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from: エリスさん
2013年01月18日 12時15分29秒
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つないだその手を離さない・14
イオーの肌があまりにもなめらかで、艶を帯びているので、彼女を愛撫するアーテーの指は、まるで泳ぐように彼女の肌の上を滑っていた。
その度に発せられるイオーの声は甘美で、アーテーをますます夢中にさせる。
アーテーはそれまでずっとイオーの左手とつながっていた右手を、離そうとした。だが......。
「イヤッ」
イオーが咄嗟にアーテーの右手を強く握ってきた。
「離してはイヤッ。つないでいて」
「......つないでるよ。ずっと、離さない......」
アーテーはイオーの手をつなぎ直すと、手の代わりに唇でイオーの肌を愛撫した。
「......あっ、アーテー様......っ......!」
秘密の花園に、アーテーの左手が届く。
「アーテー様っ、ああ......」
「そろそろね......私のも、イオーが欲しくて堪らなくなってる」
アーテーはイオーの右手を取って、自身の花園に触れさせた。
「ホラ、分かるでしょ?」
「ハイ、アーテー様......」
「じゃあ、合わせるよ......男みたいにはいかないけど......」
「どうぞ、御心のままに......」
「うん............」
アーテーは体勢を変えると..................。
イオーの体がまだ脈打ち、呼吸も荒くなっているのを、アーテーは抱きしめた。
「ああ、イオー! イオー!」
幸福感で、アーテーは何度もイオーの名を呼んだ。
「アーテー様......」
苦しいぐらいにきつく抱きしめて来るアーテーを、それでもイオーは愛しく思わずにはいられない。
「凄い......こんなに幸せなのって、初めて......」
「私もです、アーテー様......ですが、あの......」
「なァに?」
「ちょっと、苦しい......」
「ああっ、ごめん!」
アーテーはイオーを離し――それでも右手だけは離さなかった。
二人は手を握り合ったまま、隣り合って横になった。
「朝、みんな起きてきて、私たちのことを見たらびっくりするね」
アーテーがおかしそうに笑うと、イオーもニコッと笑って言った。
「きっと喜んでくれます、母が......」
「レシーナーが?」
「私の本心などとうに見抜いていたみたいで......禁忌とか考えずに、素直になれと言われました」
「うん、流石はお母様の最後の恋人。同性愛には理解があるのね」
「母も、私と同じ経験をしたそうなんです」
イオーは、レシーナーがエリスの愛人になった経緯を簡単に話した。
「それで、母も男性が怖くなってしまったそうで......」
「そっか......レシーナーがペルヘウスと結婚したのがかなり遅かったのは、そういう経緯もあったんだね」
「はい......」
「......あのね、イオー......」
と、アーテーは言いかけたものの、言うべきかどうか悩んだ。
「どうかなさったのですか?」
「うん......イオーは嫌な思いをするかもしれないけど、聞いて。ゼウス様のことなんだけど......」
アーテーは、敵討ちに行った時のゼウスの様子と、その後ヘーパイストスとヘーラクレースから聞いたことを話し出した。
「ゼウス様はさ、そのままでいたら自分が大怪我するって分かっていたのに、少しも避けようとはしなかったんだよ。それは、口では言い訳して見せてるけど、結局自分が悪いことをしている、罰を受けなきゃいけないって、理解してるからだと思うんだ。自分の行いをちゃんと悔いているんだよ。だから......私は、ゼウス様を許してあげてもいいような気がしてるんだ、少しだけね」
「はい、アーテー様」
「イオーもそう思える?」
「はい......まだ恐ろしい存在ではありますが、でも......仕方のないことだったのだと、説明してもらえれば、分からなくは......」
「うん......でもね、嫌いのままでいいんだよ。無理に好きになる必要はない。ただ、いつまでもくよくよと悪いことを思い出すのは止めようってだけだから」
「はい......もう、思い出しません」
イオーはそういうと、アーテーの右手を引き寄せて、指先にキスをして見せた。
「アーテー様が居てくださるから、もう何も怖くありません」
「ありがとう、イオー......大好き」
「私も、アーテー様......」
イオーがそう言い終らぬうちに、アーテーは彼女を抱き寄せていた......。
暁の女神が東の彼方から太陽を覗かせたのを、二人は窓辺から差し込んだ光で感じた。
裸のまま起きだした二人は、まだ手を握ったままだった。
「じゃあ、手を離すよ」
「はい......」
アーテーはそうっと手を離して、その右手を胸元に引き寄せた。
「......子供に、戻らないね」
「はい。とても艶めかしい大人の女性のままです、アーテー様」
「うん。きっと、イオーと結ばれて、心も大人になれたからだね」
「アーテー様......」
二人がまだキスを交わそうとした時......兄のヒューレウスとその妻のメーテイアが入ってきたことで、そこから慌ただしい朝が始まった。
先ず、ヒューレウスが図らずもアーテーの裸身を見てしまったことで、
「平にご容赦をォ―――――!!!!」(女神の裸身を見たものは大罪に処せられる慣習がある)
と、床に平伏してしまうので、
「ああ、私そうゆうの気にしないから(^o^)、怖がらなくていいよォ~」
と、アーテーは本当に大っぴらに着替えをして見せた。
「それより、ご両親にご挨拶したいから、私が来ていること知らせておいてね。今から出向くから」
