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from: エリスさん
2013年04月04日 16時15分37秒
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白鳥伝説異聞・5
枯葉を掻き分けると、そこにいっぱいのキノコが生えていた。
「見つけた!」と、オグナは言った。「レーテー! じゃない、オトタチバナ! これはどうかな?」
オグナに呼ばれて、すぐそばで舞茸を見つけていたレーテーは、それを引き抜きながら振り返った。
「待って、まだ触らないでね」
レーテーは舞茸を背負っていた籠に入れると、オグナの方に行った。
「うん、それは食べられるわよ。毒気は感じないわ」
オグナが見つけたのはシメジだった。レーテーは倭の国土に生えるキノコの種類までは分からないまでも、神気によって食べられるか食べられないかの判断をしていたのである。
「そなたが来てくれてから、本当に助かっている」と、オグナは感心していった。「今までは食べられそうなキノコや木の実を見つけても、それがなんなのか分からなかったから、手が出せなかったのだ」
「深層の王子じゃ植物の知識がないのも無理はないわね。キノコも木の実も誰かが調理したものしか、見た事がなかったのでしょう?」
「そうなんだ」
「手を出さないでいて懸命だったと思うわ。キノコなんて見た目がそっくりでも、ちょっとした違いで有毒の物があるから、無闇に食べない方がいいのよ」
「やっぱりそうなのか」
「あっ、あの木の実も食べられるわよ」
レーテーが指差した先に、紫色の木の実が三つ並んでぶら下がっていた――アケビだった。
季節はちょうど秋である。この時期なら森には数限りないほどの恵みが溢れていた。
二人は今日食べる分だけを採って、森から出てきた。
「あまり採り漁るのは、山の神を怒らせてしまうからな」
オグナが言うと、ふう~ん? と、レーテーは言った。
「ちゃんと神様に対する畏敬の念はあるのね」
「当たり前だろ? 神あればこそ我々人間は生きとし生けていけるのだから」
「ふうん、その割に私のことは神様として敬ってくれていないみたいだけど」
「なんだ? 敬ってほしかったのか?」
と、逆にオグナが聞き返した。「初めてあった時から、気さくに話しかけてくれたのは、そなただろ? だからあまり、神様扱いしない方がいいのかと......」
「うん......そっか」
言われて見れば、レーテーの周りの神々も人間と接する時は言葉遣いも変えている、と聞いたことがある。威厳を持って人間に接すればこそ、人間は神に対して畏敬の念を抱くものなのだが――レーテーは人間の前に姿を現すことがそれほどなかったので、まったくそれを意識していなかった。前の旅行先であるエジプトではそれでも良かったが、今回はオグナと四六時中一緒にいるのである。畏敬の念を持って貰いたいのなら、それなりに振る舞わなければならなかったのはレーテーの方だった。
「今からでも姫神として敬った方がいいのか――いや、宜しゅうございますか?」
オグナがわざと恭しく言うので、レーテーは逆に寒気を覚えた。
「いいわ! あなたは特別ってことにする。特別に私と対等に付き合うことを許すわ」
「それは有難く......」
と、オグナは格好をつけて一礼をしてみせて、すぐに笑顔になった。「それじゃ、行こうか」
「どこへ行くの?」
「そろそろ目的地に着きそうなんだよ。ホラ、向こうの方に白い煙が細くたなびいてるのが、いくつも見えるだろ?」
言われて見ればその通りだった。
「あれは、かまどの火で煮炊きをしている時に出る煙なんだ」
「そっか、誰かが食事を作ってる――つまり、村があるってことね」
二人旅が楽しくてついつい当初の目的を忘れがちだが、オグナは熊襲の王・熊襲 建(くまそ たける)の兄弟(兄も弟も"建"という名前だった)を討伐しに来たのである。
二人は煙が上がっている方に向かって歩き続けた。どれぐらい歩いたことか、やがて村に辿り着いた。ついた途端、村が活気づいているのに気付いた。それぞれの家を花で飾ったり、村の中央の広場にやぐらを立てたりしている。
「これは、祭りだな......近々祭りがあるんだ」
オグナがそう言うので、レーテーは通りがかった女に声を掛けた。
「ねえ? これはお祭りの支度をしているの?」
背中の籠に野菜をいっぱい入れていたその女は、笑いながら答えた。
「なんだい? あんた達よそ者かい?」
「旅をしている最中なの。村があったから、食べ物を交換してもらおうと思って立ち寄ったんだけど」
「だったらあんた達、いい時に来たねェ。今晩から三日間、新嘗祭(にいなめのまつり。五穀豊穣を祝うまつり。秋に行われる)なんだよ。市も立つからね、好きなものと交換していくといいよ。ちなみにあたいは、この先の野菜屋だよ。あとでおいで」
「ありがとう、おばさん」
「ハイハイ」
