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from: エリスさん
2006年11月23日 16時05分44秒
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女神の食卓・1
神話には時折「生け贄」というものが登場する。
戦勝祈願の場合が多いが、他にも、常日頃の守護に感謝してのことだったり、雨乞い、豊穣祈願、旅の無事故祈願、などなど。中には「めずらしい動物だったから」という理由で生け贄にされたりもする。
とにかく「神様にお願いしたいことがあったら生け贄を捧げる」という、現代の人間からは想像できない発想が当時にはあったのだ。
ここアルゴス社殿にも、そういった供物が届けられた。社殿の主人・ヘーラーはこういう時、自身の姫御子(娘)はもちろん、独立した養女のアテーナーも招いて、皆に振る舞うことにしていた。なぜなら、当時は冷蔵保存する技術がなかった為、せっかくの供物が数日で傷んでしまうからだ。
「願いの為に命を落としてくれたのだ。無駄にしては申し訳ない」というのが、ヘーラーの考え方だった。
今年は不和女神のエリスが養女として加わった。その分、傷んで捨てられる量も減るだろうと、ヘーラーは喜んでいた。-
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コメント: 全8件
from: エリスさん
2006年11月30日 21時45分13秒
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「女神の食卓・8」
「どうぞ、そうっと入ってきてくれ」
「はい、では失礼して」
料理長は腰を低くしながら鳥小屋に入ってきて、卵を見つけ始めた。すると、
「エリス様、卵は二つございました」
「そうか、やはりな。昨日も一昨日もそうだったから、たぶん、二羽しか産んでいないのだ。この小さい子はまだ産めないのだろうな」
「そのうち産むようになりましょう。それに、アルゴス王の方には、あと数羽とらえてくれるようにとお願いしてあるのでございましょう?」
「ああ。だからそのうち、みんな揃って食べられる時がくるだろう。それまでは二人づつ順番だな」
エリスが先に鳥小屋から出ると、料理長も後から付いてきた。
「今日の朝食はなにかな、料理長」
鳥小屋の入り口に鍵をかけながらエリスが聞くと、
「はい。今朝はアレース様が鯨の肉を届けてくださいまして」
「鯨? あの馬鹿デカい魚の?」
「アレース様が捕まえたそうでございますよ」
「はぁ??」
釣りが趣味なのは知っていたが、また偉いものを釣り上げたものだとエリスが思っていると、料理長は言った。
「あなた様のために、でございますよ」
「私のため?」
「近々エリス様は、陛下(ヘーラー)にご教授いただいて、単身出産を試みなされるのでございましょう? その為には、エリス様ご自身が滋養を身につけなければなりません。ですから、アレース様が自ら食材をお採りになって、エリス様に食べさせたいのでございますよ」
「そうか……持つべきものは親友だ」
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from: エリスさん
2006年11月30日 15時38分39秒
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「女神の食卓・7」
アルゴス社殿の裏庭に、真新しい鳥小屋が建っていた。中にはウズラが三羽、元気な声で鳴いていた。
エリスはそこへ、とうもろこしの粉を持って現われた。
「そうら、ご飯だぞォ」
エリスは鳥小屋の入り口をあけると、そう言いながら楽しそうに入っていった。
エリスは献上されたウズラを飼育していた。ただ可愛いから――というのもあるが、それだけではないのは当然である。
そこへ、料理長が籠を持って現われた。
「エリス様、卵をいただきにまいりました」
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from: エリスさん
2006年11月26日 22時53分40秒
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「女神の食卓・6」
数日後。
アルゴス領内で、二人の狩人が鳥を捕まえる為の罠を張っていた。
すでに二羽のウズラを捕まえていた二人は、木陰に隠れながら罠の様子を伺っていた。
「それにしても、なんだな」と、狩人の一人が言った「生きたままのウズラを捕らえてこい、とは。初めての注文だな」
