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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2013年12月20日 13時30分19秒

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    白鳥伝説異聞・18

    フタヂノイリヒメが目覚めると、目の前には見知らぬ女がいた。
    「......あなたは?」
    フタヂが言うと、女は満足そうに微笑んだ。
    「お目覚めですね、フタヂ様。私はオトタチバナと申します」
    「オト......タチバナ?」
    まだボンヤリとする頭を軽く振って、フタヂは起き上がった。見渡せば、周りには姪――名目上の夫であるオグナと、乳姉妹のタガタ、他の采女たちもいる。
    「タチバナということは......」と、フタヂは言った。「あのタチバナヒメの妹君かなにか?」
    「いいえ。この名はタケル――オグナに名付けてもらったもので、あなたがご存知のタチバナヒメとは縁もゆかりもございません」
    「そうなの......オグナが名付けたのね。では、あなたはオグナの特別な人ということね」
    たったそれだけの情報でそれを見抜くあたり、やはりオグナ(タケル)を良く理解している証拠である。
    「それで、これはいったいどうゆう状況なの?」
    フタヂが聞くと、オトタチバナ――レーテーは、正座し直して、フタヂに頭を下げた。
    「覚えておいででしょうか? あなたは山で事故に遭われたときに頭を打ち、ずっと昏睡状態であられたのです。これまでは始祖の神・天照大御神さまの庇護のもと、自然に回復なさるのをお待ちしていたのですが、どうしてもあなた様の御力を借りなくてはならなくなりましたので、天照さまに仕える祈祷師であり奇術師である私が遣わされ、あなた様を目覚めさせに参りました」
    「昏睡?...‥私はいったい、どれぐらい眠っていたの?」
    「一年(ひととせ)ほど」
    「一年!? そんなに......」
    その時、赤ん坊が声を出した。それに気付いたフタヂは、「まあ!」と楽しそうな声をあげた。
    「赤児(あかご)ではないの。いったい誰の子なの?」
    それにレーテーが答えた。「オグナの子です」
    「オグナの!?」
    「オグナは大王の命により、大和朝廷に与しない国を平定する為に旅に出ていたのですが、その旅先である若者と心を通わせて、子を授かったのです」
    「まあ、オグナが男性(おのこ)と......真(まこと)なのですか? オグナ」
    するとオグナは、照れくさそうに、
    「うん、まあ......そうゆうことなんだ」と、横たわったまま答えた。
    「しかしご存知の通り、オグナは世間に女であることを隠しています。本当は大和に戻って来る前に秘密裏に出産を終え、生まれた子も父親の方に下げ渡そうと思っていたのですが、その父親の方がそもそも体が弱かったこともあり、三月前にこの世を去ってしまいました。父親の親類には年老いた老婆しかなく、しかも貧しかったので預けることができませんでした。それで、あとはもうあなた様にご協力いただくしかないと......」
    「つまり、私が産んだことにしよう......そういうことね?」
    「はい、その通りです」
    「......なるほど」
    フタヂはそう言うと、立膝で歩いて赤ん坊の方へ行った。その様子を、タガタやミヤベは心配そうに見ていた。
    レーテーは尚も説明を続けた。
    「本来ならば、自然に回復なさるのを待った方がフタヂ様のお体に負担を掛けることもなかったのですが、それまで子供が生まれるのを待たせるわけにもいきませんでした。それに、いずれはオグナの跡取りを残すために......」
    「説明はもう結構よ、オトタチバナ殿」
    フタヂはそう言うと、赤ん坊を抱き上げた。その顔はとても嬉しそうだった。
    「なんて可愛い御子でしょう。オグナが生まれたばかりの頃にそっくり......オグナ、この子は王子(みこ)様? 姫様?」
    「男だよ」
    「そう。では、兄君に――大王様に御名を付けてもらわなくてはね」
    「フタヂ......」
    「ありがとう、オグナ。私を頼ってくれて。私、喜んでこの子の母親になるわ。立派にあなたの跡取りとして育ててみせる」
    「いいのかい? さっき聞いただろ? この子の父親は......」
    貧しい農民の若者、ということにしてある。間違っても大王の子だなどとは言えない。それなのに、フタヂは笑顔でこう答えた。
    「父親なんて関係ないわ。あなたの子でさえあれば! それに、殿方を愛せないはずのあなたが、それでも心を通わせた若者なのでしょう。きっと、心根の優しい清らかな若者だったに違いないわ。その若者に感謝こそすれ、蔑む気持ちなどありません」
    フタヂはそう言うと、レーテーの方を向いた。
    「オトタチバナ殿、私はこの後どうしたらいいの? 私がこの子の母親であると、世間を騙しとおすための策が何かあるのでしょう? あなたは先程、自分は祈祷師であり奇術師だと申していた」
    「お察しの通りでございます」と、レーテーは言った。「これより、タケル――いえ、オグナの胎内に残る"子を育てるための機能"をフタヂ様に移したいと思います。これにより、フタヂ様自身がお子様にお乳をお与えになれるのです」
    「私がお乳を......それは確かに、オグナではなく私がこの子を産んだ証拠になるわね」
    「はい。......では、さっそく宜しいでしょうか?」
    レーテーが言うと、フタヂは赤ん坊を寝床に戻した。
    先ずレーテーは、タケルを起こして、彼女の体を抱きしめた。そして、オリュンポスの神々なら誰でもできることだが、神力で我が身を光らせた。それによりタケルが軽く熱さを感じて、
    「あっ......」と、呻いた。
    その様子を采女たちは驚きながら見ていたが、フタヂは面白そうに眺めていた。
    そして次はフタヂの番。レーテーはフタヂを抱きしめると、我が身を光らせるだけではなく、フタヂの胸のあたりに神力を注いだ。それによりフタヂは胸のあたりがじわじわと温まっていくのを感じて、思わず、
    「ああ......」と、悦に至る声をあげた。
    レーテーの体から光が消え、フタヂの体から離れると、レーテーは言った。
    「さあ、これであなた様の胎内に、子を育てるための機能がすべて移りました。試しにお乳をあげてみてください」
    「ええ、やってみるわ」
    フタヂは赤ん坊を抱き上げると、胸を開いた。すると......。
    「飲んでいるわ! 成功よ、オトタチバナ殿」
    「はい。ようございました」
    「見て、オグナ! 私、母親になれたのよ!」
    フタヂが本当に喜んでいる様子を見て、タケルも安堵するのだった。
    すると、タケルの頭にテレパシーが伝わってきた。
    「後は大王ね」
    当然ながらレーテーだった。「あの男が真実を暴露したら、すべて台無しになってしまう」
    「記憶を消してしまうか?」
    と、タケルは頭の中で問いかけた。
    「他に方法がない場合はそうするわ。でもそれよりも......」
    レーテーにはもっと他に考えていることがあるようだった。

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