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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2007年10月19日 12時44分59秒

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    誰が一番悪いのか?・1

     レームノス島にあるヘーパイストスの工房では、その日も熱い炎に耐えながら剣を打っているヘーパイストスとキュクロープス兄弟がいた。
     赤く熱せられた鉄の板は、三人の手にかかるとみるみるうちに剣の形へと変化していく――三人にとっては毎日これの繰り返しなのに、それでも楽しくて仕方ない毎日だった。
     「よォーし、それじゃ一端冷やそうかな。ステロおじさん、お願い」
     すこし赤みがとれてきた剣を、ヘーパイストスがステロペースの前にかざすと、ステロペースはニコッと笑って右手を前に出した。
     そこから発せられる冷気で、一瞬で剣が冷める――はずだった。
     だが――突然、ステロペースの頭上に閃光が落ちた。その光は目を開けていられないほど眩しく、思わずヘーパイストスも目をつぶってしまった。
     そして目がチカチカしながらも堪えて開いた時には、目の前にいたはずのステロペースが消えて、代わりに灰の山ができていた。
     「お……おじさん? ステロおじさん!」
     そう叫んだときだった。今度は背後から光を感じて、振り向くと、そこにいるはずのプロンテースまで居なくなっていた。そして代わりに灰の山……。
     「なに? どうゆうこと………プロンテースおじさん! ステロペースおじさん!」

     その悲鳴は、パルテノーンにいるアテーナーのもとまで響いてきた。
     「どうゆうこと!? キュクロープスのおじ様たちの気配が、まったく感じられない! お二方はどうしたの!」

     この日、キュクロープス兄弟はある者によって殺害されたのであった。
     そのある者とは――太陽神アポローンだった。

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コメント: 全9件

from: エリスさん

2007年11月01日 15時19分55秒

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「誰が一番悪いのか?  執筆後書」
 やっと最終回まで漕ぎ着けたよォ〜〜〜〜〜!

 一話目を書いたその日から、アクセス数が激減したから、いったいどうなっちゃうことやらと心配してました。
 読者のみなさんにはキュクロープス兄弟って、やっぱり愛されてたのね。それなのに死んでしまったから、きっと読む気もうせてしまった読者の方が多かったのではないでしょうか。
 最終話で生き返る予定になっていたとは言え、それを口に出せないもどかしさと、どんどん減っていくアクセス数に、私が悲しくなりました。

 そんなわけで、読者の皆さま! 戻ってきてねェ〜!


 この神話を初めて読んだときは、どちらかと言うと私はアポローン寄りの見方をしていました。息子を殺された悲しみを、どこかにぶつけないと気が済まなかった彼に、同情していた感じ。
 けれどその後、アテーナーやヘーパイストスの伝説を読み進めるに到って、二人の隠れた悲恋や、ヘースとキュクロープス兄弟のつながりなどを知ってしまうと、
 「やっぱりアポローン、許せない」
 と思うようになった。
 だけど、気づいた。親戚殺しの罰にしては、一年間の使役ってあまりにも短い。人間の法律でもそうでしょ? 殺人罪の刑期がたった一年ってありえないでしょ?
 ってことは、減刑されるような出来事があったんじゃないか?

 「そうよ。だって、ヘーパイストスってパンドラを作った神じゃない」

 その発想から、この話を思いつきました。
 キュクロープスは復活したんだ! 伝説には残ってないけど――そう信じて、書き進めてみましたが。如何だったでしょうか?

