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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2012年10月25日 22時30分26秒

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    つないだその手を離さない・4


     イオーがレシーナーと一緒にアルゴス王宮の後宮に戻ると、そこにお茶の支度を整えながら二人の帰りを待っていた女性がいた。
     「お帰りなさい、二人とも」
     優しい微笑みをたたえたその女性は、太后(前王妃)のラファエーラーだった。
     「おばあ様! ただいまァ」
     と、イオーは素直に喜んだが、レシーナーは戸惑いを覚えた。
     「太后様……」
     そんなレシーナーのことなど気付きもせず、イオーは甘えるようにラファエーラーに抱きついた。
     「今日はどうしたのです? おばあ様が後宮にいらっしゃるなんて」
     「あなたの様子を見に来たのと、レシーナーに話が合ったものだから……今日は社殿に参っていたのでしょう?」
     「はい、おばあ様」
     「あなたの主となられる女神様は、どんな方でしたか?」
     「とても可愛らしい方でした。素直で、元気が良くて!」
     「そう。意地悪そうなところはありませんでしたか?」
     「ちっとも。私、一日でアーテー様の事が大好きになりました!」
     「そう! それは良かった」
     ラファエーラーは言うと、レシーナーの方へ視線を向けた。
     「破壊を司る御方と聞いていたので、心配していたのですよ。いくら、あなたがご養育申し上げた方だとは言っても、ね」
     「無理もございません」と、レシーナーは言った。「私も、アーテー様のご性質を知らなければ、破壊の女神に娘を差し出そうとは思いません」
     「そうよね……これで一つは安心したわ……」
     ラファエーラーが話したいのは、イオーよりも、むしろレシーナーの方だと初めに言っていた。でもそれは、お茶を飲みながら話せる話なのだろうか?
     『イオーがアーテー様の想い人になる危険性がある――ということを、心配していらしたのだろうか?』
     レシーナーはそう思い、こう言った。
     「イオー、太后様とお母様は大事なお話があるから、それが終わるまで、侍女たちと休んでおいで」
     「ええ〜!」と、イオーは嫌そうな顔をしたが、レシーナーが真剣な目をしているのに気付いて、
     「分かりました……」
     と、自分の部屋へ行った。
     「別にイオーがいても良かったのよ」
     と、ラファエーラーが言ったが、
     「いいえ……先ずは、私と二人だけで」
     「いいわ」と、ラファエーラーは微笑んだ。「じゃあ、先ずはお茶をいただきましょう」
     ペルヘウス王の紅茶好きは、母親であるラファエーラーの影響だった。レシーナーもペルヘウスの後宮に入ってからは、ペルヘウス自身に教えてもらって、今では夫よりも美味しく紅茶を淹れることができるが、流石にラファエーラーには敵わなかった。レシーナーはラファエーラーの紅茶を一口飲んだだけで、感動のため息をつくのだった。
     「お気に召して?」
     満足げに微笑んでラファエーラーが言うと、レシーナーは素直にうなずいた。
     「どうやったら私も、太后様のようなお茶を淹れることができるのでしょう?」
     「いずれ教えてあげるわ……それじゃ、本題に入りましょう」
     容赦のないところは、流石はゼウス神王の落胤と噂される隣国の王の王女だけのことはある。
     「実は近々、α国と国交を結ぶことになったのだけど、ペルヘウスからもう聞いているかしら?」
     「あっ、はい。そのことは……」
     『ああ、そのことか……』
    と、レシーナーは思った。国交を結ぶとなれば当然、出て来る話がある。ペルヘウスも「そうなるかもしれない」と言っていた。
     「でも、わたしはそなた以外の女を妻に迎える気はないから、心配するな」
     と、ペルヘウスは言っていたが……そんなことが、許されるはずもない。
     『本当に私は、このまま日陰の身に甘んじていてもいいのに……太后様は、私を哀れと思って訪ねて下されたのね』
     「そう、聞いているのね……α国から姫君を迎える話は?」
     「……そうなるかもしれない、と……」
     「そう」
     ラファエーラーは一口だけお茶を飲んで、またレシーナーを見つめた。
     「α国の国王の妹君で、名をメーテイアと仰るそうで、御年18歳になられるとか」
     「お若い方ですね」
     ペルヘウスは今33歳だから、15歳差の結婚になる。しかし、女が若い分には問題はない。ましてや政略結婚なのだから……。などとレシーナーが考えていると、ラファエーラーは全然別のことを考えていたらしく、
