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2016年03月24日 22時33分19秒
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2016誕生日特別企画「桜色の乙女」・4
その日の御祖こと淮莉須部琉は、なかなか執筆する気分になれなくて、うだうだと侍従たちを私室に招いて茶話会をしていた。
「私も歳を取ったせいか、気力が持たなくなってきているのよね」
御祖がそんなことを言うので、侍従長の今井洋子(いまい ひろこ。北の街と乾の町の住人)は、御祖のグラスに冷たいローズヒップティーを注ぎながら言った。
「まあまあ、そんなことをおっしゃらずに。これでも飲んでください。美容にいいそうですよ」
「そうですよ、御祖」と、尾張美夜(おわり みや。芸術の町の住人)も言った。「やる気が出ないのは花粉症のせいかもしれませんよ。ローズヒップティーは花粉症に効果があるそうですから」
「ああ、現実世界の〈私〉も、そんなこと言ってバカ飲みしてるわね」
御祖がグラスに口を点けようとすると、ドアの向こうから、
「申し上げます」と、声がかかった――少将の君(平安の町の住人)だった。
「御祖、夢の町の長殿(おさどの)と、そのご息女が参られました」
「おっ、来たね。お通しして!......あなた達も会いなさい、新しい侍従だから」
と、最後の方は洋子と美夜に言った。
「ああ! 新しい侍従というのは......」
「夢の町の!」
御祖がますます執筆から離れ、茶話会から女子会へと流れてしまっていたちょうどその時、郁子たち一行は居城に到着した。
居城の門番たちはすでに郁子たちを見知っていることもあって顔パスで入れたが、御祖の私室に向かおうとしたところで、少将の君の待ったが掛かった。
「恐れ入ります、皆様方。ただいま御祖は来客中でございまして」
「......って、あの笑い声は洋子じゃないの?」
郁子が指摘するように、御祖の私室からは郁子も郁も良く知っている人物たちの笑い声が聞こえてきていた。
「御祖は仕事もしないで、女の子たちと歓談しているってことかしら? 少将の君」
「乾の町さま、お察しください。御祖とて、執筆しようにもご気分が乗らこともございますれば」
「それは、私も同業者だから分からなくはないけど、今日はそんなこと言っていられないの。至急、御祖に取り次いで頂戴」
「はい、畏まりました」
少将の君が私室のインターホンから声を掛けると、すぐに洋子が出てきた。
「アヤ先輩! と、カール先輩に片桐さままで......その子は誰ですか?」
「洋子」と、郁子は諭すように言った。「侍従長のあなたが、怠けている御祖をお諫めしないでどうするの?」
「怠けているとか、言わないで上げてください。御祖にだって休息は必要なんです」
「そんな言い訳、インターネットの向こうの読者には通用しないのよッ。そもそも、この誕生日特別企画だって、執筆に一カ月以上もかけてしまっているのよ!」
「そんな自虐ネタ言わないでください(^_^;)」
「まあまあ、アヤさん」と、枝実子が割って入った。「私も作家だから、御祖の辛さも分かるのよ。誰もがみんな、あなたのように生真面目ではないの。とりあえず、洋子さん、御祖に会わせてもらえる?」
「分かりました、片桐さま。どうぞお入りください」
案外あっさり中へ招き入れられたので、郁子は苦虫を潰したような顔をした。
中へ入ると、御祖は、
「あら、揃いも揃ってどうしたの?」と、あっけらかんと言った。
「少々、御祖にご相談したいことがございまして」と、郁子が言うと、
「なに? 不機嫌そうね」と、御祖は笑った。「それより、ホラ! 彼女とは久しぶりなんじゃないの?」
御祖に「彼女」と呼ばれた人物は、郁子たちの方に向きを変えると、正座してお辞儀をした。
「その節は、大変お世話になりました」
「あっ!」と、郁子と郁、枝実子は驚いた。
