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from: エリスさん
2013年05月31日 13時22分13秒
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白鳥伝説異聞・8
二人は太陽が昇る前にその場から離れ、一路、倭へと向かった。
殆どは山路を使い、狩りや釣りをしながら食料を調達して進んだが、時折は村まで出て食料以外のものを手に入れなくてはならなかった。
すると二人はそこで、様々な噂話を耳にするのだった。
「お客さん達、西の方から来なすったのかい? それじゃ、熊襲国の王さまを倒した男の話は聞いとるか?」
市場の着物屋の男に話しかけられた、オグナ改めタケルとレーテーは、
「ああ、時々聞くよ」
「とっても強い人なんですってね」
と、当たり障りのないことを返すのだった。
「強いなんてものじゃない。あの勇猛な熊襲の王さまを二人も倒したんだから! あまりにも強いので、弟タケルのお后さんがその者に"タケル"の名を贈ったって言うじゃねェか」
「ああ、そうらしいな」と、タケルはニマッと笑った。
そこへ、隣の魚屋の男も話に入ってきた。
「なんでもよォ、その新しいタケルさんは女装して、寝間に上がる采女に化けてたらしいな」
「おう、聞いた聞いた! いい年の男が女装なんかしたところで、女になんか見えるわきゃないからよ、そりゃきっとまだ子供だったんじゃないかって言われてるよなァ」
「そうだよなァ。倭国の王子の話なんか聞かんもんなァ。きっとまだ子供だったんだろうなァ」
「ヘェ、そうなんだ」と、タケルは言った。「それじゃ、この服もらってくよ」
「ヘーイ、毎度!」
レーテーとタケルはキノコ3株と交換してもらった服を持って、また山路に戻って行った。
「かなり勝手な噂が流れてるのね」
新しく手に入れた服に着替えながらレーテーは言った。「まあ、噂ってそんなものだけど」
「まさか本当に女だとは思われていないみたいだな」
と、タケルも新しい服に着替えた。「ちょっと、大きかったかな......」
「ちょうどいいのが無かったからね。でも、今まで着ていたその汚い服より、ずっといいわよ」
「うん。これなら叔母上のところに寄っても恥ずかしくないよ」
「その叔母様のいる伊勢って、もうすぐなの?」
「この山を下ったらすぐだよ」
二人は倭に行く前に、タケルの叔母にあたる伊勢神宮の斎王に会いに行くことにしていた。タケルがこの旅に出る前に、いろいろと世話してくれたから、その御礼をしにいくのである。タケルがクマソタケルを殺した時に着ていた女の衣服も、この叔母がくれたものだった。
「それにしても、あの女、元は弟タケルの妻だったのね......」
と、レーテーが言うと、タケルは言った。
「それはどうかな? そういうことにしてあるだけかもしれないよ。実際、兄タケルとも関係を持っていたんだから」
「しかも両刀使い――ああ、汚らわしい......」
「もう忘れようよ、あの女のことは」
「だって......」
レーテーの脳裏には、弟タケルを名乗っていたその女が、まだオグナを名乗っていたタケルを弄んだ時の、タケルの艶めかしく恍惚とした表情が忘れられなかったのである。自分はまだ、タケルをそこまで喜ばせてあげられていないから......。
「それは仕方ないだろ? 君、まだ経験値少ないんだから。初めから床上手な女なんて、逆に引くよ」
「......そうゆうもの?」
レーテーは昔から、何でも少し教わっただけで出来るようになってしまう特技を持っていた。だが、"これ"だけはそうもいかないらしいと知って、少し自信を無くしていたのである。
「それにさ」と、タケルはレーテーを抱き寄せて、顔を自分の方に向かせた。
「わたしは受け身より、攻め手の方が好きなんだ。わたしの愛撫で君が変身を解いてしまうほど悦に至っているのを見るたび、どんなに快感を覚えることか......」
「タケル......」
二人はしっかりと抱き合って、唇を重ね合った。
「さっ、まだ日も高いから......」と、タケルはレーテーを離した。「お楽しみは夜になってからね。もう少し先を進まないと」
「ええ、そうしましょ」
二人は手を握り合ったまま、歩き出した。
二人が伊勢神宮に付いたのは、翌日の昼ごろだった。
中に入ると、すぐに侍女が出てきて......レーテーのことを見て、
「まあ! 本当にそっくり!」と、言った。
「え?」と、レーテーが聞くと、
「あっ、申し訳ございません」と、侍女は頭を下げた。「良くお越しくださいました、オグナの命(みこと)様。先程から斎王(いつきのみこ)様とお客人がお待ちでございます」
「お客?」と、タケルが聞くと、
「はい。オグナ様と一緒にいらした、こちらのオトタチバナ様の身内の方だそうでございます」
「私の身内?」
この倭にレーテーの身内など居ないはず......まだエリスは生まれ変わっていないと聞いているし、そうなると??