「なんでも新しく姫御子になられた御方のご要望だそうだ」
「新しい姫御子って、あの方だろ? 不和と争いの女神の……」
「う…ん。あの、恐ろしい……」
――しばらくの沈黙――
「やっぱり、生きたまま喰うのかなァ?」
「頭からバリバリと……ありえるよな」
エリスのイメージは、このように悪い。だが実際は――
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from: エリスさん
2006年11月25日 14時18分07秒
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「女神の食卓・5」
ヘーラーは、肉を一切れ切って、料理長に差し出した。
「食べてご覧」
「は? しかし……」
「私が許可しているのです。お食べなさい」
「はい。では失礼して……」
料理長はヘーラーの手からフォークに刺さった肉を受け取り、食べた。途端、物凄い形相になって、思わず肉を吐き出していた。
料理長はすぐさま土下座した。
「申し訳ございませぬゥ!」
「いいえ、そなたのせいではありません。そなたは人間だから、たとえ味見であっても、神に献上されたものを口にできぬことは知っています。それでもいつもはとても美味しい料理を作ってくれるのに、このような不味さ。これは、そなたの落ち度ではなく、肉が悪いのです」
「はっ……そう言っていただけると……」
「それにしても」とエリスは言った「子山羊は初めて食べましたが、人間はこんな不味い肉を食っているのか?」
「いいえ、とんでもございません」と料理長は言った「子山羊はそんなに不味いものではございません。それなのにこんな味になったのは、きっとこの子山羊だけが粗悪品だったのでございます。珍しい毛色をしておりましたから、どんな味に仕上がるかと期待しておったのですが……」
料理長の言葉に、エイレイテュイアが言った「まったくの期待はずれだったのね」
「はい、まことに」
「まあ、そんな訳ですから料理長。この料理は下げて、新しい料理を作っておくれ」
ヘーラーの言葉に、料理長は即座に立ち上がると、皆のお皿を下げるのだった。
新しい料理が来る間、手持ち無沙汰になってしまった女神たちは、仕方なく果物をちょびちょび食べ始めた。
「こんなことがあると」と、ヘーラーは言った「しばらく子山羊は勘弁してもらいたいものだな」
するとエイレイテュイアが言った「アルゴス王に頼んでおきましょうか?」
「そうするしかあるまい。できれば鹿肉にしてくれ、と伝えておこう」
「あ、母君」と、エリスはヘーラーに言った。
「なんです? エリス」
「アルゴス王のお抱えの狩人は、罠とかも使いますか?」
「さあ……なにか欲しいものでもあるのですか?」
「はい。以前、アレースから貰ったものがありまして、それから病み付きになってしまいまして」
「おやまあ。食にこだわらないそなたが、珍しい。なんです? それは」
「はい、実は……」
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from: エリスさん
2006年11月25日 13時33分08秒
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「女神の食卓・4」
エリスがおいしそうに飲むのを見て、隣の席のアテーナーが杯をスティアーナに向けた。
「私にもくれない?」
「あ、じゃあ私も」と、ヘーベーも言った「お酒じゃ口直しできないわ」
「いったいどうなさったのですか? 皆様」
スティアーナはアテーナーにお酌をしながら聞いた。
「どうしたもこうしたも」と、エイレイテュイアは手前にあった果物籠から無花果(イチジク)を一つ取った「お肉が不味いのよ。あまりの不味さに死ぬかと思ったわ」
「まあ、それほど?」
「味見させてやりたいが」と、ヘーラーも梨をひとかじりしてから言った「懐妊中のそなたに食べさせて、ショックで流産でもされたら、そなたの夫に顔向けができぬ」
「お、恐ろしい……」
スティアーナはヘーベーにお酌をし終わると、ジュースのビンの中を確認した。
「あ、この後のデザートの分が……」
「いいよ」とエリスは言った「デザートの時はオリーブティーでも淹れてくれ。それより、本当に今日の供物はアルゴス王からのものなのか?」
「はい、間違いなく。アルゴス王よりの生け贄で、ピンクの毛の子山羊でございます」
「ピンクの毛?」と、アテーナーは聞き返した「キノコだったら確実に毒キノコと思って、踏みつけているところね」
その言葉に、ヘーラーが哀れむように言った。
