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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2007年04月08日 14時41分18秒

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    異形の証(いぎょう の あかし)・1

     いつからか、僕がお母様の子供ではないことは、気づいていた。
     お母様とは全然似ていないし、どちらかって言うと従兄弟のリーモスやポノスとの方が似ていて――でもその従兄弟は、正確には「従兄弟」ではなくて……。
     だから、叫んでしまった。
     「僕の本当の母親は誰なんですか!」
     お母様が悲しむ顔を見るのは辛いけど……でもどうしようもなかった、あの時。
     僕の成長が十五歳で止まってしまったのも、お母様が道ならぬ恋に奔(はし)った所為だと、だから僕が呪われてしまったのだと、そう思い込んでいた。
     「恥ずかしくないのですか。女同士で愛し合うなど、汚らわしい!」
     本当は汚らわしいなんて思ってない。お母様が本当に愛している人なら、祝福してあげたかったんだ。
     でも、あの頃の僕には、できなかった。
     気づいてしまったから……。
     僕の背中にある翼――それこそが、僕の本当の母親が「あの人」である証であると、分かってしまって。
     素直になれない自分を、僕はどうすることもできず……。
     「教えてください、お母様。どうして僕に、Eris(エリス)叔母様と一字違いのEros(エロース)を与えたのですか!」
     そんな問いに、お母様が答えられるはずがないのは、分かっていたのに……。
     「お母様の血だけを引いていれば、僕が《異形の神》として生まれるはずがないんだ!!」

     言葉ではどんなに反発しても、
     本当は、
     エイレイテュイアお母様も
     エリス叔母様も
     大好きなのに……

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コメント: 全15件

from: エリスさん

2007年05月16日 12時08分20秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・16」
 ささやかな宴が再開されて、ニュクス様もレイアー様の隣に着いて参加されることになった。
 僕はまだ翼を髪に変えたまま、初めて背もたれのついた椅子で食事をした。すると僕の横に座っていたアーテーが、
 「あとで私にも教えて! 私も翼が欲しいの。ね? ね?」
 と、せがんでくるので、
 「それには髪を伸ばさないとダメなんだよ。アーテーはショートカットだから無理だね」
 「伸ばすもの! 絶対伸ばすから、レーテー姉君くらい長くなったら、私にも教えて! ね? エロースゥ〜」
 「分かった分かった! 分かったから、腕を引っ張るなよォ」
 僕は浮かれてもいたけれど、ニュクス様の言葉で身を引き締めた思いもあったんだ……。


 ベッドの上で仰向けで寝られる快感を味わって、僕は思い切り体を伸ばした。
 「う〜ん! 楽でいいなァ!」
 それを横で見ていたプシューケーは、ちょっと残念そうな表情をしながら、こう言った。
 「エロース様の翼、私は本当に好きでしたのに」
 なので僕は彼女のことを見上げながら、言った。
 「別に、これからずうっと翼なしで生活するわけではないよ?」
 「あら、そうなんですの?」
 ガイア様の社殿から帰るときも、翼を元に戻さずに、馬車に乗って帰ってきたものだから、プシューケーは「もう二度と翼を使わないつもりなんだ」と思ったらしい。
 「また明日の朝になったら、いつもの姿に戻るさ。今日はね、この姿になれたのが嬉しくて、なかなか戻りたくない気分だったからそうしていたけど。だって考えてごらんよ。僕から翼を取ったら、恋の神としての仕事に差し支えるだろ?」
 「そうですわね。空を飛んで、誰にも気づかれないように恋の矢を射ってこそ、恋の神様ですものね」
 「それにさ……」
 僕は起き上がると、ベッドから降りて、言った。
 「今では忘れ去られてしまった事実――僕が、女神エリスの息子なんだっていう、あの翼はその唯一の〈証拠〉なんだからさ。絶対に失うわけにはいかないよ」
 「おっしゃるとおりですわ、あなた」
 そう。この異形の証は、僕にとって、あの誇り高い女神の血筋である証でもあったんだ。
 それを、誇りに生きていこう――これからも、ずうっと。




 後日談。
 アーテーは本当に髪を伸ばして、翼に変化する術を覚えた。
 覚えたのはいいんだけど……元来が破壊の女神だから、下手な飛び方でいろんな所にぶつかって、大事な建物を壊したりしている。
 なので僕は、エイレイテュイアお母様に頼まれて、アーテーの飛行訓練の先生をする羽目になった。
 早く覚えてもらわないと。僕だって自分の仕事が忙しいんだからさ。

