見てみると、中庭から直接入ってこれるようになっているベランダに、麗子と、麗子の恋人・羽柴がいた。羽柴は昨年度の卒業生だが、仕事のない土曜日になると麗子に会いに来ていた。――彼は真田の友人である。
『すぐ傍に恋人がいる人はいいな……』
枝実子は羨ましくなってしまった。そして、羽柴がまだ在学していたころに書いた小説に、麗子のことを描写した習作があったのを思い出す。佳奈子女史も褒めていたぐらい、相手に対する想いが見え隠れしていて、麗子がより一層綺麗に描かれていた。
確かに、いま感じている恋はその時だからこそ描けるものがある。その気持ちは大事にしたいと思う。だがこれが、悲しい恋だったらどうだろう。すぐには描けないのではないだろうか。羽柴は自分が幸せだから、麗子への想いが描けたのだ。
そして、言語芸術を志す者なら、目の前で起きていることだけで世界を描いてはいけない。それでは想像力でも創造力でもない。
枝実子の筆名の基となり、枝実子が心の師と仰いでいるエミリ・ブロンテは、小説「嵐が丘」や詩などで、情熱的な恋物語を描いている。だが、彼女自身は恋愛経験は一度もない。すべて想像で描いていたのだ。――枝実子もそういう恋物語を書きたいと思っていた。
倭姫皇后の心理――それは、その第一歩だと思っている。
とりあえず……
『詩を書かなきゃ』
枝実子はまとめていたことを書き始めた。
さすがに三日も前に考えていたものは、書きあがるのが早い。麗子が声をかけてきたころには、もう見直しも終わっていた。
「こんにちは。ねえ。隣の……席、空いてないのね」
麗子は枝実子の隣を覗き込みながら言った。
「食堂から戻ってきたら、誰のだか知らないけど置いてあったの」
「見たことあるわね。知り合いかなァ」
「かもね」
「じゃあ、後ろ座ろう」
麗子は枝実子の後ろの席が空いていたので、そこに座った。枝実子も授業が始まるまで、麗子の方を向いておしゃべりをすることにした。icon
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from: エリスさん
2011年03月29日 12時02分39秒
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先日、変なメールが届きました
「削除完了」という件名で、infomation@xxgg●●●gggggiiiii3333333gnnnnn.net(そのまま書くと誤って読者様がクリックしてしまうかもしれないので、一部伏字にしました)というところから届いたのですが、私にはなんのことやら「?????」状態で、とりあえず今日まで放っておきました。
それで久しぶりにネットカフェに来たのでネット検索してみたところ、いろんな人のところに届いている迷惑メールだということが分かりました。
特にジャニヲタのところに届いているとか.......はい、納得です。ジャニーズ関係のWebサイトにも登録してますし、ネット販売でキンキキッズのDVDなども買ってますから、そこら辺から私のアドレスが漏れたんでしょう。
それにしても、この震災の直後に迷惑な話だ。とりあえず着信拒否にしておきましたが、それでも駄目ならメアド変更するので、その時は関係者の皆様、お手数かけますがよろしくお願いします。-
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from: エリスさん
2011年03月25日 11時00分29秒
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節電よりも切なる物
今日は給料日なのですが…………………………。
仕方ない、地震のせいで一週間も仕事が出来なかった上に、2月は28日までしかなかったのだから。
我が家にパソコンがない私としては、ネットカフェに行く回数を減らすしかありません。
今日は休載し、来週は金曜日にならないうちに更新したいと思います。-
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from: エリスさん
2011年03月17日 16時16分50秒
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木曜日なのに
