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from: エリスさん
2012年12月14日 13時29分20秒
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そろそろ年末と言うことで.......
今年の小説アップは、今日で終了です!
ご存知の通り映画館に勤務している私は、明日から「ワンピースZ」「妖怪人間ベム」というビッグタイトルの映画が公開されるに伴い、かなり激務になってしまいます。合わせて、主婦代わりとして家のこともやらなければならないので、小説はしばらくお休みです。
でも、ブログはちゃんとつらつらと書き連ねて行きますので、そちらは引き続きお楽しみください。
年明けの小説アップは、何日から始められるか、まだちょっと分かりません。でも、書きあがり次第アップしますので、皆さん、見捨てずに待っててくださいね。-
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from: エリスさん
2012年12月14日 13時19分38秒
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つないだその手を離さない・13
アルゴス王城の後宮の3階南側に、イオーの部屋はあった。隣はいずれ生まれたばかりの妹姫の部屋になるはずだか、今は空いている。レシーナーは1階に住んでいる。よって、イオーの部屋の周りは誰も住んではいなかった。(王子である兄弟は本城で暮らしている)
時折寂しく思う時もあるが、今日のように一人で落ち着いていたい気分の時には、静かで助かっている。
しかし今日は、そうっとしておいて欲しいのに、来客が多い日だった。皆、イオーが心配で見に来てしまうのである。
「イオー様、美味しいお菓子があるのだけど......」
そう言って部屋を覗きに来たのは、兄嫁のメーテイアだった。
「ありがとう、お姉様。いただきますわ」
「そう? では、失礼して......」
メーテイアが入ってくると、その後ろに兄のヒューレウスもいた。
「ええっと......わたしもいいかな?」
「どうぞ、お兄様。ただいま、お茶を淹れますね」
「いや、すまないね、イオー」
兄夫婦をテーブルに着かせると、その向かい側でイオーはティーセットでお茶を淹れた。
「私ね、この国にお嫁に来て、一番初めに感心したのが、皆さんがそれぞれ自分の好みのティーセットを持っていて、しかも自ら淹れるってことでしたの。普通は侍女たちに任せますでしょ?」
と、メーテイアが言うと、ヒューレウスは、
「祖母がお茶好きだったんでね、それで、父と、嫁いできた母も感化されて、こうなったのさ」
「素敵なことですね」
ヒューレウスもメーテイアも、なんとかして話題を作ろうとしていた。少しでもイオーの気分を上向きにしようとしているのである。
それはイオーも分かってはいるのだが......。
「どうぞ、お兄様」
と、イオーはヒューレウスに、カップの足の部分を持って差し出した。するとヒューレウスは「ありがとう」と、イオーが持っているカップの足の、それでも上の方を持とうとしたところ、イオーと指が触れあった。
イオーは咄嗟に手を引っ込め――まだちゃんと受け取っていなかったヒューレウスはカップを落として、テーブルにお茶が広がってしまった。
熱いお茶のしぶきが、ややヒューレウスに掛かったが、そんなことよりも、ヒューレウスは心が痛かった。
「何故だ......わたしはおまえの兄だ。おまえを襲うはずもないのにッ」
「ごめんなさい、お兄様......でも」
イオーは震える指先を抑えながら、怯えていた。
「分かっている......分かっている、分かっている! すべてはおまえのせいじゃない! おまえのせいではないが......」
「あなた......」と、メーテイアはヒューレウスをなだめた。
「ごめんなさい......ごめんなさい、お兄様! 私も、どうしたらいいか分からないの!」
そこへ、レシーナーが入ってきた。
「もう、それぐらいにしてあげて......ヒューレウス、焦っては駄目よ」
「母上......」
