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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2014年08月22日 08時33分56秒

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    白鳥伝説異聞・29

    「オトタチバナ様!?」と、タケヒコは驚いた。「そのお姿は、いったい......」
    レーテーは咳き込みながら、右手の人差し指に力を込めた。そしてその指をタケヒコの額に近づけようとすると、
    「駄目だ、レーテー!」と、タケルがその手を取った。「無闇にその力を使うな! 信頼を失うぞ。それより、見ろ!」
    タケルが指差した先――三人が載っている大岩の下の火が、消え始めていた。大岩の周囲の草をタケルとタケヒコで刈り取ったため、燃えていたのは刈り取れきれなかった短い草であった。だからすぐに燃え終わり、そして燃えて灰になったところには、もう火は点かない。
    四方から近付いてきた火は、既に燃え終っているところまで来ると、自然に消えてなくなったのだった。
    レーテーの咳もようやく落ち着き、三人は大岩から降りた。
    「大丈夫か? レーテー」
    と、タケルが声を掛けると、
    「ええ、もう大丈夫よ、タケル」
    と、レーテーはオトタチバナの姿に変じた。それを見聞きしたタケヒコは、
    「"レーテー"というのがオトタチバナ様の本当のお名前なのですね。いったい、これはどうゆうことなのですか?」
    「タケヒコ、その話は後だ」と、タケルは言った。「先ずは兵士たちのもとへ戻らねば。相模の国造はわたしを殺そうとしたのだ。ならば次にすることは?」
    「ごもっともです」と、タケヒコも気が付いた。「急ぎ戻らねば」
    「タケヒコ、そなたは後から参れ。レーテー、わたし達だけ先に帰れるか?」
    「この近くに水辺はなさそうだったから......」と、またレーテーは元の姿に戻った。「空を飛ぶしかないわ」
    そしてレーテーは両腕を胸の前で交差させて、両肩に掌を置き、ギリシャ語で唱文を唱えた。すると、長い髪が突然に肩の位置で切れて、切れた髪はレーテーの肩甲骨にくっ付いて亜麻色の翼に変じた。
    「タケル、タケヒコも連れていけるわよ」
    「二人も抱えて飛べるかい?」
    と、タケルが聞くと、レーテーはニッコリと笑った。
    「抱えるのはあなただけよ。タケヒコは私の足にしがみ付きなさい」
    かくして、レーテーとタケルはしっかりと抱き合い、タケヒコは落ちないようにしっかりとレーテーの足首にしがみ付いて、空高く飛び立って行ったのだった。