                             終

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from: エリスさん

2007年05月16日 11時39分47秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・15」
 ニュクス様はそっと、僕に耳打ちで呪文を教えてくれた。翼を髪にする呪文と、髪を翼にする呪文を。そして、そうなった時の自分の姿を強くイメージするようにと教えてくれ、僕から手を離した。
 「さあ、やって御覧なさい」
 「はい、お祖母様」
 僕は、ニュクス様がやったように肩に手を回して、呪文を呟いた。
 すると――急に、背中が軽くなって、足に何かが触れた。
 翼が髪にと変化し、足にあたったのだ。僕はその髪を手にとって見た……翼と同じ色の、白い髪だった。
 するとアーテーがケラケラと笑った。
 「おもしろい! 上だけ若くて、下はおじいちゃんだわ!」
 ニュクス様も複雑そうな表情で、言った。
 「髪と翼の色が違う子供は、今まで生まれたことがなかったから……」
 そうか。僕は髪の色は金色なのに、翼は純白だから。変化した翼は髪につながっても色が変わることがなく、よって「頭部は金髪、首のあたりから下は白髪」になってしまったのか。
 まあいいや! 大した問題じゃないから。
 これで寒くても普通の服が着れるし、寝るときは仰向けで寝られるんだから!
 「ありがとうございます、お祖母様! おかげで、今までできなかったことが全てできるようになります!」
 すると……ニュクス様は僕の手を取ると、跪き(ひざまずき)、真剣な表情で言った。
 「エロース。あなたもまた、異形の神として生まれたことを嘆いておられるのですね」
 ハッとした――そうだ、翼がなくなったことを喜んでいるってことは、その思いを口にしたも同じなんだ。それはニュクス様を悲しませることになるのに、僕はそんなことも気づかないで……。
 「エリスもそうでした……我が血の宿業を負わせてしまい、あなた方に対して、私はなんの償いもできません。けれど、決して御身をお厭いなさいませんよう。エイレイテュイア様の御子であるあなたが、その背に翼を負って生まれてきたことには、きっと何か意味があるのです。私たち神族でも考えが及ばない、大きな意味が……」
 「……すみませんでした、お祖母様」僕はそう言ってから、笑顔を見せた。「僕は決して、自分の翼が嫌いなわけではないんです。だから、そんなにご自分を責めないでください。僕は大丈夫です!」
 「……そうね。あなたは強い子ね。あのエリスの血を引いているのですから」

 

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from: エリスさん

2007年05月16日 11時10分54秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・14」
 「初めまして、お祖母様。エロースです。隣にいるのは妻のプシューケーです」
 「話は聞いていますよ、人間界の姫君だそうですね。種族を超えて、よくぞ嫁いでくださいました。ありがとう……」
 プシューケーはニュクス様にそうお声をかけていただくと、ゆったりとお辞儀を返した。
 その間も僕は、ニュクス様の翼に見惚れていた。その様子を察したニュクス様は、微笑まれるとこう言った。
 「私の翼をお気に召していただけましたか?」
 また僕を「御子」扱いした口調だったけど、それは聞き流して、言った。
 「とても立派な翼です。艶やかで、柔らかそうな……でも、いったいその服はどうやってて着替えているのですか? 背中の服の切れ込みでは、その立派な翼を通しきれないと思うのですが」
 するとニュクス様は、今度はニッコリと笑うと、腕を交差して、自身の両肩に手のひらを当てた。そして聞き取れない言葉を呟くと――突然、翼が形を失って、風に煽られた黒い帯のようになり、そしてそれはニュクス様の黒髪につながった。
 翼が、長髪へと変化した!?
 僕はもちろん、エリス叔母様の子供たちもびっくりしていた。ニュクス様にこんな技があっただなんて!
 「私の一族ならば、翼をこんな風に変化させることは造作もないのですよ。翼は必要に応じて背中に付ければ良いのです。服も、こうやって二本の切れ込みさえ入れておけば、その切れ込みを通って、肩甲骨のあたりでくっ付いてくれます――もっとも、そうなるように頭の中でイメージしているのですが」
 「教えてください!」
 僕は咄嗟に口走っていた。「僕にも、そのやり方を!」
 「……そうですね。あなたならできるでしょうね」
 ニュクス様は僕の両肩に手を置くと、左の耳に口を近づけてきた。
 「一族だけに伝える秘儀です。他人に聞かれぬよう、あなたにだけ聞こえるように呪文を教えますからね」