ともかくも、二人は斎王と客が待っているという部屋まで通された。
そこに、女性が二人並んで上座に座っていた。一人はタケルの叔母・倭姫斎王(やまとひめのいつきのみこ)。あと一人は......。
「コトノハ!」
レーテーの顔を見て侍女が「そっくり!」と驚くはずである。レーテーが姿を模写している言之葉の命が来ていたのだった。
「お久しぶりね......オトタチバナ」
つい「レーテー」と言いそうになって、コトノハは変な間を開けてしまう。
「どうしてここに?」
レーテーはコトノハの前に座って、彼女の手を取った。
「あなたのおばあ様からお便りを預かって来たの」
コトノハは言いながら、懐に少しだけ手を入れて、その便りを見せた――この国にはまだ貴重な紙で書かれている。事情を知らない者に見せるわけにはいかないものだった。それを察したヤマトヒメは、二人を案内してきた侍女に言った。
「御苦労でした。しばらく誰もここには近づけぬように」
「畏まりました、斎王様」
侍女が下がって行くと、ヤマトヒメは少し後ろに下がって、レーテーに頭を下げた。
「ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。私はオグナの叔母にしてこの神宮の斎王、ヤマトヒメと申します」
「あっ、いえ! こちらこそ!」
と、レーテーは恐縮して、自分も頭を下げた。
「初めまして、オトタチバナと申します」
「それは......仮の御名でございますね」と、ヤマトヒメは顔をあげた。「本当の御名は、お尋ねしてはならないのでしょうか?」
「え!?」
レーテーが困惑すると、コトノハが言った。
「この者は存じているのです。私とあなたが神だということを」
「え? そうなの?」
「ヤマトヒメは神に仕える者。常日頃から私たちと面識があります。その上で、自分以外の者には私たちの真の姿を明かさないようにしているのですよ。神聖を守るために」
「ああ、そうなんだ......」
「でしたら」と、タケルは言って、ヤマトヒメの前に座った。「わたしから紹介させてください、叔母上。彼女の本当の名はレーテー......わたしの恋人です」
「恋人? まあ、なんて恐れ多い!」
と、ヤマトヒメが叱るような目をタケルに向けたので、
「本当なんです!」と、レーテーが言った。「私......タケルのこと、愛しく想っています」
「まあ......姫神様に想っていただけるなんて......」
ヤマトヒメがまだ恐縮しているので、
「あの、ですので、私のことは姪の嫁として......女神であることは一時置いといて、接してもらえますか?」
と、レーテーは言った。タケルも、
「そうしてください、叔母上。彼女の正体がバレてしまうから」
「それでいいと思いますよ、斎王殿」と、コトノハも言うので、ヤマトヒメもとりあえず緊張を解いた。
挨拶も済んだところで、レーテーは便りを受け取って、開いて読んでみた。
ヘーラー王后の筆跡で、ギリシャ語で書かれている。タケルは覗き込んでみたが、全く持って分からなかった。
「なんて書いてあるの?」
「うん......私、しばらくオリュンポスに帰らなきゃ」
「帰る!? どうして!?」
旅の終わりまで付き添ってくれるものだと思っていたから、タケルは驚きを隠せなかった。
それはレーテーとしても同じだった。しかし......。
「私が帰らないと駄目なの......私じゃなきゃ......」-
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from: エリスさん
2013年05月17日 11時28分20秒
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白鳥伝説異聞・7
とうに祭りは終わっているはずの刻限である。
それでもオグナは帰ってこなかった。
焼き魚を作ってあげようと用意して、帰ってきたら焼きたてを食べさせるつもりでいたが......このままでは腐ってしまうと思ったレーテーは、仕方なく焚火で半焼きにすることにした。
『うまくいってるのかしら......』