    兵士たちが泊まっていた野営地では、案の定、国造の兵士に攻め入られて抗戦を繰り広げていた。
    「降伏しろ!」と、国造が大きな声で叫んでいた。「もうヤマトタケルは戻って来ない。奴は死んだのだ!」
    「信じられるか!」と、兵士の一人が叫んだ。「タケル様は神にも等しい御方だ。荒ぶる神だかなんだか知らぬが、ケダモノなんかに殺されるものか!」
    他の兵士たちもそれに呼応して「そうだ! そうだ!」と声をあげた。
    「ヤマトタケルを殺したのは荒ぶる神ではない!」と、国造は言った。「このわたしが......」
    そこで国造は何も言えなくなった――首筋に剣先が触れたからだった。
    「ほう? やはりあの火は、おまえが点けたのか」
    背後から国造に剣先を向けていたのは、タケルだった。当然オトタチバナに変じたレーテーもいて、タケヒコはすでに周りにいる国造の兵士を斬り倒していた。
    「何故、あの火の中から......」
    国造が驚いていると、タケルは言った。
    「当然だ。わたしには神が付いている」
    そしてタケルは大きな声で叫んだ。
    「降伏するのは我々ではない! 相模の国の者よ、おまえたちの主を殺されたくなければ、平伏せよ!」
    相模の兵士たちはその場で両手、両膝を地面に着き、平伏の姿勢を取った。それに大和の兵士たちが縄をかけた。
    捕えられた国造と兵士たちは、とりあえずこの国の岩牢に閉じ込められた。
    「この者たちの処遇は朝廷に任せるとしよう。至急、タケシウチノスクネに知らせてくれ」
    使者を大和に走らせ、岩牢の見張りに数人の兵士を残して、タケルたちは次の目的地・上総に向かうため、走水の海岸へと向かった。使者が戻るまで相模の国造の居城に居座っても良かったのだが、まだどこかに残党が潜んでいるといけない。
    幸い、走水の海岸の近くに住んでいた猟師が住居を提供してくれ、野営地も確保することが出来た。
    泊まる所も整ったところで、ようやく二人はタケヒコに事情を説明することが出来た。とは言っても、タケルの屋敷の人達に説明した言い訳に色を付けた程度である。
    「......つまり、オトタチバナ様は本当は外国(とっくに)の方で、天照大御神様にお仕えするようになって、奇術師としてその不思議な力を手に入れられたと」
    「そうゆうことなの」と、レーテーは言った。「分かってもらえた?」
    「分かりました......しかし、なぜ外国の方が、この倭国に?」
    「経験を積むためよ。故郷にいる時の私は、大概何でも出来てしまうものだから、なんだか人生が楽しくなくてね。それで、私がお仕えする――天照さまの前にお仕えしていた方がね、知らない土地に行って、いろいろなものを見てきた方がいいって勧めてくださって、それでこの国に来たの」
    「ああ、なるほど......」
    「タケヒコ、このことは......」と、タケルが言いかけると、
    「分かっております。他言無用でございますね」と、タケヒコは微笑んだ。「ですから今までも、誰にも話しておりません。むしろ嬉しいのです。わたしに秘密を明かしてくださって。それは、わたしを信用して下さっている証拠でございましょう」
    「その通りだ」と、タケルは言った。「だから、これからはレーテーと、わたしの秘密に関わることは、そなたに協力を求めるようにする。これからもよろしく頼むぞ、タケヒコ」
    「はい、お任せくださいませ」
    そして翌日にはタケシウチノスクネから連絡が入った。それによると相模の国造と兵士の上官だけを大和に連行し刑罰を与え、他の兵士は解放したこと、そして、相模の国は5歳になる国造の長男に跡を継がせて、補佐官として大和朝廷から武内家の者を派遣した、とのことだった。
    流石にスクネは仕事が早い......と、タケルは感心した。
    相模の国に残してきた兵士も上総に到着し、一行はまた次の目的地に向かうのだった。


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  • from: エリスさん

    2014年08月15日 12時13分58秒

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    白鳥伝説異聞・28

    ヤマトタケルの一行は相模の国に入った。
    この国の国造は、一応「国造」という称号で呼ばれているものの、大和朝廷に与しているわけではなかった。
    今まで通ってきた国はどこも好意的にタケルたちを受け入れていたが、ここはそうはいかない。――タケルは覚悟して国造の居城に向かった。
    だが、思いの外に一行は歓待を受けることとなった。国造は恭しく居城から出て来ると、自らタケルを招き入れ、食事を振る舞ったのである。
    「改めて聞くが......」と、タケルは国造に言った。「大和の王に付き従う意思はおありか?」
    「もちろんでございます」と、国造は言った。「大和朝廷にお仕え申し上げましょう」
    その態度がとても恭しく、嘘を言っているようには見えなかったタケルは、彼の言うことを信じることにした。
    国造は自らタケルやレーテーに酌をしてきた。レーテーはその時に何気なく国造の指先に触れて、心を読もうとしたのだが......。
    「この人、心が読みにくいわ」と、レーテーはテレパシーでタケルに言った。「あなたの父親と同じね。絶対に本心は見せないっていう意志の強さがあるのよ。だから、この人の心を読むには、この人の頭部に直接触らないと......」
    「この場でそんなことをすれば、不自然だ。かえって警戒させることになるから、やらなくていいよ」と、タケルも心の内で思って、レーテーに読み取ってもらった。
    国造が口を開いたのは、そんな時だった。
    「実はタケル様にお願いがあるのです」
    「なにか?」と、タケルは答えた。
    「この先の野原に、荒ぶる神と化した大猪(おおいのしし)がいるのです」
    「猪? 荒ぶる神と化したということは、元は神獣だな」
    「はい、左様で。そうとは知らずに猟師が矢を入り、それが目に刺さって荒ぶる神と化してしまったのです。荒ぶる神は人間を憎み、我々を襲うようになりました。どうかタケル様、そのお力で我々を御救い頂けませんでしょうか?」
    「その大猪を退治しろというのだな?」
    妖怪退治などやったことはないが、ここで断れば「大和朝廷の王子は腰抜け」だと笑い者にされるだろう。
    『いざとなったらレーテーもいることだし、引き受けようかな......』
    タケルは思うと、
    「分かった。わたしが退治しよう」と、返事をした。

