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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2012年10月25日 22時58分26秒

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    つないだその手を離さない・6

     イオーとレシーナーが王城に着くと、すでに後宮にて出産の準備が進められていた。
     「恐れ多くもエイレイテュイア様が、侍女に憑依されてご連絡下されたのよ」
     と、ラファエーラーは言った。「まあ、一カ月も早い早産だなんて! だから、アルゴス社殿でのお役目はご辞退した方がいいのじゃないかと、私が常々言っていたのよ」
     「申し訳ございません、太后さま」
     レシーナーは産褥に横たわりながら、そう答えた。
     「ああ、ごめんなさい。責めるつもりはなかったのよ……ただ、私は……」
     「心配なんですよね、母上」
     そう言いながら入って来たのは、王でありレシーナーの夫のペルヘウスだった。
     「レシーナーに子供を産んでくれ、と頼んだ手前、本当は無理をさせているのは自分じゃないかと、そう心配をなさっているのでしょう?」
     「意地悪な言い方をするわね、ペルヘウス」と、ラファエーラーは言った。「私は自分の事ではなく、レシーナーを心配しているのよ」
     「そうですわ、あなた」と、レシーナーも言った。「お母上に対して失礼なことをおっしゃらないで」
     「はいはい……でも、確かに今回は、ちょっと無理をさせたのかな」
     ペルヘウスはレシーナーの傍によると、皆がいるのも構わず、レシーナーの唇にキスをした。
     「君がいつまでも若々しいものだから、君の実年齢も忘れて愛しすぎてしまった。これからは少し自重するよ」
     「そうですわね。せめて、私が懐妊している間は控えてくださると……」
     つまり、身重の妻に夜の相手をさせていたらしい――となると、今回の早産の責任はペルヘウスにあるようだ。
     その後、ヘーラー自ら助産の心得を教えたという産婆が到着し、レシーナーも再び陣痛に入った。
     無事に女の子が生まれたのは、それから数時間後のことだった。
     これでアルゴス王家は(二年前に生まれた男児も併せて)三男二女に恵まれたことになる。――先王のルシヘウスは、王女が生まれたと聞くとすぐに産屋に出向いて、大喜びでこう言った。
     「これでイオーが誰かと結婚をしたいと言い出しても、代わりの巫女が生まれたのだから、この王家の安泰は守られたのだな」
     「その通りですわね、あなた」と、ラファエーラーも言った。「私もそういう考えがあったので、レシーナーにもう何人か王の子を産んでくれと頼んだのですもの」
     するとイオーが、ちょっと怒りながら言った。
     「おじい様もおばあ様も、私のことを信用して下さっていないのですね。私は、巫女の身で殿方を好きになったりなど致しませんのに」
     「それは普通の巫女の話ですよ」と、言ったのはレシーナーだった。「アルゴス社殿の巫女は、崇める神がヘーラー様であらせられるので、良い相手が見つかったら家庭を持つことをお許しいただけるのよ。子を産み育てることこそ女性の勤め……という考えをお持ちの御方でいらっしゃるから」
     「それは……」
     と、イオーは口を濁した――ヘーラーがそういう思想を持っていることは知ってはいたが、それとこれとは話が別と言おうか、とにかくイオーは男に興味が持てないから、結婚など考えもしなかったのである。
     「どっちにしても、私は巫女の座を妹に譲る気はありません」
     「そうだな」と、ペルヘウス王が言った。「おまえがそうしたいのなら、無理に結婚相手を見つけることはないよ。そんなことより、王女が生まれた祝いと、そして無事に生まれてきたことを神に感謝せねば。イオー、おまえは明日の朝さっそくアルゴス社殿に赴いて、ヘーラー様やエイレイテュイア様にお礼の供物を捧げてきてくれ」
     「はい! 承りました!」
     
