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from: エリスさん
2012年12月07日 14時02分49秒
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つないだその手を離さない・12
「ガイアを祖とする我々一族には、一つの厄介な宿命があるのさ」
ヘーパイストスは瓦礫を拾いながら言った。
「宿命......ですか?」
アーテーもヘーパイストスが拾い集めた瓦礫をさらに砂にまで破壊して、器に入れていた。あとでそれをヘーパイストスが開発したセメントに混ぜて、壁を一から作り直すためである。
「そう......子宝には恵まれるのだが、同じ相手とは子を成すほど後から生まれて来るものは神力が弱くなるか、神力は強くとも醜い化け物として生まれてくるようになる」
「そんな......」
「実際にそうなのだよ。私の所にいるキュクロープス兄弟はガイア様が御産みになった末子なのだが......アーテーは会ったことはあったかな?」
「大おばあ様のところに新年のご挨拶に伺った時に、叔父様と一緒にいらしていたのを一度だけ」
「そうだな......見た目は化け物だっただろ?」
「そんなことはないですよ。手先が器用な優しいおじ様たちで、私たち兄弟姉妹はみんな、おじ様たちが大好きになりましたもの」
「ありがとう。わたしもおじさん達と最初に会った時は同じ印象を持ったが......大概の人は、あの一つしかない目と、大きな体から恐怖を覚えてしまうものらしくてね――それでおじさん達は、実の父親であるウーラノス様に奈落の底に落とされてしまったんだ」
「酷い話ですね」
「まったくね......まあ、それは置いといて。ガイア様はお子が多かったわけだが、その御子達の何人かは、末に行くほど怪物に近い子供を儲ける傾向にあったんだ。その条件として"子を成す相手が常に同じ"もしくは"子を成す相手が近親者"ということでね。だから、父上も母上との間に子供を作るにあたって、それを恐れていた」
「でも、おばあ様との間に怪物なんて生まれてないじゃありませんか」
「そうだね。でも、もう兆候はあったんだよ......へーべー姉上の時にね」
「......神力が弱いってことですか?」
「そう。姉上は、青春を司る女神ではあるけれど、自分が青春を謳歌しているところを披露することで、見ているものにも幸福感を分けてやっているだけで、直接誰かをどうこう出来るわけではないのだよ。それでも姉上が女神としての地位を保っていられるのは、姉上の作る神酒が神力増強の力をもっていて、神々はいざという時それがないと大変に困るからなのだ」
「神力は弱くても、才能でカバーされてるんですね。素敵です!」
「そうだな。そうゆう神酒を作れるようになるまで、かなり努力は重ねられたと思うが......しかし、生まれたばかりの姉上はとにかく神力が弱いだけの子供だった。だから、父上はもう母上とは子供が作れないと思い込んでしまった。それで、他の女たちに手を出すようになったのだよ」
「でも、叔父様とマリーター叔母様が生まれているではありませんか!」
「そう――母上は、父上に子供を作ることを拒絶されて、しかもそれを理由に他の女たちに手を付けるので、お怒りになって御一人で子供を作ることにした。おまえたちの母親のエリスと同様、単身出産能力を使ってね」
「え? 叔父様って陛下の御子では......」
「父上と呼ばせてもらっているが、わたしとマリーターは母上が御一人で作った子だよ。そうやって母上は、自分はまだ子が産めることを証明したかったんだけど、結果、わたしもマリーターも神力が弱かった。それで母上も自分が子供を産むことは諦めたのさ」
「それで、陛下は好き勝手浮気のし放題ってわけですか」
アーテーは忌々しくなって、手に持っていた瓦礫を握りつぶして粉砕した。「でもだからって、怪物が生まれてくることを恐れるのなら、そもそも御子を儲けなければいい」
「そうもいかなかったんだよ。いずれ、そう遠くない未来に世界の災厄がやってくる。その時までに、世界を救う力を持つもの――ゼウスの子孫を多く誕生させなくてはならない、と父上は思っておられたから」
「だからって、まだ幼い少女を手込めにしていい理由になんかならない!」
「その通りだ、まったくね......もうその器はいっぱいだから、今度はこっちに入れなさい」