    翌日、国造はタケルとレーテーを荒ぶる神がいるという野原に案内した。兵団は野営地に残してきた――相手が荒ぶる神だと、大人数で向かっては却って身動きが取れないこともあろうし、何よりレーテーが神力を使うところを見られてはいけない。
    それなのに、タケヒコが走って追いかけてきたのだった。
    「やはり、わたしもお連れ下さい。オトタチバナ様と二人だけでなど、危険すぎます」
    来てしまったものを追い返すのも不自然なので、タケルは同行を許した。
    そして、野原に着いた。
    「あっ! 居ました! あれでございます!」
    国造は遠くの方を指差した――そこに、何かがうずくまっているのが見えるが、なにしろ遠くの方なので、それが猪なのかどうかまでは分からない。
    「どうやら、こちらには気付いていない様子。タケル様、今が好機でございます」
    国造が言うので、確かにそうだと感じたタケルは、弓に矢をつがえた。
    目を凝らして良く見ると、確かに大きな猪に見える。それの眉間を狙って、タケルは矢を放った――すると、矢は見事に命中した。
    が、大猪はピクリともしなかった。
    不思議に思ったタケルたちは、その大猪に近付いた。すると、
    「タケル様、これは!?」と、タケヒコが驚いて言った。「これは、大猪の形にそっくりな、ただの岩でございますぞ」
    その通り、遠目で見ると大猪に見えたが、たまたまそんな形をしている大きな岩だった。眉間にあたる所にタケルが放った矢も刺さっている。
    「むしろあの距離で、こんな岩に矢を刺すことができるなんて、流石ね!」
    と、レーテーが感心した時だった。
    焦げ臭い匂いが漂ってきた。
    「なに? この匂い......」
    レーテーは周りを見回して、驚いた。「タケル! 見て!」
    タケルたちを囲うように、火が近付いて来ていた。いつの間にか国造はいなくなっている......。
    「だまされたか......」と、タケルは言った。「初めからここで、わたしを殺すために一芝居うったのだな、あの食えない男め!」
    「そんなことより、逃げましょう!」と、タケヒコが言ったが、火は四方から近寄って来ていた。逃げ道など無い。あるとすれば上――空を飛んで逃げるしかない、が。
    『タケヒコの前でレーテーの力を使うわけにはいかない。やはり追い返すべきだったか......どうする?』
    手短な神頼みが駄目だとすると......タケルは遠くの神頼みを思い出した。
    ヤマトヒメにもらった物の中に、困った時には開けるように言われた小袋がある。タケルはそれを思い出して懐から取り出した。
    開けてみると、火打石が入っていた。
    『火に囲まれている状況なのに、さらに火打石って......あっ、そうか!』
    タケルは名案を思い付いた。
    「タケヒコ! 草を刈れ!」
    「ハッ?」
    「いいから! この周りの枯草を刈ってしまうのだ!」
    タケルも剣を抜いて、一気に草を薙ぎ払った。新春とは言え、まだ北の方のこの地は冬が明けておらず、草は乾燥していた。切るのはとても簡単だが、火が付けばすぐに燃え出すのもまた特徴である。だから急がなければならない。
    「オトタチバナはここで避難していろ」
    と、タケルはレーテーを岩の上に抱き上げて乗せた。「大丈夫だ、わたしに任せろ」
    「ええ、信じてるわ」
    レーテーの微笑みを受け取ると、タケルはまた草を薙ぎ払い出した。そして、岩の周辺だけ草を刈り取ると、火打石でこちら側からも火をつけるのだった。
    「タケル様!? 何を!?」と、タケヒコが驚くと、
    「これで良いのだ。おまえも岩に乗れ!」
    と、タケルは先に岩に飛び乗った。
    タケヒコも言われるままに岩に乗ると、足下には刈り取った草の残りに火がついて燃え広がった。
    「タケル様、これでは......」
    「いいのだ。先にこちら側の草を燃やしてしまえば......」
    タケルが説明しようとすると、急にレーテーが咳き込みだした......煙が喉に入ってしまったのだ。
    「大丈夫か、オトタチバナ......」
    タケルがレーテーの背を撫でてやると、髪の色が少しずつ亜麻色に変わり始めた。
    苦しさのために、変化の術を保てなくなっていたのだ。
    「駄目だ! 気をしっかり持て!」
    レーテーもそうしたかったが、無理だった――レーテーはすっかり、元の姿に戻ってしまったのだった。

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