「なんでも金色の毛の羊というのが存在するらしいから、アルゴス王も珍しい動物として献上したのであろうな。……で、そのピンクの毛皮の方はどうしたのです?」
「はい。綺麗に洗いまして、外に干してございます」
スティアーナがそう答えると、
「そうか。では、皆でその毛皮を分けることとしよう。今回はそれぐらいしか、この子山羊に報いてやることはできぬ。----スティアーナ、料理長を呼んでおくれ」
「かしこまりました」
アルゴス社殿の料理長は人間だった。人間でありながら料理の腕が素晴らしく、また信心深い男であったので、ヘーラーが気に入って召抱えているのである。
料理長は、恭しく参上した。
「今日のお料理はお気に召しましたでしょうか?」
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from: エリスさん
2006年11月24日 17時56分20秒
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「女神の食卓・3」
「やはりお母様もそうおもわれますか?」
エイレイテュイアが言うと、ヘーラーは、
「当たり前であろう。こんな不味い物、これ以上食べることは……エリス、どうしました?」
見れば、エリスが青白い顔をして喉を押さえていた。先刻食べた子山羊の肉の気持ち悪さが、喉の奥に残ってしまったのだ。
「じゅ、ジュースを……」
「スティアーナ!」と、エイレイテュイアは侍女の一人を呼んだ「エリスのジュースを持ってきて!」
「ハーイ、ただ今!」
事情のわからないスティアーナは気軽に返事をして、エリス用に作っておいた葡萄のジュースを持ってきた。そして、ただ事でないことに気付いた。
「エリス様! お気を確かに!」
普通、食事中は水か酒を飲むものだが、エリスはあまり酒が好きではなかったから、大概は水を飲み、食後のデザートの時にジュースを飲むようにしていた。が、今はそんなことを言ってはいられない。
エリスは一気にジュースを飲んで、一息ついた。
「ハァ〜! 生き返ったァ!」
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from: エリスさん
2006年11月23日 18時34分40秒
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「女神の食卓・2」
今日の供物はアルゴス王からヘーラーへの生け贄で、子山羊一頭だった。それを社殿に仕える料理長がソテーにして、メインディッシュとして食卓に並べられた。
主賓席にはヘーラー、その左側には実子のエイレイテュイア、ヘーベーが座り、右側には養女のアテーナーとエリスが座った。
ヘーラーはいつも、先ず娘たちに口を付けさせて、娘たちが満足しているのを見届けてから、自らも口を付ける人だった。
娘たちもそれを分かっていたので、「いただきます」をすると、早速食べ始めた。
そして、実子二人、養女二人の併せて四人の娘たちは、ほぼ同時に思った。
『……不味い……』
しかし誰も、そのことを口にしなかった。何故なら、この肉を不味いと思っているのは自分だけかもしれないからだ。ヘーラーにはこの肉が美味かもしれない。だとしたら、不味いなどと言おうものなら、ヘーラーの顔に泥を塗ってしまう。ただでさえ、ヘーラーは供物を大事にする人である。
だから娘たちは、平静を装って必死に肉を噛み締め、飲み込んだ。しかし、ふた口目を口にするのは躊躇われた。
娘たちのそんな様子を見逃すはずもないヘーラーは、もしや、と思って肉を口にして……言った。
「ま、不味い……」
娘たちは、安堵のため息をついた。
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from: エリスさん
2006年11月30日 21時58分08秒
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「女神の食卓・9」
「このことに関しましては、陛下からも承っております。エリス様は一人暮らしが長かった為に、栄養が偏っていらっしゃるご様子。ですから、いろいろな栄養がとれるように、献立には注意するようにと」
「母君まで…。そなたにまで気を使わせて悪かったな」
「何をおっしゃいます。わたしはそれが仕事でございますし、料理は趣味でもございます。ですからエリス様、丈夫な御子を産んでくださいませ」
「ありがとう」
こんな感じで、女神の食卓が毎日充実していられるのは、女神に気に入られた一人の料理人のおかげだった。
おしまい
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