いつもより一日早く更新しました。
というのも、私が勤務している映画館――ただいま休業中なのですが、土曜日から営業再開することになりまして、なのでその前日である金曜日に急な出勤になるといけないので、今日更新することにしたのです。
一週間は長かったです.......。
地震で被害にあわれた人はもっともっと辛い目にあっていることは、重々承知なんですが、それでも、この一週間「仕事ができない」苦しみと虚無感は、本当に辛いとしか言いようがなかったんです。
なんかもう、母が死んだばかりで引き篭もりになってしまった昔に、戻ってしまったような恐怖感があって...。
なので、仕事復帰できることが本当に嬉しいです――不謹慎だと分かっていても言わせてください。本当に嬉しくてしょうがないんです。
「冬は必ず春となる」
私が崇める日蓮大聖人の言葉です。本当にこの言葉だけが支えでした。
早く、誰の元にも春が来てくれるといいな、と思っています。-
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from: エリスさん
2011年03月17日 16時06分46秒
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「双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・7」
章一はそこに置いてあった紫水晶のペンダントロットを二つ手にとって、自分に見せてくれた。二つ並べると、不思議と模様がつながる。こんなにごちゃごちゃと置いてある中で、こんな偶然はありえないことだった。
へえ、としか枝実子も答えられない。
「これ、買おうよ」
「え!?」
「一つずつ持ってようよ。いいだろう? やっと逢えるようになった記念にさ」
章一がレジから戻ってくるまで、枝実子はなんだか胸がドキドキした。
『同じペンダントを持つ。乃木君と私が?』
こんな経験はまったくの初めて。年齢に似合わず、乙女っぽいときめきにクラクラする。
小さい包みを二つ持って戻ってきた章一は、一方を枝実子に差し出した。おそるおそる枝実子が受け取ると、クスッと章一が笑う。
「なに赤くなってるの?」
「え?……そう?」
「僕と君の間で遠慮はなし。もう高校生じゃないんだから」
――もう、無理して別れていることもない……――この言葉の意味が、枝実子にはまだよく分からない。
枝実子はその日、どうしても自分は章一のことを忘れることができないのだと、思い知らされた。それを知った真田が、男としてのプライドを傷つけられたと思うのも無理はない。
『私の生き方を認めてくれた男の人は、彼だけだった。私の文学・芸術、宗教論、哲学、人間としての誇り。それらに意見できたのは彼だけ。そして、彼自身も優れた人材。芸術家でもある』
枝実子も霊感はある方なのだが、章一はそれ以上で、霊的体験も豊富で、自分なりにそれらの研究もしていた。また演劇も好きで、歌舞伎研究部にも所属していた。(男子部に演劇部がなくて、仕方なく)
『乃木君、今どうしてる?』
紫水晶を握り締めながら考える。
「ミャ?」
景虎は、主人の膝の上に乗って、見上げていた。どうしたの? と言っているようだ。
「なんでもないよ、景虎。心配しなくてもいいから」
枝実子は景虎のことを抱きあげて、頭をなでてあげた。
2
色あせた紫色の袋には、片桐家の家紋・丸に桐の葉。取り出された刀の鞘は白く、未だ輝きは褪せず。
枝実子は、片桐家に伝わる宝刀を手にしていた。――嫡男でありながら、家督を継がず、三男に譲った枝実子の父に、祖父がこれだけは持っているようにと手渡した物である。嫡男である証であり、ゆくゆくは孫に当たる枝実子の兄に託そうとの意図からであった。
だが、もっぱらこの刀を気に入って眺めているのは枝実子だった。
「古めかしい物って好きだから」
もう何百年もたっているのに錆付かず、刃こぼれ一つしていないのが不思議で、切れ味も衰えてはいないようだった。
なぜ切れ味まで分かるかというと……。
時折、枝実子は庭に下りて練習することがあった。――まず、紙を手に持って、スッと刀をあててみる。その時はうまい具合に切れるのだ。
だがしかし。
紙を高くほおり投げて、両手で刀を握り、斬りかかる。
“バサッ”
紙は切れるどころか、悲惨な折り目を付けただけだった。
