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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

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  • from: エリスさん

    2007年02月26日 13時18分17秒

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    恋多き女神・1

     ヘーパイストスとアプロディーテーが結婚して、一年が過ぎた。
     決してラブラブではなかったけれど、食事の準備やお掃除や、妻としての役割はちゃんと果たしてくれるアプロディーテーに、不満などはない。
     ないのだけれど……。
     仕事から帰ってきて、疲れたから少しベッドに横になろうかなァと思っていたその時、彼――ヘーパイストスは見つけてしまった。
     枕の上の、金色の髪を。
     アプロディーテーの髪か? いや、それにしては短い。それに少し太めだ。
     自分の髪は少し茶色みがかっているし、これは明らかに、この家の者以外の髪だ。
     『いったい誰の……』
     恐る恐るそれを手に取ると、微かに残るオーラを感じて、確信してしまった。
     『あ、兄上!?』
     間違うはずがない。それは、同じ母から生まれた兄・アレースの髪だったのだ。
     『なんで!? なんで兄上の髪の毛が、こんなところに!?』
     訳がわからないでいるヘーパイストスに向かって、キッチンからアプロディーテーが声をかけてきた。
     「あなたァ〜ン、お夕飯ができましたわよォ〜」
     「あッ、ああ……ハーイ…………」
     ベッドに髪の毛、ベッドに髪の毛、ベッドに髪の毛!!
     それが意味するものは、やっぱり一つしかないのか!?
     『うそだろ!? 兄上ェ〜〜〜〜〜〜!』
     ヘーパイストスはその髪の毛を、千切れるかと思うほど強く握り締めた。

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コメント: 全31件

from: エリスさん

2007年04月06日 14時11分18秒

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「恋多き女神・32」
 「ヘースに伝えてください、おじさん達」と、アレースは言った。「近いうちに、また一緒に釣りをしようって。果物狩りでもいいよって」
 するとキュクロープス兄弟は、うんうんと頷いて見せた。
 ――アプロディーテーが駆け込んできたのは、そんな時だった。
 「アレースゥ〜! 聞いてよォ〜!…………キャア!!」
 最後の悲鳴はキュクロープス兄弟に向けられたものである。
 「俺のおじさん達に“キャア!”とはなんだ!」
 「ご、ごめんなさい。心の準備がなかったものだから……」
 アプロディーテーはまだ幾分怖がりながら、アレースにしがみついていた。キュクロープス兄弟は気を利かして、従者と一緒に部屋から出て行こうとするので、アレースは、
 「あ! まだ帰らないでくださいね! お土産があるんで持っていってほしいんです」
 「わほほ(わかったよ)」
 アレースが尚もキュクロープス兄弟を引きとめようとすると、アプロディーテーは彼の顔を両手で持って、自分の方に向けた。
 「もう! 聞いてったら! お母様ったらひどいのよ! 出戻りの娘なんか家に入れないって言うのよ。もう親子の縁を切るから、どこへでも行けですって! 私、行くところがなくなってしまったのォ〜」
 「君も別荘ぐらい持ってるだろ? そこで住めば?」
 「いやよ、一人っきりなんてェ〜。ねェ〜ん、アレースゥ。一緒に暮らしてェン。ここで一緒に暮らしましょうよォ〜。ねェ?」
 するとアレースは微笑みながら、言った。
 「……今はだめ」
 想像もしていなかった返答に「はあ?」とアプロディーテーは聞き返した。
 「母上が寂しがるからさ、成人するまでは実家で暮らすって決めてるんだ。ここも今日中に出払うつもり」
 「なによそれ! あなたまで私を捨てる気?」
 「だからさ、俺が成人したら結婚しよう」
 「成人したらって、まだ四年もあるじゃない!」
 「四年ぐらい待ちなよ。それとも何? 他の男に乗り換えるかい? 言っておくけど、あんな恥さらしな目にあっている君を、他の男神が貰ってくれるわけがないよ。君と結婚しようなんて物好きは、俺だけだからね」
 それを言われてしまうと言い返せなくて、アプロディーテーは悔しながらもアレースから離れて、言った。
 「いいわ。待ってあげる。あなただって、あんなことがあったんだから、妻になってあげようなんて物好きは、私だけなんですからね。それを忘れないで」
 「ありがとう、アプロ」
 「どう致しまして!」