「あなた、あの時の......」
2年前、御祖の失恋スランプにより執筆が凍結し、あわや町ごと消滅する危機に面したのを、郁子たちの活躍で復活、転生を果たした町の長――「夢のまたユメ」の主人公、夢の町の長・宝生百合香(ほうしょう ゆりか)である。
「そう、あなたが来ていたの」と、郁子は言った。「それじゃ、御祖がペンを休めていても仕方ないわ。もうすぐ物語は完結するのよね」
「はい、その予定なんですが......」
「例の如く」と、枝実子は言った。「御祖のペンが遅れ気味なのね」
「そう......なりますね」
「でもまあ、それは許してあげて」と、枝実子は言った。「うちの方の――神々の御座シリーズと同時進行で書いてらっしゃるから、それなりに大変なのよ」
「枝実子さんは......」と、郁子は言った。「さっきから、御祖の肩を持ち過ぎです」
「だから、あなたが固すぎるのよ」
「なァに? あなた達」と、御祖は言った。「私が遅筆なのを、ずっと非難してたの?」
すると郁子が言った。「遅筆な上に、すぐに怠けることを非難しておりました」
「手厳しいわね(^_^;)」
「あの......乾の町さま」と、百合香が遠慮がちに割って入った。「私の娘を紹介させてください」
その言葉で、百合香の隣にいる高校生ぐらいの少女がお辞儀をした。
「娘の宝生沙百合(ほうしょう さゆり)です。この度、侍従として参内することが決まりまして、本日はそのご挨拶に上がっておりました」
「宝生沙百合です」と、その少女は言った。「北の街の女王さま、乾の町さま、片桐さま、どうぞよろしくお願いします」
「まあ、利発そうなお嬢さんね」と、郁子が座ったのを合図にしたように、枝実子も郁も座り、ずっとお姫様抱っこをされていた桜子も床に下してもらった。
「そう、百合香さんは結局、女の子を生むことになるのね」と、郁子は言った。「あなたにそっくりだわ。父親にはあまり似なかったのね」
「乾の町さま」と、百合香は言った。「この子の父親は、翔太ではありませんよ」
「え!? 違うの?」
「実は続編の方で描かれることになりますが、私は結局、この子を併せて3人の子を産むのです。医術の力を借りて」
百合香が体外受精のことを説明している間、桜子は自分と年の近い子を初めて見た珍しさで、沙百合の方へすり寄って行った。そして沙百合と目が合うと、ニコッと笑って、沙百合の鼻に自分の鼻をチョンッチョンッとくっ付けてきた。その仕草があまりにも可愛いので、思わず沙百合は桜子を抱きしめた。
「いや~ん、可愛い! この子、姫里(きり)みたァ~い!」
「沙百合!」と、百合香はたしなめた。「女王さま方の前で、失礼な!」
「だって、本当に可愛いんだもん」
「百合香さん、"きり"って?」と、枝実子が聞くと、
「すみません、うちの猫です。姫蝶(きちょう)の孫にあたります」
「あらら。それって、うちの景虎(かげとら)の末裔ってことじゃない」
物語では一度として触れられることはなかったが、姫蝶と、郁子が飼っている茶々は、枝実子が飼っている景虎の子孫である。
「桜子」と、郁は娘を呼んで、自分の方に彼女を戻らせた。そして沙百合に、
「ありがとう、娘を可愛いと言ってくれて。見ての通り、この子は知恵遅れだけど、これから仲良くしてやってくれないかしら?」
「はい、女王さま」
と、沙百合が返事をするのと、御祖が「え? 郁の娘!?」と驚くのは、ほぼ同時だった。
「どうゆうこと? 郁に娘なんかいたっけ?」
「ですから、御祖」と、郁子は詰め寄った。「そのことでご相談に来たのです!」
「ちょっと待って! 怖い顔しないで説明して!」
難しい話になるので、宝生親子はお暇をした。
そして事情を聞いた御祖は、
「ええ~!? ちょっと待ってェ!?」
と、設定資料をまとめたノートをデスクの引き出しから数冊出し、急いでページをめくり始めた。
そして5冊目にしてようやく見つけた、郁の子供に関する記述。
男の子出産 ×
やっぱり女の子 ?