ヒューレウスは目の端に浮かんだ涙を、グッと手の甲で拭った。
「ごめんなさい、メーテイア殿も。せっかくお見舞いに来てくださったんだけど、イオーと二人にしてもらえるかしら」
「はい、お母様......あなた、行きましょう」
メーテイアに促されて、ヒューレウスは部屋を出て行った。
そしてレシーナーはイオーの傍に行くと、椅子に座って、イオーを抱き寄せるのだった。
イオーは母親の膝の上に乗って、しがみついた。
「可哀想なイオー......前世の記憶さえ思い出さなければ、こんな辛い思いはしなかったものを......」
「お母様......」
「でも......あなたは強いのね」
思っても見なかった母の言葉を聞いて、イオーは少し離れてレシーナーのことを見た。
「あなたはその辛い記憶を消そうとはしなかった。覚えていなくては、周りの人たちが辛い思いをするからと......私は、そんなこと思いもしなかったわ」
「......どうゆうこと?」
「私も前世のあなたと同じ目に遭っているんですよ。17歳の時に、叔父にあたる男から無理矢理......私はそれで正気を失ってしまって。父はそんな私を見て、敵討ちに行き、相討ちとなって亡くなりました。それを知った私はますますおかしくなってしまって、それでヘーラー様が辛い記憶を消してくださったのですよ」
「そうだったんですか!? 私――前世の私は、そんなこと全然知らなくて......」
「私自身が記憶していなかったのですもの、あなたに打ち明けるはずもないわ。それでもね、男性に対する恐怖心は消えていなくて、今のあなたのように男性恐怖症になってしまったの。そんな私を救ってくださったのが、エリス様よ」
「エリス様が?」
「ええ......初めは、母に頼まれて私を愛人にしてくださったそうなんだけど、それでも溢れる程の愛情で私を包んでくださって、少しずつ、私が男性に恐怖心を持たなくてもいいように慣らしてくださった。そして私がもうすっかり大丈夫になってからも、心変わりすることなく、私を愛して下さった。だから私は、こうして今も生きていられるのよ」
「エリス様の事は、良く覚えています――と言うより、思い出しました。あの頃のレシーナーさんは本当に幸せそうだった。エリス様もレシーナーさんをとても大事にしていることが、傍目にも分かって、私はとても羨ましく思っていたの。だから......ゼウス様に手込めにされて、その記憶を消された後も男性に対する恐怖が消えなかった私は、親友の恋人だって分かっているのに、エリス様に憧れる気持ちをどうすることもできなくって......告白してしまったの」
「そうだったわね」
「あの頃の私を、レシーナーさん......お母様は疎ましく思わなかったの?」
「少しも。エリス様はそれだけの御方よ。何人もの女性があの方に恋せずにはいられない、素敵な御方だった。だから、前世のあなたがエリス様を好きなんだと打ち明けてくれた時も、無理もないって思ったのよ」
「嫉妬もしなかったの? エリス様、生まれ変わった私と恋人になって下さるって言ってくださったのよ」
「親友と愛する人を共にするのも、悪くないものよ」
「そんな......そういう風に思えるってことは、お母様はそれだけ、エリス様に愛されているって自信を持っていたからだわ。どんなことがあっても、自分は捨てられることがないって、余裕な気持ちがあったから、嫉妬もしなかったのよ」
「そうよ......だから、立ち直れたのよ」
「そうね......つまり、そうゆうことなのね」
イオーはレシーナーから離れて、窓辺まで歩いて行った。
誰かが傍に居てくれれば、立ち直れる――辛い記憶も和らげることができる。
『私にとって、それは、誰?』
イオーの気持ちを察してか、レシーナーも窓辺まで来ると、娘の肩に手を置いた。
「もう、分かっているのではないの? 自分は巫女だから、とか、禁忌だから、とか。余計なことは考えずに、自分の胸に手を置いて考えてごらんなさい」
「お母様......」
「大丈夫。自分の気持ちに素直になってみなさい」
優しい母の言葉に、イオーは空を見上げながら、ゆっくりと思い返していた。
頭から埃だらけになっていたアーテーは、湯殿に入ると服のままお湯を被った。
ちょうどそこへ自分もお風呂に入ろうとやって来たアンドロクタシアーは、妹のおかしな行動を見て、