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from: エリスさん

2007年11月01日 15時05分55秒

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「誰が一番悪いのか?・9」
 三人が祈るようにキュクロープス兄弟を見つめていると、ほぼ同時に、兄弟が目を開いた。
 そして、プロンテースが口を開いた。
 「よくやってくれた、ヘース!」
 ヘーパイストスとアテーナー、アレースが互いに抱き合いながら喜んでいたのも束の間、プロンテースがしゃべった言葉に、三人とも驚いた。
 「あ、あれ? おじさん、しゃべれるの?」
 ヘーパイストスが言うと、ステロペースも言った。
 「ほんとだ、僕たちしゃべれるな、プロンテース」
 「ほんとだな、しゃべれるな」
 その疑問を、ヘーパイストスはすぐに解決させた。
 「そうか、おじさん達は喉の障害で今までしゃべれなかったんだ。それなのに僕が、普通の人の喉の形で作ってしまったから……」
 しばらくの沈黙……。
 「まっ、いいじゃん!」
 そう言ったのはアレースだった。「不自由になったわけじゃなし」
 「そうよね」とアテーナーも言った。「おじ様はおじ様ですもの!」
 「そうだよね、そうだよ……そう、だ……」
 ヘーパイストスはそう言いながら、泣き出してしまった。
 「良かったァ〜、おじさん達、戻ってきてくれたァ〜……ちっちゃいけど」
 「気にするな、ヘース」
 「俺たちはすぐに大きくなるぞ!」
 「うんうん……おじさァ〜ん!」
 ヘーパイストスはしっかりと二人のおじさんを抱きしめるのだった。


 こういった事情もあり、アポローンの罰は軽くなったのである。
 一件落着――となるところだが、ちょっとだけ困ったこともあった。
 わずかに二人の灰が混ざり合ってしまったらしく、プロンテースは熱気を、ステロペースは冷気を操れなくなってしまったのだ。
 その結果、今までは素手で熱い鉄を持って刀などを鍛えていたのに、それが出来なくなってしまったのである。
 キュクロープス兄弟はそのことで、ヘーパイストスの役に立てなくなった、と落ち込んでいると、ヘーパイストスは刀鍛冶に使う道具を一式つくって、二人にプレゼントした。
 「素手でできなければ、道具を使えばいいよ!」
 「そうだな!」
 「そうだった!」
 こうして、しばらく子供に戻ってしまったキュクロープスおじさん達とヘーパイストスは、現代に至ってもレームノス島で楽しく何かを作りながら暮らしているという。


                               終わり。

 

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from: エリスさん

2007年11月01日 14時46分42秒

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「誰が一番悪いのか?・8」
 アテーナーがアレースと連れ立って中へ戻ると、ヘーパイストスはまだ先ほどと同じ体勢で座っていた。
 「しっかりしろ、ヘーパイストス!」
 と、まずアレースは励ました。「おまえに仕事を持ってきてやったぞ」
 「仕事?」と、ヘーパイストスは怪訝そうに言った。「こんな時に僕に仕事をしろって言うの? 兄上」
 「まあ聞け。ここにあるのはなんだと思う?」
 「…………甕? 中は液体かい?」
 「そう。聞いて驚け、あのアスクレーピオスが作った死者を蘇らす薬だ!」
 「アスクレーピオスだって?」
 ヘーパイストスはムッとして立ち上がった。
 「兄上、僕がその名を聞きたくないのを分かっていて言ってるの? そもそも、その人間の男のせいで僕のおじさん達が……」
 「話は最後まで聞けよ、我が弟よ。〈死者を蘇らす薬〉って言ったろ? この薬さえあれば、おじさん達を蘇らせることができるじゃないか!」
 「ええ!?」
 と、ヘーパイストスとアテーナーは驚いた。
 「な、なに言ってるの? 兄上。だって、死者っていうのは体が残っているからこそ蘇生もできるわけで、おじさん達はこの通り、姿かたちもなくなって、灰になっちゃってるんだよ?」
 ヘーパイストスが言うと、チッチッチッと舌を鳴らしながらアレースは人差し指を振って見せた。
 「忘れたのか? おまえが父上に頼まれてパンドラという娘を作ったときのことを。おまえは土と砂から女の人形を作り出したじゃないか。それに父上が命を吹き込んで、人間の女に変えた――そのときのことを応用すればいいんだよ。この薬をおじさん達の灰に混ぜて、こねて、おじさん達をつくるんだ。そうすれば、薬の作用と、もともとおじさん達に備わっている神の力で、絶対に復活できる! 俺はそう信じている!」
 アレースの力説にヘーパイストスとアテーナーはしばし呆気に取られていたが、アテーナーはすぐに我を取り戻して、言った。
 「やりましょうよ! ヘース様! あなたならきっとお出来になれますわ!」
 「パラス?」
 「やってください! おじさま達を復活させて! 私たちのおじ様たちを取り戻しましょ!」
 アテーナーはヘーパイストスの手を取りながら、懸命に励ました――アレースが言っていた「希望の光」に、今こそ成れるときだと確信しながら。
 そして、ヘーパイストスはうなずいた。
 「やろう! 二人も手伝ってくれ!」
 ヘーパイストスは灰の入った二つの甕に、均等に薬を入れ、自分がプロンテースの灰を、アレースがステロペースの灰を捏ねた。
 薬だけでは水分が足りないと分かったときは、水の神でもあるアテーナーが水がめに神酒を湧き出させて、それを少しずつ加えて捏ねた。
 しっかり捏ねあがったら、あとはヘーパイストスに任せるしかない。
 ヘーパイストスは慎重に、丁寧に、キュクロープス兄弟の体を形作っていった……。
 すると、三歳ぐらいの子供の大きさではあったが、先ずは二人の人形が出来上がった。
 もう、向こうの空に朝日が昇り始めていたころだった。

