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from: エリスさん
2007年04月08日 14時41分18秒
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異形の証(いぎょう の あかし)・1
いつからか、僕がお母様の子供ではないことは、気づいていた。お母様とは全然似ていないし、どちらかって言うと従兄弟のリーモスやポノスとの方が似ていて――で
いつからか、僕がお母様の子供ではないことは、気づいていた。
お母様とは全然似ていないし、どちらかって言うと従兄弟のリーモスやポノスとの方が似ていて――でもその従兄弟は、正確には「従兄弟」ではなくて……。
だから、叫んでしまった。
「僕の本当の母親は誰なんですか!」
お母様が悲しむ顔を見るのは辛いけど……でもどうしようもなかった、あの時。
僕の成長が十五歳で止まってしまったのも、お母様が道ならぬ恋に奔(はし)った所為だと、だから僕が呪われてしまったのだと、そう思い込んでいた。
「恥ずかしくないのですか。女同士で愛し合うなど、汚らわしい!」
本当は汚らわしいなんて思ってない。お母様が本当に愛している人なら、祝福してあげたかったんだ。
でも、あの頃の僕には、できなかった。
気づいてしまったから……。
僕の背中にある翼――それこそが、僕の本当の母親が「あの人」である証であると、分かってしまって。
素直になれない自分を、僕はどうすることもできず……。
「教えてください、お母様。どうして僕に、Eris(エリス)叔母様と一字違いのEros(エロース)を与えたのですか!」
そんな問いに、お母様が答えられるはずがないのは、分かっていたのに……。
「お母様の血だけを引いていれば、僕が《異形の神》として生まれるはずがないんだ!!」
言葉ではどんなに反発しても、
本当は、
エイレイテュイアお母様も
エリス叔母様も
大好きなのに……
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from: エリスさん
2007年05月16日 12時08分20秒
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「異形の証(いぎょう の あかし)・16」
ささやかな宴が再開されて、ニュクス様もレイアー様の隣に着いて参加されることになった。
僕はまだ翼を髪に変えたまま、初めて背もたれのついた椅子で食事をした。すると僕の横に座っていたアーテーが、
「あとで私にも教えて! 私も翼が欲しいの。ね? ね?」
と、せがんでくるので、
「それには髪を伸ばさないとダメなんだよ。アーテーはショートカットだから無理だね」
「伸ばすもの! 絶対伸ばすから、レーテー姉君くらい長くなったら、私にも教えて! ね? エロースゥ〜」
「分かった分かった! 分かったから、腕を引っ張るなよォ」
僕は浮かれてもいたけれど、ニュクス様の言葉で身を引き締めた思いもあったんだ……。
ベッドの上で仰向けで寝られる快感を味わって、僕は思い切り体を伸ばした。
「う〜ん! 楽でいいなァ!」
それを横で見ていたプシューケーは、ちょっと残念そうな表情をしながら、こう言った。
「エロース様の翼、私は本当に好きでしたのに」
なので僕は彼女のことを見上げながら、言った。
「別に、これからずうっと翼なしで生活するわけではないよ?」
「あら、そうなんですの?」
ガイア様の社殿から帰るときも、翼を元に戻さずに、馬車に乗って帰ってきたものだから、プシューケーは「もう二度と翼を使わないつもりなんだ」と思ったらしい。
「また明日の朝になったら、いつもの姿に戻るさ。今日はね、この姿になれたのが嬉しくて、なかなか戻りたくない気分だったからそうしていたけど。だって考えてごらんよ。僕から翼を取ったら、恋の神としての仕事に差し支えるだろ?」
「そうですわね。空を飛んで、誰にも気づかれないように恋の矢を射ってこそ、恋の神様ですものね」
「それにさ……」
僕は起き上がると、ベッドから降りて、言った。
「今では忘れ去られてしまった事実――僕が、女神エリスの息子なんだっていう、あの翼はその唯一の〈証拠〉なんだからさ。絶対に失うわけにはいかないよ」
「おっしゃるとおりですわ、あなた」
そう。この異形の証は、僕にとって、あの誇り高い女神の血筋である証でもあったんだ。
それを、誇りに生きていこう――これからも、ずうっと。
後日談。
アーテーは本当に髪を伸ばして、翼に変化する術を覚えた。
覚えたのはいいんだけど……元来が破壊の女神だから、下手な飛び方でいろんな所にぶつかって、大事な建物を壊したりしている。
なので僕は、エイレイテュイアお母様に頼まれて、アーテーの飛行訓練の先生をする羽目になった。
早く覚えてもらわないと。僕だって自分の仕事が忙しいんだからさ。
終
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