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from: エリスさん
2014年02月28日 10時16分15秒
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白鳥伝説異聞・20 その1
「ワカタケル......ですか」と、タケルは言った。「わたしの名から一字を取る、ということは、わたしの御子として育ててもいい、ということですね?」
すると大王は苦笑いを浮かべた。「何を言っている。そなたの子であろうが」
「わたしの子でないことは、あなたが一番ご存知のことではございませぬか」
「何を訳の分からないことを申しておる」
「今更ごまかさないでください。そもそも、わたしとフタヂは女同士なのですよ」
タケルの言葉に、フンッと大王は馬鹿にした笑いを浮かべた。
「それを......そなたが女であると言う秘密を口にしてはならぬものを、何故そなたは簡単に口にするのだ」
「ここにはわたし達以外誰もいないのだから、構わないではありませんか」
「そなたが秘密を漏らすかもしれぬと思ったからこそ、今日は人払いをしておるのだ」
「秘密をばらされて困るのはあなたですからね」
「先刻からなんだ、その態度は! 親に向かって!!」
「親なら!」
何をやってもいいのか! とタケルが怒鳴ろうとしたところを、レーテーが制して、代わりに言った。(赤ん坊はその前に椅子の上に寝かしつけた)
「女同士の夫婦であるお二人の間に子供が出来たのなら、他に本当の父親がいるはずです」
「ほう?」と、大王は感心したように言った。「そなたもタケルが女であることを知っていたのか。では、嬪というのは本当のことだったのか?」
下卑た笑いが気持ち悪かったが、レーテーをそんな大王に軽蔑の眼差しを送りながら言った。
「嬪になったというのは嘘ですが、私がタケルと恋人同士なのは本当です。飽くまで対等な立場で、神も人間もなく......」
「......神、だと?」
「そう、私は......」
レーテーは、オトタチバナの姿から本来の姿に戻って見せた。
「私はオリュンポスの女神エリスが長子・レーテー。人の記憶を読みとり、また書き換える能力を持っています」
レーテーの姿を見て、流石に大王も驚いていた。異国の人種も、ましてや神も初めて見たのである。当然と言えた。
それには構わずにレーテーは続けた。
「そなたの悪行は、フタヂノイリヒメの記憶と、そして先日そなたの額に触れた時に垣間見した記憶とで分かっている。よって、フタヂノイリヒメが産んだ子がそなたの子であることも!」
よもや言い逃れなど出来ようはずもない。大王が言葉も出なくなっていると、奥の間がゆっくりと開いて、誰かが入って来た。
レーテーは急いでオトタチバナの姿に戻ったが、戻っている最中の姿をその人物に見られてしまった――ヤサカノイリビメだった。
「恐れ入ります、外国(とっくに)の姫神様。図らずもそのお姿を拝謁してしまいました。お許しください」
「いいえ、あなたなら構いません」と、レーテーは言った。「あなたは口の堅い人だと思います。それに、今から話すことはあなたにも協力してもらうことがあるかもしれないわ」
「お信じ下さって恐悦にございます」
ヤサカノイリビメは深々と頭を下げると、少々失礼します、と言いつつ大王の方へ行った。
ヤサカノイリビメは大きく手を振り上げると、大王の頬を打った。
大王がびっくりすると、尚も一発、もう一発と、何度も何度も大王の頬を平手で打ち、しまいには拳で彼の肩や胸を殴った、泣きながら。
「どうして! どうして私という者がおりながら、異母妹にまで手をお出しになるのです!!」
言いながら泣き崩れても、ヤサカノイリビメはなじるのを止めなかった。
「あなたが私のことを愛して下さっていないのは、初めから気付いていました。それでも私は妻としてあなたに尽くして、あなたが私に望む物はすべて差し上げてきましたものを......まだ足りないと申すのですか......」
ヤサカノイリビメのそんな姿を見ていられなくて、タケルは彼女を助け起こそうと近寄った。
「ヤサカ様、どうかもう、その辺で......」
タケルの手を取りながらヤサカノイリビメはタケルを見上げた。
「本当に、女性(にょしょう)なのですか?」
「......はい」
タケルは手に取ったヤサカノイリビメの手を、自身の胸に触れさせた。
「この通り......」
「ああ、道理で、殿御にしてはお美しい御顔立ちをしていると思っておりました。きっとお母様に似ておいでなのだと......そうでしたか。これで、すべて合点がいきました」
ヤサカノイリビメは自分で立ち上がり、タケルに言った。
「タケル様、あなたが男子として育てられたのは、すべてそのお母様似の御美しさ故です」
「え?」
「どうゆうことですか?」と、レーテーも聞いた。
「大王は恐れていたのです。播磨の......タケル様のお母様を失って、その寂しさゆえに......」
すると咄嗟に大王は「やめよ!!」と怒鳴った。
「私はいつも聞かされているのです! あなたが眠りながら語る、うわ言を!」
「黙れ!」
「黙るのはそなたです!」と、レーテーが言い放った。「まだ隠していることがあるようね」
レーテーは両手を大王の頭に伸ばした。
「何をする......」
「そなたの記憶を見せなさい。もっと、深層心理まで!」-
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