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from: エリスさん

2007年05月11日 14時33分34秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・13」
 それに気づかないアーテーは、すぐさま駆け出して、ニュクス様に抱きついた。
 「母君! いつお帰りになったの? 私、ずうっと会いたかったのよ!」
 レーテーはちゃんと気づいていると見えて、そんなアーテーをニュクス様から引き離した。
 「おやめなさい、アーテー! この方は母君ではいらっしゃらないわ! 良く御覧なさい」
 「そうよ、アーテー」とアルゴスも言った。「母君に翼はないでしょ?」
 「でも母君は言ってたわ。今度戻ってくる時は、姿を変えているかもしれないって」
 叔母様が精進潔斎に入ったとき、アーテーはまだ小さかったから「姿を変えているかも」という言葉の意味を理解できていなかったんだな。あれは、男神として生まれ変わっているかもしれない、という意味だったんだけど。
 だけどニュクス様は気分を害されることもなく、ニッコリと微笑んで、こう言った。
 「初めまして、エリスの娘たちよ。私はあなた方の祖母になります、ニュクスです」
 「……お祖母様? お祖母様はヘーラー様でしょ?」
 アーテーの言葉に、ヘーラーお祖母様は笑って、言った。
 「アーテー、誰にでも〈お祖母様〉は二人ずついるものなのですよ。こちらはもう一人のお祖母様でいらっしゃいます」
 「へェ……」
 アーテーが不思議そうな顔をしている間に、ニュクス様はガイア様とレイアー様の前へと歩み寄った。
 「明けましておめでとうございます、ガイア叔母様、レイアー様」
 「おめでとう、ニュクス……今年は幸先が良いようね。長いこと生きてきたけど、あなたが孫たちに会うのは、これが初めてのことではないの?」
 ガイア様が言うと、レイアー様も言った。
 「あなたはいつも、ヘーラー達が訪れる日にかち合わないようにと、自分から避けるようにしていたものね」(レイアー様とニュクス様は従姉妹の関係になる)
 「ハイ。いつもは正月三日に年始のご挨拶に伺うようにしていましたのに、今年に限っては、明日の都合がつかなかったものですから、今日来てしまいました」
 「それでいいのですよ、ニュクス。いつまでも会わないでいる方が不自然だったのですから。これも宇宙(そら)のお導きでしょう」
 ガイア様の言葉に、ハイ誠に、とニュクス様は答えていた。
 そしてニュクス様は、ヘーラーお祖母様の前にも来た。
 「明けましておめでとうございます、王后陛下」
 「おめでとうございます、ニュクス様。ようやくあなたの孫たちを引き合わせる機会が参りましたことを、嬉しく思います」
 「ありがとうございます……エイレイテュイア姫御子(ひめみこ)様」
 ニュクス様に呼ばれて、エイレイテュイアお母様が進み出た。
 「お目にかかれて光栄です、お姑様(おかあさま)」
 「もったいないお言葉です、姫御子様。あなた様には本当に感謝してもし足りませんわ。子供たちをここまで育てていただいて、ありがとうございます」
 「なにを仰せられます。エリスの子は私の子でもあるのですから、当然のことをしてきただけでございます。……さあ、みんな。お祖母様にご挨拶をしなさい」
 長女のレーテーから一人ずつ紹介されていくのを、僕は脇の方から見ていた――その様子を、というよりは、ニュクス様の背中の翼を。
 とても立派で、艶々していた。とにかく美しい翼に、僕は見惚れてしまっていた。黒い翼なんて、それこそ不吉の象徴のはずなのに、ニュクス様の翼からはそんなものは微塵も感じない。
 そして気づいた――ニュクス様の服は、僕のように背中が開いてはいなかった。ただ二本の切れ込みを入れただけで、翼はその切れ込みから出てきている。どうやって着替えているんだろ???
 アーテーの紹介が終わると、ニュクス様は僕の視線に気づいていたらしく、ゆっくりと振り返って、僕の方まで歩いてきた。
 「初めてお目にかかります、御子様」
 ニュクス様にそう呼ばれて、僕はちょっと悲しくなった。
 「どうぞ、僕もあなた様の孫の一人としてお考えください、お祖母様」
 「恐れ入ります……ではエロース。初めまして、あなたの祖母のニュクスです」