     
     その頃、天上のアルゴス社殿では――
     水鏡を使って無事にレシーナーが出産したことを見届けたヘーラーは、安堵して、水鏡の中に手を入れて映像を消した。
     『良かった……生まれてきたのは普通の娘のようだ』
     その心を読み取ったのか、今まさに部屋の中に入って来ようとした人物が言った。
     「レシーナーを早産させたのは、何か思うところがあったからなのか?」
     ゼウスだった。
     「あなた……お帰りになったものとばかり思っておりました」
     「そなたの仕事が終わるまで、そなたお抱えの料理人に夕飯をご馳走になっていたのだよ。確かにあの者、人間の割には良い腕をしておる」
     「まあ、お食事ならオリュンポス(社殿)でもご用意していたでしょうに……」
     と、ヘーラーがオリュンポス社殿の厨房を預かる者たちに同情すると、ゼウスはさらにヘーラーに近寄って来て、妻を抱きしめた。
     「そなたは? 食事は済んだのか?」
     「ええ、仕事をしながら」
     見れば、テーブルの上にレタスの切れ端とパンの屑が残った皿、そしてワインを飲んだ後と見られるグラスが置いてあった。
     「サンドイッチだけか?」
     「仕事をしながらなら、これが一番手軽なのです」
     「そうだろうが……そんなに忙しいのか? わたしのもとに戻れぬほど?」
     「最近は出産ラッシュなのです。私の領地だけでなく、ヘスティア―お姉様やデーメーテールのところの精霊(ニンフ)たちが、一斉に身籠りまして。なのに産褥分娩を司る神は私とエイレイテュイアだけ。ですから、多少心得のあるシニアポネーにも手伝ってもらいながら、手分けして助産をしなければならないのですよ」
     「先程のレシーナーもか? あれは人間なのだから、人間の産婆に任せればよかろう」
     「それが、そうもいかなかったのです」
     ヘーラーは夫の腕から逃れて、テーブルの方へ行き、グラスに手を翳した。すると、グラスの底の方からコポコポとワインが湧き出してきて、グラスになみなみと満たされた――ヘーラーはそれをゆっくりと飲み干してから、言った。
     「レシーナーの体には、エリスの神気が大量に残っておりました」
     「うむ……実際にレシーナーを見かけて思ったのだが、あの頃から少しも老けてはおらなんだな」
     「はい。女神の母乳を飲んだ者は不老不死になれますが、それだってかなりの量を飲まなければ、そうはなりません。赤ん坊の時のヘーラクレースのように、満腹になるまで私の母乳を飲んだ者でなければ……だから、レシーナーの場合は違います。確かに、母乳が出る時期のエリスと目合(まぐわ)って、図らずも母乳を口にしたことはあって、それも関係しているとは思いますが、レシーナーの場合は、つまりはディスコルディアと同じタイプなのです」
     「ディスコルディア? エリスの剣の?」
     「はい。ディスコルディアはエリスの神気を長年にわたり浴びることによって、付喪神のように人の形を成せるようになりました。レシーナーの場合もこれと同じなのです」
     「つまり、エリスの神気がそれだけ強い……ということだな」
     「はい」
     実際、不和と争いの女神というカテゴリーには当てはまらない力を、今までエリスは見せてきた。だからこそ、過酷な運命を背負って、いま彼女は果てしない宇宙で精進潔斎を受ける身になっているのである。
     「その神気が――レシーナーに残る神気が、生まれてくる子に災いを起こそうとしていたのか?」
     と、ゼウスが聞くと、
     「ええ。胎児がエリスの神気を吸っているのが分かりました。このままでは人間として生まれるには過剰な霊力を身に着けることになる。ですから、早めにこの世に生まれさせたのです。とりあえずは普通の子供として生まれてくれましたが、もしかしたら成長過程で、普通よりも霊感のある子供として育つかもしれません。でもそれも、まだ人間の範疇を超えない程度でいられるはずです」
     「なるほどのう……いっそのこと、レシーナーの体からエリスの神気を抜いたらどうだ?」
     「それは止めた方がいいでしょう。急に老けてしまったりしては、彼女も可哀想ですし、彼女はこのアルゴス社殿では重要な役割を担っているのですから」
     「アーテーの養育係か? 確かに、目を離すと暴走しかねない破壊の女神を、抑制する者がいてくれないと困る所だな。……それで? 今日はもう、仕事は終わりであろう?」
     「はい。もう遅くなりましたので、そろそろ休もうかと思います」
     「では、泊めてくれ」
     「え?……お泊りになるの?」
     「何のために、わたしがそなたを訪ねてきたと思うのだ。そなたがわたしのもとへ帰ってこないから……」
     ゼウスはまたヘーラーを抱きしめると、息もできないくらい熱いキスをした。
     そして、ヘーラーの肩のフィビュラ(服の留め金)を外すので、ヘーラーは恥ずかしそうに胸元で服が落ちるのを止めた。
     「嫌ですわ……この頃、忙しかったものですから、カナトスの泉に行っていなくて……」
     ヘーラー秘蔵の「カナトスの泉」は、入ったものを穢れなき純潔の姿に戻す力がある。神は本来不老不死だが、孫の人数が増えた頃から、ヘーラーもゼウスも、見た目が人間でいう四十代ぐらいに見えるまで老けるようになっていた。それでもヘーラーが美女であることは変わりないのだが、ヘーラー自身としては愛する人には常に美しい自分を見てもらいたくて、目元に皺が見えるようになるとカナトスの泉で若返っていたのである。
     「こうゆう時なら、あなたが他の妻の所へ赴いても、私、嫉妬など致しませんのに……」
     「心にもないことを言うな」
     ゼウスはそういうと、ヘーラーの腰のあたりを抱いて持ち上げ、寝台まで運び、先ず自分が横たわって、ヘーラーを引っ張り込んだ。ゼウスの上に乗せられたヘーラーは、そのまま腰帯も解かれてしまう。
     「もう他の女の所へ行く必要はない……これ以上、わたしが直接子孫を作る必要はなくなったのだ」
     「そう……なのですか?」
     「だから、本心を言え、ヘーラー。本当は、こうゆう時なんと言いたいのだ?」
     服を脱がされて、白い肌を露わにされたヘーラーは、胸元を隠すのをやめ、その手で夫の頬を包んだ。
     「もう、他の女人に御心をお移しにならないで……」
     「ああ、誓うとも」
     ゼウスはそう言うと、ヘーラーを抱きしめたまま寝返りを打った……。
     
