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from: エリスさん
2012年11月30日 14時08分53秒
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つないだその手を離さない・11
アーテーに罵声されて、それでもゼウスは、何も喋らなかった。
「何故です......何故なにもおっしゃらないのです、陛下」と、アーテーは言った。「悪いと思っているから――イオーに酷いことをしたという自覚があるから、あえて私からの罰を受けようとしているのでしょう? だったら、素直にイオーに謝ってください!」
すると、ゼウスは頭にかかった粉塵を頭を振って払いのけると、言った。
「わたしが頭を下げることはできぬ......それが王というものだ」
「馬鹿な!」
ちょうどそこへ、咳き込みながら誰かが入ってきた。
「また派手にやらかしたな、アーテー」
それは鍛冶の神ヘーパイストスだった。「ここまでくると、おまえの器用な侍女でも修復することは不可能だろう」
「ヘース叔父様、どうして......」
いつもはレームノス島の工房で忙しく働いていて、滅多にオリュンポス社殿には登城しないというのはヘーパイストスの有名な話だ。だから彼がここに居るというのは珍しいのだが......。
「簡単なことだよ。父上の書斎の机が老朽化で傾きかけてきたというから、新しい机を届けに来たところだったのさ......たった今、おまえの破壊の力で壊されたがね」
ヘーパイストスが手を向けたそこには、壁が崩されて剥き出しになった隣室と、見事な細工が施された机が無残にも真ん中から割れてしまっているのが見えた。
「すみません、叔父様......」
「いや、まあ、壊してしまったものは仕方ない。また新しく作るとするよ。この社殿も修復しないと......」
ヘーパイストスは足もとに転がっている瓦礫を拾い、壁の穴の開いたところに差し込んで、神力を放った――すると、壁は綺麗に修復されたが......。
「うーん、これ全部をわたしの神力で直すとなると、貧血を起こしそうだな。アーテー、おまえにも手伝ってもらうよ」
「あっ、はい......」
アーテーが返事をしている間に、ヘーパイストスは一歩外に出て、物陰から様子を窺っていた侍従二人に声を掛けた、
「どちらでもいいから、わたしの工房へ行ってキュクロープス兄弟を呼んできてくれ。道具を一式持ってくるようにって」
すると二人そろって「はい、分かりました!」と駆けだして行った。
「さてと、それじゃ......」
ヘーパイストスは手を叩いて、手に着いた砂埃を払った。「父上、母上。アーテーとはわたしが話をしますよ。事情は分かっていますから」
「そうしてくれるか......」
と、ゼウスが言うと、「ええ」と、ヘーパイストスはニッコリと笑った。
「でもそれは父上の為ではないですよ、今まで耐え忍んでこられた母上の為です」
「分かっておる。おまえが母親思いなのは、わたしが一番理解しているからな」
「それじゃ、上の階にでも居てください」
と、ヘーパイストスは両腕を広げて、神力を放出した。すると、先ほどアーテーの力で粉塵と化した天井部分が、ヘーパイストスの神力でかき集められた。そして、「うおりゃあ!!」というヘーパイストスの掛け声とともに、天井をすっぽりと塞いだのである。
「ありがとう、ヘース......大丈夫なのですか?」
と、ヘーラーがヘーパイストスの頬を撫でる。
「大丈夫ですよ、これぐらいなら......さあ、お二人とも上に行っていてください」
「頼むぞ、ヘーパイストス」と、ゼウスも言って、ヘーラーと部屋を出て行った。
二人が遠くへ行ったことを察すると、ヘーパイストスは力が抜けたようにその場に倒れた。
「叔父様!?」
アーテーが助け起こそうとすると、
「心配ない、ただの貧血だ......見ての通り、わたしには他の神のように神力が大量にはなくてね......だから、すぐに貧血を起こしてしまう」
「そんな......おばあ様の――王后神ヘーラーの御子なのに......」
「それが、父上が凶行に走った理由でもあるんだよ」
「どうゆうことです?」
「うん......話す前に、済まない、そこの通信用の水晶球を持ってきてくれ」
部屋の一番隅に水晶球が置いてあって、奇跡的に無傷だった。アーテーが言われるとおりにすると、ヘーパイストスはアーテーに持たせたまま水晶球に話しかけた。
「へーベー姉上! へーべー姉上、聞こえる?」
すると水晶球の中に、青春の女神へーべーの姿が浮かんだ。
「あら、ヘース。見るからに燃料切れみたいね」
「分かる? だったら、今すぐ新鮮なネクタル(神酒)を送ってくれ」
「いいわよ。ハイ、お口アーン......」
アーン、と、ヘーパイストスが口を開けて待っていると、突然ヘーパイストスの口の上に、桃色の液体の球が浮かんだ。そして、ゆっくりとヘーパイストスの口の中へと入って行った......。
「うん、姉上が作るネクタルが一番美味い!」と、ヘーパイストスは起き上がった。「それに、力も復活する」
「それはそうよ。私の得意技ですもの。他に何かしてもらいたいことは?」
「そうだな、悪いけど旦那さんを貸してもらえない?」
「ヘーラクレースを?」
「うん。旦那さん、力仕事は天下一品だから、手伝ってもらいたいんだ」
「確かに、誰がやったのか分からないけど、かなり悲惨な状況のようね。いいわ、貸してあげる。オリュンポス社殿ね、そこは」
「ああ、恩に着るよ」
「どういたしまして。それじゃね」
通信が切れると、ヘーパイストスは立ち上がって、アーテーから水晶球を取り上げた。
「みんなが来るまで、少し時間がある。その前に話しておこうか......なぜ、父上が多くの女性を手込めにしなければならなかったのかを......」
アーテーは、息を呑んで頷いたのだった。-
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