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from: エリスさん

2007年05月11日 13時46分34秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・12」
 ガイア様とレイアー様は、ご自身がお作りになった料理で僕たちをもてなしてくれた。
 相変わらずアーテーがはしゃいでしまって、また不注意でコップを割ってしまったりしたのだけど、そんなこともお二人は嬉しそうに眺めていた。――普段二人だけで暮らしているから、大勢の人がいるだけで嬉しいのかなァ?――だったらもっと近くで暮らしてくれたらいいのに、と思うけど。お二人も思うところがあって、都市から離れたところで住むことを望まれたのだから、あまりそのことで意見はできないよな。
 ……そんな時だった。
 風に乗って、ラベンダーの香りが漂ってくる――僕はハッとした。ラベンダーの香り……それは、エリス叔母様の子供たちに受け継がれている「体香」。でも、叔母様の子供たちは、叔母様自身の香りに比べると薄くて、僕に至ってはまったく受け継がれもしなかった(胎内にいた期間が短かったからかな?)。そして今、風に乗って匂ってくるこの香りはとても強いもので、ここにいるエリス叔母様の子供たちの誰のものでもない事がわかる。
 それじゃ、誰の?
 僕は風の吹いてくる方向に目を向けた――すると遥か向こうに、鳥? いや、人影が見えた。だんだんと近づいてきて、こちらに向かって飛んでくるのがわかる。
 そして、その正体が見えてくるのに従って、僕は驚きの表情を隠すことができなくなっていた。
 だって、その人――背中の黒い翼を羽ばたかせながら飛んでくる、その人物の顔が……。
 「あっ!」
 アーテーも気づいて、言った。「母君だ! 母君ィ!」
 そう……エリス叔母様の顔にそっくりだったのだ。
 でも違う――それだけは確かだ。だって、叔母様には黒い翼なんかない。じゃあ誰? 叔母様と同じ顔をして、同じ香りをさせる、この人は……。
 そんな僕の疑問を察していたのか、ヘーラーお祖母様が言った。
 「まあ、お懐かしいこと。滅多に昼間はお出かけにならない方だから」
 「え? それじゃあ……」
 その人物は、テラスでふわりと着地した。
 黒いキトンを着た、黒くて短い髪の、そして瞳も黒く、翼も黒い――なにもかもが黒尽くめの、エリス叔母様にそっくりな女神。
 この人物こそが、エリス叔母様の本当の母神にして夜の女神ニュクスだった――僕にとっては祖母になる。

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from: エリスさん

2007年05月11日 12時53分14秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・11」
 社殿の中へ入ると、ガイア様もレイアー様も喜んで迎え入れてくれ、二階のテラスがある部屋へ案内してくれた。
 ヘーラーお祖母様とエイレイテュイアお母様が可愛がられるのは当然なんだけど、このお二人は血の繋がっていない「エリスの子供たち」も自身の子孫として、分け隔てなく可愛がってくれる。当然僕のことも。有難いなァと思うし、尊敬する。普通だったら血の繋がっていない子供なんか、なんとも思えないだろうに。でもガイア様とレイアー様は違った。
 「血よりも縁が大事」
 そういう考え方なんだろうな。その考え方はヘーラーお祖母様にも受け継がれ、結果、エリス叔母様を養女として愛するようになったんだ。
 そんな風に愛されて育ったのだから、僕は恵まれているのだろうけど……。
 「よく来てくれたわね、エロース、プシューケー」
 僕とプシューケーがガイア様の前に出てくると、暖かな笑顔でガイア様はそう言った。
 するとレイアー様が言った。「娘御はどうしたのです? ヴォループタースと言ったかしら?〈喜び〉を意味する名を持ったあの愛らしい赤子は?」
 「申し訳ありません、レイアー様。今日は留守番をさせておりまして」
 と僕が言うと、
 「まあ、残念ね……会いたかったのに」
 そこでお母様が助けてくれた。
 「レイアーお祖母様。ヴォルはもう三歳になりましたのよ。物心つかない赤子のころでしたなら、胸に抱いて連れてくることもできますが、もう三歳にもなってしまうと、妖魔などに対する恐怖心も芽生えてしまいますから」
 「そうですね」とガイア様が言った。「ここまでの道中は、確かに幼児には恐ろしいものばかり目に入りますからね。いいですよ、近々こちらから会いに行けば済むことですから」
 「ありがとうございます、ガイア様」
 「お越しをお待ちしております」
 と、プシューケーも返事をした。

