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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2014年05月30日 11時00分04秒

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    白鳥伝説異聞・24

    東征に向かうヤマトタケルの一行は、その前に伊勢神宮のヤマトヒメのもとを訪れた。
    タケルが兵団を率いているのを見て、ヤマトヒメは一先ず安堵した。
    「この間までは、あなたを死なせるためにたった一人で戦いに行かせていましたが、この度はそうではないようですね。兄上――大王とは、多少なりとも和解できたのですか?」
    「まあ、それなりに......」
    斎王の御座所である伊勢神宮は男子禁制ということで、兵士たちは神宮の傍の野原に野営(テント)を張って泊まることになり、タケルとレーテーだけが神宮の中に宿所を用意してもらった。
    夕食をいただいた後、タケルとレーテーはヤマトヒメに大和での経緯を話して聞かせた。
    フタヂノイリヒメの経緯の所は、姉として大王を平手でぶちのめしたい気持ちに駆られたが、しかしフタヂがそれについて何も覚えていないことなどを聞いて、なんとか心を落ち着けた。
    そして、大王が未だにタケルの母・イナビノオオイラツメを忘れられないでいることに同情し、またそのことでタケルに邪な思いを抱いていたことに腹を立てるなど、感情は様々に変わったが、とりあえずタケル自身が今の自分に納得していることを知って、最終的に安堵する気持ちだけが残った。
    「なにはともあれ、あなたが自分から東征行きを選んだと言うのなら、私はそれを応援するだけです。しっかりおやりなさい、タケル」
    「ありがとうございます、叔母上」
    そして翌朝、ヤマトヒメはタケルに二つの贈り物をした。一つは不思議な力が籠った袋――何か困った時にこの袋を開けると、その時に一番必要な物が出て来ると言う。
    もう一つは、神剣・天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)――スサノオの神がヤマタノオロチを退治した際、その尻尾から出てきたと言う物で、伊勢神宮の大事な神器の一つだった。
    「こんな大事なものを!? 本当にいただいても宜しいのですか!?」
    タケルは剣に関しては遠慮しようとしたが、ヤマトヒメは強引にでも受け取らせようとした。
    「あなたがこれから成す大義に、もっとも必要な物です。是非受け取ってください。そして、絶対に生きて帰ってくるのですよ」
    ヤマトヒメの気持ちを汲み取ったタケルは、ありがたく神剣を受け取るのだった。
    「ありがとうございます、叔母上......ですが、心配にはおよびません。わたしには守護神としてオトタチバナが付いているのですから」
    「そうでしたね......」と、ヤマトヒメは微笑んだ。「オトタチバナ殿、どうかタケルのこと、よろしくお願いいたします」
    「ええ、お任せを」と、レーテーはニッコリと笑って見せた。「絶対にタケルを死なせたりなど致しませんわ」
    こうして、この旅で一番重要な武器になる神剣を手に入れたタケルとレーテーは、改めて東国を目指すのだった。旅はまだまだ始まったばかりである。

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  • from: エリスさん

    2014年05月09日 13時09分05秒

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    白鳥伝説異聞・23

    「私が付いてるって......故郷に帰るんじゃなかったのか?」
    タケルが言うと、あら!っとフタヂが驚いた。
    「オトタチバナ殿、お帰りになるの!?」
    「ええ、母に帰ってくるように言われたのですけど」と、レーテーは言った。「でもそれは、ここに永住するのは許さないって言われたのであって、本来の目的である"旅の同行"なら構わないはずです」
    それを聞き、タケルも表情を明るくした。
    「そうか! 確かにそうだな!」
    「ええ。そもそも私があなたの旅に同行したのは、あなたには成すべきことがあるから、それを手助けしてほしいと天照さまに頼まれたからなんですもの。だから、あなたの旅がまだ続くのであれば、私の役目も続けなければならない。母にだってそれを止めることは出来ないわ」
    「その通りだ。まだ旅は終わってない......」
    タケルは"まだレーテーと一緒にいられる"という嬉しさを隠しつつ(あまり隠れてはいないが)、スクネに向かってこう言った。
    「父上に進言してくれ。東征にはこのヤマトタケルが向かうと。必ずや、かの地を平定して御覧に入れよう」
    「御意! ありがとうございまする、タケル様」