郁が性分化疾患だから、両性?
郁之君の代わりに女児
というのが、走り書きで書かれて、以降白紙になっていた。
「北の街さまって......」と、枝実子は言った。「性分化疾患......つまり、両性だったのですか?」
「パッと見、分からないでしょ?」と、郁は言った。「見た目はほぼ女性なのよ。この、骨盤が小さくて腰も細いことを問題にしなければ。でも高校生の時に体に異変を感じて、病院で調べたら、体内に未成熟な精巣が発見されて、実は性分化疾患だったことが分かった――という設定になっているの」
「だから妊娠は出来たけど、難産で死亡する設定になってるんですね」
「それではこの......」と、郁子が言った。「カオルノキミって読むんですか?」
「アヤノキミ、よ。私たちの前身である〈我等言語芸術部(われらげんごげいじゅつぶ)〉の中で、私と郁彦が飼っていた猫の名前よ」
「あっ! だから、桜子ちゃんは猫みたいな仕草を見せるんですね」
「まあ、そういうことね」と、御祖が言った。「ごめん、郁。こんなことになってるなんて、思いもよらなかったわ」
「いいえ。御祖はお忙しいのですから、とりあえず完結させた物語のことなど、お忘れになっていても仕方ございません」と、郁が言うと、
「でも、桜子ちゃんの設定を何度も書き直していたってことは」と、郁子が言った。「次の物語を書こうとなさっていたって、ことですよね?」
「そうなんだろうな......すっかり忘れてたけど」
御祖はそう言うと、ノートを手にして、デスクの前に座った。
「郁、桜子を抱きかかえてて」
「はい、御祖」
言われた通りに郁がすると、桜子はみるみる赤ん坊に戻って行った。
「桜子の物語を、ちゃんと書き直すわ。その為に赤ん坊に戻ってもらったの。そうね......桜子の恋人役には、郁子の子供になってもらおうかな」
「え?」と、郁子は言った。「私に子供はおりませんが」
「うん、だから、今晩作って、旦那と」
「え? ええ?......まあ、分かりました」
「うん、頼むね。枝実子は絡まなくてもいいでしょ?」
「はい、御祖」と、枝実子は言った。「私は純潔のまま死ぬ設定ですから、子供など作れるわけがないですし」
「そりゃそうだ。じゃあ、この後のことは私に任せて。本当に悪かったね、郁」
郁としては現状のままでも満足していたので、御祖の謝罪にただ笑顔で返すだけに止めた。
郁子たちが帰ろうとすると、
「ああ、そうだ!」と、御祖が呼び止めた。「枝実子、話があったんだ」
「なんでしょうか?」
「まだ内々の話だから、枝実子だけ残って」
御祖の言葉に、郁子はすぐに『坤の町のことだ』と察して、郁に先に帰ろうと促すのだった。
2か月後。
桜子が無事に普通の子供として成長するようになり、郁子のお腹にも新しい命が宿ったことが確認できた。そして、枝実子は無事に坤の町を貰い受けた。
枝実子はさっそくオリュンポス神界のレーテーとヤマトタケルノミコト、そしてシニアポネーを呼び寄せ、この土地にオリーブ畑を作らせた。そこで上等なオリーブの実が収穫できると、最高級品のオリーブオイルに仕立てて販売を始めた。特に品質の良いオリーブオイルに関しては、枝実子は自ら五大女王のもとへ赴き、彼女らに献上したのである。献上品の中にはトキジクノカグノコノミも入っていた。
「どちらも美容にとても効果のある物です。どうぞ、女王様方がいつまでも、そのお美しさを保っていられますように」
枝実子からの献上品を見て、東の街の女王・北野真理子(きたの まりこ)は言った。
「心遣い感謝いたします、片桐殿。あなたも名実ともに五大女王と並ぶ存在になられたのですから、そろそろ呼び名を決めて差し上げないとね」
すると南の街の女王・武神莉菜(たけがみ りな)は言った。「ひつじさるのまち、では語呂が悪くてよ、真理子」
「では、"ひさ"と縮めるのはどう? 漢字も"久しい"と書いて"久殿(ひさどの)"と呼ぶのは」
なので枝実子は恭しく頭を下げた。