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from: エリスさん

2007年11月01日 14時20分06秒

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「誰が一番悪いのか?・7」
 オリュンポス山頂での裁判が終わったその日の夜、アテーナーはレームノス島にあるヘーパイストスの工房を訪ねた。
 そこで彼は、二つの甕(かめ)に床の灰を手ですくって集めていた――プロンテースとステロペースの灰だった。
 「せめて、手厚く葬ってあげたいんだ」
 「……お手伝いいたしますわ」
 「いや、もうこの一すくいで終わりだから……」
 ヘーパイストスは丁寧に灰をすくって、ゆっくりと甕のなかに入れた。
 「少ないよね……おじさん達、あんなに大きな体をしていたのに、灰になったら、こんな小さな甕に収まってしまうんだよ。あんなに、大きくて、あったかくて……」
 涙で、言葉が詰まる。
 アテーナーはそんな彼を、堪らずに抱きしめた。
 掛けてあげる言葉が見つからない……自分も悲しくて、おかしくなってしまいそうだから、今はただ抱きしめてあげることしかできない――そんなアテーナーを、ヘーパイストスも抱きしめ返してきた。
 自然と、唇が引かれ合う……。
 そのまま二人が床に倒れた時、アテーナーの中で戸惑いが走った。
 『斎王としての純潔が……』
 そう思ったのは一瞬で、すぐにその考えは捨てられた。
 『失ってもいい! それでこの人が救われるなら!』
 だがその戸惑いを、唇を介してヘーパイストスが感じ取ってしまった。
 彼は、アテーナーから離れると、背を向けた。
 「……ごめん……帰ってくれないか」
 「ヘース様! 私ならッ」
 「行ってくれ!……僕が正気でいるうちに。本当に、君になにをしてしまうか、分からないから……」
 「……ヘース様……」
 どうして、この人はこんな時まで、私を気遣ってくれるのか――と、アテーナーは悲しくなった。そして、こんな時に愛する人を癒してあげられない自分の立場を、呪ってしまう……。
 アテーナーは、何も言わずにその場を後にした。
 だが、そのまま帰りづらくて、ついつい工房の入り口のところで立ち止まってしまう。
 『どうしたらいいの? どうすればあの人を救えるの?』
 考えても考えても、涙だけが止め処なく溢れ出る。
 アレースが訪ねてきたのは、そんなときだった。
 アレースはまずアテーナーにハンカチを手渡した。
 「お気持ちは分かりますが、姉上がそんなことでは、ヘースは救われません」
 「でも、アレース……」
 「姉上にはいつでも、ヘースの希望の光になっていただかないと。その手助けになるはずのものが、今、ここにあるのですが……」
 アレースは馬車から、大きな甕を下ろしてきた。
 「それは?」
 「実は先刻、アルテミス殿が訪ねてこられて。これをヘーパイストスに渡してほしいと――直接渡すのは気が咎めたようですね」
 「アルテミスが?」
 「詳しい話は中で……ヘースに見せてやりましょう」