ヘーパイストスは手品のように金ダライを出して、アーテーの前に置いた。
「とにかくあの頃の父上は、まるで狂っているかのように次から次へと、女神、人間関係なく手を出していた。一番手を出したのは人妻かな? 夫のいる女なら、その夫が"神の子を賜った"と殊勝な心がけで生まれてくる子供の面倒を見てくれるからね。このあと来るヘーラクレースもそうやって生まれてきた子供だから、彼が来たらこの話はもうしてはいけないよ」
「はい、気を付けます」
「うん――しかし、父上はあの日を境に考え方を改めたのか、さっぱり女遊びをしなくなった。もう、自分が直接子供を作らなくても、自分の子孫が満ち満ちていることに気付いたんだろうね。そして、災厄から世界を救うのは自分の子孫ではないことも悟ったんだろう」
「あの日って?」
「エリスが――おまえの母上が精進潔斎に入ると決めた日だよ」
「それって、つまり......」
「つまり、世界を崩壊から救うのは......」
ヘーパイストスはそこまで言いかけて、何かに気付いた。
「ああ! 遅いと思ったら、そんなところに隠れてた!」
まだ片づけていない瓦礫の影に、キュクロープス兄弟のプロンテースとステロペース、そしてへーべーの夫のヘーラクレースが隠れていた。
「いやぁ、なに。会話の邪魔をしてはいけないと思ってね」
と、プロンテースは頭を掻きながら言った。
「いつからそこにいたの? おじさん達。ヘーラクレースも」
「ガイアの一族は怪物が生まれやすい、ってところからだよ」
と、ステロペースが言うので、
「始めからですか......」と、ヘーパイストスは呆れた。「だったら隠れてなくても」
「わたし達が目の前にいない方が話しやすいだろうと思ったんだよ」
と、プロンテースが言うと、ヘーラクレースが言った。
「手込めによって生まれたわたしも、居ない方が良かっただろう?」
「そうですね......表現の仕様によっては悪口になりますからね」
「事実だから仕方ないがね」と、ヘーラクレースは大きな瓦礫を肩に担いで持ってきて、アーテーの傍に置いた。「はい、これも頼むよ、お嬢さん」
「はい、ヘーラクレースさん」
「それからね......君は、父上が君の友人を辱めたことについて謝らないのを、かなり怒っているようだけど」
「当たり前です! いくら前世の事だからって!」
「しかし、父上は決して謝ることはできないよ」
「どうしてですか!」
「その理由は二つ――先ず一つ目は、ゼウスは万物を統べる王だから、何をしてもいい立場にある」
「そんな!」
「そしてもう一つの理由は――生まれてきた子を"罪の子"と呼ばせない為だ」
「あっ......」
一番言いたくないであろうヘーラクレースに、辛い言葉を言わせてしまったことに気付いたアーテーは、恥ずかしさで何も言えなくなった。そんなアーテーを見て、ヘーラクレースは、
『やはりこの子は、優しい子なんだな』
と、察して、頭をくしゃっと撫でてあげた。
「さあ、早く壊れたところを直してしまおう」
と、ステロペースは言った。「この粉をセメントに混ぜて、かさ増しすればよいのだろう? ヘース」
「ええ、おじさん。やってもらえますか?」
「もちろん。水を汲んでくるよ」
「ヘーパイストス、わたしは?」と、ヘーラクレースが言うと、
「婿殿は倒れた柱を修復するのを手伝ってください。誰かが支えていないとつなげなくて」
「よしっ、やろう!」
ヘーパイストスとヘーラクレースが行ってしまうと、アーテーの傍にプロンテースが座った。
「さあ、わたし達はこの瓦礫を粉にする仕事を片づけてしまおう。他にもやることはいっぱいあるよ」
「はい、すみません、あの......」
アーテーは今更ながら、怒りにまかせて皆に迷惑をかけてしまったことを後悔していた。そんなアーテーに、プロンテースは優しく微笑みかけた。
「大好きな誰かのために、そんなに必死になれるなんて、素敵なことだよ。君はとても良い友人に恵まれたようだね」
「友人......」
そう言われて、アーテーはしっくりこない物を感じていた。
「ん? 友人じゃないのかい?」
「友人って言うか......誰よりも大事な人、かな」
「そうかい。そんな人がいるってことは、幸せなことだよ」
「はい、おじ様......」
そうなんだ――私がこんなにも、ゼウスに対して怒りを感じたのは......アーテーは改めて自分の心が分かったような気がした。-
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