 その頃、アルゴス社殿の庭では女神たちがお茶会を開いていた。
 アテーナーがエリスにアップルティーの茶葉をプレゼントしているのを見て、エイレイテュイアはちょっと嫉妬しながら、
 「なんでそんな急に仲良くなったの?」と聞いた。
 「そんなんじゃないわ、エイリー」とアテーナーは言った。「先日、キュクロープスのおじ様たちにお会いしたら、エリスが私の調合したアップルティーを気に入ってくれたって聞いて、それでおすそ分けしただけよ」
 「おじ様に? エリス、おじ様たちに会ったの? どこで?」
 「実はさ……」
 エリスは、ヘーパイストスに今回のことを相談されていたこと、その為にアテーナーに「見えない糸」を分けてもらったことを説明した。
 それにはエイレイテュイアもヘーベーも驚いた。
 「それじゃ、あれにはエリスも一枚かんでいたの?」
 エイレイテュイアが聞き返すと、
 「そうゆうこと。アテーナー様もそういうことになるよね」
 「そうね」と、アテーナーが笑う。
 「分かったわ」と、ヘーベーは言った。「お二人とも、これを機にアプロディーテーを懲らしめたかったのでしょう?」
 「当たり。さすがはヘーベーね」
 アテーナーの言う通り、女神たちの間では、アプロディーテーの素行を問題視する者が多かった。実は隠れて、見目良い人間の美少年と情事を重ねていたのである。しかしそうゆう事は、なぜか男神たちには気づかれないもので……。
 「ヘーラー様はいつも言っていらっしゃるわ」とアテーナーは言った。「女の本分は貞節を守ること。ただ一人の人を愛し、操を立て、夫と子供を守り抜いてこそ、女としての喜びを手に入れられるのだと。でもアプロディーテーの生き方は、ヘーラー様の道徳観とは正反対のものだわ。そんなの許されるものですか!」
 「本当よね」とエイレイテュイアも言った。「でも男は、彼女の美しさにコロッと騙されて、弄ばれて捨てられてしまうのよね」
 「だから、ヘーパイストスに協力したのさ」
 と、エリスは笑って見せた。
 「この件で、私たち女神が関わっていようとは、後世にも残らないだろうけどね」
 確かにこの後、アプロディーテーの男漁りはしばらく停滞した。
 だが、ヘルメースが成人すると、アレースに隠れて密会するようになったり、また、人間界に美しい少年を見つけては、その少年との間に子供を儲けたりもしている。
 その子供の一人がローマに渡り、後のローマ法王の祖先となる。
 アプロディーテーの恋も、ゼウス同様、ギリシアを繁栄させるために必要不可欠だったのかもしれない。

                           終わり

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from: エリスさん

2007年04月06日 13時22分35秒

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「恋多き女神・31」
 数日後。
 なんとなく実家に帰りづらくなっていたアレースは、トラーキアにある自分用の別荘(成人後はここが本宅となる)に来ていた。
 そしてここへ逃げてきても、なにもする気がおきなくて、部屋でゴロゴロと寝そべったりして、怠惰な日々を過ごしていた。そんな親友を、エリスもしばらくは放っておくことに決めたので、まったく静かなものだった。
 そんなある日のこと。
 トラーキアにはアレース付きの若い従者も同行していたが、主人から「邪魔をするな」と申し渡されていた為、こちらも暇でしょうがなかった。仕方なく、一階の部屋の窓からあたりをボーッと眺めていると、遠くから二人の人物がどしどしと歩いてくるのが見えた。
 『あれ? あのお二人は……』
 だんだんとハッキリ見えてくるようになると、従者はシャキッと立ち上がり、出入り口の方へと急いでいった。
 「いらっゃいませ。主人に御用でございますね」
 二人の人物は、声は出さずにうなずいた。
 「きっと喜ばれますよ。誰も訪ねて下されないので、内心寂しがっておられるのです」
 従者は、二人の人物をアレースの寝室へと案内した。
 「若様ァ、お客様ですよ!」
 すると、
 「う〜ん、客ゥ?」
 と呻きながら。アレースは起き上がり……訪ねてきた人物を見て、驚きながら喜んだ。
 「キュクロープスのおじさん達!」
 ユニット名を呼ばれたプロンテースとステロペースは、それぞれ右手を挙げて挨拶した。
 「うほほ(元気だったか?)」
 「わほ(久しぶり!)」
 「お久しぶりです! もちろん元気です! よく来てくださいました! どうぞ入ってください!」
 アレースは先刻までのグータラはどこへやら、きびきびと動いて二人のための席を用意し、従者に飲み物を持ってくるように命じた。
 ところで、プロンテースは長い棒の先に白い包みをぶら下げて持っていた。キュクロープス兄弟が物を持つときはいつでもそうだったので、アレースは気にも留めていなかったのだが、プロンテースはそれをアレースに差し出した。
 「うほ!」
 「え? 俺に?」
 アレースは白い包みだけを受け取った。
 「ハハ、少し暖かいや。なんですか? これは」
 と、アレースが包みを開けると、そこには果物ナイフと一通の手紙が入っていた。
 ヘーパイストスからの手紙だった。
 アレースはそれを恐る恐る開いてみた。すると――
 《この間は恥ずかしい思いをさせてしまって、すみませんでした。
 これはお詫びのしるしです。兄上、新しい果物ナイフが欲しいって言ってたでしょ?
 だからもう、仲直りをしてくれませんか?
 アプロディーテーとは正式に離縁しました。これで晴れて彼女は自由の身。けれどあんなことがあったので、もう彼女は他の男神と再婚はできないでしょう。
 つまり、彼女を手に入れられる男神は兄上だけです。
 そしてお願いです。これからは僕に遠慮をしないでください。
 兄上には今まで、語りつくせぬほどの庇護を受けてきました。でももう十分です。これからは兄上自身の幸せを考えて生きてください。
                          兄上を心より尊敬する弟より》
 「ヘース……」
 アレースの表情が、パァッと明るくなったように見える。
 それを見て、キュクロープス兄弟も、従者も、安堵するのだった。