「何をやっている? そなた」
と、声を掛けた。
「あっ、お姉様。私、急いで綺麗になりたいの。埃だらけなんですもの」
「だからって、服のまま洗わなくても」
「服も汚れてるから。あれ? でもなんか、服の中もごろごろしてるかも......」
細かい石が服の中にも入りこんでいて、お湯を被ったことでそれが皮膚に張り付いてしまい、不快感を覚えたのである。
「何をやっているのだ、本当に......」
アンドロクタシアーは呆れつつも、いったん湯殿から出ると、通りかかった侍女に声を掛けた。
「すまぬが、アーテーの着替えを持ってきてくれぬか。あと、なにか甘い飲み物を」
「かしこまりました」
そして湯殿に戻ったアンドロクタシアーは、自分の衣服を脱いでから、濡れたために脱ぎづらくなった服をなんとか脱ごうとしている妹の手を貸してあげた。
「まったく、何をそんなに慌てておる。着替えも用意していないとは」
「服は濡れても、空を飛んでるうちに乾くかなって思って」
「どこかへ行くつもりだったのか?」
「うん! 今すぐ会いたい人がいるの!」
「だったら......」
と、アンドロクタシアーは微笑むと、シャンプーを手に取って、アーテーの頭にかけ、泡立てた。
「急ごしらえではなく、ちゃんと身だしなみを整えていかねばな。相手に対して失礼にあたる」
「はい、お姉様」
「......良かったな。そんなにも会いたい人が出来て」
「お姉様は? お姉様にもいるんでしょ?」
「私は......私は、良いのだ」
アンドロクタシアーは頭だけでなく、アーテーの背中も流してあげた。
「さあ、綺麗になった。行っておいで」
「うん。ありがとう、お姉様」
真紅のキトンを身に着けたアーテーは、もうすっかり夜の闇に包まれた空の中を飛び立った。――アンドロクタシアーはそれを薄着のまま見送り......寒さを覚えて、また湯殿の中に戻って行った。
アーテーは人間界へ降りて行き、アルゴス王城を目指した。
後宮の三階の一部屋にだけ、ほのかな明かりが灯っている。
『間違いない! あそこに......』
アーテーは窓から中に入った。
そこに、小さな明かりだけでベッドに腰掛けて佇んでいた、イオーがいた。
「誰!?」
暗すぎて、イオーにはすぐにアーテーの事が分からなかったようだが、アーテーが翼を髪に戻す呪文を唱え始めたことで、彼女だと分かった。
「アーテー様!」
「イオー!」
二人は互いに駆け寄りあって、しっかりと抱き合った。
「イオー、会いたかった! 会いたくて仕方なかった!」
「私もです、アーテー様」
「ホント?」
「はい! 私、私は......恐れ多くも、アーテー様を......」
イオーの前置きがもどかしく思えたアーテーは、イオーの唇を自身の唇で塞いだ。
その途端、アーテーの身長が伸び、曲線豊かな大人の女性へと変化した。
「愛してるわ、イオー。今宵、私の妻になりなさい!」
「はい、アーテー様。どうぞ私をお受け取りください」
アーテーはイオーを抱き上げると、ベッドまで運び、横たわらせた。
「アーテー様......」
「大丈夫......恐れないで」
アーテーは先ず自分が一糸まとわぬ姿となり、ゆっくりと、優しく、アーテーの衣服を脱がせた。――アーテーは恐怖どころか、幸福を感じていた。
それでも恥ずかしさで顔をそむけ、左手で口元を隠していると、その手をアーテーの右手が取り、シーツに押し付けるように手を握ってきた。
「恥ずかしがらないで。イオーは綺麗だよ......」
「アーテー様こそ......気付いておいでですか? 今、大人のお体になっておられるのですよ」
「うん......大人じゃないとできないことをするんだもの。だから体が成長したんだね......私の"初めて"が、イオーで良かった」
「私も......」
二人は互いに引き合うように、唇を重ねるのだった。-
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from: エリスさん
2012年12月07日 14時02分49秒
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つないだその手を離さない・12
「ガイアを祖とする我々一族には、一つの厄介な宿命があるのさ」