女が行ってしまうと、レーテーはオグナに「だ、そうよ」と言った。
「当然のことながら、王宮でも宴が開かれるだろうな」
「宴にまぎれて潜り込む?」
「そうだな......どうやって潜り込むか、だが」
「王宮の傍まで行ってみる?」
「うん......」
二人が先に進むと、王宮に近い村はもっと賑やかだった。住んでいる人間が多いのである。先程の村の人達よりも着ているものが良い物で出来ている。直接、王に仕える人々も住んでいるのだろう。
広場に出た時だった。役人らしい男が壇上に乗り、大きな声で人々に呼びかけていた。
「三日後、祭りの最後の日に、王の御前で舞を舞う娘を募っておる! 我こそはと思う者は、三日後の朝までに王宮に名乗りでよ! 一番の舞手には、王より褒美を賜られる!」
オグナもレーテーも、「これだ!」と思った。
「オトタチバナ、舞は得意か?」
「おば様(ヘーベーのこと)に習ったことがあるわ。結構みんなには褒めてもらえるけど?」
「よし、教えてくれ!」
二人は村はずれまで戻ると、野宿する場所を確保した。そして夜になるまでレーテーはオグナに舞を教えた。
夜になってからレーテーは村に戻って、市場に行った。その間、オグナは自主練を続けた。
かなり経ってから、レーテーは大量の野菜と大きな米袋を持って帰って来た。
「私が採ったキノコが、マンネンダケ(霊芝)とか言う珍しいものだったらしくて、野菜屋のおばさんが薬屋さんに紹介してくれて、先ずは大量の薬に交換してもらって、そこからおばさんの野菜と、お米屋さんのお米に交換してもらったわ。ちゃんと薬も残してあるわよ。傷薬とお腹の薬と、これなんて歯痛に効く薬ですって」
「凄いな」と、オグナは感心した。「どんどん人間の生活に馴染んでないか? そなた」
「そうね。この国に来てから、面白い経験をいっぱいさせてもらってるわ」と、レーテーは満足げに言った。「それより、あなたの舞はどうなの? 上達した?」
「ああ、見ていてくれ」
オグナはレーテーに習った通りの舞を披露した。それはこの国では今まで見た事もない舞い方で、誰の目をも引くこと間違いなかった。そもそもオグナにリズム感があったので、すぐに上達できたのである。
「これなら、すぐに熊襲建の目にも止まるはずだ」
「傍に近付ける好機ってことね」
「それにしても、そなたは本当に凄いな。何でも出来て、実に優秀だ。そなた、本国に戻ったら相当に名のある姫神なのだろうな」
その言葉に、レーテーは微笑みながら嘆息を着いた。
「ごはん、作るね......」
レーテーは持って帰ってきた野菜の中から、大根とごぼうを手に取って、川の方行った。その様子に、
『なにか悪い事を言ったかな?』と思ったオグナは、後をついて行った。
「どうしたのだ? ......レーテー」
今は周りに誰もいない。だからオグナもレーテーの本当の名を呼んだ。それは、「本名を呼ぶことで相手の魂に呼びかける」という日本独特の考え方からもきていた。
レーテーは、野菜を川の水で洗いながら語り出した。
「私ね、子供のころから大概のことはこなせたの。むしろ出来ないことがなくて......だから、詰まらなかったのよね。なんか、出来ないことを努力して、やっと出来るようになった達成感、とか......味わったことがなかったの」
「そう......なのか」
「だから、何をする気にもならなくて、怠惰な日々を過ごしてた。成人するまではそれでも良かったんだけど......母がいなくなって、私も宮仕えに出なくてはならなくなって、そうしたら、それじゃいけないって気付いてくれた人がいたのね」
「それが、王妃様とか言う人か? そなたが仕えている」
「ええ。昔、母に世話になったことがあるからって、それだけで私のことまで気遣ってくれるの」
「良かったじゃないか」と、オグナもしゃがみ込んで、ゴボウを洗うのを手伝った。「そのおかげで、そなたは旅を楽しむと言う趣味が出来たわけだな」
「ええ......そうね。だから、あなたにも会えたんですものね」
二人はお互いを見合うと、笑い合った。
「退屈はさせないよ」と、オグナは言った。「だから、わたしと一緒に行こう」
「ええ。楽しませてね」
二人は互いに顔を近寄せあって、キスをした。
「フフ.........女同士でキスしちゃったね」
「きす?」
「今のよ。えっと、こっちでは口吸いって言うのね。本当は男女でする物なんだけど」
「男女って言うか、夫婦とか恋人でだが......レーテーは今のが初めてか?」
「え? オグナは違うの?」
「ああ。わたしは過去に一人......それに、妻もいるしな」
「.........................................................え?」
レーテーは思ってもいない言葉に、しばらく思考が回復するまで時間が掛かった。
「つ、妻ァ~~~~~!?」-
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