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from: エリスさん

2007年04月06日 11時42分49秒

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「恋多き女神・30」
 アプロディーテーが尚も続けようとしていると、ほぼ同時に、アレース、ヘーラー、アテーナーが、
 「不細工って言うな!」
 「不細工とは何事です!」
 「不細工なんかじゃないわ! ヘース様は素敵よ!」
 と、言った……アテーナーだけが文章が長かったため、皆に丸聞こえになってしまい、恥ずかしさで頬を赤らめてしまう。そしてヘーパイストスも、アテーナーの言葉が嬉しくて、照れ笑いをしていた。
 そんな二人を見て、アプロディーテーは激怒した。
 「やっぱりそうだったのね! ヘーパイストスはアテーナー様を好きだったのね! しかも二人は両思いなんじゃない!! だったら、私と結婚なんかしないで、彼女と結婚したら良かったのよ!」
 それを聞き、アテーナーは口元を手で隠しながら、言った。
 「私だって、できるものなら結婚したかったわ。でも、でも、出来ない理由が……」
 アテーナーが泣きそうになっているのに気づいて、ヘーラーはすぐさま胸に抱きとめて、背中をさすってあげた。
 「おお、おお、可哀想に。そなたのような貞節の見本のような女神が、こんな阿婆擦れに貶されるとは、なんと哀れな。こんな躾のなっていない女の言葉など、気にしてはなりませんよ、アテーナー」
 「ヘーラー様ァ〜!」
 「ヨシヨシ……」
 「なによォ〜! アテーナー様だってヘーラー王后の娘じゃないのに、この扱いの差はなに!?」
 答え・アテーナーは前正妻・メーティスの娘であり、ヘーラーが養母として育てたから。――ただの「愛人の子」と差がついて当然である。(できれば「子供は全て平等」が望ましいのだが)
 このままでは話がどんどん脱線していくな、と気づいたポセイドーンは、ヘーパイストスの方へ歩み寄って、こう言った。
 「どうだろう。いつまでこうしていても埒が明かない。ここはわたしに免じて、この二人を罠から出してやってくれないだろうか」
 この当時、神々に些細な争いが起こると、いつも仲裁役に回っていたのがポセイドーンだった。
 「……叔父上がそうおっしゃられるのなら……」
 ヘーパイストスはどこかから斧を取り出すと、皆から離れて、部屋の片隅へと歩いていった。そして……。
 「テイャ!」
 と、その斧で壁を打つと、そこにあった見えない糸が切れて、二人を捕らえていた網が落ちてきた。
 無事にベッドの上に落下した二人は、見えないながらも絡まってくる網を手で払いのけながら、ようやく自由の身になった。
 アプロディーテーは、
 「覚えてらっしゃい!!」
 と言い残すと、窓から飛んでいってしまった。
 アレースの方は、ヘーパイストスをしばらく見ていた。が、弟は決して振り返ってはくれなかったので、彼もまた窓から飛び出していってしまった……。

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from: エリスさん

2007年04月06日 11時08分12秒

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「恋多き女神・29」
 ヘーラーの視線に気づいたゼウスは、
 「なんだ? わしに似たせいだと言いたいのか?」
 「他にどなたがおりますか?」
 「わしは別にませてはいなかったぞ!」
 「おや、そうでしたか? ですが、あなたのように艶聞家な男神に成長することは確実でございますわね」
 「この際だから言っておくが、わしが余所に愛人を作って子供を生ませるのは、このオリュンポスを繁栄させるために、必要不可欠なことだ! 義務でもある!」
 「なァんですってェ!!」
 ヘーラーとゼウスが痴話げんかを始めたのをこれ幸いと、アレースは自分のすぐ下に立っていたエリスに、こそこそっと声をかけた。
 「エリス、エリィス、おまえの剣で、ホラここ! この上あたりを払ってみてくれ。網が切れるはずだから」
 するとエリスは、鼻で笑ってから、言った。
 「やかましい!」
 その一言で、ヘーラーとゼウスも痴話喧嘩をやめて、エリスに注目した。
 「そんな恥ずかしい目にあいやがって、親友として情けない! 第一、男らしくないぞ! そんなにアプロディーテーのことが好きなら、旦那の目を盗んでこそこそと会いにくるのではなく、ヘーパイストスと決闘でもなんでもして、奪い取ったら良かったんだ。貴様それでも軍神か!!」
 その言葉にアテーナーは感嘆して、言った。
 「エリス殿のお言葉はもっともなことです。そしてアプロディーテーも、女性として妻として、当然守らねばならない貞節を、汚しておしまいになりました。こんなに恥ずべきことはありません。ここで晒し者になることなど、その罰としてはあまりにも軽いもの。これはヘーパイストス殿の思いやりです。それを感謝せねば」
 すると今まで黙っていたアプロディーテーが、まるで般若のような表情で怒った。
 「冗談じゃないわ! まるで私だけが悪者じゃない! そもそも、ヘーパイストスがちゃんと私を愛してくれれば、私だって気持ちが傾いたかもしれないのに。この男はね!」
 と、アプロディーテーはヘーパイストスを指差した「夜は、疲れたからってサッサと寝てしまって、私の相手なんかちっともしてくれないのよ! この私を前にしてよ! そんなことが許されていいの!? 私のどこが不満だって言うのよ! 第一、この男が美の女神である私に相応しい夫だと、皆さん本気で思っているの? こんな、片足は引きずって歩くし、顎の出ている不細工な……」