ヘーパイストスは瓦礫を拾いながら言った。
「宿命......ですか?」
アーテーもヘーパイストスが拾い集めた瓦礫をさらに砂にまで破壊して、器に入れていた。あとでそれをヘーパイストスが開発したセメントに混ぜて、壁を一から作り直すためである。
「そう......子宝には恵まれるのだが、同じ相手とは子を成すほど後から生まれて来るものは神力が弱くなるか、神力は強くとも醜い化け物として生まれてくるようになる」
「そんな......」
「実際にそうなのだよ。私の所にいるキュクロープス兄弟はガイア様が御産みになった末子なのだが......アーテーは会ったことはあったかな?」
「大おばあ様のところに新年のご挨拶に伺った時に、叔父様と一緒にいらしていたのを一度だけ」
「そうだな......見た目は化け物だっただろ?」
「そんなことはないですよ。手先が器用な優しいおじ様たちで、私たち兄弟姉妹はみんな、おじ様たちが大好きになりましたもの」
「ありがとう。わたしもおじさん達と最初に会った時は同じ印象を持ったが......大概の人は、あの一つしかない目と、大きな体から恐怖を覚えてしまうものらしくてね――それでおじさん達は、実の父親であるウーラノス様に奈落の底に落とされてしまったんだ」
「酷い話ですね」
「まったくね......まあ、それは置いといて。ガイア様はお子が多かったわけだが、その御子達の何人かは、末に行くほど怪物に近い子供を儲ける傾向にあったんだ。その条件として"子を成す相手が常に同じ"もしくは"子を成す相手が近親者"ということでね。だから、父上も母上との間に子供を作るにあたって、それを恐れていた」
「でも、おばあ様との間に怪物なんて生まれてないじゃありませんか」
「そうだね。でも、もう兆候はあったんだよ......へーべー姉上の時にね」
「......神力が弱いってことですか?」
「そう。姉上は、青春を司る女神ではあるけれど、自分が青春を謳歌しているところを披露することで、見ているものにも幸福感を分けてやっているだけで、直接誰かをどうこう出来るわけではないのだよ。それでも姉上が女神としての地位を保っていられるのは、姉上の作る神酒が神力増強の力をもっていて、神々はいざという時それがないと大変に困るからなのだ」
「神力は弱くても、才能でカバーされてるんですね。素敵です!」
「そうだな。そうゆう神酒を作れるようになるまで、かなり努力は重ねられたと思うが......しかし、生まれたばかりの姉上はとにかく神力が弱いだけの子供だった。だから、父上はもう母上とは子供が作れないと思い込んでしまった。それで、他の女たちに手を出すようになったのだよ」
「でも、叔父様とマリーター叔母様が生まれているではありませんか!」
「そう――母上は、父上に子供を作ることを拒絶されて、しかもそれを理由に他の女たちに手を付けるので、お怒りになって御一人で子供を作ることにした。おまえたちの母親のエリスと同様、単身出産能力を使ってね」
「え? 叔父様って陛下の御子では......」
「父上と呼ばせてもらっているが、わたしとマリーターは母上が御一人で作った子だよ。そうやって母上は、自分はまだ子が産めることを証明したかったんだけど、結果、わたしもマリーターも神力が弱かった。それで母上も自分が子供を産むことは諦めたのさ」
「それで、陛下は好き勝手浮気のし放題ってわけですか」
アーテーは忌々しくなって、手に持っていた瓦礫を握りつぶして粉砕した。「でもだからって、怪物が生まれてくることを恐れるのなら、そもそも御子を儲けなければいい」
「そうもいかなかったんだよ。いずれ、そう遠くない未来に世界の災厄がやってくる。その時までに、世界を救う力を持つもの――ゼウスの子孫を多く誕生させなくてはならない、と父上は思っておられたから」
「だからって、まだ幼い少女を手込めにしていい理由になんかならない!」
「その通りだ、まったくね......もうその器はいっぱいだから、今度はこっちに入れなさい」
ヘーパイストスは手品のように金ダライを出して、アーテーの前に置いた。