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from: エリスさん

2007年04月30日 13時17分33秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・10」
 「いつか居なくなる馬より、自分の背に翼があれば、自分さえ生きていればいつだって空が飛べるのよ。だから私も欲しい!」
 「簡単に言うなよ、アーテー。翼があればあったで、苦労も多いんだよ。仰向けで寝られないし、普通の服は着られないし、椅子に座るのだって結構面倒くさいし」
 「椅子?」
 「背もたれが邪魔か、翼が邪魔か、って話でさ。しょうがないから、僕の家では僕専用の、背もたれのない椅子があるんだ」
 「へぇ〜面白ォい」
 「あのね……」
 まあ、こんな奴だよ、アーテーは。
 でもアーテーとの会話のおかげで、最果てまでの道のりは退屈もせず、また疲れも感じずに飛んでいけた。
 ガイア様とレイアー様の住んでいる社殿は、山の上に建っている。二階に広いテラスがあって、空を飛んでくるときはその場所に着地する場合が多いんだけど、今日は馬車が三台もあったから、社殿の前の広場に降り立った。

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from: エリスさん

2007年04月30日 13時05分00秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・9」
 僕たちが中庭に降り立つと、先ず歩み寄ってきたのはエイレイテュイアお母様だった。
 「ご機嫌よう、エロース、プシューケー。待っていたわよ」
 「ご機嫌よう、お母様」
 元日である昨日も会っているから、もう「明けましておめでとう」ではなかった。
 「それじゃ行きましょうか。プシューケーは私と一緒の馬車に乗る? それとも、さっきみたいにエロースに抱えてもらう?」
 お母様がそう言っていると、向こうからアーテーが割り込んだ。
 「プシューケーはこっちの馬車においでよ! まだ乗れるよ!」
 アーテーのこうゆう性格が嫌いじゃないプシューケーは、にっこりと微笑むと、言った。
 「折角ですので、姉妹の仲間入りをさせていただきますわ、お母様」
 「そうね、そうなさい。エロースは自分で飛んでくるのでしょ?」
 聞くまでもない、という感じでお母様が聞いてくる。――そりゃまあ、最果てまで飛んでいけないことはないけど、できれば疲れるから乗せてもらいたいんだけどなァ……。
 そんなわけで、ヘーラーおばあ様とお母様を乗せた馬車と、レーテー(忘却の女神。エリスの長女)とマケー(戦争の女神。エリスの三女)とヒュスミーネー(戦闘の女神。エリスの四女)とアンドロクタシアー(殺人の女神。エリスの五女)を乗せた馬車、アルゴス(苦痛の女神。エリスの次女)とホルコス(誓言の女神。エリスの六女)とアーテー(破壊の女神。エリスの七女)とプシューケーを乗せた馬車――計三台の馬車が連なって、最果てのガイア様の社殿を目指した。(エリスの男児たちはすでに独立しているので、今回は同行していない)
 僕はプシューケーの乗っている三台目の馬車の横に並んで飛んでいった。
 するとアーテーが、僕のことを羨ましそうに眺めて、こう言った。
 「いいなァ……私も翼が欲しいなァ」
 この子はたまにこんなことを言うんだ。だから僕は言った。
 「君には空を飛ぶ馬がいるだろ?」
 「いるけど、一生いるわけじゃないもの。お母様の馬みたいに、急に姿を消してしまうことだってあるわ」
 確かに。エリス叔母様の愛馬・カリステーは、叔母様が精進潔斎に入ったその日に行方不明になり、そのまま帰ってこなかった。きっと、主人以外の者を背に乗せるのを拒んで、自ら失踪したのだろう。もしかしたら、神馬としては奇跡的な長寿を誇っていたから、誰にも知られずに死を迎えることを望んだのかもしれない。