「良き名を授けてくださいまして、誠にありがとうございます。ではこれより、久と名乗らせていただきます」
このやり取りを噂で聞いた郁子は、身重の体で坤の町へ足を運び、枝実子に会いに行った。
「良く我慢なさいましたね。真実の姿に戻れば、あなたは神様なのだから、五大女王の下に出ることはないのに」
すると枝実子は言った。「あなたの真似をしたのよ、アヤさん。五大女王などと呼ばれて、過去の栄光にしがみ付いてる人たちより、私やあなたは今も御祖に愛され、物語を続けてもらっている。だから今はあなたの方が立場が上のはずなのに、あなたはそんな人たちを立てて、諍いが怒らないように気を付けている。そうゆうところ、見習わないとね」
枝実子は笑って見せると、近くにあった蜜柑のような樹から、実を一つとって郁子に渡した。
「本物のカグノコノミのように不老不死にはなれないけど、若さは保てるのよ。それに、ちょうど今は酸っぱいのが食べたい時期でしょ?」
なので郁子も笑顔で受け取った。
「ありがとうございます」
「ねえ? それより生まれて来るのはやっぱり男の子なの?」
「それが、どうやら双子らしくて、男女の」
「あらま。それじゃ、どっちが桜子ちゃんの恋人になるか、分からないのね」
「......私としては、予想がついてますけど」
「そっか......そうよね」
「ええ。まあ、楽しみにしています」
その後、桜子は郁そっくりの美しい女性に成長し、郁子が産んだ双子の兄妹も丈夫で利発に育つのだが、それはまた別の話として、本日はここまでと致しますm(_ _)m
終-
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2016年03月18日 02時12分16秒
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2016誕生日特別企画「桜色の乙女」・3
とりあえず、郁子は拾ってきた浴衣と帯を、その桜子と言う少女に着せてあげた。すると桜子は郁子に対してもニッコリと笑って、郁子に抱きついてきた。
その様子を見て、郁子は郁に言った。
「まるで猫の子のようなお嬢様ですね」
「ああ、そうね」と、郁は言った。「あなたは猫を飼っているから、余計にそう思うのかもしれないわね」
「確かに、この甘え方は雌猫のようだが......」と、エリスは言った。「この子は、知能が遅れているのか?」
その言葉に郁は頷いた。「とは申しましても、普通の知的障害とは違います。この子は物語が止まってしまったことにより、自我の成長も止まってしまったのです」
物語が止まる――つまり、御祖である淮莉須部琉がその物語の続きを書かずに放って置いている状態のことだが、普通ならこの場合、物語の住人達は筆者の制約のないところで自由奔放に生きていられるものである。それが桜子の場合は出来ないということは、筆者が存在自体を忘れていると言うことである。
「確か、姉様の――というか、私たちの物語の最終回は、姉様が男の子を出産して、産後の肥立ちが悪くて他界する......となってますが、その時の男の子は元気にご成長されてますか?」
郁子が言うと、郁は苦笑いをした。
「その男の子、あなたは赤ん坊の時しか見ていないのではない? 成長した姿を見た事は一度もないでしょ?......つまり、そうゆうことよ」
「え!? それでは......」
その男の子が桜子??......しかし、先刻まで裸だった桜子は、エリスが欲情するほど完璧な女体だった。
「生まれた時は確かに男の子だった。でも幾日もしないうちに女の子の体になっていて、またある時には両性具有になっていたり、何度も姿を変えて、そして最終的に女の子で止まったけど、同時に知能の成長も止まってしまった」
「つまり、こうゆう事か?」と、エリスは言った。「御祖がその子の設定をことあるごとに変えたあげく、先を書くのを止めてしまったので、その子は知能が止まったまま体だけ成長したと」