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from: エリスさん

2007年11月01日 13時45分48秒

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「誰が一番悪いのか?・6」
 ヘーラーの言葉に、あたりは静まり返った――確かにヘーラーの言うとおりであるが、それを誰も指摘しなかったのは、ひとえにゼウスを恐れてのことである。これは王后のヘーラーだからこそ言える言葉だった。
 「復讐は、輪廻の輪のごとく廻るもの。ここでアポローンを断罪に処すのは簡単ですが、それではまた新たな復讐の芽を芽吹かせてしまう。ここは寛大な処置をなさる方が良いかと」
 ヘーラーの言葉に、堪らずアテーナーが口を開いた。
 「それではヘーラー様は、この者を許せとおっしゃるのですか! キュクロープスのおじ様たちを殺した、この愚か者を!!」
 「私とて!」と、ヘーラーは叫んだ……その目には、涙があふれていた。「私とて、こんな男、許したくはありません! ヘースやそなただけでなく、私にとってもプロンテース叔父様とステロペース叔父様は、慈悲の心とはどうゆうものか、身をもって教えてくれた大事な叔父様たちでした! それを奪われて、私がどんなに悲しんでいるか、お二方を知っている者なら分かるであろう。私とて、本当は、今この場でこの男を絞め殺してやりたい!……けれど、それでは駄目なのです。現に、アポローンは息子を奪われた怒りで、お二方を殺した。そして次に誰かがアポローンを殺せば、今度はアポローンを愛する誰かが復讐を考えるでしょう。そうやって恨みの輪が廻ってしまう。だから、ここは辛いでしょうが、誰かが恨みの輪を断ち切らねばならぬのです!」
 それを聞き、アテーナーの目も涙を堪えることができなくなってしまった。
 「……ヘーラー様……」
 「分かっておくれ、アテーナー。そしてヘーパイストス。ここは耐える時なのです」
 ヘーラーの言葉にアテーナーは目元を押さえながら黙ってうなずき、ヘーパイストスも頭を垂れた。
 「母上、僕があなたの涙に抗えるはずがありません。お気持ちはわかりました。ではここは、父上の裁断にお任せしたいと思います」
 するとゼウスはうなずいて、玉座から立ち上がった。
 「それではアポローンには、わしの許しがあるまで人間界で奴隷として生きることを命じる。テッサリアのペライの領主・アドメートスに仕えるが良い!」
 ――こうしてアポローンはオリュンポスを追われ、人間界で生きることになった。しかし伝え聞くところによると、それは一年間だけで、しかも奴隷といっても召使い程度だったと言う。ゼウスの父親としての甘さからだったのか、そして、アドメートスが信心深く善良だったせいで、奴隷として使役するには忍びなかったからなのか。――それとも、罪を軽くしてもらえた「何か」があったのか?