『な、情けない……』
斬りかかったそのままの体勢で枝実子は思う。――紙を切るだけでも、意外と難しいのである。父が刀剣の免許を持っているので、自分も本格的に剣道を習いたかったのだが、許してもらえず、独学(?)でやっているのだ。うまくいくはずがない。
そんなときだった。
「あんた、またそんなことやってるのッ!」
縁側から母親が柄の悪い声で怒鳴った。
「朝っぱらから、おっかない事してんじゃないよ。早く学校行く仕度しな!」
「まだ時間あるわよ」
「いいから、そんなもの仕舞っちゃいなッ。そんなもの、なんの役に立つ。刀なんかもらうより、お金もらえばよかったんだ」
お金なんかいらない、と言うこともあるのに、変なときにお金がほしいなどと言う。おかしな母親だった。――親だから、軽蔑することも許されない。
父親はとうに出かけている。仕事は休みなのだが(土曜日だから)、釣りなどの道楽にあけくれている。昔は日本舞踊に手を出して、苦しい家計をなお苦しめたと母親が嘆いていた。――片桐家の家督は継がなかったのではなく、継げなかったのではないかと憶測できる。枝実子にとって、血のつながった他人。唯一、肉親だと認められるのは異母兄の建(たける)だけだった。
「枝実子、銃刀法違反になるといけないから、そろそろ仕舞ったらどう?」
「うん……そうする」
「で、景虎どこ行ったか知らない?」
「たぶん私の部屋だよ」
枝実子が縁側から中に入って、一緒に部屋へ行くと、言ったとおり景虎が枝実子のクッションの上で丸くなって寝ていた。
「ちょうどいい、このまま持っていこう」
「絵のモデル?」
「実物見たほうが描きやすいから」
兄の副業は同人漫画家だった。
『うちの兄妹は趣味がよく似てるよ』
枝実子の小説も、絵が描ければ漫画にした方がうける作品が多い。
建が絵を描くのも、枝実子が文芸に通じているのも、片桐家の血筋のおかげだと父親がよく自慢げに言う。落ちぶれた戦国武家――その血筋に頼ってどうしようというのだろう。今はしがない農家だというのに。
だがしかし、この落ちぶれた一族のおかげで後に助かることになろうとは、枝実子は思ってもみなかったのだった。icon
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from: エリスさん
2011年03月12日 18時26分10秒
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from: エリスさん
2011年03月12日 03時31分33秒
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読者の皆さん、ご無事ですか?
皆さん無事ですか?
私は東京に住んでいるのですが、携帯電話が復活したのが夜中の2時で、ようやく兄・三菜斗岬(木堀ZO)とも連絡が取れました。
今日は私が勤務する映画館も営業休止になってしまい、自宅待機してます。-
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from: エリスさん
2011年03月11日 14時33分06秒
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「双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・6」
机に向かっても、ペンが進まない。
一人になると、やっぱり考え込んでしまう。
――誰が、なんのために――
眞紀子じゃなければ、真田も考えられる。だが、真田が果たして、思い出したくもない枝実子の作品を盗作するだろうか?
『結局は、自分がまいた種、よね』
そんな時、首筋で何かが動いているのを感じた。なにかと思って前を見ると、机の上に愛猫が乗っていて、首に下がっていたペンダントにチョンチョンと、爪を立てずに触っていた。
「こらこら、だァめ」
白黒の虎猫・景虎(かげとら)は、枝実子に向かって可愛らしく返事をする。
「遊んであげるから、おいで」
枝実子が席を離れると、景虎も机からおりて、枝実子が転がしたボールにじゃれだした。子猫ということもあって、見ていて可愛い。このころは何にでもじゃれつきたい時だ。