「はい、エリス様」
「だったらどうして、御祖にご意見申し上げないのです!」と、郁子は言った。「御祖に現状を報告すれば、この子の知能が止まったままにならずに済んだでしょうに」
「それもそうなんだけど......」と、郁は微笑み、郁子から桜子を離して、自分の腕の中へ納めた。
「知能は遅れていても、この子は人一倍素直で愛らしい、清らかな魂を持っているわ。そんな子を、まるで花を愛でるように育てるのも一興かと思って......」
「なるほど、良い趣味をしている」と、エリスが笑顔で言うと、
「何が良い趣味ですか!」
と、郁子が般若の形相を見せた。「花のように愛でるとか、そう言ってこの子を俗世間から隔離していたようですが、そんなことは許されていい事ではありません!! そもそも、この子は知能が止まっているために、自分自身を守ることも知らない。おかげでエリス様に純潔を奪われそうになってるんですよ!!」
「人聞きの悪いことを申すな、乾殿」と、エリスは言った。「少々、花の蜜を吸っただけではないか」
「エリス様もエリス様です! 簡単に他の子に手を出さないでください! お后様がいるのに!!」
郁子があまりにも怒るので、桜子は怖がって郁の後ろに隠れた。
「アヤ、そのくらいにして。桜子が怯えているわ」
そう言われてしまうと、まだ言い足りない気分だったが、郁子も黙るしかなかった。
なので、代わりにエリスが提案した。
「ここは一つ、御祖にご相談に行こうではないか」
「賛成です、エリス様」と、郁子は言った。「姉様、行きましょう。この子を普通の女の子にしていただくのです」
すると郁はしばらく考えたが、
「......そうね。そろそろ潮時かしら」
と、御祖の元へ行くことを了承した。
郁は桜子をお姫様だっこした。「一緒に来てくれる? アヤ」
「ええ、姉様」
「私も行こう」と、エリスは片桐枝実子に戻りながら付いてきた。「それにしても、どうしてここにいたのでしょうね?」
「主人(藤村郁彦)がね、私が仕事でいない時に、桜子と話をしたそうなの。私が桜の花が好きだから、桜子って名前をつけたことや、隣町である乾の町には、とても綺麗な桜の園があるって......」
「それで、ここへ一人で来てしまったと......お嬢様は隔離されているわけではないのですか?」と、郁子が聞くと、
「特に鍵とかは掛けていないわ。それでも、この子が屋敷から出ることはなかったんだけど。今日はどうゆうわけか、ここまで一人で来ちゃったのね」
郁の言葉に桜子はニコッと笑って、
「さくら、だいすき!」と、ますます郁に抱きついた。
なので郁子は思った――「桜の花が大好き」と言ったのか、それとも、「さくら(自分のこと)はママが大好き」と言ったからこそ抱きついたのか。
『知能がつけば、もっと自分の思いを表現することができるわ。姉様の子供なんだから、文才のある子に育つはず』
ともかく、彼女らは御祖の住む居城へと向かったのだった。-
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from: エリスさん
2016年03月04日 02時08分49秒
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2016誕生日特別企画「桜色の乙女」・2
乾の町の桜の園に案内されてきた枝実子は、その広大な土地一面に何十本もの桜が咲き誇っているのを見て、感嘆の声をあげた。
「素敵ねェ......あまりに美しすぎて、桜に惑わされそう」
「いいですね。キツネやタヌキのように化かされてみたいものです」
郁子は枝実子をもっと奥地まで案内した。すると桜が別の種類になった。
「ミザクラです。サクランボ収穫用の桜でして」
と郁子が説明すると、
「そっか。桜は観賞用と、サクランボが生る収穫用とでは種類が違うのね」
と、枝実子は言った。
「観賞用の桜にも実は生るのですが、あまり美味しくないんです。ほら、こっちの桜は佐藤錦が実るのですよ」