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from: エリスさん

2007年10月24日 16時27分30秒

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「誰が一番悪いのか?・5」
 ゼウスが現れたのはちょうどその時だった。
 「みな、静まれ……ヘーパイストスよ」
 ゼウスの優しい物言いに、ヘーパイストスは素直に返事をした。
 「今日は特別にわしの隣席に座るがよい――ヘーラーにも異存はあるまい?」
 するとヘーラーは、
 「ええ。今日のヘーパイストスにはその権利があります。アレース、ヘースをここまで連れてきてあげておくれ」
 ヘーラーは玉座から立ち上がると、その席にヘーパイストスを招き寄せた。そしてアレースはヘーパイストスを助け起こし、そこまで連れて行って、座らせた。
 「アレースもそこへ居てやると良い。ヘーパイストスの介助として」
 ゼウスの言葉に、ありがとうございます、とアレースは答えた。
 こうして裁判は行われた。
 アポローンの罪状は、神王の意志に背いてキュクロープス兄弟を殺害したことである。
 しかしアポローンにも言い分があった。
 「わたしは愛する息子を殺されたのだ! その敵討ちをしてなにが悪いのです!」
 その言葉に、ヘーパイストスは真っ向から立ち向かった。
 「どこが敵討ちだ! キュクロープスのおじさん達はおまえの息子になにもしていない! おじさんたちが父上に雷電を作っていたのは遥か昔のこと。おまえの息子が成敗されたことに、僕のおじさん達は一切関わっていないのに、神王である父上に復讐できないからと、腹いせに屁理屈を立てておじさん達を殺したんじゃないか! 八つ当たりもいいとこだ!!」
 ヘーパイストスの意見に、あたりから「そうだそうだ!」と声が上がった。
 「アポローンに厳罰を!」
 「死を持って償わすべきだ」
 「何人たりとも、神王陛下に叛く事は許されぬ!」
 だが、それらの声を制した者がいた――ヘーラーだった。
 「確かに、アポローンの罪は重い。敵を討つべき相手を間違えて、絶対に手に掛けてはならない方々を殺してしまったのだから。だが――これは、陛下、あなたにも責任があります」
 「なんだと?」
 眉を吊り上げながらそう尋ねたゼウスに、ヘーラーは言った。
 「ハーデースからの訴えがあったとき、なぜ、即座にアスクレーピオスを成敗することを決めてしまわれたのです。アスクレーピオスには先ず、神々の長として、また彼の祖父である立場からしても、自然の摂理というものを説き、〈死〉もまた必要なことなのだと納得させて、二度と死者を生き返らせぬように教え諭すべきだったのです。慈悲の心をもって! そうすれば、こんなことにはならなかったものを……」

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from: エリスさん

2007年10月24日 15時50分48秒

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「誰が一番悪いのか?・4」
 事態を重く見た紙神王ゼウスは、そっこくアポローンを捕らえ、詮議の場にオリュンポスの神々を集めた。
 当然のごとくそこにはアポローンの双子の姉・月光女神のアルテミスも呼ばれていた。アルテミスは自分の弟が犯した罪に心を痛めながらも、なんとかして弟を助け出したいと、ポセイドーンやハーデースに声を掛け、ゼウスに取り成してほしいと頼み込んだ。だがどちらの神もそれを丁重に断ってきた――ハーデースにとったら当然のことだが、ポセイドーンに至っては「下手にゼウスを怒らせたくない」という気持ちがあった。
 そして遅れてアテーナーが到着すると、アルテミスは彼女にも懇願した。
 「お姉様! きっとあなたなら、お父様の勘気を和らげることがお出来になります! どうか我が弟を助けてくださいませ!」
 だがアテーナーは険しい顔をして、アルテミスの手を離させた。
 「いつもなら、可愛い妹であるあなたの願いを聞き届けもしますが、今日ばかりはそれはないと心得なさい。なぜなら、あなたの弟が命を奪った御方は、私が敬愛するおじ様たちだからです」
 「……お姉様……」
 「むしろ私は、お父様のお許しさえあれば、即刻おじ様たちの敵討ちをするつもりで、ここへ来たのです!!」
 ヘーパイストスはその場にはいなかった。ひどく悲しみに打ちひしがれ、とても人前に出られる精神状態ではないのだ。それでも、彼は無理をしてこのオリュンポス社殿に参上し、アレースと一緒に隣室に控えていると言う。それを聞くとアテーナーはすぐにも彼を慰めに行きたいと思ったが、人の目もあり、斎王として毅然と詮議が始まるのを待った。
 しばらくして、体を鎖で縛られたアポローンが連れてこられた。
 それを待っていたかのように、ヘーパイストスもアレースと一緒に姿を現した。
 ヘーパイストスは……アポローンの顔を見るなり、駆け出した。それは相手に殴りかかろうとしての行動だったが、右足を引きずらなければ歩けない彼は、すぐに転んでしまった。
 助け起こしたい! という気持ちをアテーナーが必死に堪えていると、すぐにアレースが弟に駆け寄っていた。
 「大丈夫か、ヘース」
 「僕の痛みなんか、おじさん達が受けた苦しみに比べたら、なんてことはない!! 離して、兄上……僕以外にあいつを殺させない! おじさんの敵は僕が取るんだ!」
 「落ち着け、ヘース……」
 「離して、兄上……離してくれ!」
 もがきながら、必死にアポローンへ挑みかかろうとするヘーパイストスを、アレースもまた懸命に抱き止めた。
 「すべては裁きが終わってからだ! 父上に任せよう!」