レーテーはオグナの作戦を知らないから、ひたすら信じて待つしかなかった。
それからしばらく経った時だった。
離れたところで、誰かが地に落ちた小枝を踏んで折れた音がした。
「オグナ?」
レーテーが呟きながら音の方を向くと、暗い夜道をたどたどしく歩いてくる人影が見えた。左肩を抑えているのが分かる。
焚火の明かりでようやく見えるようになったその姿は、上半身は裸で真っ赤な血を浴びていた。
「オグナ! 怪我をしたの!?」
「......いや......怪我は大したことない」
オグナはそのまま川の中へ入って行った。
唯一着ていた裳(今でいう巻きスカート)も脱ぎ、体に付いた血を洗い流した。
「オトタチバナ、着替えを頼む」
「ええ、着替えはここに用意してあるわ。それよりも、怪我の手当てを!」
レーテーは薬の入った袋を持って駆け寄り......本当に、オグナの体には殆ど傷がないことを知った。ただ、左肩に手形が残っているだけで。
「だから言ったろ? この血は、クマソタケルのものだ......背中にも、付いてないかい?」
「付いてるわ。私が洗い流してあげる」
レーテーはそう言いながら服を脱ぎ、自分も川の中に入った。そして背中や肩に水を掛けてやり......改めて、その白く滑々した肌を見て、オグナが女なんだということを思い知る。その白い肩にくっきりと紅い手形が浮き上がっている。
「この手形は?」
「クマソタケルを刺殺した時に、奴が握ってきたんだ。無傷では帰したくなかったんだろう」
「痛そうね......」
レーテーはその傷に触れた――すると、突然目の前にビジョンが浮かんだ。
それは、傷を残したクマソタケルの残留思念だった。
半裸のオグナを、後ろからオグナの胸や腹を弄びながら、自らの服を脱いでいく女がいた。その女の顔に至近距離まで近づいていく――クマソタケルがその女にキスをしたのが分かる。
女の手練手管でオグナが身悶えていくのを、クマソタケルが満足げに眺めているのが分かる。やがて、女がその場から離れて酒を飲みに行くと、今度はクマソタケルがオグナに襲い掛かり......オグナが敷物の下に隠していた小刀でクマソタケルを刺した。
クマソタケルは渾身の力でオグナの左肩を握りつぶそうとし......意識が途絶えた。
そこで、レーテーの目も覚めた。
『今のは......』
レーテーの様子がおかしいことに気付いたオグナは、彼女の方を向いて、夢から覚めるのを待っていた。
「何か、見えたか?」
「......あなたが......クマソタケルらしい男と、誰だか知らない女に、弄ばれて......」
「ああ、ついさっき起こったことだな。そう、クマソタケルを暗殺するには、それしか方法がなかった」
「女の武器を使ったのね」
「男が一番油断するからね。まさか、弟のタケルが男装した女だとは思いもしなかったけど。なんでも、兄の地位を脅かす者が出て来ないように、血統正しい弟の存在が必要だったとか言ってたが......」
「そんなことはどうでもいいのよ!」
レーテーはオグナの手を握り締めながら言った。「女が自分から自分の貞操を危険にさらすなんて! なんてことするのよ! 本当に襲われてたらどうするの! 女の純潔はたった一度で破られてしまうのよ!」
「そうだな......それこそもう、どうだっていいよ」
「どうだって良くない!」
「いいんだよ、もう!!」
オグナがレーテーの手を振りほどこうとした時、レーテーの脳裏にまた新たなビジョンが浮かんだ。
知らない男が、自分にのしかかってくる――必死に抵抗しているその腕は、オグナのものに間違いない。
服が引き裂かれていく。そして......。
「それ以上見るな!!」
レーテーの異変を察したオグナが、彼女の肩を揺すって、レーテーは我に返った。
「今のは......」
レーテーはそれ以上言えなかった。
オグナが、過去に誰かに襲われている。最後に感じた痛みは、間違いなくオグナが純潔を奪われた瞬間だった。
「悪い......わたしが思い出してしまったせいで、君に見たくない物を見せた......」
「そんなこと......」
「でも、これで分かっただろう? わたしはもう穢れている。だから、誰になにをされようが、もうどうでもいいことなんだ」