「もしかしてアメリカンチェリーの木もある?」
「ありますよ。もっと奥の方に。ご案内しますね」
二人は並んでしばらく歩いていた。
どれぐらい歩いたか、ふいに枝実子が口を開き、言った。
「桜色の肌の乙女......」
「はい? 今、なんと......」
「桜色の肌の乙女、よ。なんか、いい言葉じゃない?」
「確かに。まだ年若い娘の純潔を言い表しているかと思えば、どこか艶(なま)めかしいような」
「でしょう? ああ! どっかで使えないかな」
「私も使ってみたい言葉です」
「いいわよ。でも、最初に使うのは私ね」
枝実子が言いながら歩き出すと、足が何かを踏んだのを感じた。
枝実子が下を見ると、そこには散った桜の花びらに紛れるように、ピンク色の浴衣だった。
「長さから言って」と、郁子が言った。「寝間着として使われている浴衣ですね」
「どうしてこんなものが、ここに?」
「さあ......風に飛ばれて来たのでしょうか?」
「帯も一緒に?」
枝実子が更に拾い上げたものは、いわゆる三尺帯だった。
「子供がするものよね? 三尺帯って」
と、枝実子が言うと、
「最近は可愛いし巻きやすいってことで、大人でも使っている人はいるそうですよ。それにしても......ますます不可解な落し物ですね」
二人が尚も歩いて行くと、アメリカンチェリーの生る桜の木に着いた。すると、地面にさくらんぼの種や芯がいくつも落ちているのを見つけた。
「この木だけ葉桜になって、実もいっぱい生っていたので、目について食べたくなったのでしょうね......」
と、郁子が分析すると、
「誰が?」と、枝実子が言った。「ここはアヤさんの所有する桜の園でしょ? 町長の断りもなく、勝手にサクランボ狩りをするような輩が、この町にいるとでも?」
「まあ、考えづらいことですが。先ず、動物ではないことは確かです。下の方の枝しか食べられていませんし、落ちている種から察するに食べ方も綺麗です。リスやネズミだったら歯形などが残っていそうでしょ?」
「不可解なことがまた増えたわね」
枝実子はそう言いつつ先を行こうとして、立ち止まった。
見つけた――おそらく、落ちていた浴衣の持ち主であり、サクランボを食べた本人を。
その少女は15、6歳ぐらいで、白い肌に少し赤みを射したまさに「桜色の肌の乙女」だった。そんな少女が、穏やかな微笑みを浮かべて、花びらの絨毯に横たわっていたのである、一糸まとわぬ姿で。
「まあ、いったい誰かしら?」と、郁子は駆け寄った。「見た事もない......いいえ、どっかで見たような気もするけど、でも、まったく知らない少女だわ」
「つまり、乾の町の住人ではないと?」
枝実子は少女の傍に跪きながら言うと、その肢体をまじまじと眺めた。
「おお......なんと美しい少女か。傷一つないこの体は、まさに純潔の乙女にして......」
「ちょっと、枝実子さん! じゃなくて、エリス様!」
郁子の突っ込み通り、枝実子はいつの間にか片桐枝実子から神界のエリスに変化していたのだった。
「しかも紫のキトンってことは、女神ではなく両性神の方に変化(へんげ)なさいましたね」
「その通りだ、乾殿(いぬいどの。エリスの時は郁子のことを「乾殿」と呼んでいる)。この少女のあまりの美しさに、私の中の男の部分が反応してしまったようだ」
エリスがそう言って少女を抱き起すと、
「いけません! まだこの子が誰かも分からないうえに、どう見ても未成年ではありませんか」
「私がキオーネーを妻に迎えたのは、彼女が15歳の時だったが......」
「昔と今とでは違います!」
二人が言い争いをしているせいか、その少女は目が覚めて、右手で目元をこすり始めた。
目を開いたことで、郁子は気付いた――姉様(ねえさま)に似ている、と。
そしてエリスは、少女がにっこりと笑って自分に抱きついてきたことで、ますます興奮した。
「おお、そなた!」
それを合意の合図と受け取ったエリスは、彼女の唇に口づけをした。