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from: エリスさん

2007年10月19日 13時32分17秒

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「誰が一番悪いのか?・3」
 コローニスの胎内から助け出された男児は、月足らずながら神の血を引いていたおかげですくすくと成長した。
 その子はアスクレーピオスと名づけられ、半人半馬のケンタウロス・ケイローンに預けられた。そこで医術を学んだ彼は、成人して医者となり、ついには死者をも生き返らせるほどの技術を手に入れていた。
 しかしそのことにより大問題がおきた。死者が誰一人として冥界へ行かないものだから、冥界で「罪滅ぼし」のために働く労働者が激減してしまったのだ。しかも、罪滅ぼしを終えた死者は生まれ変わって地上へ出て行くものだから、地上は人間の数が増えすぎて、ついには食糧難になりつつあったのである。
 この事に激怒した冥界の王ハーデースは、神王ゼウスに訴え出た。
 「あのアスクレーピオスをなんとかしなければ、冥界は出て行くばかりで労働者が居なくなり、崩壊してしまう。地上だとて人口が過密すれば、いつかは横になって寝ることもままならなくなるぐらい、地上が狭くなりますぞ」
 この訴えを聞いたゼウスは、やむなく雷電を使ってアスクレーピオスを焼き滅ぼした。
 この一瞬の出来事にアポローンはどうすることもできず、また神王に歯向かうこともできなかった。
 しかしこの嘆き悲しみをどうしていいか分からず、彼は叫んだ。
 「我が息子は雷電によって死んだ。キュクロープス兄弟が神王に雷電など手渡すからいけないのだ!」
 とんだ言いがかりによって、キュクロープス兄弟はアポローンの閃光で灰になってしまったのである。

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from: エリスさん

2007年10月19日 13時10分18秒

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「誰が一番悪いのか?・2」
 テッサリアにあるラリッサの領主・プレギュアースには、一人の娘がいた。名をコローニスといい、美しくそして誰に対しても物怖じしない娘だった。
 このコローニスに太陽神アポローンが恋をして、妻の一人に加えた。だが神は人間の知らないところで大変忙しく、なかなかコローニスのところへ通えない日々が続いてしまう。それを解消するために、アポローンは純白の翼を持つカラスという鳥を文使いにすることにした。
 このカラスは神の力により人間の言葉を解し、話すこともできた。そのため、手紙だけではなく、その日コローニスがどんな様子でいたかも、逐一主人に報告していたのである。
 そしてある日、カラスは見てしまった。コローニスが若い男と親しげに話しているところを。しかもその男は別れ際に、コローニスの花のような唇にキスをしたから、さあ大変。
 カラスはその状況を事細かに主人に報告し、
 「コローニス様が浮気した! アポローン様を裏切った!」
 と騒ぎ立てた。
 アポローンは若さゆえか、事の次第を確かめもせず、叱りに任せて黄金弓を手にし、遥か向こうにあるラリッサへ向けて矢を放った。するとその矢は狙いを誤ることなく、コローニスの胸を刺し貫いた。
 コローニスは、今にも耐えそうな息の下、こう言った。
 「なぜに私があなた様を裏切れましょう。不貞を犯したわけでは決してなく、強引に唇を奪われただけの私を慰めてもくれず……それでも、あなた様が下したこの裁きを、私は甘んじて受けましょう。ただ、この身に宿ったあなた様の御子だけは、どうかお助けくださいませ」
 自分の浅はかさに嘆きつつ、アポローンはコローニスの願いを受け入れて、胎児を救い出した――男児だった。
 その後、カラスは間違った解釈によってコローニスに無実の罪を着せてしまった(浮気じゃないのに、浮気だと騒いだ)罪により、永久にコローニスの喪に服する罰を与えられた。そのため、カラスは今のように真っ黒になってしまったのである。

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