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from: エリスさん

2007年04月02日 15時12分55秒

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「恋多き女神・28」
 「なにか言ってるぞ、この坊やが」
 エリスが面白がって言うと、アポローンはヘルメースの産着の端を掴んで、自分の方へ来させた。
 「何が言いたいんだ? ヘルメース」
 「バブバブ」
 「うんうん」
 「バブバブ〜」
 「うん、それで?」
 「バブババァ!」
 「……アホらしい」
 二人のやり取りに気づいたゼウス達も、口論を止めて二人に注目していた。
 「アポローン、ヘルメースはなんと言っていたのだ?」
 とゼウスが聞くと、アポローンは父親を見上げながら、こう言った。
 「ヘルメースが、この網の中へ入りたいそうです」
 「はあ???」
 と、誰もが面食らった。
 「網の中で、アプロディーテー殿に密着しているアレース殿が羨ましいそうです。自分もこの中に入って、アプロディーテー殿に抱っこしてもらえれば、どんなにか幸せな気持ちになるだろうって」
 すると、ポセイドーンは言った。「ませたガキだな」
 「本当に。どなたに似たのやら」と、ヘーラーはゼウスを睨み付けた。

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from: エリスさん

2007年04月02日 15時02分47秒

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「恋多き女神・27」
 伝令を受けて、何事かと駆けつけた神々は、二人の情けない姿を目にして、噴出すやら、遠慮なく大笑いするやら、さまざまだった。
 一番初めに来たのは、海神ポセイドーンだった。その後でゼウス、ヘーラーの二神。次はアテーナーとヘーラーの娘たちだったが、ポセイドーンに、
 「うら若い女神が見るものではないよ」と、外に出されてしまった。
 ちょうどそこへエリスが愛馬に乗ってやってきた。彼女はポセイドーンの申し出を丁重に断ると、
 「我が親友のことなのです。中へ入れて下さりませ、海王さま」
 と、頭を下げた。
 するとアテーナーも言った。
 「私は神王ゼウスの嫡子です。兄弟を束ねる立場の者として、立ち会う義務がございます」
 その言葉に、ポセイドーンは言った。
 「勇気のあるご婦人だ。このわたしに逆らうとは……宜しい、入られよ」
 と、苦笑いを浮かべながら二人を中へ入れた。
 このやり取りの間に、一人の少年がさっさと入っていき、窓からもなにかが飛んできて入った。
 少年と一緒に来た少女は、エイレイテュイアの傍まで来ると、可愛らしくお辞儀をした。
 「ご無沙汰をしておりました、エイレイテュイアお姉様」
 「あら!? あなたは、レートー様のところのアルテミスね!」
 かつてエイレイテュイアが二日を要して助産した、あの小さな女神である。生まれた次の日には成長して、エイレイテュイアを助けて弟が生まれてくるのを立ち会ったのだが……。
 「年齢は三歳のはずなのだけど、人間で言えばもう七、八歳といったところね。あなたは成長が早いから」
 「私よりも、弟の方が成長が早いんです。男の子だからかしら!」
 「それはあるかもしれないけど……じゃあ、さっき入っていった子が?」
 「はい。弟のアポローンです」

 アポローンは、天井に吊るされた二人の神の姿を見上げながら、ゼウスとヘーラー、そしてヘーパイストスたちのやり取りを聞いていた。
 「こんな阿婆擦れを妻に押し付けられて、いい迷惑です、父上!」
 と、ヘーパイストスは言った。「こんな女は離縁してやりますから、婚儀の時に父上に差し上げた祝儀を、すべて返してください! 母上! あなたに差し上げた〈クッキングセット〉もです!」
 「そんな!? あれがなくては料理が作れぬ。せめて半分にしておくれ」
 「じゃあまあ、半分でもいいです」
 「なぜヘーラーは半分でもいいのだ! わしとて、あの寝心地のいいベッドと、座り心地のいい椅子、切れ味のいい剣を取り上げられては、どうにも困るではないか!!」
 そんな時、ポセイドーンの顔の横を、スルーッと通り過ぎた物体があった。見ると、産着に包まれた赤ん坊だった。
 「なんだ? こんな赤ん坊まで呼ばれたのか? というより、誰だ? これは」
 すると、アポローンが視線をその赤ん坊に移して、言った。
 「ああ、これは、マイア様のところに生まれたヘルメースですよ」
 「ああ、これが。兄上(ゼウス)の子だろう? もう空が飛べるのか、さすがだな」
 「気をつけた方がいいですよ、叔父様。こいつこの間、僕の牧場から牛を一頭盗んでいったんです」
 「……それは、末恐ろしいな」
 すると、その赤ん坊――ヘルメースが、バブバブと何事か話し出した。

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from: エリスさん

2007年04月02日 13時21分31秒

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「恋多き女神・26」
 「それじゃ、あの人、私たちのことに気づいてるってこと!?」
 怒り心頭のアプロディーテーは、滅茶苦茶になった自分の髪を忌々しそうに払いのけながら、いつもより大声で言った。
 「ま、そうゆうことだな……」
 対してアレースは呑気そうにしているので、それがアプロディーテーの気に障った。
 「あなたってば! 少しはここから抜け出す方法を考えてよ!」
 「無理だよ……ヘーパイストスは完璧な仕事をする。あいつが来るまで、逃げ出せるはずがない」
 『それに、そろそろケジメをつけた方がいいしなァ』と、アレースは思っていた。アプロディーテーへの恋心が高じて愛人関係になったけれど、本当はヘーパイストスに対して心苦しく思っていたし、親友のエリスに内緒にしておくのも限界にきていた。
 「しばらくすれば、ヘースが様子を見に来るよ、きっと。それまで我慢しようよ」
 「冗談じゃないわァァァァァァァ!」