     
     翌朝、イオーは早めに地上のアルゴス社殿に参内すると、祈りの間へ行き、そこにある水晶球に話しかけた。
     「どなたかいらっしゃいますか? 巫女のイオーでございます」
     それは天上のアルゴス社殿へ用事がある時に使う、今でいう通信機だった。
     しばらくすると、水晶球に誰かの姿が浮かび上がった――社殿付きの侍女で、イオーも顔見知り精霊だった。
     「ヘーラー様と皆様に、無事に我が母・レシーナーが出産を終え、女の子を授かりました御礼を差し上げたくて、これからそちらに出向きたいのですが」
     「分かったわ。ティートロース様に迎えに行ってもらいますから、表で待っていてください」
     「はい、よろしくお願いします」
     イオーが通信を切ると、ちょうどそこにフローラーが入ってきた。
     「天上へ行くの?」
     「はい。あっ、何かアンドロクタシアー様に御言付けでもありますか?」
     「そうね……お花をありがとうございます、と伝えて」
     「はい……いっそのこと、会いに行く?」
     「いいのよ。いつかシアー様が私に会いたいと思ってくださるまで、待ってるつもりだから」
     「そう?……」
     切ないけど、いいなァ――と、イオーは思った。そんな風に誰かに恋ができるなんて、羨ましいとまで思ってしまう。
     「大丈夫だろうけど、気を付けて行ってきてね」
     「はい、フローラーさん」
     イオーはティートロースの馬車が迎えに来てくれるのを待つために、社殿の外へ出て行った。
     
