「木花之開耶姫とは 補足」
　この後、ニニギノミコトとサクヤヒメの間に、かの有名な
　「海幸彦・山幸彦」
　が、生まれます。


　しかしなんですね。ニニギが子供過ぎたんですね、やっぱり。
　ブスだったからって追い返すなよ！　性格はサクヤヒメより美人だったかもしれないのに、それに気づかせる暇も与えずに実家に帰すなんて。
　人には添うてみよ――接してみれば、見かけの醜さに隠れたその人の良いところが、きっと見つかったはずなんだけど。そういうことも分からないぐらい、ガキだったんですね。

　その後イワナガヒメはどうなったのか、記述は一切残っていません。だけど多分、そんな理由で縁談が壊れたなんてことが世間に知れたら、次の縁談は難しかっただろうなァ。
　舞台劇の中にはこのイワナガヒメを題材にしたのがあって、そこでは、容姿の醜さを厭われたイワナガヒメが悲しみのあまり悪霊となって、ニニギノミコトが治める日本国に呪いをかける、みたいな設定になってました。
　イワナガヒメ、可哀想すぎる……。

「木花之開耶姫とは・2」
　ニニギノミコトはさっそく大山津見の神に会いに行きます。すると、高天原の天照大御神の孫だと知った大山津見の神は、この縁談を大層喜んで、
　「それならば、わたくしにはもう一人娘がございますので、その娘も併せまして差し上げとうございます」
　と、長女のイワナガヒメ（岩長姫）をも献上したのです。
　ところが、このイワナガヒメは妹のサクヤヒメに比べると見劣りがして――はっきり言ってしまうと「ブサイク」だったので、ニニギノミコトはこのイワナガヒメに手を付けることなく実家に帰してしまった。そしてサクヤヒメとだけ結婚したのです。
　これに怒った大山津見の神は言いました。
　「なんと浅はかなことを。わたくしが姉妹を揃えて嫁がせましたのは、姉のイワナガヒメは〈岩のように強く、形を変えることもない、末永く平穏が続くこと〉への象徴であり、妹のサクヤヒメは〈花が芳しく咲くように繁栄すること〉への象徴だった。この二人が揃ってこそ、御子（ニニギ）の治める国は末永い繁栄を約束されましたものを、サクヤヒメだけを娶られたあなた様は、もはや永遠など望めませぬ。花のように短い命で死ぬことを運命付けられたのです」
　こうして、本来ならば両親そろって神であるニニギノミコトはその血筋からいっても「不老不死」であったはずなのに、「寿命」という宿命を背負うことになってしまったのです。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。

「木花之開耶姫とは・1」
　日本書紀では「木花之開耶姫」、古事記では「木花之佐久夜毘売」と書きます。古事記の書き方から判断すると、読み方は「このはなのさくやびめ」――「びめ」と濁らすのが本当のようですね。でも今は「コノハナノサクヤヒメ」――「ひめ」と清音で読むのが一般的。

　それは天孫降臨の時代まで遡ります。
　天照大御神の孫・ニニギノミコト（邇邇藝能命）が地上に降りてからしばらく後、とあるところを歩いていますと、大輪の花ように美しい娘がいました。その娘に一目ぼれしたニニギノミコトは、さっそく声をかけました。
　「僕はニニギといいます。あなたのお名前を聞かせてください」（注・この時、まだニニギノミコトは子供です。おそらく１２歳ぐらいではないかと）
　すると娘は答えました。
　「私は大山津見の神の娘でコノハナサクヤヒメと申します」（こちらはそこそこ大人です）
　「ではサクヤヒメ、僕のお后になってください！」
　あまりにも直球なその言葉に、姫は戸惑いながらもこう答えます。
　「縁談は私一人では決められませぬ。どうぞ、我が父・大山津見にお申し出くださいませ」