枝実子は、景虎がさっき触っていたペンダントのことを思い出して、それを手にしてみた――さほど細工などされていない、ただ磨かれただけで、天然石にありがちな白い筋の入った、紫水晶(アメジスト)。
彼とペアの――枝実子の、温かな思い出。
高校時代、図書委員会に所属していた枝実子は、同じく図書委員で、共に男子部と女子部の委員長を勤めた相手に想いを抱いていた。いや、今も慕っている。その彼――乃木章一は、枝実子のことを親友だと言ってくれ、理解もし、助力もし、頼もしいパートナーだったが、恋愛感情とはまったく無縁の少年だった。彼は、枝実子の想いを知っていて、応えることをしなかった。
「嫌いじゃない、それだけは信じて。でも今は……今はまだ、傍にいられない」
「どうして、どういうことなの!? 嫌いじゃないなんて言われて、忘れられると思ってるの? 乃木君!」
高校を卒業して、章一のことを忘れようとして、他の人を好きになろうとした枝実子は、今の専門学校で特に個性の強い青年を見つけた。それが真田である。
容姿に劣等感を持っている枝実子なだけに、その恋の駆け引きは容易ではなく、相手は名うてのプレイボーイということもあって、精神的に疲労を感じたこともあった。真田は真田で、枝実子のようなどこにでもいそうな普通のタイプは、物の数にもならず、他の綺麗な女生徒からの告白ばかりに耳を傾ける。
もう相手にされない――そう思った枝実子は、去年の秋、章一に会いたくなって、文化祭の招待状を彼に送った。――もう会うことはないだろうと思っていた、絶対に来てくれないと覚悟しての行動だった――それなのに、彼は来てくれた。
「相変わらず男っぽいんで、安心したよ」
章一はそう言って、枝実子を少々怒らせた。
「悪かったわね、女らしくなくて」
「君らしくていい、って言ったんだよ」
「……喜んでいいんだか、悲しむべきか」
「喜んでよ、とりあえず」
「まあ、あなたが相手じゃ、無理に女らしくしても、図書委員の時に下品なのはバレてるけど」
「無理に男っぽくしてたのもね」
よ、読まれてる……と、枝実子は額を押さえたい気分だった。
二人が文化祭の帰りに寄ったところが、鉱物展をしていた。化石や銅の原石、何種類もの水晶を展示していて、アクセサリーの販売もしていた。
「エミリーって、鉱石好きだったよね」
「好きよ。特に紫水晶は。私の……乃木君も二月生まれよね。だったらあなたにとっても誕生石なのよ。誕生石はその人にとって守護石。地中深くで眠っていたころから大地のエネルギーを吸収し、蓄え、それを私たちを守るために使ってくれるの……なんてね。勝手な思い込みだけど」
「でも、アクセサリーって昔は魔よけのために付けてたんだよね。特に水晶や翡翠(ヒスイ)は霊的に優れた宝石だって聞くけど」
章一とだと、この方面の話が進んで楽しい。だから彼に惹かれたのだろうか……。
二人でしばらく見て回っていると、章一が枝実子の袖をつかんで、足を止めさせた。
「エミリー、これ見て」icon
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from: エリスさん
2011年03月04日 15時06分27秒
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「双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・5」
> 「今日はあなたへの戒(いまし)めよ、エミリー」
> と、佳奈子女史は言った。「相手がどうやって、あなたの作品を盗み見たのか知らないけど、あなた自身にも隙があったからこそ、付け入られたの。たるんでる証拠よ。二度と狙われることのないように……嵐賀エミリーの世界は、嵐賀エミリーにしか描けないのよ」
> 枝実子は、力なく返事をするしかなかった。
今日の作品が盗作だと見抜いていながら、それでも隙を作った枝実子を戒めるために、わざと発表するなんて……あの若さで小説家と講師をしているだけのことはある。摘み取るのではなく、踏みつけて伸し上がらせる――麦を育てるように、生徒に教えていく。世間の冷たさを。
『思い知らされた……確かに、私自身に隙があったから、あの作品を盗まれたんだ』
だが、誰が?
どうやって盗んだのだろう。まだ誰にも見せたことのない作品を……そして、カール如月とは? 何故この名を?