「エリス様!」
郁子が思わず目を背けた時、その背けた方向から誰かが走って来るのが見えた。
北の街の女王・佐保山 郁(さおやま かおる)だった。
「さくらこ!」
郁はそう叫びながら駆け寄ってきて、今まさに行われている光景を見て驚き、そして、エリスの前に平伏した。
「その子をお望みでございますか? 女神様」
郁の言葉に、エリスは少女にキスするのを止めた。
「北の街殿、今の私は両性神の方だ。ゆえにエリスと呼んで構わぬ」
「はい、恐れ多いことにございます。では、エリス様......どうか、その子はご勘弁ください!」
そこで郁子も「いい加減、その子を離してください、エリス様ッ」と、眉間に皺を寄せたので、エリスは苦笑いをしつつ少女を離してあげた。
しかし少女は別段嫌がっていたわけでもなく、手を離された後もしばらくエリスに笑顔を向け、それから郁の方へ歩み寄って行った。「マーマ!」と、言いながら。
「さくらこ! もう、この子は心配させて......」
少女を抱きしめながら言う郁の顔は、まさに母親の顔だった。
「どうゆうことですか? 姉様」と、郁子は言った。「姉様にお嬢様がいるなど、あなたと姉妹の盃を交わして早20年というのに、今まで聞いたこともございません」
「そうよね。私も隠してきたから......でも、この子は間違いなく私の娘よ。私と夫・藤村郁彦(ふじむら ふみひこ)との間に生まれた娘。私たちは"桜子"と呼んでいるわ」
「呼んでいる......とは、どうゆうことですか? 姉様」
「御祖(みおや)が名付けてくださったわけではないのよ。だから、私と夫で勝手に付けたの」
「どうゆうことですか? それは!?」-
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2016年03月04日 02時05分29秒
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2016誕生日特別企画「桜色の乙女」・1
Bellers Formation Worldとは、淮莉須部琉が創作した世界のことである。
そこでは彼女の執筆した小説のキャラクター達が自由奔放な生活を楽しんでいた。今日も物語とは関係のないところで、それぞれの生活を謳歌している様子......。
〈Olympos神々の御座シリーズ・人間界の町〉の町長・片桐枝実子(かたぎり えみこ)はその日も自身の創作活動に勤しんでいた。そこへ親友であり特例で"町長の伴侶"とされた乃木章一(のぎ しょういち)が、ドアをノックしながら入って来た。
「エミリー、お客さんが来てるよ」
章一の言葉に、枝実子はパソコンから目を離すことなく、
「お客? どなた?」と、聞いた。
「乾殿(いぬいどの)だよ」
「あら、アヤさんが?」
そこで枝実子はマウスを操作して、パソコンのWordソフトを閉じた。
「客間に通してくれた?」
「もちろん。今、鍋島さんがお茶の用意もしてくれているよ」
「すぐに行くわ」
枝実子はパソコン用の眼鏡を外すと、章一と一緒に客間に向かった。
客間に入ろうとすると、ちょうど鍋島麗子(なべしま かずこ)がティーセットを持って来た。
「ありがとう、麗子さん。今日は何のお茶にしたの?」
と枝実子が聞くと、
「ティーポットの中はまだ空よ、エミリーさん。お湯だけ沸かしてきたの」
「どうして?」
「乾の町さまがそうして欲しいって仰るから」
「お湯だけ飲むのかしら?」
疑問に思いつつも枝実子が客間に入ると、そこには乾の町の長・北上郁子(きたがみ あやこ)がソファーに座って待っていた。
「いらっしゃい、アヤさん。ご無沙汰だったわね」
「ご機嫌よう、枝実子さん。ほぼ一年ぶりぐらいですね」
自由奔放に生きているとは言っても、なかなか他の作品のキャラクターとは行き来できないものだった。
「今日は自信作が出来上がったから、是非、枝実子さんにもお召し上がりいただきたくてお持ちしたのよ」