     「そうね、王の妹君というには、かなりお若いわね。兄王とは30歳ぐらい歳が離れているそうだから、間違いなく母君は別の方ね。先代の王はかなりの歳までお元気であられたようね」
     「いえ、そういう意味では……」
     「それに、使者に遣わした者の話では、メーテイア姫は実際の歳よりも幼く見えるらしくて、だったら、歳は上でも似合いの二人になるのではないかと思っているのだけど、どうかしら?
     「……は?」
     歳は上でも?……ペルヘウスより確実に年下なのに、「上」とはどういうことなのだろう?? と、レシーナーが混乱していると、ラファエーラーはクスクスっと笑ってから、言った。
     「あなた、相手は誰だと思っているの? ヒューレウスの嫁にどうか、と言っているのよ」
     「ヒューレウスにですか!?」
     ペルヘウスとレシーナーの長男・ヒューレウス王子は、今年13歳になったばかりだった。
     「どう? 私はいいお話だと思っているのだけど?」
     「はい……でも、まだ早いような」
     「そうね。ちょっと早いかもしれないけど、でも、こんな良い御縁を逃すわけにはいかないじゃないの。ましてや、国と国のつながりが掛かっているのだから」
     「そう……ですが」
     ペルヘウスの結婚だと思っていたので、レシーナーはかなり動揺していたが、それでも、少し安堵もしていた。
     夫を他の女に取られずに済んだ……。エリスと完全に別れてからは、レシーナーの愛の対象はペルヘウスに移っていたのである。
     そのことを察してか、ラファエーラーは言った。
     「大丈夫よ。私も、先王も、あなたにこれ以上肩身の狭い想いはさせないわ。私たちはあなたが大好きなんですもの。出来ることなら、あなたを王妃にしてあげたいぐらいよ」
     「でも、私は……」
     「臣下の娘――世間的にはね。でも、あなたの母親・クレイアーの本当の父親は、先々代の王なのでしょう? あなたの祖母のレディアが先々代の愛人だったことは周知の事実だと聞いているわ。だったら、クレイアーは王女、あなたは王の孫ということになる。あなたは本来なら、正妃になれる資格を持っているということよ」
     「いいえ、太后様。祖母は、その事を認めていません。母・クレイアーの父親は確かに自分の夫であり、王との間の子ではないと……。それに、もし事実がそうであったとしても、こんなスキャンダルを公表するわけには参りません」
     「そうなのよね……結局そこに行きついてしまって、私も先王も、これ以上追及ができないのよ」
     と、ラファエーラーはため息をついた。「ヘーラー様が、神の目から見れば、その人物が誰と誰の間に生まれて来たか、一目瞭然だから、なんなら教えて下さるとも仰せられているのだけど……」
     「太后様……」
     レシーナーもその話はヘーラーだけでなくエイレイテュイアからも聞いているのだが、怖くて確かめられないでいた。
     「だから、せめて」と、ラファエーラーは言った。「あなたの恋敵が現れるようなことだけは、ないようにしてあげたいの。ペルヘウスもあなた以外の女など考えられないようだから」
     「恐れ入ります……」
     「それじゃ、ヒューレウスの嫁取りの話は賛成してくれるわね?」
     「はい、その件は……すべて太后様にお任せいたします」
     「分かったわ。ペルヘウスにも伝えておくわね……ねえ、レシーナー」
     「はい……」
     「これからも、こうゆう“国交を結ぶため結婚”というのはあると思うのよ。だから、もう何人か、ペルヘウスの子を産んでくれないかしら?」
     「はっ………」
     すぐに「はい」とは言えなかった。なにしろレシーナーはもう51歳になっているのである。
     「大丈夫よ。あなた、そんなに見た目が若いのですもの。ヒューレウスをお腹に宿したあたりから、全然老けなくなって……女神様の置き土産なのかしら?」
     「はい、そうらしいです……」
     「だったら、もう少し頑張って見なさい。ペルヘウスにも、そう言っておくから」
     「はァ……」
     レシーナーが恥ずかしそうに顔を赤らめた頃、イオーが部屋の入り口から顔をのぞかせた。
     「お母様ァ、おばあ様ァ……私、まだダメ?」
     「ああ、ごめんなさい。待たせたわね」
     ラファエーラーはそう言うと、イオーを手招きした。
     「お話はもう終わったから、一緒にお茶にしましょう。イオー、あなたにお姉様ができるのよ」
     「ホント!? どんな人なの?」
     「そうねェ、聞いた話によると……」
     ラファエーラーは話しながらも、イオーのために紅茶を淹れてあげるのだった。

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