 数時間後。
 「しばらくすれば」どころか、午前中の仕事が押してしまったヘーパイストスは、お昼を少し過ぎたころに帰ってきた。
 そして寝室の状態を見るなり、深いため息をついたのである。
 「少しは僕の予想を覆してほしかったのに……」
 それは、二人が浮気をしているなど邪推だと思いたかった、という心の声そのものだった。
 「ヘース……」
 アレースはそんな弟を見ると、やはり「済まない」と思わずにはいられなかった。……だが、
 「でもまあ、服を着ていたのは救いですね」
 これには苦笑いをせずにはいられなかったアレースだが、アプロディーテーは完全にキレた。
 「いいからここから出しなさいよ!!」
 もう「美の女神」の称号そっちのけである。
 「そうはいかないよ、奥さん。悪いことをした人には、それ相応の罰を受けてもらわないとね」
 ヘーパイストスはそう言うと、部屋の隅にある「通信用水晶球」の傍まで行った。
 そして……。
 「ああ、伝令の神さん? ヘーパイストスだけど。あのね、ギリシア中の神々を集めてくれないかな、僕の家に。……そうそう、僕とアプロディーテーが住んでいる家にね。皆さんに面白いものをお見せしますからって。それじゃ、頼んだよ」
 ――通信を切ったヘーパイストスは、思いもよらなかった行動に呆然としている妻と兄の方へ向いて、ニッコリと笑いかけた。
 「じゃ、そういうことだから」
 ヘーパイストスはそのまま寝室を出て行ってしまった。
 しばらくして我に返ったアレースは、ヘーパイストスが歩いていった方向に、必死な声でこう言った。
 「ヘース! 俺が悪かったから、せめて話し合いを! なにも晒し者にすることないだろォ!! おォーい! ヘースゥ!」
 「あァ〜ん! あなたァ〜!」
 二人の叫びは、虚しくこだまするばかりだった。

 

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2007年04月01日 12時53分22秒

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「恋多き女神・25」
 「な、なによッこれ!」
 逆さづりの格好になってしまったアプロディーテーは、網の中でバタバタと藻掻きながら、なんとかして頭を上にしようとしていた。
 アレースの方は運良く頭が上になっていたこともあって、落ち着いて状況を観察した。
 「これ、良ォく見ると、網だな。透き通った糸で編んだ」
 「だったら切ってよ!」
 「……無理だよ」
 アレースが指差した方向――ベッドの脇に、アレースの剣が置かれてあった。
 「さっき外したんだ」
 「だったら噛み切って!」
 「それも無理。透明だけど、すごく丈夫な糸なんだ。歯の方がボロボロになる」
 「そんな!」
 なんとかして起き上がれたアプロディーテーは、忌々しそうに吐き捨てた。
 「いったい誰がそんなこと!」
 すると、ため息をついたアレースは言った。
 「ヘースしかいないよ」

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2007年03月28日 12時42分22秒

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「恋多き女神・24」
 またまた数日後……。
 アプロディーテーが朝食の仕度をしている間、ヘーパイストスはこっそりと寝室に仕掛けをしておいた。
 『この寝台の上に乗ると、ここがこう動いて、このテコが……』
 頭の中で呟きながら、何度も仕掛けを確認する。
 これでよし! と確信したところで、アプロディーテーの声がかかった。
 「あァなァたァ! 朝食ができましたわよォ!」
 こんな可愛い新妻っぷりなのに……と思いつつ、ヘーパイストスは心のうちを読まれないように明るく「ハーイ!」と返事をした。
 今日は、決行日だった――

 ヘーパイストスが仕事に出かけると、アプロディーテーはいそいそと身支度を始めた。もちろん、アレースを迎え入れるためである。いつもは簡単に済ませてしまう化粧も、彼に会う時は念入りなのだ。これも乙女心というものか?
 しばらくすると、アレースがそうっと忍び込むようにやってきた。
 「ヘースは出かけたよね?」
 「大丈夫よ。今頃は……」
 言い掛けて、やめる。ついアプロディーテーは「あの恐ろしい姿をした魔物(キュクロープス兄弟のこと)と、暑苦しい場所で汚れ仕事をしているわ」と続けようとしたのだが、先日ヘーパイストスの容姿のことを馬鹿にしたらあんなに怒られたのである。またアレースのことだから、こんなことを言ったら怒るに決まってる、と瞬時に気づいたのだった。
 「今頃は……なに?」
 アレースの問いかけに、アプロディーテーは言葉につまりながらも、
 「今頃は、きっと、大好きな鍛冶仕事に、専念してるわよ! きっと」
 「ああ、そうだね。あいつは昔から器用な奴だから。ホラ、この剣も、防具も、みんなヘースが作ったものなんだよ」
 「あら、素敵ね」
 と、アプロディーテーは言ったものの、本心では、
 『そんなに弟が大事なら、私と浮気なんかしないでよ!』
 と、思っていた。思ってはいても、アレースにそんなことは絶対に言えない。何故なら……。
 『アレースはこのオリュンポスで一番の美男子なんですもの。絶対に他の女神には渡さないわ』
 この時、後に「美男」で有名になるアポローンや、ヘルメースはまだ子供で、ディオニューソスに到っては生まれてもいなかった。つまり、美の女神アプロディーテーのお眼鏡にかなう男神は、今のところアレースしかいなかったのである。
 「そんなことより」と、アプロディーテーはアレースの手を引いた。「早くあちらで寛ぎましょ」
 アプロディーテーに誘われるまま、アレースは寝室へと連れて行かれた。
 部屋の中は、アプロディーテーの体香である桃の実の薫りで満たされている。この薫りを嗅ぐと、アレースは「ほわ〜ん」とした気持ちになってしまう。
 「さあ、こっちに座って」
 アプロディーテーは尚も誘ってくる。
 二人は一緒に、ベッドに腰掛けた。
 その瞬間!
 「きゃあ!!」
 「うわァ!」
 二人は見えない何かに包まれて、天井へ引き上げられてしまった。

