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from: エリスさん
2015年01月30日 11時36分39秒
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悠久の時をあなたと・3
「先に弟たちを助けると?」
ガイアはそう言いながら困惑していた。「しかしクロノス、先にそんなことをしては、ウーラノスに気取られてしまう」
「はい、ですから秘密裏に行います」と、クロノスは言った。「その間、母上には父上を引きつけておいてもらいたいのですが......」
「引きつけるとなると......」
相手はウーラノスである。引きつけておく方法は一つしかない。
「その結果、私はまた怪物を産むかもしれないのですよ。それでも?」
「どんな姿に生まれてきても、その子はわたし達の大事な兄弟。母上にとっても大事な我が子ではありませんか。慈しんで育てることは出来るはずです。違いますか?」
「もちろん、私はどんな怪物であっても我が子は可愛い。だが、怪物として生まれてきてしまったその子自身はどう思うであろう」
ガイアの言葉に、クロノスは言いよどんだ――確かに、怪物として生まれてきた子は、その醜さゆえに周りに蔑まれて育つことになる。その悲しさ、寂しさをクロノスは想像していなかった。
クロノスが困っている姿を見て、レイアーは胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。
『助けてあげなきゃ』と、思ったレイアーは、思わず口を開いた。
「私が......私たち兄弟が! 弟たちを支えてあげればいいのです」
レイアーの言葉に、クロノスはパッと表情を明るくした。
「どんな姿に生まれてきても、私たち兄弟姉妹が助け合って、その子を慈しみ育てて行けば、その子は寂しさを覚えることはありません。そうよね? お姉様」
と、レイアーがテイアーに同意を求めると、
「ああ、うん。そうね、そうだわ!」と、テイアーは慌てて答えた。
クロノスも自信を取り戻して、言った。
「母上、何よりも今は、奈落の底に押し込められた弟たちを助けることが先決です。今こうしている間にも、弟たちは暗闇の恐怖に怯えているかもしれないのです!」
「分かりました」と、ガイアも決心した。「それでは、今から手筈を整えましょう。クロノス、お前だけこちらの部屋へ、打ち合わせをしなくては。他の者は解散して宜しい!」
ガイアが奥の部屋へ入っていくので、クロノスも後を付いて行こうとした。が、レイアーの前で立ち止まって、頭を下げた。
「ありがとう、姉上。助けてくれて」
「いいえ、クロノス」と、レイアーは言った。「あなたの熱意に打たれてしたことよ」
「でも、真実の言葉だったでしょ? 弟を支えたいって」
「ええ。先ずはあなたを支えられて良かった」
レイアーのその言葉に、クロノスはニコッと笑った。その表情が愛らしくて、レイアーはまた胸がキュンッとするのを覚えた。
クロノスが行ってしまうと、テイアーがレイアーに話しかけた。
「あなた達、そんなに仲が良かったの?」
「いいえ、お姉様。まともに会話をしたのは今日が初めて」
「そうでしょうね。私たち兄弟姉妹とは言っても、別々に暮らしているものね。それに、あなたは上のお兄様たちから求愛されているから、弟たちも余計な波風を立てないように遠慮しているでしょうし」
「そうなの?」
「あらやだ、気が付かなかったの?」
自分より美人な妹にちょっと嫉妬もしていたテイアーだったが、こういう世俗に疎いところが憎めなくて、姉妹づきあいをしていた。
「とにかく帰りましょ。ここから先はクロノスに任せるしかないわ」
テイアーはそう言ってレイアーを促した。
だが、レイアーはまだ立ち去りがたくて、クロノスが入って行った部屋の扉を見つめていた。-
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from: エリスさん
2015年01月23日 11時37分26秒
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悠久の時をあなたと・2
