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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2012年10月25日 22時20分21秒

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    つないだその手を離さない・1


     ある日、嵐賀(あらしが)エミリーこと片桐枝実子(かたぎり えみこ)のもとへ原稿を取りに行った中村衣織(なかむら いおり)は、枝実子の秘書である乃木章一(のぎ しょういち)にお茶を差し出されながら、こう質問された。
     「君はどこまで覚えているの?」
     あまりにも突拍子もない質問だったが、衣織は章一が何を聞こうとしているのか、すぐに察することができた。
     「前世の記憶のことですか?」
     と、衣織はお茶を手にしながら答え、一口飲んでから、逆に質問した。
     「乃木さんはどの程度覚えているんです?」
     「俺はほぼ全部だよ」
     「そうなんですか?」
     「エミリーには“少ししか覚えてない”って言ってあるけどね。だから、このことは内緒だよ」
     と、章一はウィンクしてみせながら、衣織の向かい側に座った。
     「衣織さんは、前世の俺――キオーネーが死んでから、エミリーと係わったんだろ?」
     「はい。精霊だった時と、人間に生まれ変わってからと……人間のイオーの時は、まだ四歳ぐらいでしたね。母に会いに来たエリス様を見たのが最後です」
     「君の母親が、エミリー……エリス様の恋人だったんだね」
     「そうです」
     「……で? 君のその前世の母親って、今の世でも生まれ変わってる?」
     ああ、それが知りたかったのか……と、衣織は納得した。
     「知りたいですか?」
     「まあ……ちょっとね」
     「知ったところで、その人はもう乃木さんのライバルにはなりませんよ」
     「どうしてそう言える?」
     「彼女、全然覚えてないんです、前世の事。だから、私に会っても全然気づいてくれないし……たぶん、これからも気付いてくれません」
     「そう……かなァ?」
     「それに、私の前世の母とエリス様は最後に約束をしたんです。今度生まれ変わった時は、恋人じゃなくて、友達として付き合おうって……今はその通りになってますし」
     「ってことは、やっぱりエミリーの友人の一人として、生まれ変わって来てるんだね。誰なの? それ……」
     「内緒(^_-)‐☆」
     「教えてくれないの?」
     「知らない方がいいこともあるんです」
     そこへ、「お待たせ〜!」と、疲れきった顔をしながら、片桐枝実子が原稿を片手に現れた。
     「ん? なんの話してたの?」
     と、枝実子が聞くと、衣織は笑顔で言った。
     「ちょっとした世間話です。原稿出来上がりました?」
     「はい、出来たわ。お待たせして申し訳ないわね」
     「とんでもない。先生はちゃんと期日までに書き上げてくださるから助かります」
     すると、台所の方から、和服の袖をたすきで上げて、三角巾を頭に巻いた鍋島麗子(なべしま かずこ)が顔を出した。
     「衣織さん、お昼ごはん食べて行く? ちょうど出来上がったわよ」
     「うう〜ん、食べて行きたいのはやまやまだけど……」
     衣織は腕時計を見ると、言った。「一端、社に戻って、また別の先生の所に行かないといけないんですよ」
     「あら、大忙しなのね」
     「最近、人手が足りなくて……。それじゃ、お邪魔しました」
     と、衣織が頭を下げた時だった。……衣織の髪が、枝実子のヘアピンに引っ掛かった。そんなに近くでお辞儀をしたわけでもないのに……。
     『今、衣織さんの髪、浮いたよな……?』と、その様子を見ていた章一は思った。衣織の髪が一房、自分から動いたかのように浮き上がって、枝実子のヘアピンに引っ掛かったのである。
     衣織自身もそれを感じていた。だが、衣織はまったく驚くことなく、ニコッと笑った。
     「……また、来ますから」
     それは、枝実子と章一に言っているようで、そうではないように感じられた。
     枝実子も、察してこう言った。
     「うん、また来てあげてね」
     枝実子も最近は気付き始めていた。自分の背後――霊的に自分を守ってくれている誰かが、衣織と会いたがっていることに。


     今から二千年も昔の事。
     イオーは初めて、母・レシーナーに連れられてアルゴス社殿を訪れた。
     レシーナーはアルゴス王・ペルヘウスの側室でありながら、このアルゴス社殿に住む若い女神たちの養育係でもあった。そのレシーナーが、女神たちの母親代わりであるエイレイテュイア女神に頼まれて、イオーを連れてきたのである。
     謁見の間で待っていると、エイレイテュイア女神と共に、この社殿の主・ヘーラー王后も姿を現した。
     「待たせましたね、レシーナー。無理な願いを聞いてくれて感謝します」
     と、エイレイテュイアが言い、しばらくイオーのことを見つめた。
     「イオー……懐かしいこと……」
     「……え?」と、イオーは聞き返した。
     「恐れ入ります」と、レシーナーは言った。「娘は……覚えておりません」
     「無理もない」と、ヘーラーが言った。「今日来てもらったのは、他でもありません、イオー。いずれはこの社殿に巫女として上がることが決まっているそなたに、それまでの間、やってもらいたいことがあるのです」
     「はい、母から伺っております」
     「そうですか。では話が早い」
     ヘーラーがそういうと、エイレイテュイアは奥の扉に向かって声を掛けた。
     「入ってきなさい!」
     すると、扉が開かれて、小さな女の子が入ってきた。
     その子はエイレイテュイアに手招きをされると、エイレイテュイアの傍まで駆けて来た。
     「この子の名はアーテー……そなたの母・レシーナーが通いで養育係を務めている女神です」
     「え? この方が!?」
     実年齢より幼く見える女神だとは聞いていたが、それでも自分より三歳も上のはずなのに、完全に五歳児に見える。
     「イオー」と、エイレイテュイアは言った。「この子の、侍女になってはくれませんか?」
     この時、イオーは十歳。アーテーは十三歳になっていた。
     これが、二人の出会いだった。

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