    スクネが帰ってから、レーテーは部屋に水桶を運んできてエイレイテュイアと通信した。
    「そういうわけだから、私はまだそちらには帰りません」
    レーテーが嬉しそうに言うと、エイレイテュイアは軽いため息ついた......なんとなく、こうなることを予想していたからだった。
    「いいでしょう。確かに天照さまから承ったお役目を、途中で放棄させるわけにはいかないわ。あの方は高天原の最高神――私よりずっと立場が上の方なのですもの。それに......何よりもあなたが、タケル殿と一緒に居たいのでしょ?」
    「ええ、母君」
    「それじゃ何を言っても聞き入れるはずもない......でも、元日には帰っていらっしゃい。例年通り、カオス様(ヘーラーの祖母・ガイアの兄であり姉。混沌を司る両性神)の居城へ新年のご挨拶に参らなければならないのですからね」
    「分かりました。その頃にはいったん帰宅します」
    「待ってるわ......体に気を付けて、無事に帰ってくるのですよ、レーテー」
    「ええ、大丈夫よ母君。心配しないで」
    不老不死のレーテーは何があっても死ぬわけがないのに、それを分かっていても心配してしまうのが母親というものである。
    エイレイテュイアとの話も終わって、レーテーが部屋から出てきたころ、今度はヤサカノイリビメが御忍びで訪ねてきた。
    「スクネから聞きました。何故、ご自分から東征に行くなどと申されたのです」
    ヤサカノイリビメがタケルに詰め寄るように聞くと、タケルは答えた。
    「誰かがやらねばいけないことです。王子の地位にいる誰かが」
    「ですが! あなたは王女......」
    その先を言おうとするヤサカノイリビメの唇を、タケルは人差し指で制した。
    「世間的には王子です」
    「タケル様......」
    タケルは、とにかくヤサカノイリビメには部屋の上座に座ってもらった。そこへレーテーも同席した。
    「私は......」と、ヤサカノイリビメは言った。「あなた様に王位を継いでもらいたかったのです。なんと言っても大王の長子ですし、我が子・ワカタラシヒコは病気がちで、とても大王の職務を全(まっと)うできるとは思えませぬ」
    「しかし私は王位にはつけません。ご存知のように、わたしは女ですから」
    「王女が王位を継いで、何故いけないのですか!」
    「ヤサカ様......」
    普通なら我が子を王位に就かせたいと思うだろうに、タケルの方が先に生まれているから、タケルの生母の方が自分より先に王后になっているから、という道理も踏まえて、ヤサカノイリビメは後世のことを考えているのだろう。それは確かに立派だが......。
    「やはりわたしは、東征するべきでしょう――ヤサカ様、わたしがこのまま大和に留まれば、いずれ国を二分する危険がある。野心を持った者が現れ、ワカタラシヒコを追い落とし、わたしを擁立して利用しようとするでしょう。そんな輩を生まないためにも、わたしは大和を離れるべきなのです」
    「そんな......」
    「ヤサカ様」と、レーテーが口を挟んだ。「タケルの言う通りです。無益な争いを招くよりは、正体を偽っているタケルは王位継承権から一歩引いた立場でいるべきです。そして、東征は誰かが成さねばならぬこと。聞けば、大王の御子に男子はワカタラシヒコ様だけで、大王の弟君も皆すでにお亡くなりになっているとのこと。それならば、タケルが行くしかありません」
    「あなたは......」と、ヤサカノイリビメは言った。「それで本当に宜しいのですか? 愛する者を死地に向かわせることになるのですよ」
    「死地になど向かわせません。私が守りますから」
    「そうです」と、タケルは言った。「彼女が居れば百人力――いや、千人力です。なにも恐れることはありません」
    二人の言葉を聞き、ヤサカノイリビメはしばし考えると、深いため息をついた。
    「決心は固いのですね......分かりました。私ももう、否やは申しません。どうぞご武運をお祈り申し上げます」
    「ありがとうございます」と、タケルは頭を下げた。「どうか、わたしがいない間のフタヂとワカタケルのこと、よろしくお願いいたします」
    ―――数日後。
    タケルのもとに二千人の兵団が集まった。タケシウチノスクネが掻き集めたものだった。その中に、タケルの側近を仰せつかった人物がいた。
    「吉備のタケヒコと申しまする。どうぞ、なんでもお申し付けくださいませ」
    「......そなた、もしかして......」
    男にしては背が低く、声も高めである。もしかして女人か? と思って聞いてみると、
    「いいえ、わたしは男にございます。ただ、子供の頃に山で事故に遭いまして、男としての機能を失っております。それ以来、声はまったく成長せず、体格もこの通りでして」
    タケヒコはそう言うと、タケルに近づいてそっと耳打ちした。「タケル様が女性でいらっしゃるので、タケル様に万が一でも無礼を働くことが"できない"わたしが、側近として選ばれたのです」
    「なるほど......スクネも用心深いな」
    「無駄な用心よ。タケルの傍には常に私がいるのに」
    と、レーテーはちょっと不機嫌になったが、しかし、これだけ多くの兵団を率いることになったのだ。タケルの正体を知っている者が自分以外にもう一人ぐらい居てくれた方が、動きやすいこともあるだろう。
    こうして、ヤマトタケルの新たな旅が始まり、レーテーはそれに同行したのだった。目指すは東国――長い旅路になりそうだった。

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