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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2011年06月24日 15時07分45秒

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    「双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・15」
     練習を終えて、帰りにみんなで食事をすることになった。
     そこで枝実子は瑞樹に言った。
     「ありがと、私にジュノー譲ってくれて」
     すると瑞樹は微笑んで、
     「エミリーが本当はやりたがっていたの分かったし、娘役の柯娜との釣り合いを考えたら、私よりは年上に見えるエミリーのがいいと思って」
     「アハハ (^o^;」
     「ねえ、もしかしてエミリーって、ジュノーに何か特別の思い入れがあるの?」
     柯娜に言われて、枝実子は素直にうなずいた。
     女神ジュノー――ギリシアではヘーラー(Hera)と呼ばれ、ゼウスの正妃であり、同父母から生まれた姉にあたる。産褥分娩(さんじょくぶんべん)、結婚を司り、女性の守護神でもある。六月・Juneは、女神の別称Junoから来ていて、それゆえに六月の花嫁は幸せになれると言われている。だが、しかし。ヘーラーは一般には嫉妬深いおばさんのイメージで描かれることが多い。
     「それは無理もないよ。夫の愛人とはいえ、憎い女を熊に変えちゃったり、罠にはめて殺したり、度が過ぎると思うところも多々あるから。でも、伝説なんてどの程度本当のことか分かったもんじゃないし、私はこの女神様、もっと素敵な人なんじゃないかって思うの。他の浮気がちな女神と比べて、夫に一途で、でも負けてなくて、プライド高い女神だったことは確かよ」
     そして限りない慈悲に満ち満ちていて――と、枝実子はヘーラーを語った後いつも思う。そんな証拠はどこにもないのに。
     懐かしい感覚に、おそわれる……。
     「きっと、前世はギリシア人だったのかもね」
     と、枝実子は笑って付け加えた。



     闇から現れた彼女は、懐かしい声でこう言った。
     「お願い、死んで。私のために」
     枝実子は悲しく首を振る。
     「そうしてあげたいけど、出来ないわ。私はまだやることがあるもの」
     だが彼女は、枝実子に詰め寄りなおも言う。
     「もう十分生きたでしょ? 私の心をこれ以上苦しめないで。お願いだから、この世からいなくなって」
     潤んだ瞳が、枝実子をおそう。
     「お願い、エミリーさん。お願いだから」
     「ごめんなさい、それだけは……それだけはできないのよ。私は自分からは死ねない。あの御方との約束なのッ」
     「私よりも大事なの。どうして死んでくれないの、意気地なし!」
     泣き叫ぶ彼女から、視線が逸らせない……。
     「なぜ黙っているの。私にこんなことを言わせて、あなたはなぜ、自分の美学のためだけに生き恥をさらしているのッ。あなたは生きていてはいけないのに、あなたが死ななければ、私のような不幸な人間が増えるばかりなのに!」
     「言わないで!! もう何も言わないでよ、眞紀子さん!!」
     次の瞬間、目の前にはあの和服の美人が立っていた。
     「一つの欠点もなかった彼女の心を汚したその罪も、万死に値することながら、御身の存在だけで、今までどれほどの人間が苦しみ、心を醜くしていったことか。他人には理解できぬ宗教論などのために、卑しくも生きながらえているとは、惨めで愚かな生きざまよ。少しでも恥じる心は持たぬのか?」
     「どうして、あなたがそんなことを言うのッ。いったい何者ッ」
     「それは、御身が一番に存じていなければならないこと。それなのに分からないとは、惨めな頭の作りをしていること」
     「人をおちょくんのもいい加減にしろッ」
     「いい加減にするのはどちら? いい加減に、こんな世など去ればよい。御身は……」
     和服美人がまだ何か言おうとしていると、あたりを物凄い速さで光が覆った。――隠そうとしているように。銀色に広がった光の向こうを見ると、小さく薄紫の人影が見えた。
     澄んだ声が聞こえてくる。
     《激動の時代、揺れ動く世界の中で、平穏を保とうとする地に、自ら刑に服するために不和の女神降り来たれり》
     ――不和女神降来(ふわにょしんこうらい)――
     枝実子はどこかで聞いたその声、その言葉を、何度も繰り返し思い出す。
     気がついた時には、いつものように寝床の中にいた。

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  • from: エリスさん

    2011年06月17日 14時40分59秒

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    「双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・14」


                  3


     次の週の火曜日。その日は、枝実子が所属する演劇研究会の活動日だった。その年の文化祭で公演される劇の練習である。
     演出は会長である向田瑞樹。そして脚本は嵐賀エミリー――枝実子だった。
     ギリシャ神話を題材にした話で、キャストは三年生を中心に構成される。中でも枝実子は最後までもめにもめてジュノー(神々の王ジュピターの正妃)になった。初め枝実子は、自分のような醜女が女神様の役などできない、と言い張り、ジュノーは瑞樹にするべきだと主張したのだが、瑞樹の演出家としての命令で、決定してしまった。
     今日は枝実子と柯娜が演じる場面を徹底的にやることになっていた。その中には枝実子の腕の見せ所、独唱のシーンがある。枝実子は幼いころから音楽教室に通っていたので、歌唱力は声楽科の講師も舌を巻くほどだった。
     今回の舞台で使う曲は、すべてストーリーにあうように、世間でも有名になっている曲を替え歌にしたものだった。詩は個人個人で作ってもらった。
     枝実子が歌う場面は二箇所。そのうち独唱は枝実子が替え詩を作った――メンデルスゾーンの「歌の翼に」で。