そんなことを言われても、相手が女神であるのにお出で頂くわけにもいかず、ヒューレウスもレシーナーも、先王のルシヘウスとその妃のラファエーラーもまだ寝ているところを起こされて、正装でイオーの部屋に参上したのである。
それなのに、アーテーは飽くまでも「娘御を貰い来た婿」として挨拶をするので、アルゴス王家の人達も恐縮するばかりだった。
「それでは、私が姫君を妻として貰い受けること、御承知していただける、ということで」
「願ってもないことでございます!」
と、ペルヘウスは言った。「あなた様なら、傷つき苦しんでいる我が娘を救っていただける......親として、こんなにも有難いことはございません。本当に、ありがとうございます」
「本当にいいの? 世間一般的には、私たちは禁忌だよ?」
「恐れながら、あなた様はかの女神エリス様のお血筋。エリス様は同性愛者の先駆けとして先ずヘーラー様が庇護し、ゼウス神王もお許しになりました。我らアルゴス王家はヘーラー様を奉る家でありますれば。それに......エリス様は我が妻レシーナーの恩人でもございます」
ペルヘウスはそう言うと、レシーナーにニコッと目配せをしてみせた。
「そういうことでございます、アーテー様」と、レシーナーが言った。「イオーも、良かったわね。望んでいた方に貰っていただけて」
「はい、お母様」
と答えるイオーの顔は、本当に幸せいっぱいの笑顔だった。
そして、アーテーはイオーを連れて、天上のアルゴス社殿にも結婚の報告に行った。
するとヘーラーがずっと待っていたらしく、二人が来たことを知らされると謁見の間まで走って来たのだった。
「イオー! もう、大丈夫なのですか!?」
「はい、ヘーラー様」と、イオーは答えた。「まだ他人は駄目ですが、家族なら男性でも、触られても大丈夫になりました」
「おお、イオー......」
ヘーラーは傍によると、イオーの前に膝を突いた。「許しておくれ、あの時の私を!」
「ヘーラー様?」
「あの時......前世で、そなたが自殺をしようとしたのは......」
まだ少女だったイオーが何者かに襲われて、ヘーラーはその犯人が誰か、半狂乱になっていたイオーの記憶を辿ることで突き止めようとした。そして、それがゼウスだったと知り――一瞬、ヘーラーの中にイオーに対する憎悪が浮かんだ。それを察してしまったイオーは、主人であるヘーラーに詫びるために自ら死のうとしたのである。それを寸での所で救ってくれたのがエリスだった。
「あの後、そなたの記憶を消してしまったから、私は謝ることができなかった。でも、ずっと謝りたかったのです。そなたは何も悪くないのに......悪いのはそなたを辱めたゼウスなのに、私は......そなたにゼウスを寝取られたと思ってしまい......」
「御手をお上げください! お顔も! あなた様が謝られることなど、何もございません! 私が悪いのです。あの時、私は自分に襲いかかっているのが誰か、気付いておりました。だから、ご主人様を裏切らぬためにも、私は即座に死なねばならなかったのに、とても恐ろしくて、出来なくて......」
「何を言うのです! まだあの時十一歳だったそなたが、そんなこと!」
「ご主人様を決して裏切ってはならない、というのは、侍女としてお仕えするにあたり、一番初めに習うことでございました。だから私は!?」
そこで「まあまあ、イオー。おばあ様も」と、アーテーが止めに入った。
「どっちも悪くなかった、ってことでいいじゃない。一番悪いのはゼウス様なんだし」
「アーテーの言う通りですね」と、エイレイテュイアが言った。「それにもう、イオーは生まれ変わって、純潔無垢の体になっているのですから。それでいいではありませんか」
「それであの」と、アーテーは言いにくそうに言った。「おばあ様にお願いがあるんですけど......」
「分かってますよ、ゼウスのことでしょ?」
と、ヘーラーはエイレイテュイアに助け起こされながら言った。「あの人はもう、二度とこの社殿には参りません。だからイオーがあの人と会うことは二度とないでしょう。それに際して、私もエイレイテュイアに頼みたいことがあります」
「私に?」と、エイレイテュイアが聞いた。「なんでしょう?」
「このアルゴス社殿の新しい主になっておくれ」
「えっ? では、お母様は?」
「全く来ないわけではありません。昼間はここに来ますが......夜はオリュンポスに帰ります」
ゼウスがもう浮気をしないと言っているのだから、自分がオリュンポスに帰らなければゼウスが毎日独り寝をすることになってしまう。
ゼウスのために本邸に帰る――とは言えないので、ゼウスをここに来させない為、という言い訳をしたヘーラーだったが、娘であるエイレイテュイアだけは本心を見抜き、それでも黙っていることにしたのだった。
「承知いたしました。このアルゴス社殿は私が引き継ぎましょう......それに、この社殿も住人が増えました。そろそろ年長者は独立をしてもいいころです――ねぇ? レーテー」
と、エイレイテュイアは最後の方はレーテーとタケルの方を向いて言った。
「二人の出会いの経緯は聞いていますが、妹たちが見ているのに屋外で睦みあうような明け透けなことを続けるようなら、そろそろ自分たちの新しい社殿を設けたらどうですか?」
するとレーテーはおかしそうに笑って、
「あら、母君。私たちが妹たちに刺激を与えていたからこそ、この二人も巧く纏まったのではありませんか?」
「詭弁ですね。でも、本当にそろそろ考えなさい。ここには幼い侍女たちもいるのですから」
「ハーイ、分かりました」と、レーテーは色っぽく答えて見せるのだった。-
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