「とにかくあの頃の父上は、まるで狂っているかのように次から次へと、女神、人間関係なく手を出していた。一番手を出したのは人妻かな? 夫のいる女なら、その夫が"神の子を賜った"と殊勝な心がけで生まれてくる子供の面倒を見てくれるからね。このあと来るヘーラクレースもそうやって生まれてきた子供だから、彼が来たらこの話はもうしてはいけないよ」
「はい、気を付けます」
「うん――しかし、父上はあの日を境に考え方を改めたのか、さっぱり女遊びをしなくなった。もう、自分が直接子供を作らなくても、自分の子孫が満ち満ちていることに気付いたんだろうね。そして、災厄から世界を救うのは自分の子孫ではないことも悟ったんだろう」
「あの日って?」
「エリスが――おまえの母上が精進潔斎に入ると決めた日だよ」
「それって、つまり......」
「つまり、世界を崩壊から救うのは......」
ヘーパイストスはそこまで言いかけて、何かに気付いた。
「ああ! 遅いと思ったら、そんなところに隠れてた!」
まだ片づけていない瓦礫の影に、キュクロープス兄弟のプロンテースとステロペース、そしてへーべーの夫のヘーラクレースが隠れていた。
「いやぁ、なに。会話の邪魔をしてはいけないと思ってね」
と、プロンテースは頭を掻きながら言った。
「いつからそこにいたの? おじさん達。ヘーラクレースも」
「ガイアの一族は怪物が生まれやすい、ってところからだよ」
と、ステロペースが言うので、
「始めからですか......」と、ヘーパイストスは呆れた。「だったら隠れてなくても」
「わたし達が目の前にいない方が話しやすいだろうと思ったんだよ」
と、プロンテースが言うと、ヘーラクレースが言った。
「手込めによって生まれたわたしも、居ない方が良かっただろう?」
「そうですね......表現の仕様によっては悪口になりますからね」
「事実だから仕方ないがね」と、ヘーラクレースは大きな瓦礫を肩に担いで持ってきて、アーテーの傍に置いた。「はい、これも頼むよ、お嬢さん」
「はい、ヘーラクレースさん」
「それからね......君は、父上が君の友人を辱めたことについて謝らないのを、かなり怒っているようだけど」
「当たり前です! いくら前世の事だからって!」
「しかし、父上は決して謝ることはできないよ」
「どうしてですか!」
「その理由は二つ――先ず一つ目は、ゼウスは万物を統べる王だから、何をしてもいい立場にある」
「そんな!」
「そしてもう一つの理由は――生まれてきた子を"罪の子"と呼ばせない為だ」
「あっ......」
一番言いたくないであろうヘーラクレースに、辛い言葉を言わせてしまったことに気付いたアーテーは、恥ずかしさで何も言えなくなった。そんなアーテーを見て、ヘーラクレースは、
『やはりこの子は、優しい子なんだな』
と、察して、頭をくしゃっと撫でてあげた。
「さあ、早く壊れたところを直してしまおう」
と、ステロペースは言った。「この粉をセメントに混ぜて、かさ増しすればよいのだろう? ヘース」
「ええ、おじさん。やってもらえますか?」
「もちろん。水を汲んでくるよ」
「ヘーパイストス、わたしは?」と、ヘーラクレースが言うと、
「婿殿は倒れた柱を修復するのを手伝ってください。誰かが支えていないとつなげなくて」
「よしっ、やろう!」
ヘーパイストスとヘーラクレースが行ってしまうと、アーテーの傍にプロンテースが座った。
「さあ、わたし達はこの瓦礫を粉にする仕事を片づけてしまおう。他にもやることはいっぱいあるよ」
「はい、すみません、あの......」
アーテーは今更ながら、怒りにまかせて皆に迷惑をかけてしまったことを後悔していた。そんなアーテーに、プロンテースは優しく微笑みかけた。
「大好きな誰かのために、そんなに必死になれるなんて、素敵なことだよ。君はとても良い友人に恵まれたようだね」
「友人......」
そう言われて、アーテーはしっくりこない物を感じていた。
「ん? 友人じゃないのかい?」
「友人って言うか......誰よりも大事な人、かな」
「そうかい。そんな人がいるってことは、幸せなことだよ」
「はい、おじ様......」
そうなんだ――私がこんなにも、ゼウスに対して怒りを感じたのは......アーテーは改めて自分の心が分かったような気がした。-
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