     ♪  “女神の想い”
      コバルト色した 広い空映す
      海を眺めれば 神の御座(みくら)で
      暁の女神は薔薇を翳して
      月の女神は竪琴 奏で
      王の嫡妻(むかひめ)は思い出 歌う

      青い鳥は 君の御使(みつか)い
      御心(みこころ)を伝えに オリンパスから
      永久(とこしえ)の愛を二人で誓う
      共に歩もう と この大地を
      共に眺めよう と この空を

      今宵も君を待つ
      一人静かに
      神酒(ネクタル)の 昔の夢を
      涙にかえて

      愛し我が君              ♪♪

     歌い終わると……
     「この歌、自分でも気に入ってるでしょ」
     瑞樹に言われ、「もちろんよ」と枝実子は答えた。
     「メロディーがね」
     「だけじゃないでしょ。詩も気に入ってるはず。表情がいいもの。やっぱり、あんたをジュノーにして正解だった。ジュピターへの……一人の男への執着、情熱。夫の愛人への嫉妬――こういうのって、実際に感じたことのある人の方が分かるでしょ?」
     「私にそういう気持ちがあるとでも?」
     「ないとは言わせないわよ。未だに乃木君のこと……」
     枝実子はそう言われて、紅くなってしまった。確かに章一のことは執着していると言われても無理はない。
     「でも、嫉妬っていうのはなかったわよ」
     「乃木君にはなかったかもしれないけど、他にもさ」
     言われてみて、ああなるほど真田さんのことね、と思い出しているぐらいだから、枝実子は呑気なところがある。



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  • from: エリスさん

    2011年06月17日 12時46分51秒

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    久しぶりに映画に関する話

     久しぶりに映画に関する話をしましょう。
     6月11日から「ゴーカイジャー ゴセイジャー スーパー戦隊199ヒーロー大決戦」が公開されました。それによって前売り券の販売も終了したので、ようやく話せる話です。
     前もって説明しておきますと、前売り券というのは「公開前日まで販売することのできる映画鑑賞券」のことです。主に映画館やコンビニ、そしてチケットぴあなどのチケット専門店で販売されています。――金券ショップで「もう映画が公開されているのに“前売り券”という名称で販売されている券」がありますが、あれは――映画館やチケット専門店では売れ残った前売り券を配給元に返品するのですが、それをどうゆうルートなのか知りませんが仕入れてきて、販売しているようです。元々が前売り券の売れ残りなので「前売り券」という名称で販売してますが、映画が公開されてしまったら「前売り」の定義から外れてしまうので、本来は違う名称で売らなければならないものだ――と、数年前にうちの上司が言っておりました。
     横道にそれましたが――この「スーパー戦隊199ヒーロー大決戦」の前売り券には、前売特典というものがついていました。最近は映画ごとにいろいろな前売特典がついているものなのですが、この作品では、歴代の戦隊ロボットと、歴代のレッド(アカレンジャーとか、シンケンレッドとか、ゴーカイレッドとか、戦隊のリーダーのこと)のマグネットが付いていました。スーパー戦隊35作品が勢ぞろいとあって、かなり見ごたえある前売特典だったのですが、一箇所だけ落ち度がありました。

     「バイオマンのロゴが欠けてしまっているので、必ず修正シールをつけて販売してください」

     販売元からそういうお願いが届いて、私は思わず噴出しました。

     「よりによって“あの”バイオマンですか!」

     私のこの驚きを理解できたのは、上司の中でも30代から上の人たちだけでした。
     そして前売り券の販売が始まり、私たちフロアスタッフ(グッズ売り場を兼任している)は、スーパー戦隊の前売り券を販売する際、
     「こちらの前売特典は、“バイオマン”の文字が欠けてしまっているので、販売元から修正シールが付いております」
     と必ず説明していた――すると、子供さんと一緒に前売り券を買いに来た親御さんは、大概爆笑したものだった。

     私の後輩たちは、お客さんたちのそういう反応を、
     「“バイオマン”の“バ”の文字が“ヾ”(こんな感じ)になってしまっているのを面白がっているのかな?」
     と思っていたようです。