「どうでも良くないわ......全然良くないわよ!」
レーテーはオグナのことを抱きしめた。
「たった一度穢されてぐらいで、その後もあなたが穢れていっていい理由になんてならない! 穢れたのなら、浄化すればいいのよ。私が!」
レーテーは溢れ出る情熱を抑えることが出来ず、オグナに熱いキスをした。
オグナもそれに応えて来る。
二人は川から上がると、大きな石の上に腰を下ろした。
オグナの手がレーテーの体を愛撫していく。その快感に、レーテーが変身を維持していられなくなった。
「......ああ......待って、オグナ......」
自分の髪が亜麻色に戻っていることに気付いたレーテーが言うと、
「いいよ、そのままで......」と、オグナはレーテーの髪を一房手に取って口づけた。「綺麗だ......その姿も......」
「オグナ......」
レーテーの右手とオグナの左手が絡み合うように握られる。
レーテーはもう、体を起こしていることが出来なくなった。
......夢のようなひと時が過ぎて、二人は石の上で抱きしめあったまま横になっていた。
「こんな幸せなのは初めてだな」
オグナはそう言いながら、レーテーの髪を撫でた。「初めての――タチバナヒメとの時は、悲しい気持ちの方が多かったから」
「私は、あなたが何もかも初めてだから......恵まれすぎてて、怖いぐらい」
レーテーはそう言って、オグナの頬にキスをした。
「本当にわたしの前に好きになった人はいないの?」
「いないのよ......私にとって理想の女性は母君だったから、なかなか母君を超えてくれる女性に巡り会えなかったの。だから、あなたに出会えたのは本当に幸運だったと思う」
「幸運なのは、わたしだ......」
オグナはますますレーテーを抱き寄せた。「君の母君のおかげで、わたしみたいな者が君に見初めてもらえたのだから」
「オグナ......」
二人はまた口づけを交わして......あっ、そうだ、とオグナは体を起こした。
「その"オグナ"という名前だけど、改名しようと思う」
「改名?」と、レーテーも起き上がった。
「そもそも"男の子"っていう意味なんだよ、この名前。本当のわたしを隠すために付けられた名で、好きじゃなかったんだ」
「それで? なんて名にするの?」
「クマソタケルを殺した時、弟――ってことになってた女に、こう言われたんだ」
「ああ、あの女?」
オグナの上半身を好きなだけ弄んでくれた嫌な女のことを思い出して、レーテーはムッとした。
「おまえは誰だって聞かれたから、〈倭の国の王子・オグナだ〉って答えたら、〈この熊襲の国の一の猛者を殺したおまえは、もう子供じゃない。立派な大人だ。だから、その功績を讃えて"建(タケル)"の名を送ろう。この場から無事に逃げだせるものならな!〉って」
「それで、その女はどうしたの?」
「裸のまま気絶させておいたから、もうクマソタケルの弟は名乗れないだろう。多分、妹でもないんだろうし......これで熊襲の国は統率が取れなくなる」
「あらそう、命だけは助けてあげたのね」
始末しちゃえばよかったのに......とレーテーは思ったが、口に出すのはやめる。
「でも、殺した男の名前を名乗るなんて」
「そういうわけでもないのさ」
オグナはレーテーが出しておいてくれた着替えを着始めた。「"タケル"というのは、その国の一番の猛者が名乗る名前なんだ――猛き者、という意味でね。だから各地に一人は"タケル"を名乗る者がいるんだよ」
「そうなの?」
「ああ。元は神様から頂いた名前だったんじゃないかな。建御雷の神(たけみかづちのかみ)とか......」
「建御雷さん! ああ、会ったわその方、高天原で。とても逞しい強そうな男神だったわ。そうね、あの方の名前を頂いたのだと思えば」
「そうゆうこと。だから、今日からわたしは......」
しっかりと着替え終えたオグナは、月明かりに照らされながら振り返った。
「倭建の命(やまとたけるのみこと)――タケルと改名することにする」-
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