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from: エリスさん

2007年04月25日 13時57分29秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・8」
 


 「それじゃ行ってくるよ」
 プシューケーをお姫様抱っこした僕は、ベランダから飛び立って、一路アルゴス社殿へと向かった。
 「行ってらっしゃァーい!」
 娘のヴォループタースが、両手を振って見送ってくれている。
 「あんなに夢中で手を振って。ベランダから落ちなければ良いけど」
 と、プシューケーがちょっと心配そうな顔をする。
 「アハハ、ホントにね。僕の娘でも空は飛べないからな」
 「私が人間ですからね」
 本当はプシューケーも神の血を引いているんだけど、本人は知らない。彼女の祖母・シニアポネーは、表向きはヘーラー王后に仕える精霊なんだけど、本当はアルテミス女神とアポローン男神の間に生まれた女神だった。けれど、アポローンとの関係を知られたくなかったアルテミスが、エイレイテュイアお母様に頼んで、胎内に宿った子供を別の女性の胎内に移してもらったんだ。
 つまりシニアポネーは、僕と同じ方法で生まれてきたんだ。
 そして、シニアポネーに好きな人ができたとき、その仲を取り持ったのが僕だったりする。
 シニアポネーはその恋が成就して結婚し、たくさんの子供に恵まれた。プシューケーの母親はその中の三番目の子供になる。
 僕がプシューケーに恋をしたのは、僕の初恋の人になるシニアポネーと似ていたから……ということもあるけど。今はシニアポネーとは比べ物にならないぐらいプシューケーのことが大好きだ。――そのことはプシューケーも承知の上だよ。内緒にしておくのも嫌だったから、ちゃんと話したんだ。
 ――しばらくして、アルゴス社殿が見えてきた。
 中庭に三台の馬車が止まっている。その内の一つにエリス叔母様の娘たちが勢ぞろいで乗っていて、その中の一人が僕たちに気づいて、元気よく手を振ってきた。
 「ワーイ! エロースだ! エロースゥ!」
 叔母様の末娘・アーテーだった。破壊の女神らしく、よく不注意で物を壊してしまうある意味「特技」を持った子だ。
 このアーテーと、その一つ上のホルコス(誓言の女神)は、十二歳ぐらいで成長が止まっていた。その他の兄弟たちも「二十歳と呼ぶには若すぎる」ぐらいの見た目で、ちゃんと二十歳過ぎぐらいに見られるのは第四子(僕を入れると第五子)のアルゴスまでだった。この結果、僕の成長が十五歳で止まったのは、二人の母の忌まわしい関係による呪いではなく、単なる血筋であることが発覚した。あの頃はみんな子供だったから、まさかこうゆう結果になるなんて思わなくて、エリス叔母様はすごく気にしていたはずなんだ。ちゃんと真実を教えてあげたいけど……会えないものなァ、今は。

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from: エリスさん

2007年04月25日 13時21分47秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・7」
 そしてあの日……僕がお母様を問い詰めて、本当のことを聞きだそうとした時、エリス叔母様が話しに割って入ってきて、お母様を弁護した。――僕はエイレイテュイアの正当な息子であって、断じて不和の女神である自分の子供ではないと。
 だから僕は叫んでしまった。
 「僕がお母様の血だけを継いでいれば、異形の神になるはずがないんだ!」
 そのときの叔母様の表情は、今でも忘れられない。悲しいのに、必死に平静を保とうとしている、そんな表情――あの時、気づいたんだ。僕がこんな体で生まれてきたことを、一番気にしていたのは叔母様――実の母君だったんだって。僕は言ってはならないことを口走ってしまったんだ。
 居た堪れなくなって、部屋から――社殿から飛び出した僕を、探しに来てたくれたのは、もう一人の叔母・ヘーベーだった。
 ヘーベー叔母様は、僕が生まれた経緯を詳しく教えてくれた。
 エイレイテュイアお母様がエリス叔母様を愛しすぎたあまり、懐妊中の叔母様の寝室に忍び込んで、僕を奪い取ったこと。そうまでして愛する人の子供を産みたがっていたこと。胎内から僕を奪い取られて、どんなにエリス叔母様が悲しみ、苦しんだかということ。そして、僕が生まれたとき、僕の背に「夜の女神の血筋の証」があることを知って、エリス叔母様が嘆き悲しんだことを。それでも、僕が生まれてエイレイテュイアお母様は本当に喜んでいたと、ヘーベー叔母様は切々と教えてくれた。
 「だからね、エロース。二人のお母様を恨まないであげて。二人とも、あなたを心から愛しているのよ」
 ヘーベー叔母様の話を聞いて、僕は少し吹っ切れた――教えてもらえて良かった。知らないままだったら、僕は今でも二人を嫌いになろうと――嫌いになれるわけがないのに、それでも無理やり嫌いになろうと苦しんでいたはずだから。
 ――それからしばらくして、エリス叔母様――母君は、刑に服するために冥界の奥にあるという精進潔斎の場へと入って行かれ、僕たちとは会えなくなった。最終的には人間界に降りて、人間として罪を償うのだと聞いている。