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2007年03月26日 15時55分37秒

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「恋多き女神・23」
 「ヘーパイストスは不細工なんかじゃない。ちょっとアゴは出ているけど、優しさがにじみ出たいい顔だ! それに右足のことだって、あいつは何も悪くない。父上の策略のせいで、あんな風になってしまったんだ。あいつは好きで不自由な足になったんじゃない!」
 アレースが本気で怒っていることに、アプロディーテーは困惑しながらも、
 「い……いやァだ〜」
 と、しなをつくりながら擦り寄った。
 「今のはあなたの気を引きたくて、わざと言ったのよ。あんなこと、全然、ちっとも、まァったく思ってないわ。だからァ、怒っちゃイヤン」
 アレースの弱点――それは、惚れた女からのお色気攻撃だった。
 「そう?……それならいいんだけどさ」
 アレースの怒りがおさまって、ホッとするアプロディーテーだったが、その反面、今度は自分がムッとしていた。
 『なにさ、実の兄弟で馴れ合っちゃって、気持ち悪い。恋人より弟の方が大事って、どうなのよ』
 アプロディーテーには同母の兄弟姉妹がいないからか、「きょうだいの絆」が理解できないのかもしれない。

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2007年03月24日 19時30分17秒

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「恋多き女神・22」
 「でも意外だな。君が料理とかするなんて」
 と、アレースはベッドに腰掛けた。「侍女に全部まかせていそうなのに」
 「私だって本当はそうしたいのよ〜。だけど、お父様が……」
 「父上が?」
 「ヘーパイストスには今まで辛い目に合わせてしまったから、代わりに献身的に世話してやって欲しいって、言うのよ」
 アプロディーテーもゼウスの子供だった。海の泡から生まれたと一般に言われているが、その伝説はアプロディーテーの名の「アプロ」が「泡」を意味していることから、後世に創作されたものである。
 「おまけに王后陛下にも、くれぐれもって言われて、仕方なく“妻”をやってあげてるのよ」
 アプロディーテーはベッドの近くに引き寄せたテーブルに、軽い食事を運んできた。
 「神王と王后から言われてしまったら、嫌でも嫌とは言えないじゃない。だから好きでもないヘーパイストスなんかと、結婚しなくちゃならなくて」
 ぶつぶつと言いながら、アプロディーテーはアレースの隣に座った。
 「第一、美の女神である私が、なァんであんな不細工で片輪者の妻に……」
 その言葉を聞いて、アレースはアプロディーテーを突き飛ばした。
 「片輪者って言うな! それに不細工でもない!」
 「え? え!?」
 ヘーパイストスの悪口を言っているのに、どうしてアレースが怒るのか、アプロディーテーには分からなかった。

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2007年03月24日 18時54分13秒

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「恋多き女神・21」
 その頃……。
 ベッドから起き上がったアレースは、自分の服を着ながら、言った。
 「明日もいつもの時間でいい?」
 すると、まだベッドの中で横たわっているアプロディーテーは、
 「いいけど……帰るの?」
 「もうヘースが帰ってくるころだろ?」
 「まだ大丈夫よン」
 アプロディーテーは色っぽい声で言いながら、アレースに擦り寄ってきた。
 「あの人、最近は帰りが遅いの。なんか難しいものを作ってるのですって。だからァン、もうちょっと一緒にいて。ね?」
 「でもなァ、その難しいものが出来上がっちゃって、帰ってくる可能性もあるし……」
 「エェ〜! そんなの淋しい〜……じゃあ、せめて昼食だけでも食べていって。ね?」
 可愛いアプロディーテーに迫られては、もう抵抗することもできない。まあ、食事ぐらいなら、ヘーパイストスが途中で入ってきても大丈夫だろうと思い、ご相伴にあずかることにした。

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2007年03月18日 12時42分55秒

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「恋多き女神・20」
 ジュースも飲み終わったところで、エリスはヘーパイストスが考えている「計画」のことを聞いた。
 その計画の通りになると、アレースもアプロディーテーも、とてつもなく恥ずかしいことになるのだが……。
 「まあ、それぐらいは仕方ないか……」
 と、エリスも賛成した。
 「うん。それぐらいすれば、兄上も僕に遠慮なんかしないで、アプロディーテーと結婚する気になると思うんだ」
 「なかなか考えたな……そのためには、目に見えない網が必要になるんだな」
 「だけど……」
 ヘーパイストスは器用とは言っても、金属とか粘土などの加工には向いているが、網を編むといった「手芸」は専門外だった。その為、目に見えないほど薄い糸を紡ぐのが、どうしても出来なかったのである。
 「私に、一人だけ心当たりがあるけど」
 エリスは意味ありげに笑いながら言うと、
 「え? 誰さ?」
 「……いや、ここでは明かさないでおくよ」
 「なんで! っていうか、手伝ってくれるの?」
 「これぐらいなら手助けしてもいいだろう。最終的には親友のためにもなるしな」
 エリスはそう言うと、立ち上がった。
 「幸い今日は、アレースとの剣術の稽古が休みなんだ。だからこれから、その人のところを訪ねてみるよ。善は急げって言うしな」
 「僕が行こうか?」
 「いや、私がいいんだ。その場所は、男子が気安く入れる場所じゃないんでね」
 「え!?」
 その返答で、エリスが訪ねていこうとしている人物が誰だか分かってしまった。
 「彼女に頼むの……?」
 「彼女しかいないだろ? こんな難しいことができるのは」
 確かにその通りなので、ヘーパイストスはしぶしぶながらも承知するのだった。