「次ィ、エミリーの番だよォ」
有馬柯娜(ありま かな)の声で、我に返る。
目の前にマイクが向けられていた。――カラオケボックスに来ていたのである。
「あっと……え〜っとォ……」
なにを歌うか全く考えていなかったために、どぎまぎの答え。
向田瑞樹(むこうだ みずき)も、ピタピタっと軽く枝実子の頬をたたいた。
「あんた、さっきからなに考え込んでんのよ。せっかく憂さ晴らしに来てるのに」
「ごめん、瑞樹ィ……ちょっとあってさ」
「聞いた、麗子(かずこ)さんから。盗作されたんだって? 悔しいのは分かるけど、だからっていちいち落ち込んでないで」
「それじゃ、瑞樹。あなたは自分が付いていた役を降ろされて、他人に取られてしまったら、悔しくない?」(瑞樹は演劇専攻)
「……確かに、悔しいね」
「でしょォ?」
そこで鍋島麗子(なべしま かずこ)が言った。
「いったい誰がエミリーさんの作品を盗んだのかしら。それも十八番(おはこ)作品よ」
「だよねェ。王朝物語を書くのは、ゼミでもエミリーだけだって、みんな知ってるんでしょ?」
柯娜が言うと、瑞樹は、
「こう言うのを、大胆不敵、って言うのよ。いったいどうやってその作品を盗んだんだか。誰にも見せたことなかったんでしょ」
枝実子はそれに頷いた。人に見せるどころか、ワープロに入力しただけで、人に見せられるものではない。
「ワープロに?……もしかして、ストーリー設定とかも?」
瑞樹はなにか気づいたらしく、機種は? と聞いてきた。
「オ○○ス 30LXよ」
「富○通のワープロ専用機だね。それってワープロ通信できるよね」
「うん」
すると、瑞樹はしばらくして言った。
「ハッカーだ」
「ハッカーって、他人のコンピューターに入り込んで情報を盗んだりする、あの?」
柯娜の問いに、瑞樹は頷いてから言葉を続けた。
「エミリーのワープロに何とかして入り込んで、設定をコピーしたんじゃない?」
だがそれに、枝実子は首を振った。
「ワープロ通信は確かに便利だから、兄貴にも利用するように言われているんだけど、やっぱりハッカーとすっていうのが怖くて、通信回路はまだ接続してないんだ」
それじゃ、他から入り込むことはできない。何だか、ますます謎を呼んでしまったようだ。
「それに、どうして私を狙ったか……盗作するだけなら、なにも私じゃなくてもいいわけでしょ」
枝実子の言葉に、私怨だね、と瑞樹も言う。
「エミリーに恨みを持つ人間の仕業――心当たりは? エミリー」
ないわけではない。だが、それは思いたくなかった想像である。――もし、偶然自分と同じストーリーを描き出せたとして、枝実子の癖、そのシリーズの内容・人物設定、時代背景、すべてを把握している者でなくてはできない。――“雅シリーズ”を良く読んでいた人物でなければ。そして、カール如月の筆名――嵐賀エミリーと名乗る前に、いくつか筆名の候補として上げていた名で、最後まで競っていたことを知っている人物は……。
「エミリー……眞紀子さんのこと考えてるでしょ?」
瑞樹の言葉にハッとする。
「まさか、彼女はそんなことする人じゃないわ」
『そこまで、心が荒んでいるわけが……』
ない、と思いたい。
枝実子はこれ以上考えるのが恐ろしくなって、
「時間もったいないから、歌おう!」
と、曲の選択を始めた。枝実子がそういうのだから、皆もその方が彼女のためにもいいと思うので、はやしたてた。
「なに歌うの?」
柯娜が聞くので、リストを見ながら、なんでしょう、とおどけてみせる。
「えェ〜っと、〈お〉で始まる歌手は……」
ページを開いて、曲目を捜していた枝実子は、きっかり一分間沈黙してしまった。
どうしたの? と麗子に聞かれて、ようやく口を開き、
「どうして……」と言って、頭を抱えて叫んだ。「どうしてカラオケボックスには、男○○組の曲が一曲しか入ってないんだァ!」(それほどカラオケボックスの曲目が多くなかった時代で、さらに彼らが新人だったから)
「ちょっとエミリー! あんたこの間までチ○ッ○-ズファンだったでしょうに!? いつから転んだ!」
「転んじゃいないわ。両方好きなのォ」
「こォの浮気者ォ!!」
枝実子と瑞樹が仲良く喧嘩を始めたので、あんなのは放っておこう、と残り二人は自分達の曲選びをして歌いだした。icon
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