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from: エリスさん

2007年04月25日 12時55分29秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・6」
 本当に小さなころは、翼がある自分を嫌いじゃなかった。
 同じ社殿で暮らす従兄弟たちは誰も翼を持っていなかったし、いくら神様でも子供のころは空を飛ぶのが不得意だったりしたから、物心付いたころから自由に空を飛べた僕は、むしろ自分だけが特別な存在のように思えて、自慢でもあった。
 でもある日、義憤の女神ネメシスに会って、彼女の背に翼があるのを見たとき、別に自分だけが特別ではないのだと気が付いた。
 その後、夜の女神ニュクスの子供たちは母親ゆずりの翼を持って生まれることが多い、ということを知り、また、エリス叔母様が本当はヘーラーお祖母様の実子ではなく、ニュクス女神の娘であることも知って、僕は考えた――僕の本当の母親はエリス叔母様なんじゃないかって。僕はエイレイテュイアお母様にはあまり似ていないし、エリス叔母様の子供たち――リーモスやポノスと僕は良く似ているし。だから、子供のいっぱいいる叔母様が、子供のいないお母様に、僕を養子としてあげたのかもしれない……そう思ったのが、十歳ぐらいの時。
 でも、現実はもっと複雑だった。
 十七歳になったある日、ゼウスお祖父様がとてもイライラしていらしたことがあって……なにか嫌なことでもあったのかな。従者や侍女たちに当り散らしていたから、僕が諌めてしまったんだ。そうしたら、怒りの矛先が僕に向けられてしまい、おじい様は僕の出生の秘密をぶちまけてしまった。
 エイレイテュイアお母様とエリス叔母様は同性愛の関係で、あろうことかお母様は、おば様の胎内に宿っていた僕を自分の胎内に移して、出産した。だから僕は、十五歳で成長が止まるという忌まわしい体になってしまったのだと……。
 それを聞いた僕は……ショックで、泣き出してしまった。
 おじい様はその時になって自分のしたことを後悔し、僕に平謝りに謝って、今言ったことは忘れてくれるように、と懇願してきた。
 忘れたかったけど、僕の中で芽生えてしまった疑念は、もう拭うことはできなくなっていた。
 ――僕は罪の子――異形の神として生まれてしまった原因は、すべてエリス叔母様のせいだ!
 そう思って、僕はエリス叔母様を嫌いになろうと努めていた。

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from: エリスさん

2007年04月17日 14時41分32秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・5」
 「忌々しい体だな……」
 自分の服を眺めながら、ついそんなことを口走ってしまったら、プシューケーが悲しそうな顔をして、言った。
 「ご自分の翼がお嫌いですの?」
 そう聞かれると返答に困る。以前は嫌いなだけな存在だったけど、今はちょっとだけ……。
 僕が黙っていると、プシューケーが抱き締めてくれた。そのフワッとした感覚が気持ちいい。母と背格好が似ているから、僕の顔が埋まる場所も、母と同様に肩の辺りで、それがまた懐かしくて落ち着くんだ。
 「私はあなたの翼が好きですわ」とプシューケーは言った。「翼だけではなく、なにもかも、あなたのすべてが大好きです。だから、あなたもご自分を嫌いにならないで」
 そして僕を離すと、彼女は改めて僕の翼を眺めた。
 「純白の立派な翼ですわ。なにを卑下する必要があります。むしろ自慢に思うべきです」
 「……ありがとう、プシューケー」
 ――プシューケーだって知らないわけじゃない。この翼を持って生まれてきたことの意味を。
 それでも彼女は僕を元気づけるために、そう言ってくれるし、きっと本心でもあるんだろうな。

 ――この翼こそが、僕が闇の神の血を引く証(あかし)――

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from: エリスさん

2007年04月17日 06時54分08秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・4」
 お正月の「年始回り」は、恒例行事ではあるけど、僕としてはお正月ぐらい家族でゆっくり過ごしたい、というのが本音だ。
 とは言え、高祖母(ひいひいおばあさん)にあたるガイア様と、曾祖母(ひいおばあさん)にあたるレイアー様には、こんな時でないと会う機会がない。
 僕たちは朝食を終えると、久しぶりに会うお二方の為に、どんなおめかしをしようかと相談した。
 「エロース様はやはり白がお似合いになりますわ。この白い服になさいませ」
 「じゃあプシューケーは空色のこれ! 髪飾りには……」
 「この水色の薔薇の飾りなどは?」
 「いや、思い切って赤いのを」
 夫婦だけでファッションショーをしているようで、こんなひとときも楽しい。
 でも……。
 僕は自分の服を見るたびに、思い知らされる。他の人とは明らかに形の違う服。おそらく、裁断や縫合にも手間を取らせているはずだ。
 翼の邪魔にならないように、背中が開いている服。それでもちゃんと胸やお腹は隠れるようになっている。――この面倒臭い服を侍女たちにつくらせるのも、また僕自身も着るのが嫌になって、子供の頃は上半身裸で過ごしていたこともあった。
 全てはこの翼のせい……。