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from: エリスさん

2007年03月18日 12時09分12秒

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「恋多き女神・19」
 数日後。
 エリスは差し入れを持ってヘーパイストスの仕事場を訪ねてきた。
 「どう? その後なにか手は打った?」
 「う〜ん……それなんだけど」
 ヘーパイストスは何かを手に持ったまま、エリスの方を振り返った。
 「これ、なんに見える?」
 「なにって、網だろ?」
 すると、ヘーパイストスは深いため息をついた。
 「分かっちゃダメなんだ……っていうか、見えちゃダメなんだよ」
 「はァ?」
 ヘーパイストスが持っていたものは、薄い糸で編み上げた網だったのである。だが彼は、本当は「目に見えない網」を作りたかったのだ。
 「だけど僕には、目に見えない糸が作り出せないんだよ……」
 「糸かァ……ヘースには専門外なんだな」
 「うん……」
 そこへ、キュクロープス兄弟が顔を出した。エリスが持ってきた葡萄(ぶどう)のジュースをコップに入れて持ってきたのだ。もちろん、ステロペース特製の氷入り。
 「うほほ(どうぞ)」
 「ありがとうございます。おじ様たちも飲んでください。おいしいですよ」
 「わほわほ(ありがとう、いただくよ)」
 「うほうほ、わほ(おまえも休息しなさい、ヘース)」
 「ハーイ……」
 仕事場で食事をするのもなんなので、四人は隣室にある休憩室に移動した。
 そこでヘーパイストスと向かい合ってジュースを飲んでいたエリスは、見慣れないものを見て驚いた。
 キュクロープス兄弟が、コップに長い棒をさして、その棒を口にくわえていたのだ。
 「ヘース、おじ様たちはなにをしているの?(エリスは気を抜くと女言葉になってしまう)」
 「ああ、ストローでジュースを飲んでいるんだよ」
 「ストロー?」
 「あの口にくわえているやつさ。あの棒は管になっていて、吸い込むと飲み物が口の中に入ってくるんだ」
 「ヘエ……ヘースが作ったの?」
 「そう。ホラ、そうしないとさ、プロンテースおじさんは手にしたものを熱湯に変えてしまうし、ステロペースおじさんは凍らしてしまうだろ?」
 「なるほど……だからいつも、おじ様たちが使うものには長ァい柄が付いているんだものな。そうなると、食事はどうしているの? 長いスプーンを使うにしても、口に運ぶのは……」
 二人の会話を途中から聞いていたキュクロープス兄弟は、「わほ!」と二人に声をかけてきた――見ていてごらん、ということだ。
 テーブルの上には、ポップコーンが置かれていた。それを先ず、プロンテースが長ァい柄のスプーンで掬い取り、向かい側に座っているステロペースの方へ向けた。ステロペースはそのスプーンに口を近づけて、パクッと食べる。
 今度はステロペースが長ァい柄のスプーンでポップコーンを掬い、プロンテースの口元へ運ぶ。それをプロンテースがパクッと食べる。――二人はいつもこうやって、お互いに協力しながら食事をしているのだった。
 それを見て、エリスは言った。
 「どっかの国のお伽噺にあったよね、《天国のスプーンと地獄のスプーン》。あれみたい!」
 「そう、その話の《天国》バージョンさ」
 

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2007年03月18日 11時27分05秒

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「恋多き女神・18」
 ヘーラーはヘーベーに髪を洗ってもらいながらも、視線は息子のアレースの方へ向けた。
 「そなたももう16歳。好きな女性の一人もいないのですか?」
 「……ええ、まあ……」と、アレースは言葉を濁した。
 「いっそのことどうです? エリスと結婚する、というのは」
 「ご冗談でしょう」と、アレースは笑った。「エリスは親友です。掛け替えのない竹馬の友。女として見たことなど一度もありませんよ」
 「その考え方も、ちょっとどうかと思うが……それだけエリスのことが大事だと言うのは、分かりました。では、どうだろう。ヘーベー、そなたがアレースの妻になってやったら」
 すると、ヘーベーがおかしそうに笑い出した。
 「いやだわ、お母様ったら。ご自分が実弟(ゼウス)と結婚したからって、その考え方は短絡的過ぎましてよ」
 「そうかい? 悪い縁談ではないと思うが」
 「確かに、兄妹で結婚するのは神族の特権。でも、私はお兄様を《兄》としてしか見られませんもの。恋のときめきも感じられない相手に嫁ぐなんて、絶対に嫌ですわ」
 「その意見は、僕も賛成です」と、アレースも言ったので、ヘーラーはため息をついた。
 「すでにヘーパイストスは結婚しているというのに、兄や姉であるそなた達がいまだ未婚というのもねェ。仕方ないことではあるが。……ヘーベー、そなたも好きな男性はいないのですか?」
 「いませんわ。でも焦ってはいませんのよ」
 この後、ヘーベーは百年以上も未婚を通した。その間、兄弟姉妹たちの美容師になったり、宴の席で舞姫になったりと、「青春の女神」としての役割を謳歌している。
 そして、人間界において英雄ヘーラクレースが誕生したとき、初めて恋をするのである。ヘーラクレースがヘーラーの与えた試練に耐え、神としてオリュンポスに迎え入れられたとき、彼女はようやくヘーラクレースを自身の夫としたのである。

