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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2014年01月24日 12時58分55秒

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    白鳥伝説異聞・19

    「赤子が生まれたのなら、早く顔を見せに来い」
    という、大王からの仰せが伝えられたのは、次の日の朝だった。
    せっかちな男ね......と、レーテーは思ったが、生まれてきた子の本当の父親では、それも致し方ないのかもしれない。
    とは言え、すぐに赤子を連れて行くには少々問題があった。母親であるフタヂの体調が思わしくなく、寝床から起き上がれなくなっていたのである。
    ミヤベの見立てだと、恐らくほとんど寝たきりの状態だったのが、いきなり体力の奪われる出産に臨んだために、体が衰弱してしまったのではないだろうか、ということだった。
    「本職の産婆を呼んだ方が良いのでしょうか......それとも薬師(くすし。当時の医者のこと)を......」
    ミヤベがレーテーに相談してきたので、レーテーも悩んだ。
    「フタヂ様は、実際には自分が子を産んだわけではない、と思っているから、下手に他人に診せるのは......とにかく、体力が戻ればいいのよね? ミヤベ、なるべく綺麗な盥(たらい)に水を入れて、タケルの部屋に持ってきてくれる?」
    「は? 盥でございますか?」
    ミヤベが言われた通りに部屋に盥を持ってくると、レーテーはタケルも部屋から出して、
    「いいと言うまで、この部屋に近付かないでね」
    と、言った。
    オリュンポスと交信するためだったら、庭の池でも水鏡の代用として使えるのだが、これから話す内容は特に人間には聞かれたくなかった。それでレーテーは盥の水を持ってこさせたのである。早速エイレイテュイアに連絡を取り、事情を説明してお願い事をすると、エイレイテュイアは答えた。
    「人間に神食(アンブロンシア)を? 駄目よ、そんなの」
    神の食物である神食を与えれば、どんなに弱っている人間でも不老長寿になれると言われているのだが、実際はそんな生易しい物ではない、とエイレイテュイアは言った。
    「副作用で化け物になる人間だっているのよ。少しでも神の血を引いているならまだしも......天照さまの子孫と言っても、かなり遠いのでしょ?」
    「そうなんですけど......でも以前、ヘーラーおばあ様が――ヘーラクレースの親友とか言う人間の男を延命する為に、黄金の林檎を与えていませんでしたか?」
    「エウリュステウスのことね、アルゴス王だった。彼はそもそも我が父ゼウスの曾孫にあたるのよ。いくらか神の血が濃かったから、お母様も直に彼を観察し、加減をしながら与えていたのよ」
    「そうだったんですね......」
    レーテーが落胆するので、エイレイテュイアは微笑みかけてあげた。
    「心配はないわ。そのフタヂとか言う娘、少しの間安静にしていれば、回復するでしょう」
    「本当ですか!?」
    「産褥の女神である私の言葉を信じなさい。なんなら、私が傍に行って治癒を施してもいいわ。だから、心配しないで、あなたはやるべきことをやりなさい」
    エイレイテュイアとの交信を切ったレーテーは、盥をミヤベに返して、すぐにタケルと一緒にフタヂのもとへ行った。
    「フタヂ様は今、昨日施した術の副作用で、少し疲れが出ているようです。ですので、しばらく安静になさってくださいませ。今日の大王との謁見は、タケルと私とで行って参りますので」
    レーテーが言うと、弱弱しい笑顔を見せながらフタヂは、
    「兄君には申し訳ないけれど、今日の所はご容赦いただくわ。オトタチバナ殿、どうぞオグナ――タケルと赤子のことをよろしくね」
    と、送り出してくれた。

    大王の長男の嫡子ともなれば、いくらか好奇な目に晒されるのかと思えば、謁見の間には大王しかいなかった。
    『大王も赤子の出自を隠しておきたいと、そう思って人払いをしておいたのかしら?』
    と、レーテーは勘繰ってみた......そうかもしれないが、そもそもこの大王は心が読みづらい人物だった。本心はきっと、額に手を触れて神力を持って読み取りでもしない限り分からないだろうと思われる。
    「その子がフタヂの産んだ子か?」と、大王は言った。「フタヂはどうした?」
    「あいにく産後の肥立ちが悪く、まだ産褥(さんじょく)から出ることがて゜きません」
    と、タケルが答えると、
    「そうか......くれぐれも体を厭うように伝えてくれ」
    「畏まりました」
    「では、その子だけでも顔を見せてくれぬか」
    大王が言うので、レーテーは抱いていた子を大王に手渡した。
    大王が満足そうな笑みをこぼしたのを、レーテーは見逃さなかった。やはり我が子が生まれたことが嬉しいのだろう。
    「この子には、そなたの新しい名から一字をもらって名付けることにしよう」
    と、大王は言った。「若建王(わかたけるのみこ)というのは、どうだ?」

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