     
     ヘーラーが目を覚ました時、ゼウスはちょうど服を着ている最中だった。
     「すみません……寝過ごしてしまって」
     ヘーラーが起き上がろうとすると、そのままで、とゼウスが制した。
     「連日の仕事で疲れているのだろう。そのまま寝ていなさい」
     「そんな、夫を見送りもしないなんて……」
     「いいから」
     ゼウスはそう言いながらヘーラーを横たわらせて、軽くキスをした。
     「今晩も来ていいか?」
     「今晩は……私が参ります。今日の助産は2件しかないので、エイレイテュイアだけで大丈夫ですから」
     「じゃあ、待っているぞ」
     ゼウスはそう微笑んで、ヘーラーの部屋を出て行った。
     ……それから、数分後。
     若い娘の悲鳴が轟いて、ヘーラーは思わず跳ね起きた。
     「あの声は……」
     ヘーラーは急いで服を着て、声のした方へ駆けて行った。
     そこに、恐れおののき、地に腰を着けて後ずさるイオーの姿があった。そのイオーが恐れていたのは、ゼウスだった。
     「巫女殿、どうしたのです! しっかりしてください。この方は……」
     ティートロースがイオーをなだめようと、彼女の肩に手を置いている。その手を、イオーは払い飛ばした。
     「あなた、誰?……私のなんなの?」
     イオーはティートロースに向かってそう言いつつも、またゼウスに目を向けて恐怖で顔をゆがめていた。
     「私に近寄らないで! やめてェ!」
     「巫女殿、落ち着いてください。何があったのです!」
     そこへ、エイレイテュイアやレーテー、マケ―達も駆け付けてきた。
     ヘーラーはもちろん、エイレイテュイアもこの状況を見て、すべてを理解した。
     部屋が一番遠いアーテーがようやく来て、彼女はすぐにイオーの傍に駆け寄った。
     「どうしたの!? イオー! 何があったの?」
     「あ……ああ!」
    イオーはアーテーのことを見ると、すぐに抱きついて、こう言った。
     「エリス様! 助けて! 私の中に何かいる!」
     するとアーテーは、「エリス様?」と聞き返した。
     「助けて、エリス様! 我が君!」
     「イオー……お母様の恋人だったの?」
     そこへ、ヘーラーが傍へ来て、イオーのことを抱き寄せた。
     「思い出してしまったのだな? 前世のことを。ならば……」
     ヘーラーはイオーの額に自分の額を当てようとした――そうやって、前世の記憶を消そうとしたのだが……。
     「お許しを……」
     イオーは震える声で言った。――その声、その言葉に、ヘーラーもあの時のことを思い出して、一歩引いてしまった。その隙に、
     「お許しください、ヘーラー様!」
     と、イオーは立ち上がると駆けだして行った。
     今のイオーは、前世で起こったことを思い出して、そのまま再現してしまっている。そうなると……。
     「追いかけて! このままでは、イオーはまた!」
     「また?」とアーテーが聞いた。「また、ってなんなのですか? おばあ様」
     するとレーテーが言った。「自殺するつもりなのよ!」
     「え?」
     「とにかく! タケル、追いかけて! 止めて!」
     レーテーに言われ、タケルは急いでイオーの後を追った。――他の者たちも。
     それでも、アーテーとティートロース、そしてゼウスが動けないでいたので、レーテーはため息をつきながら前髪を掻き上げた。
     「私も思い出したわ、子供の時の事。あの頃、ゼウス様に辱めを受けた侍女が、自殺しようとして、我が母・エリスに救われました。その時の侍女の名は、確かイオー……レシーナーの親友でもあったわ。その子が、レシーナーの娘として生まれ変わっていたなんてね」
     「ゼウス様に、はずかしめられた?」
     まだよく意味の分からないアーテーに、レーテーは言い直した。
     「昨日、私とタケルのを見たでしょ? あれよ。あれを、ゼウス様は嫌がるイオーに無理矢理したのよ……そうですよね? 神王陛下」
     すると、ゼウスは苦笑いを浮かべた。
     「まったく、エリスそっくりのそなたに言われると、かなり堪えるな」
     「では」と、アーテーは言った。「本当なんですか?」
     「本当だ。わたしはイオーを――前世のイオーを凌辱した」
     「どうして!!」
     「子供を産ませるためだ。この神王ゼウスの血を引く子供を増やすため……その結果、生まれたのが、ここにいるティートロースだ」
     「ティートが? イオーの子供?」
     もう訳が分からなくなっているアーテーを、レーテーは肩を揺すって我に戻した。
     「そんなことより、イオーを追いなさい! 今のあの子には、あなたは前世で自分を救ってくれた、私たちの母君・エリスに見えているのよ! あの子を救えるのは、あなただけなの!!」
     言われて、アーテーも気が付いた。そして、何も言わずにイオーの後を追いかけた。
     
     

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