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2007年03月13日 19時45分19秒

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「恋多き女神・17」
 正直、ヘーパイストスの名を出されると居たたまれない気持ちになるアレースは、その場を離れようかと、一瞬悩んだ。
 だが、動きだす前にヘーラーに呼ばれ、逃げられなくなった。
 「そなたもいい加減、妹に髪を洗ってもらうのは、卒業したらどうです?」
 「ハァ……それはどういう意味で?」
 「恋人の一人も作れ、ということですよ」

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2007年03月13日 19時35分48秒

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「恋多き女神・16」
 「さっ、済んだわ。タオル隊の皆さァん!」
 ヘーベーが言うと、
 「ハーイ!」と、また別の三人の侍女が、タオルを手に現われた。それを見てアレースは、
 「いいよ、タオルドライぐらいは自分でやるから。タオル一枚貸して」
 と、侍女の一人に手を伸ばした。
 「まあ、御子様。それでは私たちのお仕事が……」
 「恥ずかしいからヤダなんだ。ホラ、早くタオルを!」
 仕方なく侍女はアレースにタオルを渡した。アレースはそれを頭に巻き、起き上がった。
 「ありがとな、ヘーベー」
 「濡れた髪のまま、廊下を歩かないでね。ちゃんとここで水気を取っていって」
 「わかってるよ」
 アレースが細いベッドから離れたので、代わりにヘーラーが横になった。
 「ヘーベーのおかげで、服を着たまま髪を洗えるから、助かること」
 ヘーラーがそういうと、ヘーベーは誇らしげに笑いながら、こう言った。
 「あとはヘーパイストスの器用さのおかげよ。私が思いついた道具を、あの子はわけなく作ってしまうのですもの」
 「おお、その通りじゃ」

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2007年03月12日 20時43分18秒

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「恋多き女神・15」
 「オヤ、先客がいましたか」
 ヘーラーはそう言いながら、湯殿の隅にあった椅子に腰掛けた(書き忘れていましたが、ここは湯殿=お風呂場です)
 「すぐに終わりますわ、お母様。たいしてお待たせしませんよ」
 ヘーベーがアレースの髪をすすぎながら言うと、
 「そう? 待たされてもいいのですよ。そなたの洗い方は気持ちがいいから、待つ甲斐があります」
 「お母様にそう言ってもらえると、嬉しいわ」
 「ところで、このいい匂いは……」
 アレースが再びギクッとした時、ヘーベーは「お湯を止めてェ」と侍女たちに指示を出した。そして、
 「匂いはこれですわ」
 と、シャンプーの瓶を持って、ヘーラーに見せた。
 「桃の葉と実を配合した、特製シャンプーですのよ」
 「それは良い。私にも使っておくれ」
 「はい、喜んで」
 ヘーベーはそういうと、アレースの方に向き直って、ニッコリと笑ってみせた。
 この妹をあなどってはいけない……アレースはつくづく思った。

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2007年03月11日 19時34分22秒

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「恋多き女神・14」
 趣味なだけあって、ヘーベーは洗髪が巧かった。頭皮にかかる力加減が絶妙で、凝り固まっていたものが取れるのか、スッキリする。その気持ち良さに、エイレイテュイアなどは最中に眠ってしまうことがある。
 「どこか痒いところはない? お兄様」
 「ないよ」
 「それじゃ、シャワー隊の皆さァん!」
 「ハーイ!」
 ヘーベーの呼び掛けに、大きな箱にポンプが付いて、さらにホースの先にシャワーがついたものを、三人の侍女が台車に乗せて運んできた。
 「最適温度にしてございます、姫御子(ひめみこ)様」
 「それじゃ」と、ヘーベーはシャワーの付いたホースを手に取った。「お湯を出して」
 「ハーイ!」
 二人が台車を押さえ、一人がポンプのハンドルを上下させた。
 勢い良く出てきたお湯で、ヘーベーはアレースの髪をすすいだ。
 母神ヘーラーが姿を現わしたのは、そんな時だった。

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from: エリスさん

2007年03月11日 19時16分39秒

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「恋多き女神・13」
 エリスが美味しいお茶とお菓子でもてなされていたころ。
 アルゴス社殿にいたアレースは、妹のヘーベーに髪を洗ってもらっていた。――と、いうのも、ヘーベーの趣味は、
 「人の髪を洗ってあげること」
 だからだ。そのため、服を着たまま洗髪ができるように、ヘーパイストスに頼んで、頭だけ出せるようにした細いベッドや、洗面台、シャワーなどなど、作ってもらったのだ。まるで現代の美容師である。
 アレースを細いベッドに仰向けに寝かせると、ヘーベーは言った。
 「お兄様ったら、いままで誰とご一緒だったの?」
 「え!?」
 またバレたか? と焦りつつ、彼は言い訳した。
 「え、エリスとだけど」
 「嘘。エリスはラベンダーの匂いだもの。ごまかしたってダ〜メ!」
 「そんなことはいいから、早くやってくれよ」
 「ハイハイ」
 ヘーベーは何種類もあるシャンプーの中から、一本選んだ。

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