そもそも大地の女神ガイアは、最古の神である混沌の神カオスから分離して生まれた7人兄弟の一人で、後に名を馳せる不和女神エリスの実母・ニュクスとも姉妹にあたる。
そしてガイアは女神の勤めとして、己の力だけで天空の神ウーラノスと、海の神ポントスを産み落とした。そしてそのうちのウーラノスと夫婦となり、地上に神を増やしていった。先ずはオーケアノス、続いてテイアー、レイアー、コイオス、テーテュース、ポイペー、テミス、ムネモシュネー、クレイオス、ヒュペーリオーン、イーアペトス、クロノス――この十二柱は「ティーターン神族」と呼ばれるようになる。そして末子のクロノスを産み落とした時、ガイアは自分の体の異変に気付いた。立て続けに子を産んだがために、ガイアの体は衰弱し始めていて、これ以上子供を産もうとすれば、次は異形の者――すなわち怪物を産んでしまう恐れがある。
ガイアは夫であるウーラノスにそのことを告げて、もう子作りはやめて、自分たちの子供に次代を任せようと提案した。だがウーラノスは、
「妻が夫との臥所を拒むなど、許されることではない」
と聞き入れようとせず、ガイアに子を宿させた。その結果、ガイアは目を一つしか持たず、後に巨人として成長する双子のプロンテース、ステロペースを産み落とした。
ウーラノスは、醜い容姿で生まれてきたこの双子を、まだ赤子で抵抗できないのをいいことに、タルタロスの底に突き落として幽閉した。
当然ガイアは抗議した。
「だから私は言ったではないの! 次の子供は確実に怪物になるから、もう子供を作るのはやめようと! それなのに、あなたが私を抱き続けるから、あの子たちは生まれてきてしまったのよ。だったらあなたは、あの子たちを受け入れてあげなくてはいけない義務と責任があります! それなのに、あの子たちを奈落の底に突き落とすとは、どうゆう了見ですか!」
するとウーラノスはいまいましそうに言った。
「夫が妻を抱くのは当然の権利だ。なのに、妻が夫との臥所を拒絶するなど、決してあってはならぬこと。その結果怪物が生まれてしまったら、処分すればいいだけのことだ」
「あなたは、つまり......」
ガイアは体の底から湧きあがってくる怒りをどうすることもできず、叫んだ。
「私の体にしか興味がないということ!!」
するとウーラノスは平然と言った。「それがどうかしたのか?」
少しでもガイアに対する愛情があれば、そんなことは言えないはずだった。ウーラノスにとって結婚とは、性のはけ口でしかなかったのである。
そうしてガイアは子供たちを集めたのだった。
「もはや許してはおけません。そなた達、あの肉欲の塊と化した外道を、成敗しておくれ!」
ガイアはそう言うと、武器として用意した大鎌を差し出した。だが、ティーターン神族たちはみな口々に、
「父親殺しなど、恐ろしくて......」
と、躊躇するばかりだった。
話を聞いていたレイアーもその中の一人だった。
『お母様の気持ちも分かるわ』と、レイアーは思った。『お腹を痛めて産んだ子を、奈落の底に落とされてしまうなんて、私だってそんな苦痛には耐えられない。しかも、お父様にとって性欲のはけ口でしかなかっただなんて、そんな風に思われていたなんて知りたくもなかったでしょう。お父様を殺したいと、思っても仕方のないことだけど......』
父親殺しの大罪を犯すのは、誰にとっても恐ろしい事だったに違いない。
それなのに、彼は名乗り出たのだった。
「母上! わたしがやります!」
兄弟たちの前に進み出た彼は、末子のクロノスだった。彼も母親同様、怒りで握り拳を震わせていた。
「そんな極悪非道、許してはおけません!」
「おお! では!」と、ガイアは喜んで大鎌を差し出した。「これでウーラノスを!」
すると、クロノスはその大鎌を払いのけた。
「そんなのは後です!」と、クロノスは言った。「それよりも先に、可哀想な弟たちを救出してやらなくては!」
クロノスの怒りは、生まれたばかりの兄弟を奈落に突き落とされた、その一点が最重要だった。-
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from: エリスさん
2015年01月16日 12時06分58秒
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悠久の時をあなたと・1
冥界の最下層、奈落の底のことを「タルタロス」と言う。そこに、一柱の男神が幽閉されていた。