と、郁子は紙袋を差し出した。
「あら、何かしら」
枝実子は郁子の向かい側のソファーに座って、紙袋を受け取り、中を開いて見た――紅茶の缶が入っていた。
「我が町で生産している桜紅茶です。今年のは出来がいいのよ」
「わァ! さっそく飲みたい!」
枝実子はそう言いながら、紅茶の缶を麗子に渡した。
「畏まりました」と、麗子はさっそく紅茶を淹れ始めた。
「アヤさんの町は一年中、桜が咲いているのだったわね」
と、枝実子が聞くと、
「ええ。私の町は今でこそ〈芸術学院シリーズ〉に数えられてますけど、その前身は『淡き想い出』という、卒業を機に好きな人と会えなくなる女子高生を主人公とした物語でしたから、卒業シーズンになぞらえて桜が咲いているんです」
「それで桜の特産品を作っているのね」
「Olympos(オリュンポス)では年中オリーブが生っているのですよね? 何か特産品をお造りにならないんですか?」
「うちのは住民が食べる分しか作ってないから......そんなに広大な土地があるわけじゃないもの」
すると郁子はニコッと笑った。「そのうち、広い土地が割り当てられると思いますよ」
「え? アヤさん、なにか聞いてるの?」
ティーカップに紅茶が注がれたのは、ちょうどその時だった。すると辺り一面に桜の良い匂いが漂って、枝実子を心地よくさせた。
「アロマ効果ね。すごいの作ったじゃない? アヤさん」
「お褒めにあずかりまして。味も凄くいいのよ」
「ええ、いただきます」
枝実子はティーカップを口元に持っていき、ゆっくりとお茶を飲んだ。すると、口の中にも桜の香りが広がって、ホワッという気持ちになった。
「ああ、美味しい。病み付きになっちゃう(^o^)」
「良かった。またお持ちするわね」
「ううん、買いに行っちゃう! 親戚だからって只でもらってばかりは悪いわ」
「じゃあ、枝実子さんの町のオリーブと物々交換しましょ」
「あっ、それいいわね」
と、二人が笑い合った後、郁子は真顔に戻って言った。
「うちの洋子(ひろこ)が耳に挟んだ話なんだけど......」
「洋子って、侍従長(じじゅうちょう)の?」
各町から一人ずつ、創造主である御祖(みおや)こと淮莉須部琉の居城に侍従を参内させているのだが、乾の町の今井洋子(いまい ひろこ)は、元は北の街のキャラクターでもあったので、侍従の中でも長に就いていた。
「坤(ひつじさる)の町というのをご存知ですか?」
「南西にある町ですね。元はアヤさんの町だったのでしょ?」
郁子の物語がまだ『淡き想い出』だった頃は、彼女の町はまだ居城から見て南西――坤の方角にあったのだが、郁子が北の街の女王・佐保山郁(さおやま かおる)と、芸術の町・草薙建(くさなぎ たける)と義姉妹の盃を交わしたので、町ごと北西にある乾の町に引っ越したのであった。
「それで坤の町は無人になっていたのですが、御祖に置かれましてはこの度、その町を枝実子さんにお与えになることをお考えのご様子とか」
「ええ~いいのかなァ~」
と、枝実子は露骨に嫌そうな顔をした。
「あら、どうして?」
「これ以上、私が出しゃばったりしたら、五大女王にますます睨まれそう......」
五大女王とは、淮莉須部琉が昭和の時代に執筆した作品の中でも、特に有力な5人のヒロインのことである。東の街の北野真理子、南の町の武神莉菜、南東(たつみ)の街の流田恵莉、北東(うしとら)の街の水島有佐、北の街の佐保山郁の5人である。
「そんなこと気にしなくても大丈夫ですよ」と、郁子は笑った。「枝実子さんには奥の手があるじゃないですか」
「まあ......そうなんだけど」
枝実子は紅茶を飲み干すと、何か思いついたらしく、郁子に言った。
「ねえ、あなたの町の桜、見物に行ってもいい?」
「ええ、もちろん。これからご案内しましょうか?」
「ええ、是非!」-
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