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from: エリスさん

2007年04月11日 14時44分44秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・3」
 「では、ご一緒するということで宜しいですか?」
 プシューケーが聞くので、
 「そうだね。お昼より少し前にアルゴス社殿へ行きますからって、伝えてくれる?」
 「わかりましたわ。私もご一緒致しますか?」
 「一緒に来る? じゃあそうしようか。ヴォルも来るかい?」
 僕がそう聞くと、娘のヴォループタースはちょっと悩んでから言った。
 「お留守番してる」
 「来ないの?」
 「遠くまでお出かけはイヤなの。だから、アルタとお留守番してる」
 ヴォループタースが嫌がるのも無理はない。ガイア様のお住まいは最果てにあって、道中には恐ろしい魔物などがウヨウヨしているのだ。僕はそんな魔物も大人しくさせる技を持っているけれど、まだ三歳の娘には「大人しくさせるから大丈夫」ということよりも「見るのも怖い」という方のが重要なのだろう。
 「じゃあ、僕とプシューケーだけで行こう。お母様にそうお返事してくれ」
 「かしこまりました」
 プシューケーは笑顔で答えると、また奥の部屋へと引っ込んでしまった。

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from: エリスさん

2007年04月08日 15時06分02秒

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「異形の証(いぎょう の あかし)・2」
 「痛ッタタタタタッ」
 「少しは我慢なさいませ」
 侍女のアルタポネーはそう言いながら、僕の首をマッサージしてくれていた。この侍女は僕が小さい時から仕えてくれているので、僕の体のことは良くわかっているから、任せておけば「寝違い」ぐらい簡単に治してくれるのは分かっているのだけど……でも、やっぱり痛い……。
 「ハイ、いきますよ!」
 アルタポネーはそう言うと、ゴキッ、と僕の首を鳴らした。
 「☆★◆▽▼★☆!?」
 一瞬ものすごく痛くなるのだけど、おかげで僕の寝違えた首が、元に戻ってくれた。
 「どうですか? エロース様」
 「うん、もう大丈夫。ありがとう、アルタポネー」
 「どういたしまして」
 そこには、僕の三歳になる娘・ヴォループタースもいた。彼女は、治療してもらっている僕の足元に座り込んで、ことの一部始終を見守っていた。そして治療が終わると、
 「パパ、痛い? だいじょうぶ?」
 と、可愛く見上げながら言ってくれた。
 「うん、大丈夫だよ。心配かけたね」
 するとヴォループタースは僕の膝の上に乗ってきた。
 「ヴォルね、将来お医者さんになろうかな」
 「ん? お医者になって、パパの首を治してくれるのかい?」
 「うん。パパも、ママも、アルタも、病気になったらヴォルが治してあげる」
 「いい子だな、ヴォルは」
 娘がこんなことを言うのも、僕がしょっちゅう寝違えているせいだった。
 僕の背中には翼がある。これのおかげで仰向けになれないから、いつもうつ伏せで寝ている僕は、寝ている間に枕で顔を覆ってしまったりして呼吸困難になったり、そのせいで顔の向きがおかしな方向へ向いてしまって、結果、首を寝違えてしまうらしい……眠っているから、実際のところはわからないのだけど。
 そんなやり取りをしている間に、僕の妻・プシューケーが奥の部屋から姿を現した。
 「あなた、今お母様から連絡がありましたわ」
 奥の部屋には通信用の水晶球がある。彼女はそれで僕の母と話をしていたらしい。
 「なんだって?」
 「今日のお昼ごろ、ガイア様のところへ年始のご挨拶に行くそうなのですが、私たちも一緒にどうかとおっしゃっておられました」
 「年始の挨拶か……昨日もオリュンポスの宮殿で、一日中、挨拶回りをしたから疲れているんだけど……ガイア様のところへ行かないわけにもいかないよなァ」

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