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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2013年03月08日 11時38分42秒

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    白鳥伝説異聞・3

    レーテーは空を飛んでいる途中で、高天原からの迎えと出会い、御輿に乗せてもらって到着した。
    そこには、伊邪那美の神にそっくりで、だけれど彼女よりもずっと若い姫神がいた。
    「初めまして。私が大日霊貴の命(おおひるめむちのみこと)、またの名を天照大御神(あまてらすおおみかみ)と申します」
    「アマテラスオオミカミ!? あなた様が!?」
    レーテーはその名を聞いてすぐに畏まった。他国の神であっても、その国の最高位の神の名前ぐらい知っているものである。
    「まあ、そう固くならず......」と、天照大御神は微笑んだ。「私のことは"ヒルメ"と呼んでくださいな。あなたはヘーラーのお孫さんなのでしょう?」
    「おばあ様をご存知なのですか?」
    死者の国の神同士がつながっているように、天上の神もつながりを持っているようだった。
    「先ずは昼餉をご一緒にどう? お口に合うといいのだけど」
    天照――ヒルメのお誘いに、素直に乗るレーテーだった。というのも、持っていたお弁当を地上で会った、男のふりをする人間の女・ヤマトオグナにあげてしまったので、ここで食べておかないとお腹が空いてしまうからである。
    侍女たちが料理を運んでくるのを見ていたレーテーは、その中に先程のオレンジに似た実が半分に切られて、焼き魚に添えられているのを見つけた。
    「これは"タチバナ"ですね。どうやって食べるものなのですか?」
    「あら、橘をご存知? 焼き魚にしぼり汁をかけて食べるのよ。魚の臭みが消えるの」
    「ああ! なるほど、レモンみたいに使うのですね」
    「あとは薬としても使うのよ。でもあなた、この国に来たのは初めてのはずなのに、どうして橘をご存知なの?」
    「実はここに来る前に......」
    レーテーはヤマトオグナと会った時の経緯を話した。それを食事をしながら聞いていたヒルメは、手拭いで口元を拭いて、侍女に鏡を持ってこさせた。
    ヒルメは鏡を受け取ると、鏡面を手で撫でた。すると、鏡面に誰かの顔が写った。
    「あなたが会ったのは、この娘?」
    「ええ、そうです。この人です」
    「そう......この子は私の子孫なのよ」
    「子孫?」
    「ええ。その昔、地上を平定する為に私の孫を地上に遣わしたのです。オグナはその子孫なのですよ」
    「女性......ですよね? 王子と名乗ってましたけど」
    「ええ......ちょっと可哀想な運命を背負っている子でね」
    ヒルメは鏡を脇に置いて、白湯を一口飲んだ。
    「オグナは大和朝廷の王・大足彦忍代別(おおたらしひこおしろわけ)を父に、その妃である播磨稲日大郎姫(はりまのいなびのおおいらつめ)を母に持つのだけど、この二人には長い間子供がいなくてね。それでようやく授かったのがオグナなのだけど、母親がその際に難産で死んでしまって......オオタラシは仕方なく生まれてきた女児を男児として育てることにしたのよ。名前も"男児"という意味の"オグナ"と名付けてしまって」
    オグナの意味を知って、レーテーはますますオグナが気の毒になった。きっと女性の格好をしていれば、それなりに美しい娘になるだろうに。実の父親にそれを総て否定されてしまっているのである。
    「でも、それならオグナは大事な王の跡取りですよね? なのに、どうして食べるものもろくに持たずに、一人で旅をしているのですか?」
    「父親が新しい后を迎えたのですが、その后が5年前に男児を出産したのですよ。その子がまだ幼いのに利発で、健康に育っていくので、父親はオグナではなくその子を跡取りにしようと考えたのですよ。それで、オグナにまだ大和朝廷に与していない国を平定に行くように命じたのです」
    「......え? 一人でですか?」
    「そう、一人で。出来るわけないわよね? 普通に考えたら。つまり、オグナが死ぬことを望んでいるのよ」
    「そんなのってないわ!」
    レーテーはつい立ち上がってしまい、その醜態に気付いて、「スミマセン......」と座り直した。
    「いいのよ、無理もないわ。まだ18歳の娘にそんな仕打ちをするなんて、父親としてどうかしていますよ」
    「オグナは......彼女は、死ぬ運命にあるのですか?」
    高天原の主神なら――それもオグナの始祖神なら、当然知っているはずである。彼女の運命を――。
    ヒルメは、微笑みながら首を横に振った。
    「あの子にはまだやってもらわなければならない事があります。ここで死なれては困ります」
    「では......」
    「そろそろ、あの子の手助けをしてくれる人物を遣わそうと思っていたのですが、適当な者が......」
    ヒルメはそこまで言って、レーテーのことを見直した。
    レーテーも、目で語りかけた。
    レーテーの本気が伝わってきて、ヒルメは微笑んだ。
    「あなた、行く?」
    「行きます!」
    「う~ん、そうなると。今みたいにテレパシーでの会話は限界があるわね。先ずは言葉を覚えないと」
    ヒルメは奥の方に居る侍女を呼び寄せた。
    髪を花のような形に結い上げた少女が、恭しく頭を下げながら現れた。
    「面を上げなさい、言之葉(ことのは)......レーテー、この者はね、私の遠縁にあたる娘で言之葉の命――この星の総ての言語を理解する力を持つ者です」
    「総ての言語を......」
    「コトノハ、この方にこの国の言葉が分かるようにしてあげなさい」
    するとコトノハは、「畏まりました、天照さま」と、声に出して答えて、レーテーの傍に寄った。
    「では、レーテー殿」と、コトノハはギリシア語で喋った。「私と額を合わせてください」
    「ええ、分かったわ」
    オリュンポスの神々も、お互いの記憶を見せ合う時は額を合わせている。それと同じ方法でやるのだろう、と理解したレーテーは、なんの抵抗もなくコトノハと額を合わせるのだった。

    「どうです? レーテー殿」
    コトノハが倭語で喋ると、レーテーも、
    「レーテーでいいわ、コトノハ。しっかり理解できてるわよ」
    と、倭語で声に出して喋った。
    「良かったです。これで地上に降りても、誰とでも声で会話ができますね」
    「あとは......」と、ヒルメが言った。「姿を――倭人に見えるようにしないと」
    「それなら......」と、レーテーは微笑んでから、目を閉じた。
    みるみるレーテーの姿がコトノハの姿そっくりになっていく。服装までも。
    「変身術はオリュンポスの神の基本ですから」
    こうして、レーテーは再び日本の地上に降りることになったのである。

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