     そして無事に映画が公開されて、私はようやく特撮好きの後輩とそのことについて話すことができた。

     「実は、“バイオマン”が放送されていた当時、イエローを演じていた女優が失踪してしまったのよ」
     まだ二十二歳である彼は、めちくちゃ驚いていた。


     私と同世代の皆さんは覚えておられると思うが、バイオマンのイエローフォー交代劇はかなり異様なものだった。急に素顔のイエローフォーこと小泉ミカが出てこなくなり、そして戦死後の葬儀も変身後のイエローフォーのまま埋葬された――普通、戦死した時点で変身が解けて小泉ミカに戻るところだが、そうならなかったのだから、いくら子供でも「おかしい」と気づく。
     実は演じていた女優が急に行方不明になってしまい、仕方なく話をつなぐためにイエローフォーはスーツアクターが演じ、声は声優の田中真弓が代役を勤めた。
     幸いバイオマンの設定は、「大昔に飛来した宇宙人が、地球人の中から5人選んでバイオ粒子を与え、いつか来る征服者から地球を守れるようにした」というものだったので、つまり「バイオ粒子を与えられた者の子孫だったらバイオマンになれる」ということで、新しいイエローフォーを探し出すという話につなげていったわけである。

     その曰くありの作品のロゴだけが欠けてしまったのである。知っている人間は、
     「なんの因果だ!?」
     と思わずにはいられない。

     「え?? もしかして、東映さんの狙いですか? 戦略?」
     という後輩の驚きに、
     「いや、偶然だろうけど、なんか結びつけて考えちゃうよね」


     それにしても、あのイエローフォーの女優さん、未だに見つかっていないんですよね。いったいどうしちゃったんでしょうね。

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  • from: エリスさん

    2011年06月03日 14時18分35秒

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    「双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・13」
     「エミリーさん、落ち着いて」
     半狂乱に陥っても無理もない状況。だが、枝実子が人に見苦しい姿を見せるなど、普通なら考えられないことだ。それだけショックが大きいのだろう。
     それを嘲笑し、喜ぶ人間は大勢いる。
     「提出日に遅れたって?」
     その声に、枝実子は体が硬くなった思いがした。
     麗子がキッと振り返り、言った。
     「あなただっていつも遅れてたじゃない。誰にだってこんなことはあるわ、真田さん」
     「他の奴ならね。けど、その女のプライドがそれを許すなんて、落ちたものだ」
     枝実子はついカッとなって、振り向き、言った。「あんたに言われたかない!!」
     真田は鼻で笑った。「汚い言葉だな。俺に対してはいつも敬語だったのに。……そうやって気位がズタズタになっていくのを見られるようになるとはね」
     愉快そうな笑い声。
     それが響くごとに相手が傷ついていくのを、もちろん分かっていて、彼は冷たい仕打ちを続けていくに違いない。


     神経が高ぶって、休めない。
     絶対にありえないことが、現実として目の前に起きている。――自分が書く物とまったく同じものを書く、もう一人の人間がいる。
     そして、藤色の和服の美女。
     枝実子は、気を落ち着かせようと、自分の箪笥の一番下にしまってある片桐家の宝刀を取り出して、見ていた。
     いつもだったら、洗練されたその静けさ漂う雰囲気に、心を落ち着かせられるのだが、今日はそれでも駄目だった。
     あの一つ紋を見てしまったから……。
     いま目の前にある宝刀を包んでいた紫色の袋には、あの美女の和服の紋と同じものが刺繍されている――丸に桐の葉――近江守護職・佐々木家から別れ、戦国時代には上杉家に仕えた士族。古い家柄であることは、一族の中に親鸞(しんらん)に帰依して出家した者がいたという記録があることからもわかる。鎌倉時代以前から続いている家系なのだ。そのことを、あの美女は知っていた。
     『どうして、頭痛がしたんだろ』
     枝実子は考える。美女の手が近づき、頭の中を何かが駆け巡ったような感覚がした。あれはいったい、なんだったのか。それに、
     「また、つまらぬ物を書いたのですね」
     と、彼女はすぐさま言った。あれはどうゆうことなのか。
     そもそも、こんな奇怪なことが起こるようになったのは、あの美女と会ってからだ。彼女とこの出来事は必ず何らかのつながりがある。おそらく、彼女がカール如月なのだ。だが、彼女が何者なのか、何のためにこんな事が起こるのか、そこら辺が分からない。
     眞紀子がこのことに関わっていなければいいのだが。
     『私を恨んでいるのは、眞紀子さんだけではないわ。真田さんも、他にもたくさん……いいえ、他人ばかりではない』
     枝実子は鞘を払い、刀の刃先を自分の胸に近づけた。
     『自分自身を恨んでいないと、言える?』
     あなた自身が変わらない限り、謝罪されたくない――眞紀子の言葉どおり、自分は人間とは言えない人間なのかもしれない。そんな自分をなぜ好きになれる?
     『自分自身を殺したいと、思わなかったと言えば嘘になる……でも、自ら死ぬことはそれこそ罪なことだから、今まで生き恥を晒してきたけれど……そんな言い訳をしながら、本当は死にたくないのかもね。臆病だから』
     そう思い、刀を元に戻す。
     『カールか皿儀、私をどうしたいの?』
     見えない答えを探し続けても、むなしいだけだった。


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