冥界の王ハーデースはその彼を訪ねて、タルタロスまで三日かけて降りてきた。
「父上、ご機嫌いかがですか?」
ハーデースに声を掛けられて、それまで闇の中の、一筋だけ流れてくる光を見上げていた彼は、振り返った。
「おお、ハーデース。久しいな」
「ご無沙汰をしております、父上。お変わりはありませんか?」
「この通りだ」と、彼は微笑んだ。「そなたこそ、変わりなさそうだな」
「今のところは......」
「今のところ、とな?」
彼は、息子が何か含んだ言い方をしたので、そう聞き返した。
ハーデースは答えた。「近々、エリスが帰ってきます」
「エリス? あの、ニュクスの娘か?」
「ヘーラー姉上の娘でもあります」
「そうそう、ヘーラーが養女にしたのだったな......つまり、わたしにとっても義理の孫にあたるのか」
「はい」
「不思議な縁(えにし)だな......エリスが帰ってくるということは......」
「はい。近く、世界に変革の時が訪れます。そうなれば、我ら神々もどうなるか分かりません」
ハーデースの言葉に、彼は黙って頷いた。
「父上、そろそろ母上にお会いになられては如何ですか?」
「......わたしは、罪人だ」
「その罪はとうに消えております。あれから悠久のような時が流れ、もはや父上はここをお出になっても宜しいのです。その証拠に......」
ハーデースは彼の手を握った。
「ここに落ちた時のような霊体ではなく、父上はすでに実体を取り戻されている。それは神に戻ることを許されたということです」
「......そうだな......そうなのだろう」
と、彼はハーデースの手を離すと、一筋の光の方へ近づいた。
「いつからか、日の射さぬはずのこの奈落に、一筋の光が降りてくるようになった。きっと、あの光に触れれば、わたしは地上に帰れるのだろう。だが、わたしは怖いのだ」
「怖い? 何を恐れておいでです」
「また、彼女を傷つけてしまうかもしれぬ」
「そのような......父上、あの光こそ、母上の御心なのですよ!」
その言葉に、彼はまたハーデースの方を振り返った。「あの光が?」
「そうです。母上が、父上にお戻りいただきたい――父上にお会いしたい一心で、日々祈り続けたからこそ、このような不思議な現象が起きているのです」
「そうか......これは、彼女が起こした奇跡だったのか」
彼は、それは愛おしそうに、一筋の光を見上げた。
「ああ、わたしも......彼女に会いたい。そなた達の母に......かつてはわたしの姉でもあった、愛する妻に......」
「父上、では......」
「......そう、だな......」
それは、遥か遥か昔のこと。
オリュンポス神界はまだ女神ガイアが束ねていた。
ガイアの娘・レイアーは、もうすぐ十七歳になろうとしていた。蝶よ花よと育てられた彼女も、そろそろお年頃となれば、オリュンポス中の男神から「妃に」と望まれていた。それらをレイアーは光栄に思いながらも、すべて丁重にお断りしていた。
求婚者の中には誰一人、レイアーが心をときめかすような相手が見つけられなかったのである。
それに、自分はまだ若い上に、女神はある程度年を取ったら、もう容姿が老けることもないことも知っていた。だったら、まだまだ青春を謳歌してからでも、結婚は遅くないと考えていたのである。
そんなレイアーの気楽さが打ち破られたのは、思いもかけないことからだった。
母・ガイアが、自分の産んだ子供たちを急に呼び集めたのだった。
「我が子供たちよ! 聞いておくれ! そなた達の父は、そなた達の同胞(兄弟)を地の底へ押し込めた!」
ガイアの言葉に、子供たちは誰もが動揺した。
「そして、この先も、これから生まれてくるそなた達の同胞は、すべて地の底へ落とすと言っている。誰か、この極悪非道な父親に、正義の鉄槌を食らわしておくれ!」
「ちょっとお待ちください、母上!」
そう言ったのは、レイアーの一つ上の姉・テイアーだった。「それだけでは、私達は理解できません。ちゃんと初めからお話し願えませんか?」
「いいでしょう。聞いておくれ。そなた達の父・ウーラノスは......」
ガイアは話し始めた......。-
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